待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
今回の任務は、どうにもこうにも難航している。島民は、産土神信仰について探られるのを良しとしていない。討伐対象となる赤鬼は、昨晩姿を暗ましてしまった。儂としてはさっさと任務を済ませたいところなんじゃけども、話はどんどん悪い方に転がってる気がしてならん。
こんな風になるとは、思わんかったのぅ。いつもの任務と大差無いと、気楽に臨んだのが良くなかったか。もう少し、身構えてから任務に当たるべきじゃったかもしれんな。まぁ、今更後悔したって仕方ないんじゃけど。過去の行いを悔やむよりも、これからどうするかを考えて行かなければ。
……はぁ……。
溜め息が出る。これからも面倒なんじゃろうと思ったら、気分が憂鬱になるのぅ。それに、いい加減鬱陶しく思うこともあるしな。
今、儂はいおぎ荘の二階。その
そうそう。今朝になって驚いた事がひとつある。ながんとくらすめえと達が、談笑してたんじゃ。昨日の働きっぷりが、子供達に気に入られたんじゃろう。今日もよろしく、なんて調子良く言っておったが……まぁ悪い事ではない。それと、意外とながんは統制の仕事をしっかりやっておる。公安を毛嫌いしとるくせに、公安絡みとなる今回の
別に、悪い事では無いんじゃから気にしないでおくか。子供達を傷付けるような真似をしなければ、勝手にしていれば良い。
「げっ」
「げっ、て何じゃ。げっ、って」
潮風に吹かれながらあれこれ考えていると、後ろから舎弟の声がした。失礼な奴じゃの、まったく。柵に寄り掛かるのを止めて振り返ってみれば、片手に何かの雑誌を持って口には
「居たのかよ。そんで、これからどうすんじゃ?」
「何が?」
「あのジジィ呪霊の事だよ。それ以外に何があんだ」
今日も暑いから、着るのは大きめの
「どうするも何も、海辺の祠とやらを探すしか無いじゃろ。早いところ見付けたいんじゃが、手掛かりは無いしのぅ」
「あのクソガキ共が知ってんだろ。締め上げとけ」
「あの子達は、赤鬼に懐いとるからのぅ。多分聞いても話さんよ」
産土神信仰の内容からして、真幌も活真も祠の場所を知っている筈じゃ。けれども、昨晩はあんな場面を見せてしまったからの。儂に赤鬼の居場所を伝えれば、儂が赤鬼を傷付けてしまうと思っとる筈じゃ。じゃから、二人から聞き出すのは難しい。くらすめえと達の情報収集は空振りと言っても良いし、どうしたものかのぅ。
「その赤鬼ってのはなんだ? 昨日の呪霊か? 何で呪霊にガキが懐いたんだ?
……てめえ、俺等を頼るならもう少し情報共有しとけや」
「情報共有と言う点なら、儂も貴様に聞きたい事が有るんじゃけど」
「あ?」
「お主、どうやって呪霊を察知しとるんじゃ。見えてないんじゃろ?」
「だから言ってんだろ。見えなくても見えてんだよ」
「……は?」
いや、じゃから。何で見えない呪霊を察知出来てるのか儂は知りたいんじゃが? それでは答えになっとらん。
「透明人間見てる感覚に近え。見えなくても、そこに居るってのは何となく分かんだろうが」
……なるほど? それは、確かにそうかもしれん。儂も気配を探れば、葉隠が何も着てなかったとしても少しは分かるとは思う。しかし、それを呪霊相手にやるか……? 何と言うか、とんでもない真似をしとるの。同じ事を出来るかと言われたら、幾ら儂でも微妙なところじゃ。日常の中でならともかく、戦闘中にそれをやるのはとてつもなく難しい気がしてならん。
「で? わざわざ教えてやったんだ。赤鬼ってのは何なのか、俺に教えろや」
「……秘匿しろよ。呪術的な事は、非術師に漏らしてはならんからの」
「パンピーに話したって信じて貰えねえんだわ。口は堅えから信用しろチビ」
……一言多い奴め。まぁ良い。今回の任務については、既にくらすめえと達には協力して貰ってるからの。何も話さぬままなのは、それはそれで違うじゃろう。舎弟は、確かに口が堅いからの。緑谷の個性についても、しっかり隠し通して居るし。であれば、まぁ。信用したって良い。そもそも悪い奴では無いんじゃよな、こやつ。態度だけが物凄い悪いだけで、それ以外の部分については好ましいところが多い。未だに、儂に目で喧嘩を売ってくるところとかな。
