待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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産土神信仰。英雄活動、そのはち

 

 

 

 

 

 

 真幌と活真が寝た。まぁ、どう見ても狸寝入りじゃけどな。真幌は部屋を暗くするまで、儂に対してお冠じゃったし。それでも赤鬼は二人の子供に騙されたらしく、儂を外に連れ出した。呪霊の後を歩くのは良い気がしないが、何やら話が儂に有るようじゃからな。人気の少ない場所に行くまでは、黙って付いて行ってやろう。

 この島は、夜が更けるとかなり暗い。街灯と呼ぶべき物が少ないからの。本土での街中と比べて、明らかに暗い。つまり夜中に出掛けても人目に付き難いと言うことじゃ。もっとも、静か過ぎるから少しでも騒ぎが起きれば直ぐに気付かれるんじゃろうけども。

 先を歩くの赤鬼は、島乃邸を出てから一言も喋らん。何を話したいのかは知らぬが、さっさと足を止めて欲しいものじゃ。出来れば、周囲が開けたところでな。住宅が近くに無いのが好ましい。が、何処であれ帳を降ろしてしまえば何をしたとしても島民が寄ってくることは無い。まぁ緑谷の目には付いてしまうわけじゃけど、あやつが駆け付けてくるまでに赤鬼を祓えば良いだけの話じゃ。

 

 歩くこと、三十分程は経ったじゃろうか。やっと赤鬼が足を止めた。儂が連れて来られた場所は、海辺の岩場じゃ。足元は濡れていて、少し滑り易いかもしれん。まぁ、人目に付かないのであれば目の前の呪霊を祓うのに場所など関係無いがな。何処じゃろうと儂は構わん。

 

「闇より出でて闇より黒く

 その穢れを禊ぎ祓え」

 

 帳を、降ろす。振り返った赤鬼を真正面から睨むと、何を考えたのか手頃な岩に腰掛けおった。呪い合う気は無い、とでも言いたげじゃの。配慮してやるつもりは、儂には欠片たりとも無いが。話したければ、勝手に話せば良い。

 

 両手を叩き合わせる。それでも、赤鬼は微動だにしない。

 

【お前は、ヨリミナと呼ばれていたな。それは、頼るに皆と言う字か?】

「……それが何じゃ?」

【この字で良いんだな?】

 

 赤鬼が、血を出して空に文字を書いた。儂の名が、頼皆か……じゃと? そんな事を気にして何になる?

 

【良いんだな?】

 

 しつこい奴め。そんなに答えて欲しいのか。

 

「そうじゃ、と言ったら?」

【そうか。事実であるのなら、礼を言いたい】

「要らん。気色悪い」

 

 礼、じゃと? 呪霊如きが、儂に? そんなのは、ただただ気色悪いだけじゃ。気味が悪い。とても受け付けられん。この呪霊は、生理的に受け付けん。かつての儂と同じ姿をして、同じ声をして、同じ事をしている。それが、心の底から気に食わない。何なんじゃこやつは。何で、こんなものが産まれてしまったのか。

 隆之め。何故、儂への信仰を止めさせなかった? 何故それを許した? そんな事、儂が望まぬのは知っていたじゃろうに。馬鹿者め。お陰で今、儂は気分が悪いんじゃ。

 

【いつか俺が産まれることを、隆之は予見していたそうだ。そして頼皆を名乗る生まれ直しが、いつかこの島に来ると】

「……」

【誰もが頼皆を愛し、同時に申し訳無く思ったそうだ。だから、俺が産まれたんだろうな】

 

 あぁ、気色悪い。これ以上、その面を見たくない。声すら聞きたくない。じゃって、そうじゃろ? こやつの存在を認めれば、それは……儂が助けた子供達が、儂に何か負の感情を持っていた事になる。それが癪じゃ。そんな感情を抱かせる為に、助けたわけじゃないからの。それに、儂が子供達を助けたのは……儂が助けたかったからじゃ。結果として多くの命を助けられたとは思う。儂には、その結果さえあれば良い。

 じゃって、そうじゃろ? 見返りなど、どうして求めることが出来るのか。そんな真似は出来やしない。仮に見返りがあるとするなら、それは子供達が子を残す程に生き永らえたと言うことのみ、……じゃ。

 

【お前は、この時代で言うところのヒーローだった。多くの子供達を救って、最期まで誰かを助けることを諦めなかった。……そう聞いている。かつての赤鬼は、子供を救い続けるお人好しだったと】

 

 誰が、お人好しじゃ。誰が、英雄(ひいろお)じゃ。そんなつもりは一切無い。気に食わんから殺して回って、気に食わんから助け続けたに過ぎん。そうやって何十年も歩みを止めることも無く、最期は勝手に一人で死んだだけじゃ。

 何より。呪霊なんぞに英雄(ひいろお)と言われるのは反吐が出る。まぁ誰に言われたって、喜ばしいとは思わんのじゃけど。

 

 儂は決して、英雄(ひいろお)などではない。英雄(ひいろお)ならば、何一つ取り零さないで居られた筈じゃ。それこそ、……おおるまいとのようにな。

 

【お前があの加茂頼皆の生まれ直しなら、もう俺がこの島を守る必要は無い。本物が此処に居るんだからな】

「……くだらん。貴様を祓った後、儂がこの島を守るとでも思っているのか?」

 

 そんな真似を、するつもりはない。子供を助けることに変わりはないが、この島に留まったりはしない。何より暑いのは嫌いじゃし。まぁ、寒いのも嫌いじゃけど。

 この島の事は、この島の連中が勝手にしたら良いんじゃ。幾ら隆之が移り住んだ土地とは言っても、それを守る理由が無い。この島で生きる人々は、儂が死した後に生まれ育った者達じゃ。始まりが、儂が助けた子供じゃったとしても、今更儂が守る必要はどこにも無いじゃろ。

 

「儂はこの島を守らんよ。隆之が何を残して居ようが、それはもう儂が関わるべき事ではない」

【それが、……正しいのかもな。お前はもう、十分過ぎる程に人を救けた】

「……ふざけるな」

 

 十分過ぎる程に、助けた? じゃと?

