待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
何がどうなってこうなったのか、誰か教えて欲しい。何人かの島民が現れたかと思ったら、何故かどいつもこいつも儂を前に平伏しておる。何を考えているのかは知らんけど、気色悪い。いつまでも道端で頭を下げさせている訳にもいかんから、取り敢えず事務所の中に入って貰ったわけじゃ。まぁ事務所の中でも、老人にしろ中年にしろ若者にしろ、床に座してるわけじゃが。
……訳が分からん。何なんじゃこやつ等。ひとまず、何か事情を知ってそうな神主に話を聞いてみることにする。何じゃってこんな訳の分からん事態に……??
「えーっと、つまりこれはどういうこと……です?」
椅子に腰掛けていると、後ろから抱き付いて来た被身子が小声で聞いてきた。から、首を横に振っておいた。儂に聞かないでくれ。何も分からん。何なら、分かりたくない。現状言えるのは、気色悪いの一言に尽きる。この島に来てから、何かと気色悪い事が続いているような気がしないでもない。赤鬼は気色悪いし、島民も気色悪いと来たものじゃ。もしやこの島に居る輩は気色悪いのでは? いや、流石にそんなことは……。いやしかし、目の前のこの状況は……。うぅむ……。
「神主。何なんじゃこれは」
「まぁ、今年の雄英体育祭辺りから那歩島では派閥が二つに分かれまして。片方は、従来の産土神信仰ですね。貴女が見て来たであろう、赤鬼様を信仰する面々です」
「はぁ」
「で、もう一つがここ最近新たに立ち上がった廻道信仰ですね」
「はぁ??」
廻道、信……仰……? は……? いや、いやいやいや。何じゃその信仰は。やじゃやじゃ気色悪い。えぇ、怖ぁ……。那歩島と連中は気でも狂っているのか? 狂ってるんじゃな??
よし、関わらんでおこう! 儂は知らん! 知らんったら知らん……!! 今の時代、宗教勧誘には関わるなと言うしの……!!
「島民に監視されてる事に気付いていたとは思いますが、まぁそれは……いわゆるファンとしての活動的なものでして。貴女は色々と有名な上に、持って生まれた個性が赤鬼様と合致しますからね。しかも頼皆と名乗り活動してますから、もしや生まれ変わりなのではと島中で話題になってるところです」
……いや、まぁ。生まれ変わりどころか、生まれ直しなんじゃけども。何なら個性ではなく、術式そのものじゃけど。つまり……ええっと。体育祭で儂を見て、儂を赤鬼の生まれ変わりとでも思ったのか? で、信仰するようになったと……? き、気色悪い……! 信仰などせんで良いし、信者など儂には要らんっ。仮に信者が出来るとするなら、それは百歩譲って被身子だけじゃっ。
「勝手に信仰してるだけですから、貴女はお気になさらず。新たな宗教として立ち上げるつもりはありませんし。これは島民の間だけで共有する、密かな楽しみのようなものでして。分かり易く言えば、……推し活ですね。
というわけで、どうでしょう? 那歩島の観光大使になりません?」
「は?」
なぁにが、観光大使になりません? じゃっ。訳の分からん事を言いおって。おい神主、さては貴様……その廻道信仰とやらを島に広めたんじゃなかろうな?? もしや、この訳分からん状況の元凶なのか? じゃとしたら、取り敢えず殴って良いか? 本気で殴って良いか……!?
「なるほど。つまり、円花ちゃんをこの島でプロデュースしたいってことですね?」
「ええまぁ、そうなります」
「そういうのは、まずは円花ちゃんのマネージャーであるトガを通してください!」
えっ。被身子? お、おい。お主まで訳の分からん事を宣うな。と言うか、眼鏡を掛けて出来る女
おい、ながん。助けろ。儂を助けろ。この訳の分からん状況を何とかしてくれ。お主なら何とかなるんじゃないのか? なるよな? なると言え……!!
「……丁度良い案件かもな。市民にマネジメントされるのも、ヒーローの仕事の内だ」
「は?」
一縷の望みを懸けてながんを見詰めてみたら、今度はながんまで訳の分からん事を言い始めた。お、おい。儂は観光大使などやるつもりは無いんじゃけど? と言うか観光大使って何じゃ。親善大使みたいなものか? そんな役職、儂に出来ると思うなよ……っ!
そ、そうじゃ。常闇! 椅子に腰掛けてぱそこんを睨んでいる鳥頭! 事務処理は後にして、この会話に混ざれっ。そして儂の味方をしろっ!!
「廻道。観光大使というのは、いわゆる暗黒郷への導きだ。この深淵なる海域の良さを常世に広めて……」
「そんな説明は求めとらんが!?」
「まぁ仕事内容によっては断りますけどね。露出はNGです。あと、インターネットに露出するのは最低限で」
「なるほど。であれば……まずはポスターの撮影なんかが良いかもしれませんね。どうでしょう?」
「露出しなければ良いですよ? 今度、契約書を用意しておきます」
待て、待て待てっ。話を進めるなっ。儂を挟んで盛り上がるな……! 何で神主の話に乗ろうとしてるんじゃ被身子っ。それと!! いつまで床に伏してるんじゃ、この島民共はっ!!