「赤鬼は、この島で産まれた呪霊じゃ。恐らく平安時代か、鎌倉時代ぐらいには居たんじゃろう」
「んな昔から居んのかよ」
「恐らく、じゃけどな。で、産まれた原因は産土神信仰が原因じゃの。要は人々の信仰心があの呪霊を産み出した。傍迷惑な話じゃよ、まったく」
「何じゃそりゃ。神を信じて呪霊産んでんのかよ」
「まったくじゃ。流石に呆れるのぅ」
まさか儂を信仰し続けて、あのような呪霊を産み出すとはの。それもどうやら、儂への申し訳無さが折り重なって赤鬼は産まれたらしい。これは、笑い話にもならん。そんな事態を引き起こす為に、儂は子供達を助け続けたんじゃ無いんじゃけどなぁ。儂の事などさっさと忘れて、幸せに暮らしていればそれで良かったんじゃ。死人を想って生きるなとは言わんが、割り切って過ごせば良いものを……。まったく……。
「海辺の祠、とやらにあの呪霊にとって見られたくない物が有るらしい。それを見付けたかったんじゃけど、今は赤鬼自身が引き籠もっておるみたいじゃからの。
……どうあれ。祠は探すしかない」
でないと、赤鬼を祓うことは出来んからの。早いところ済ませてしまいたいところなんじゃけど、やはりどうしても長引いてしまいそうじゃ。
「そうかよ。んで、その赤鬼様が何でガキ共に懐かれてたんだ?」
「あの呪霊、どうやら十二歳までの子供を守護してるようでの。真幌と活真に至っては、父親が不在になってから一緒に過ごしてるらしい」
「んだよそりゃあ。ガキ好きの呪霊ってか? てめえみてえじゃねえか」
「呪霊などと一緒にするな。子供好き、と言う点では似たようなものかもしれんがの」
まぁ似てるも何も、赤鬼の行動原理はかつての儂と殆ど変わらん。違いがあるとすれば、それは今生の儂が十八歳までは子供と見なしていることぐらいか。十八歳の……高校を卒業するまでは、子供じゃ子供。そう思うようにしている。
赤鬼は、十三歳になった途端に守護するのを止めるそうじゃけどな。そこは……まぁ、かつての儂も同じじゃったけども。
「……それで? 他に聞きたいことは?」
「赤鬼ってのは、当然術式を使うってことで良いんだな?」
「うむ。あやつは赤血操術を使う。儂並みに強いぞ」
昨晩。僅かながら呪い合ってみた感じじゃと、だいたい互角じゃ。赤鬼の実力は、決して低くない。むしろ高いぐらいじゃった。赤血操術の扱い方は、悪くなかったしの。苅祓も穿血も、儂が本気で放ったものと互角じゃったからのぅ。
そう考えると、やはり赤鬼はくらすめえと達と対峙させることは出来ん。儂以外では、まず殺されるじゃろう。
「ハッ。てめえと同レベルだあ? だったら―――」
あ、いかん。これはあれじゃ、何かとんでもない事を言い出すやつじゃ。貴様、さては被身子に感化されてる部分がないか? その悪どい笑みは、被身子のそれと何ら変わらない気がするんじゃけど? ……流石に違うか。似てるようで、似とらん。が、ろくでもない事を口走るのは変わらないような気が……。
「俺に戦わせろや」
「たわけ」
「だっ、てめ……っ!」
ろくでもない事を口走ったので、鳩尾を肘で小突いておいた。そういう向上心じゃったり負けん気を見せるのは良いんじゃけども、今回は相手を選べ。儂に勝てん奴が、儂と同程度の強さを持った奴に勝てる筈なかろう? まして、相手は呪霊じゃ。儂と手合わせする時よりも、尚更条件が悪い。見えぬ相手が殺しに来るんじゃぞ。儂を相手する時のように、上手く立ち回れると思うな。
……まったく。仕方のない奴め! もっと励めっ。
「赤鬼と戦うのは、儂一人で良い。仮に海辺の祠らしき場所を見付けても、儂無しで立ち入ろうとするなよ」
「……いつまでも守ろうとしてんじゃねえよ。クソが」
「守られたくなかったら儂と同じだけ強くなれ。まぁ、どう足掻いても無理じゃけどな」