 

 そんな筈が、無かろう。儂は助けられなかった。多くの命を、取り零した。助けた命と、助けられなかった命。どちらが多いとは、とても言えん。決められる筈が無い。この身が間に合わなかった命が、この手が届かなかった命は山程有るんじゃ。それから目を背けて、十分過ぎる程に人を救けたなどと言えるか。たわけ。

 

 もう良い。こやつは此処で祓う。もう言葉は要らない。こんな気色悪い奴の面を、これ以上見て居られるか……!

 

 穿血を放とうとした、その時。

 

「は? おい……っ!!」

 

 赤鬼が腰掛けた岩から動いたと思えば、儂を抱えて何処かへ向かって跳んだ。しかも、儂が降ろした帳を容易く突き破っている。おいっ、ふざけるな……! 今この場で、貴様を祓わせろ!!

 

【真幌と活真に何か有った。付き合え】

 

 は? 真幌と活真に、何か有った……じゃと? 呪霊の言葉を信じてやる理由は無い。じゃけども、(まこと)に何か有ったとしたなら。赤鬼を祓っている場合でも無い。

 

 くそっ! 何じゃってこんな時に……!

 

 まずは、二人の安否を確認するところからじゃ。それが済んだら、今度こそ赤鬼を祓うっ。それはそれとして、儂に容易く触れるな! おいっ、何処まで連れて行く気じゃ貴様ぁっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故呪霊なんぞの脇に抱えられて、島の中を移動しなければならんのか。解せぬ。解せぬ……が、今回ばかりは許してやろう。儂一人では、迷子になるかもしれんからな。

 

 赤鬼は、儂を抱えて跳んでいるくせに中々素早い。建物の屋根やら電柱を踏み台とし何処かへ向かって跳び続ける。向かっている先は……。あれは、城の跡……か? 那歩島の端にある、小島のような場所。そこで、眩い閃光が起きた。あの光には見覚えしかないのぅ。あれは、間違いなく舎弟の仕業じゃ。確か、すたんぐれねぇど……とか言う目眩ましじゃ。那歩島は灯りが少ないから、尚更目立つ。おいおい、夜更けに何をやってるんじゃ。

 

 それから。何故か舎弟の前には、真幌が居るの。その近くには、緑谷と活真も居る。こんな時間に抜け出したのか、まったく。幾らなんでも、子供だけで夜間の外出は良くないじゃろ。赤鬼の言っていた「何か有った」とは、このこと……か? ……いや、これは……。

 

「幻の(ヴィラン)を出したのは、お前だな……?」

「ぎ、ぎくっ。ど、どうして幻だって……?」

「分かるわ! 影が無えんだよ!!」

 

 あ、いかん。何故か舎弟が、真幌の前で仁王立ちしておる。後ろ姿を見ただけでも、分かる。明らかに頭に血が昇っているの……。これは止めねば。いったい、何をしとるんじゃこやつはっ。

 赤鬼が地面に着地すると同時、儂を放り投げて両手を叩き合わせた。これは、いかん……!

 

「おい、待て!!」

 

 咄嗟に、赤鬼の両手に向けて苅祓を放つ。そうしなければ、穿血が放たれるからじゃ。狙いは、明らかに舎弟の背中じゃった。この呪霊……! 子供に向かって何をしとるんじゃっ!!

 

「かっちゃん! 危ないっ!!」

「なっ!? デク、てめえっっ!!」

 

 緑谷が、舎弟を押し倒した。同時に苅祓は、どうにか赤鬼の手首を切り裂いた。が、それでも穿血は放たれ、それは緑谷の頬を掠めた。危ないところじゃった。寸でのところで、軌道を変えることが出来た。もし、あのまま穿血が放たれていたら。緑谷が、舎弟を伏せさせて居なければ……!

 

 

 ―――貴、様……!!

 

 

【……何を、している?】

「こっちの台詞じゃ、たわけ! 貴様、儂の前で誰に手を出しとるんじゃ!!」

 

 もう、良い。もう、祓うっ。今のは、見過ごせん。見過ごしてなるものか!! 

 

「全員下がってろ!!」

 

 呪力を纏い赫鱗躍動を使い、血を飛ばしながら赤鬼の懐へと踏み込む。狙いを定め、拳を振り被るっ。その面、ぶん殴ってくれるわ!!

 

「どっ、こいせぇ!!」

【!!】

 

 全力で、赤鬼の顔面を殴り抜く。手応えは有る。不意打ちになったようじゃが、関係無い。この呪霊は、たった今、儂の逆鱗に触れた。許さん、断じて許さん。許してなるものか!!

 

【邪魔を、するな!!】

「喧しい!!」

 

 祓う。絶対に、此処で赤鬼を祓う。もう見過ごせん。もう、黙ってなど居られない……! 儂の眼の前で子供に手を出すとは、良い度胸じゃな貴様っ!! 今直ぐ祓ってやるから、そこを動くな!!!

 

  

 

 

 

 

 

 








三人称による補完は要りますか?

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