待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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産土神信仰。英雄活動、そのご

 

 

 

 

 

 迷子になっていた活真を見付けた後。儂と緑谷は真幌と活真に案内される形で、二人が住まう一軒家にやって来た。家族は父しか居ないみたいじゃから、本来ならば広げな家に三人で暮らしているらしい。が、島乃家の家主は出稼ぎでこの島には居ない。となると、子供二人でこの家に暮らしているのか。それはどうかと思う。こんな小さな子供を、稼ぎの為とは言え放置するのは良くないじゃろ。出稼ぎは今回だけかもしれんが、せめてもう少し……。そうじゃな、家政婦を雇うとかするべきなんじゃ無いのか?

 そんなじゃから、赤鬼がこの家にやって来るんじゃろ。

 

「さぁ、上がりなさい! しっかりしなきゃいけないってことが分かるまで、教えてあげる!」

「じゃ、そうじゃぞ緑谷」

「ぇ、えっと……お邪魔します……」

 

 ここに来るまでの道中。緑谷はひたすら真幌に、しっかりしろと言われ続けていた。そんな姉と緑谷を前にした活真は、おどおどしてまるで落ち着いて居なかった。ので、手を握ってやったんじゃけども……、それを見た真幌に物凄い勢いで詰め寄られたりもした。弟を守らなければと、気を張り続けているようでの。家族を大切にするのは良いことじゃと思うし、真幌の言い分も分からなくはなかったので大人しく詰め寄られることにしておいた。

 余計に緑谷や儂に食って掛かるようになった気がするが、まぁそこはご愛敬じゃの。歳の割に張り詰め過ぎな気がするのも事実じゃけれど。これについては、二人の父親が悪いとしか思えん。どんな事情があるにしても、せめて十三になるまでは側で見守ってやるべきじゃろ。

 

 ……あぁ、いかんな。これはいかん。赤鬼、もしやこの二人が十三になる前にこの家の家主を殺すのでは? いや、出稼ぎから帰って来た瞬間に殺害する可能性も有り得るか。それは……いかんの。まっこと、いかん。

 

【……客人、ではないな?】

「っっ!? 活真くん、真幌ちゃん! 僕の後ろに……!!」

 

 玄関を上がると、廊下の奥から赤鬼が姿を見せる。それを目撃してしまった緑谷は拳を握り直ぐに身構え、個性を使う。どころか呪力まで練り上げあった。おい、呪力の使用は控える方針じゃろ。わん・ふぉお・おおるがどうなるか分からないんじゃから。とは言え、……無理もないか。突然呪霊が出て来たんじゃからな、それも子供達の前で。

 そんな緑谷を前に、赤鬼は両手を叩き合わせた。ので、儂は緑谷と赤鬼の前に割って入り呪力を纏う。

 

「そう警戒するな。子供を巻き込みたいか?」

【巻き込まなければ良いだけのことだ】

「それもそうじゃな。では、そうしてやろうか」

 

 かつての自分が臨戦態勢に入る姿を見るのは……変な気分じゃ。こやつが何をしたいのか、それが手に取るように分かる。構えや呪力の流れからして、次の瞬間には穿血が飛んで来るじゃろう。それを躱すのは、容易じゃ。恐らく、同じ事を儂がしても赤鬼は躱して見せるのじゃろう。

 あぁ、やはり気色悪いな。呪霊になった自分と相対するのは。

 

「え……っ。ヨリミナ姉ちゃん、デク兄ちゃん……。もしかして、赤鬼さまが見えるの……?」

「バカっ、見える筈無いでしょ!? 赤鬼さまは、十三歳になると見えなくなるんだから!」

「で、でもお姉ちゃん……」

「活真くん、真幌ちゃん。僕達の後ろに……! 事情は、後で説明するから……!!」

【説明など出来ん。何故ならお前達は、今此処で―――】

「ま、待って……! 待って、赤鬼さま……!! デク兄ちゃんもヨリミナ姉ちゃんも、悪い大人じゃないから……!!」

【……そうか。ならば客人として、もてなそう】

 

 赤鬼が、重ね合わせた両手を下げた。どうやら、子供の言う事は聞くらしい。呪霊のくせに、人に従うのか。どうやら(まこと)に、この島の子供達を守っているようじゃの。この家に居るのは、もしや二人の面倒を見る為か? 出稼ぎしている親の代わりに??