「ああ゛っ? 随分と下に見てくれんじゃねえか……!」
下に見ているつもりは無いが、実際どう足掻いても無理じゃろう。儂が積み重ねて来た経験は、今のくらすめえと達ではとても追い付けるものじゃない。単純に時間が足りん。もしも追い付きたいと言うなら、あと七十年程は鍛錬しなければならん。しかし子供達が鍛錬している間、儂が鍛錬を一切しないなんて事は無い。まぁつまり、どれだけ足掻こうが儂に経験値で追い付くことは無い。もしそれでも、儂に追い付きたいなら……。
……そうじゃなぁ。これから積んでいく経験を、儂の何倍も濃密にすれば良いのでは? そうすれば、いつかは追い付けるかもしれん。いつかな、いつか。簡単に追い付かれてやるつもりは無いが。
「まぁ、精進しろよ。これでも貴様には期待してる方なんじゃ」
「期待されなくとも追い付いてやるわ! 吠え面かくんじゃねえぞ!!」
そんな日が、いつか来れば良いんじゃけどな。まぁ、期待して待つとしよう。それはそれそうと、下から緑谷と活真の声が聞こえるの。何やら盛り上がっているようじゃ。何の話をしとるんじゃ……?
つい聞き耳を立ててみると、……えっじしょっと? 確か……
「盗み聞きかよ」
「それはお主もしとるじゃろ」
「俺は聞こえてきたんだよ。盗み聞きじゃねえ」
……。いや、それはどうなんじゃろうか。言い訳としては苦しいのでは? と、思わんでもない。まぁ、いちいち指摘するのは野暮か。儂は寛容じゃからの、そういう事にしといてやろう。後で活真や緑谷に何を言われても、儂は助けてやらんけど。
「……ところで、あそこに居る子って……もしかして噂の……」
「あ、えっと……。彼女はその、クラスメートの……」
「ブラッディ、よね!」
「は、はい。でも正しいヒーロー名はヨリミナで、ブラッディは愛称で……」
いや、じゃからな? ぶらっでぃと呼ぶのは止して欲しい。何じゃって誰も彼もが、儂をそう呼ぼうとするのか。こればかりは解せぬ。誰じゃ、最初にぶらっでぃなどと言い始めた輩はっ。
それと、何じゃあの老婆は。何故儂を見て、あんな嬉しそうな顔をしているのか。貴様、さっきから儂を監視してた奴の一人じゃろ。いったい何のつもりじゃ?
「やっぱり、本物……! ちょっとあんた達、本物よ本物!」
老婆が、曲がり角に向かって手を振った。すると、ぞろぞろと老人やら中年やら、何なら青年と言えそうな若者まで一斉に姿を現した。おい、何なんじゃいったい。何でどいつもこいつも、儂を見上げて目を輝かせて居るのか。これはこれで、気色悪いのぅ。
「ほんとにブラッディなのかよ……!」
「あれが、ブラッディ……」
「ブラッディだ」
「ブラッディ」
「ブラッディ」
……は? いやいや、何じゃこやつ等。いったい何のつもりじゃ? おい、何じゃってどいつもこいつも、地面に跪いて儂に向かって手を組むのか。あれは……掌印じゃな。儂が領域展開する際にする、掌印じゃ。何じゃこれ、いったい何なんじゃ……??
「クソチビ。てめえ宗教でもやってんのか?」
「やっとらん。信心など無いが?」
「……だよな。なら、この状況は何だオイ」
「儂が聞きたいんじゃけど? 何じゃこれ……」
訳が分からん。何じゃこの状況。誰か説明してくれ。
「お止めなさい。流石にみっともないですよ、皆さん」
……今度は、神主が現れた。地面の上で儂を拝み始めた連中に、呆れた顔で話し掛けている。どうやら、どうしてこんな状況になったのかを神主は知っているようじゃ。取り敢えず説明して欲しいところじゃが、儂から話し掛けるのは良くない……ような気がする。
「失礼、驚かせてしまいました。またお会い出来ましたね、頼皆さん」
何やら笑みを浮かべた神主が、下から儂に話し掛けてきた。相手にしない方が良い気もするが、話し掛けられた以上は反応を示しておくとするか……。
「……で、何の用じゃ? これはいったい、どういう事かの……?」
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