待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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産土神信仰。英雄活動、そのなな

 

 

 

 

 

 

 真幌と活真の家に上がり込んでから数時間経ち、夜になった。が、まだ帰ることは出来ん。何せ、赤鬼が居るからの。呪術師として、この家を離れるわけにはいかん。目の前の呪霊が、何をしでかすか分からないからじゃ。尚、緑谷は一度事務所に帰らせた。かなり渋られたんじゃけど、邪魔と伝えて追い出したら後ろ髪を引かれながらも戻って行ったわ。

 赤鬼は、呪霊にしては大人しい奴ではある。家事はするし、真幌や活真に勉強を教えたり、何なら一緒に遊んでいたりする。この数時間の中で、子供に危害を加えようとする気配は微塵も無い。どうなら(まこと)に、子供を守護しているようじゃ。これには、流石に理解が及ばない。如何に大人しくしていようとも、赤鬼は呪霊じゃ。負の感情が膿むことで産まれて来た、化け物なんじゃ。

 

 その化け物が、まるで人間のように過ごして居ることが気色悪い。儂の知る呪霊は、大抵 が人間にとって有害じゃ。知性が有ったとしても、それは人を呪う為に狡賢く使われる。言語を話すのも、人間を騙す為じゃ。それが呪霊じゃ。呪霊とは、そういうものの筈。なのに、この赤鬼と来たら……。

 

【真幌、口にケチャップが付いてるぞ。綺麗に食べろ】

「はーい。ヨリミナ、ちゃんと食べなさいよねっ。赤鬼さまが作ってくれたんだから!」

「オムライス、……美味しくなかった……?」

「食欲が無いだけじゃ。味は、別に悪くない」

 

 もちろん、良くもないが。被身子のおむらいすの方が、絶対に美味い。箸は進まぬけども、振る舞われた以上は食べ切るつもりじゃ。箸は進まぬけどな。

 

 ……そんなことより。何なんじゃこやつは。呪霊としては、随分と様子がおかしい。こんな輩は見たことがない。腹の内で何を考えているのかさっぱり分からん。やってる事自体はかつての儂とそう大差無いわけじゃけど、どうにも信用ならん。やはり、この家に来た時点で問答無用で祓うべきじゃったか。様子見に回ったのは間違いじゃったとしか思えん。

 

【それにしても。お前は奇妙だなヨリミナ】

「は? 儂からすれば貴様の方が奇妙なんじゃが??」

 

 相変わらず壁に寄り掛かっている赤鬼が、訳の分からん事を言い出し始めた。誰が奇妙じゃって? 貴様の方が奇妙じゃろ。(まこと)に呪霊なのか、疑わしく思ってしまう程じゃ。

 

【俺は人間ではないからな。そう感じるのも当然だろう】

「なら、儂は人間じゃからの。貴様が奇妙と思うのも当然じゃろ」

【……それもそうかもしれんな。だがお前は……】

「何じゃ?」

 

 今度は、途中で言葉を切って閉口した。何やら探るような目で儂を見ているようじゃが、気色悪いだけじゃから止さぬか。何故、かつての自分に見詰められなければならんのか。まるで、過去を写す鏡でも見てるような気分にさえなってくる。

 

【……子守りは出来るな?】

「貴様よりは出来るが??」

【どうだか。俺は島を見回って来るから、真幌と活真を寝かし付けといてくれ。あぁ、歯磨きと入浴も世話してくれ。ついでに泊まって行ったら良い】

「断る。貴様から目を離すつもりは無い」

【なら、二人を寝かし付けた後で俺に付き合え。良いな?】

「……」

 

 いったい、何を企んでいるのやら。何で儂が、呪霊なんぞに付き合ってやらねばならんのか。しかし、この家から赤鬼と離れることが出来るのはありがたい限りじゃ。この場でなければ、子供を巻き込むことなく赤鬼を祓うことが出来る。それが済めば、任務は終わりじゃ。後は英雄(ひいろお)活動にだけ時間を割ける。

 子供から親代わりを奪うのは気が引けるが、相手は呪霊じゃ。遠慮する必要など、何処にも無い。

 

 よし。では、やるべきことをするとしよう。まずは、真幌と活真を寝かし付けなければ。その為には……まずは風呂か。儂、着替えは無いんじゃけど? 仕方ない、着れそうなものをこの家から借りるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ゛ぁ……。染みる……、染み、しみ……ふへぇ」

「ちょっ、じじくさい声出さないでよっ」

「風呂に浸かったら、誰でもそんなものじゃろ……。ふぅ……」

 

 風呂に入っている。真幌とな。面倒じゃから活真も一緒に入れてしまいたかったが、儂や真幌と入るのは嫌がってのぅ。後で、赤鬼と入るらしい。子供と呪霊を入浴させるつもりなど儂には無いので、途中で乱入してしまおうと思う。そしたら問題無いじゃろ。相手は子供と呪霊じゃから、別に肌を晒したところで何にもならんじゃろ。……ならんよな……?

