待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
真幌と活真の家、つまり島乃家の居間にて。絨毯の上で胡座をかいた儂は、氷が浮かぶ冷たい茶を飲んでいる。呪霊なんぞが出した茶を飲む程耄碌してないが、赤鬼を信頼している子供達の前で出された茶を断ることは出来んかった。茶の味は、結構渋い。子供が飲みたがらないのも当然な味じゃ。儂も嫌いではないが、好きではないの。隣に正座させられた緑谷は、恐る恐るお茶に口を付けて顔を顰めておったわ。このお茶、やたらと渋いからの。今の儂からすれば、緑谷も子供じゃ。前世基準で言えばとっくに大人なんじゃから、変な顔をせず黙って飲めと言いたい気もするが。
望む望まずには関わらず、何とも奇妙な状況に身を置く羽目になってしまった。まさか呪霊なんぞと、茶の席に着くことになろうとは。人生不思議な事もあるものじゃ。出来れば二度と体験したくない。今すぐ、赤鬼を祓いたい。何たって気色悪いからの。何で、かつての儂と同じ姿をしとるんじゃこやつ。あぁ、気色悪い気色悪い。
「……聞くが、
窓に寄り掛かってる赤鬼はなるべく視界に入れないようにしつつ、
「えっと……、いつも家に居るわけじゃないけど……。でも、お父さんが島を出ちゃってからはだいたい……」
「ヨリミナもデクも、ほんとに赤鬼さまが見えてるんだ。十三歳になると、見えなくなるってことなのに。あ! もしかして二人共、実は十二歳なんでしょ!」
「十六じゃ」
「じゃあ何で赤鬼さまが見えてるのよ!」
「えっと、それは……」
真幌の疑問は、妥当なものじゃ。この島では、十三歳になるまでは赤鬼が見えるものとされているんじゃろう。
「儂等、幽霊が見えるからな。赤鬼は幽霊の類いじゃから、当然見える」
「ゆ、幽霊……? ほんとに……?」
「見えるわけ無いでしょ、幽霊なんて。それに赤鬼さまはお化けなんかじゃないったら!」
いや、分かり易く言うならお化けじゃけどな。信仰によって産まれてしまった、気色悪いお化けじゃ。それも、十三歳になったら信仰しなくとも良い……なんて訳の分からん信仰によって産まれて来た。人的被害が出ている以上、呪術師としては祓うしかない。儂も、この気色悪い奴は絶対に祓いたい。やはり今すぐにでも祓うか? 子供を巻き込むのは不本意じゃが、緑谷が居るからの。真幌と活真を抱えて離れて貰えば、別に大暴れしたって良いじゃろう
赤鬼が子供を傷付けているのなら、躊躇いなくそうした。じゃが現実は、傷付けたりはぜずに子守をしている。恐らくこやつが手を出したのは、大人だけ。そして恐らくは、子供を傷付けた大人だけじゃ。
儂はその行為を、どうしても悪いものとは思えぬ。むしろ当然の行動と言っても良い。
「ほんっとーに、赤鬼さまが見えてるわけ?」
「見えとるぞ。なぁ、緑谷」
「う、うん。ハッキリと……」
「じゃあ、どんな見た目してるの?」
「えっと……。赤い着物を着た、白髪混じりのお爺さん……かな? 背が高くて筋肉質で……五十代前半とか、四十代後半ぐらい……?」
いや、六十と少し程度じゃ。それは間違いない。どうやら緑谷には、少し若く見えるようじゃけども。
「……あってる……。何よ、デクのくせに生意気ね!」
「えっと……。……ご、ごめんなさい……?」
「本当に、赤鬼さまが見えるんだ……。ヒーロー、すごい……」
いや、活真。それは違うぞ。儂等が赤鬼を見ることを出来るのは
……まぁ、子供の夢を壊すような発言は止しておくか。説明も面倒じゃし、秘匿もあるからの。第一、全て説明したとして信じて貰えるとは思えぬし。
「そうじゃ、凄いじゃろ? がははは!」
「……ぼ、ぼくも……また見えるようになる、かな……?」
「赤鬼が?」
「ぅ、うん……。……ヒーローに、なれば……」
それは、うぅむ……。まず間違いなく、見えなくなるじゃろう。活真の歳の頃は、六歳ぐらいじゃろ? 今、赤鬼の姿が見えているのは恐らく何かしらの縛りの上での事じゃ。十三歳になってしまえば、赤鬼を見ることは出来なくなる。活真自身に素養が有ればの話は別じゃが、まず間違いなくこの子は持ってない側じゃ。見たところ、真幌も活真も赤鬼に信用を置いているようじゃし……どうしたものかの。そもそも、赤鬼は儂が祓う。そうなると、もう二度と会えなくなる。
「どうじゃろうな。ひいろおにも、見える奴と見えぬ奴がおるからの。活真がどっちになるかは分からん」
「……活真くん、ヒーロー目指してるの?」
「……えっと、その。……ぼくは……」
「ならないわよ! ヒーローになんて!」
「……」
あぁ、うむ。これは、あまり良くない感じがするの。どうやら真幌は、活真に
っと。赤鬼が動いた。何をするかと思い目で追ってみれば、窓を開けて庭に出て行ったわ。少し様子を見てみると、なんと洗濯を取り込み始めた。呪霊が家事をしている……じゃと……!? き、貴様……儂の姿で何を……!