 ……如何にも、儂がしそうな事じゃ。まさかこやつ、姿形だけではなく思考まで儂と同じなのか? それはそれで気色悪さが増すから、勘弁して欲しいのぅ……。

 

【呪力を纏わずに上がれ。少しの滞在を許してやる】

 

 そう言って、赤鬼は廊下の奥へと歩いていった。真幌と活真は、小走りで後を付いて行く。それも、安心した顔でじゃ。……どうやら、それなりの信頼関係を呪霊と築いているようじゃの。思わず我が目を疑いたくなるが、目の前の光景は夢ではなく現実じゃ。

 

「……っ」

「緑谷、個性を解け。危ないじゃろ」

「でも、廻道さん……!」

「ここで祓おうとすれば、真幌や活真を巻き込むことになる。今はそう警戒するな。子供を前に、何をされるか分からんじゃろ?」

 

 呪力を纏うのを止め、儂は先に家へと上がる。洗面所を借りたいところじゃが、何処にあるかは分からん。まぁこの際、手洗いうがいなどしないでも良いか。と思ったら、廊下の奥から水の流れる音がした。なるほど、そっちか。

 

「がらがら〜〜、っぺ!」

「がらがら、ぺっ」

 

 廊下を歩き、奥へ向かうと洗面所で真幌と活真が手洗いうがいをしている。赤鬼は、壁に寄り掛かりその様子を見守っているようじゃ。さてはこやつ、この家に住まってるだけではなく子育てでもしているのか……?

 まぁ、このぐらいの子供から目を離せない気持ちは分かるが……。いやしかしじゃな、気色悪いんじゃけど。何なんじゃこの呪霊、さっさと祓ってしまいたい。が、子供達の手前で呪い合うわけにはいかんのぅ。赤鬼にその気は無いようじゃし、見たところ真幌にも活真にも危害は無さそうじゃ。呪霊を全面的に信じるつもりはないが、今のところは……大人しく死ておいてやろう。こやつが、大人しくしている限りはな。

 

「はいヨリミナ! これ貸してあげるから、手洗いうがいしてっ。常識でしょ!」

「うむ。では借りよう」

 

 まさか、呪霊の前で手洗いうがいをする羽目になるとはの。そんな気はまるでしないじゃが、真幌の言う通り手洗いうがいは常識じゃからのぅ。仕方ない、さっさと済ませてしまおう。

 

 じゃぶじゃぶじゃぶ。がらがらぺっ、ぐちゅぐちゅぺっ。

 

 ……良し。手洗いうがいは済ませた。その間、赤鬼に睨まれていたわけじゃけど。

 

「おい、でく。お主も手洗いうがいじゃ。真幌に怒られるぞ?」

 

 手洗いうがいを済ませた後。取り敢えず、未だ玄関に立ち尽くしている緑谷に声を掛けておく。警戒して動けないのも、無理は無いか。突然呪霊が出て来て、さも当然のように子供と生活してるんじゃからな。

 

「デク兄ちゃん、うがいしないの……?」

「……、……ぇ……っと。ぅ、うん。じゃあ……洗面所を借りても良い……かな……?」

「早くしなさいよデク! ヒーローなのに手洗いうがいも出来ないなんて!」

【真幌、活真。先に居間に向かっててくれ。俺は二人に話がある。その二人は、俺が見えてるんでな】

「えっ!? ほんとに見えるの? 島の大人は、妊婦さん以外見えないのに??」

【そのようだ。ほら、居間で大人しくしててくれ】

「……はーい。ヨリミナ、デク! 赤鬼さまに失礼な事したら許さないんだから!」

 

 真幌が活真の手を引いて、洗面所から出て行った。その途中、活真が足を止めて儂等を見たが……真幌に引っ張られて居間に入って行った。その後、ようやく緑谷がこの家に上がり込んだ。居間の入口の前に立ち、儂の隣に立つ赤鬼の動向を窺っている。個性は、未だ使いっぱなしじゃ。何があっても直ぐ動けるよう、警戒を続けたままじゃからの。

 

 ……それで? こやつはいったい、何の用じゃ?