 

 ……いや、待て……。この事は被身子には黙っていた方が良いのでは? あやつの事じゃ、子供や呪霊と入浴したなんて言ったら何をしでかすか分からん。うむ、内緒にしておこう。此処だけの秘密じゃ、秘密。隠し事は気が引けるが、隠したい時じゃって儂にも有る。別に、ばつが悪いから隠したいわけではないが。やましい事をしてる訳でもないんじゃし。

 

「ちゃんと百まで数えるんじゃぞ?」

「当たり前でしょっ。ていうか、肩まで浸かりなさいよ!」

「そう思うならもう少し詰めてくれんかのぅ。狭い」

 

 真幌も儂も小さい身体をしているとは言え、一般的な浴槽に二人で入るのは大分手狭じゃ。取り敢えず向かい合って湯に浸かっているが、膝上に乗せてしまう方が良かったのかも。まぁそんな提案をしたところで、真幌は断るんじゃろうけど。

 

「ヒーローのくせに、だらしないのね! 洗濯物は畳めないし、洗い物も出来ないし、何なら出来るのっ?」

「……うぅむ……」

 

 それについては、ぐうの音も出ん。儂は家事全般がまったく出来ぬ。やらせて貰えないんじゃもん。どいつもこいつも儂をぽんこつ扱いして、家事から遠ざけようとするからの。ぽんこつな父にじゃって家事は出来るんじゃから、ぽんこつではない儂にじゃって出来る筈じゃ。なのに、何もさせて貰えない。練習の機会すら与えられん。

 結果、方向音痴ならぬ家事音痴になってしまったわけじゃ。こうなったら、責任を取って貰うしかない。なぁ被身子、責任取れ。一生儂の面倒を見るか、儂に家事を教えてくれ。真剣に頼み込めば、教えてくれるじゃろうか? そうであって欲しい。そうじゃなかったら、……どうしたものかのぅ。

 

「……まぁ、人助けは出来る、ぞ……?」

「家事も出来ないのに!?」

「戦うことは誰より得意なんじゃ。ひいろお科の連中の中で、儂が一番強いんじゃぞ?」

「絶っっ対、嘘!」

 

 いやいや、嘘ではない。事実、儂が一番強い。くらすめえと達と力比べをすれば、勝つのは儂じゃ。まぁ、それをわざわざ真幌に説明する必要は無いんじゃけど。

 真幌が、疑いの眼差しを向けてくる。何を言っても言い訳というか、嘘認定されそうじゃの。黙っておくとするか……。

 

「ところで、ちゃんと数えてるか?」

「ヨリミナみたいにポンコツじゃないもの! ちゃんと数え、て……」

「数えて?」

「どこまで数えたか忘れちゃったじゃないっ」

「人をぽんこつ扱いするから数え忘れるんじゃぞ?」

「そういうヨリミナはちゃんと数えてるのかしら!?」

「当然。確か今、……うぅむ……」

 

 湯に浸かってから、何秒じゃったっけ? 儂は幾らでも湯船を楽しみたいからの、百秒経ったら湯から上がるなんて真似はしたくない。風呂に入ったからには、長湯しなければ勿体ない。じゃからほら、今までもこれからも湯船で数を数えるなんて真似はするつもりが無い。

 まぁ、のぼせない内に上がろうとは思うんじゃけどな。あと少し、もう少ししたら湯から上がるとしよう。それまでは、湯の中でゆっくりと過ごしたいのぅ。

 

 ……。……今は、そうも言ってられんか。百秒経ったかはともかくとして、そろそろ湯船から出るとしよう。

 

「ま、まぁ。そろそろ百じゃろ。ほら、上がった上がった」

 