「ヨリミナ、これって大丈夫なの……?」
「何一つ、大丈夫とは思えんが?」
緑谷が囁いて来た。おいやめろ、急にそういう事をするな。何で男なんぞに耳元で話し掛けられねばならんのか。被身子に見られたら大変じゃぞ。儂が。
「だよね。でも……ああいう呪霊も居るんだね。全部が全部、悪いわけじゃない……のかな」
「……絆されるな、たわけ」
「あだっ」
軽く額を小突いておく。現状、赤鬼は大人しくしている。が、呪霊は呪霊じゃ。簡単に気を許して良い相手じゃない。お互いが縛りを結んでいるのならともかくじゃな、今のところはそんな事も無い。警戒を緩めることは出来ん。
とは言え。いつまでも警戒してろとも言い難い。仕方ない。少し、休ませるとするか。何か有った時に動けんとなると、困るからの。
「少し表の空気を吸って来い」
「……大丈夫。ちゃんと―――」
「良いから行け」
「いだだっ!」
今度は強めに、耳朶を引っ張っておく。目の前に呪霊が居続けようと、儂は何の問題も無い。それこそ、三日三晩程は寝ずに居ても良い。じゃが、緑谷はそうもいかんじゃろ。こやつじゃってまだまだ子供じゃからの。寝ないで動き回るなんて真似は、それこそ一晩程度が限界じゃろうし。
「……じゃ、じゃあ……僕は事務所に連絡してくる。良い、よね……?」
「うむ、そうしろ」
「ちょっとデク! 何処に行くのよっ」
「て、提示連絡です……! 怠ったらみんなに迷惑掛けちゃうから……!」
真幌に詰め寄られそうになった緑谷は、珍しく上手い言い訳をして居間を逃げ去った。去り際、赤鬼の方を見ていたようじゃがお主は何も出来ぬぞ。良いから、さっさと外の空気を吸ってこい。まったく……。
【ヨリミナとやら。暇なら手伝え】
「は?」
【ヒーローなんだろ?】
「ひいろお、ではないが?? そもそも何で儂が……」
【十六なら立派な大人だろ。子供達の為に手伝え】
……おい。何で儂が、呪霊の手伝いなどせねばならんのじゃ。洗濯物ぐらい、一人で取り込め。そもそも儂が、そんな高い位置にある洗濯物を取り込めると思うなよ?? あと、家事が出来ると思うなよ。
儂! 家事は! 何も出来ん!
なんたって、何もさせて貰えないからの!!
……。……くそっ。虚しくなってきた……。
いい加減、家事のひとつやふたつぐらいは出来るようにならなければ。何で被身子は儂が家事をすることを許してくれぬのか。身の回りを何でもやってくれるのはありがたいが……。ぐぬぬ、解せぬ……。
しかし、しかしじゃ。ここに被身子は居ない。ならば、家事を手伝ったところで文句を言われることは無いじゃろう。引き止められることも、あるまいて。それに子供達の手前、家事が出来ないからって何もしないのは格好が付かん。
【さっさと手伝え】
「儂に命令するな。呪霊如きが……」
良いじゃろう。洗濯物の取り込みぐらい、儂にも出来る。取り敢えず、物干し竿に吊るされている衣服を居間に取り込んでしまおう。庭に置いてあった大人用の
届かん。まったく届かん。おい、背伸びしても届かないんじゃが?
【小さいな。子供か?】
「喧しい。背丈で判別するな」
ちっ。何で呪霊なんぞと並んで、洗濯物を取り込まねばならんのか。しかも、誰が小さいじゃって? ゆ、許さん。やはり祓うしかないな……!
【ほら、畳んでおけ】
「あ゛?」
顔面に衣服を放り投げられた。ので、しっかりと掴む。貴様……服を投げ付けるんじゃない。儂を何じゃと思ってるんじゃ……!!
良いじゃろうっ。儂に畳ませたら、どうなるか見せ付けてくれるわっ! 後で謝ったって、貴様は絶対に祓うからな!?
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