 

【そう睨むな。構える必要も無い。別に、取って食おうとしてるわけじゃないからな】

「そう言われて、気を抜く奴はおらんよ。話とは何じゃ?」

【せっかちだな。……まぁ良い。俺が言った事は、守ってるようだな?】

「……子供に危害を加える趣味は無い」

【そうか。どうやら二人が世話になったらしいな。そこは礼を言う】

「いらん。気色悪い」

 

 あぁ、嫌じゃ嫌じゃ。こやつを見てると、気色悪過ぎて吐き気がしてくる。反吐が出そうじゃ。何でこんな呪霊が、この島に産まれてしまったのか。いや、産土神信仰のせいなのは確かではあるが……。でもじゃからって、如何にかつての儂を信仰しているからって、呪霊の姿がこんな風になったりするのか? 流石に、これは有り得ないじゃろ。

 

【あの二人は母親を亡くしていてな。父親は出稼ぎの最中で、しばらく留守だ。島に長く滞在するなら、その辺りを考慮してくれると助かる】

「……つまり、面倒を見ろと?」

【そうだな。大人には見えない俺が面倒を見るより、その方が良いだろ】

「……別に断る理由は無い。が、儂はいずれ貴様を祓うぞ」

【祓ったところで、俺はまた産まれる。この島の信仰が途絶えん限りはな】

 

 それもそうじゃの。信仰が続いていくなら、一度祓ったとしても長い年月を掛けてまたこやつは産まれるのじゃろう。儂が祓ったとしても、それは対処療法でしかないからの。気色悪いから、再び産まれぬようにしたいところじゃけど。

 ……しかしなぁ。風土に根付いた信仰を消し去ることなど、不可能としか思えん。この島の産土神信仰は、この島が消え去りでもしない限り残り続けるじゃろ。あるいは、島民全員が死ねば消える……か? いやいや、じゃからって島民を皆殺しにするような真似はしないが。そこには当然、子供も含まれてしまうしの。

 

「……この際直接貴様に聞くが、海辺の祠とは何処じゃ?」

【近付くなと言った筈だ。どうやらお前達は祠を探し回っているようだが、教えるつもりはない】

「ちっ」

 

 この際、ついでに教えてくれれば楽じゃったんじゃけどな。どうやら、そうもいかんらしい。……が、こやつにとって見られたくない物が有ることだけは確かじゃ。それが何であるかは分からんけども、何かきっと……重要な物じゃ。多分な。これでくだらない物じゃったり、何の関係も無い代物じゃったらそれはそれで困るんじゃけども。

 

【……茶でもどうだ? この間、茶葉が供えられてな。俺は食事をしないし、真幌と活真はあまり飲まないから中々減らないんだ】

「呪霊が茶を淹れるのか……」

【子供の世話をしてるとな、家事が一通り出来るようになる。知らんのか?】

「は??」

 

 何を言ってるんじゃ、こやつ。その理屈じゃと、儂は家事が出来るんじゃけど? と言うか、貴様。儂の姿をしておきながら、家事が出来るじゃと……? おい、ふざけるな。かつての儂と同じ姿をしてるなら、家事など何一つ出来んと思うんじゃけど?? 儂は今でも出来んままなんじゃけど……!?

 

 いや、落ち着け。呪霊と張り合っても仕方ない。が、何か解せぬ。何なら気色悪さも増した。貴様、もう少し姿形を変えぬか。何じゃって、かつての儂と同じなのか。まっこと、気色悪い……!!

 

 

 

 

 

 

 









三人称による補完は要りますか?

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