 湯から出るのは後ろ髪を引かれる思いじゃけど、この後の事を考えると長湯してる場合ではない。それに、宿に帰れば温泉に入れるからの。長湯するのは、赤鬼を祓った後にしよう。

 って、真幌。何じゃその目は。何か文句のひとつやふたつでも言いたげな顔をして。

 

「ほんっと、ヨリミナっていい加減よね。信じられない」

 

 思いっきり軽蔑された。そんなに睨まれるような事をした覚えは……無いと言ったら嘘か。洗濯物は畳めなかったし、洗い物も盛大にひっくり返したからの……。でもほら、皿を割ってはいないんじゃから、あれについては許して欲しいところじゃ。これでも、我ながら情けないと思ってるんじゃし。

 

 ……家事、出来るようにならなければなぁ。六歳ぐらいの子供に白い目で見られるのは、流石に人として駄目な気がしてならん。

 

「しかも、お子様だし。せめて、もっと信頼出来て大人なヒーローが良かった!」

 

 悪かったな。お子様のような体型で。仕方ないじゃろ、背丈は伸びんしいつまで経っても体型に変化が無いんじゃから。でも、いずれは育つ筈じゃ。母があんなじゃからの。そのうち、被身子じゃって追い越せる筈じゃ。何がとは言わんけど、女として生まれ直したならせめて肉体ぐらいは女らしく在りたい……と思わんでも……。

 いやいや、儂は男じゃ男。例え肉体が女じゃろうと、女児のような体型をしていようとも、性自認はずっと男のままで変わらんからの。何より、そこを変えてしまったら何か駄目な気さえしている。

 

 儂は、これでも! 男!! じゃ!!!

 

 ……虚しくなってきた。阿呆な事を考えるのは止そう。風呂から上がったら、どうにかして真幌と活真を寝かし付けるとしよう。いや、その前に歯磨きが先か。やるべき事は、まだ少し残っている。全て終わらせたら、その時こそ……。

 

「ほら、真幌。早く上がらんとのぼせるぞ?」

「ヨリミナに子供扱いされたくないっ。このっ」

「ぷえっ」

 

 顔面に向かって、湯を掛けられた。うぅむ、反抗されているのぅ。情けないところを見せたのが良くなかったか。真幌は、どうも英雄(ひいろお)が嫌いのようじゃからの。これについては、仕方ないことでもある。活真の事が心配で、じゃからこそ反対してしまうんじゃろう。それについては、何か力になってやりたいところじゃけど。儂としても、子供が英雄(ひいろお)を目指すのはあまり好ましくない。夢を追い掛ける気持ちは尊重するし、悩んだり足踏みしているようなら背中は押す。子供には、やりたい事をやらせてやりたいからの。

 

「ほら、早く上がれ。のぼせたら大変じゃからの」

「ちょっ!? 離してよ変態っ! 何するのよーーっ!!」

 

 取り敢えず、真幌を湯船の中から持ち上げる。両の脇腹をしっかり手で挟むと、手足を振り回して暴れ始めた。が、それで儂の手を振り払うことは無理じゃな。

 さて。さっさと浴室から出て、髪や体を拭かせてから真幌に寝間着を着せるとしよう。儂の着替えは無いから、もう一度同じ服を着るとするか。汗臭くないと良いんじゃけども、この島は暑いからのぅ。服は汚れてしまっているじゃろう。

 暴れる真幌を落とさぬように気を付けながら脱衣所に出ると、洗濯機の上に置かれた衣類が目に付いた。片方は真幌のもので、もう片方は……男物の襯衣(しゃつ)が一枚置いてある。これは、多分真幌の父の物なんじゃろうな。赤鬼の奴が置いたのか? 儂等が風呂に入っている間に? 何なんじゃあやつ。まっこと、気色悪いのぅ……!

 

 まぁ、良い。取り敢えず髪や体を拭いてしまおう。幾らこの島が夏の気候をしていても、濡れたまま裸で居たら風邪を引いてしまうからの。儂はともかく、真幌に風邪を引かせてしまうのは駄目じゃ。気をつけるとしよう。

 

 

 

 この後。儂はどうにかこうにか、真幌に服を着せた。儂は取り敢えず、男物の襯衣(しゃつ)を着ることにした。うぅむ、大きさがまるで合っていない。仕方ない、無線で緑谷に連絡して着替えを持って来て貰うとするか。こんな格好のままで出歩いたりしたら、被身子に叱られてしまうからの。

 

 

 

 

 

 









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