「そもそもじゃっ。そんなくだらん理由で儂等を監視してたのか!?」
「ええまぁ、貴女を監視していた半数は推し活の一環ですね。もう半数は、おそらくてますが赤鬼様を探る貴女を快く思ってない方々の仕業ですね。直接的な被害を出すような真似はしないと思いますが……」
「既にされたが?」
「されてますねぇ」
「……申し訳ございません」
いや、そこで神主に頭を下げられてもじゃな。悪戯電話をした輩を引っ捕らえて来てくれた方が、まだ溜飲も下がるってものじゃ。まぁその件については何をされようが許さんがな。儂の被身子に何をしてくれてるんじゃ。呪うぞ。
……取り敢えず、またひとつ知ることは出来たか。余計な情報の方が大きい気もするんじゃけど、少しは前進したと思うことにする。儂等を監視している半数が推し活? とやらをしているのなら、何か危害を加えられる事は無いじゃろう。半分は気にしなくて良いということでもある。まぁ、少しは安心出来る……のか? そう思いたいところじゃけども。
それにしても、隆之に似とるなこやつ。見ていて変な気分じゃ。悪い気はしないが、うぅむ……。
「まぁ恐らくは徘徊呆け老人のせいだと思いますので、一応私の方から言っておきます」
「……頼んだ。あと、観光大使とやらはやらんからな? 絶対にやらんぞ??」
「とか何とか言ってますけど、ゴリ押しで進めれば最後は流されてくれますよぉ。円花ちゃん、大分押しに弱いですから!」
は? 弱くないが?? 誰が押しに弱いって??? 貴様、いい加減な事を口走るのはそろそろ止さぬか。あと、仮にそうじゃったとしても押しに弱いなどと広めるでない。それで大勢押し掛けてきたらどうするつもりじゃ。儂は知らんからな??
「今日から直ぐに、とは行かないのでこの件についてはまた改めて話しましょうか」
「えぇ、ではよろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしくなのです」
……もう良い、放っておこう。知らん知らん、儂は知らん。なんか被身子と神主ががっちり握手しているが、儂は何も見なかった。知らんからな。断じて、知らんからなっ。まったく……! 何で観光大使など……!!
っと。電話じゃ電話。今日も喧しく鳴り響いておるわ。よし、訳の分からん連中と神主と、あと被身子は放っておいて電話に出よう。
「こちら雄英ひいろお」
「事務所です。どうかなさいましたか?」
……横から常闇に掠め取られた。おい、電話番ぐらい儂にも出来るんじゃけど? 何で横から掠め取るんじゃ横から。解せぬ。
『
「……は?
「常闇、代われ」
真幌の声が受話器から聞こえた。昨晩のような悪戯、というのは多分無いの。信頼しとる赤鬼に叱られた手前、懲りずに悪戯をする……なんてことは無いじゃろう。となると、この電話は……。
「真幌。どうした?」
『ヨリミナ!? 今、漁港に―――』
切れた。電話の途中で?
どちらにせよ、漁港に
「常闇、ながん。漁港に悪党じゃ。舎弟、悪党じゃぞ悪党。働け」
「あ゛ぁ゛!? 俺に指図してんじゃねえぞ!!」
「……悪党が出たから付いて来い。良いな? それと儂は、ついでに空から真幌を探す。常闇、儂を抱えて飛べ。ながん」
「全員に連絡しておく。直ぐ行け」
「……分かった。筒美さん、通信頼みます」
「行クゼ円花ァ!」
ぬおっ。急に抱えるな。せめて外に出てからにせんか。被身子が物凄い顔で睨んでるんじゃが? 後で刺されても知らんぞ、まったく。
って、おわっ。室内で速度を出して翔ぶなっ。危ないじゃろたわけ! まぁ良い、さっさと真幌を探すとしよう。抱えられたまま空に居るのは不安でしかないが、この際仕方ない。有事なんじゃから、さっさと動くとする。あ、いかん。せめて上に羽織るべきじゃったか。こんな格好で
おお、高い高い。頼むから手を滑らせて儂を落とすなよ、だあくしゃどう。さて、真幌は何処に居るかの? 活真も一緒なら良いんじゃけども、そうじゃないなら少し大変じゃ。赤鬼の奴は動くのか? じゃとしたら丁度良い。ついでに祓うとしよう。
「えっ、ヨリミナ!? ツクヨミ……!? かっちゃんまで……!!」
緑谷の声がした。声がした方向を見てみると、どうやら事務所に戻ってる途中らしいの。が、いちいち説明している暇は無い。直ぐにながんから全員に、無線で連絡が入る筈じゃ。状況把握はそちらでしてくれ。今は、いちいち足を止めてる場合でも無いからの。が、一言言っておくか。
「活真を探せ!
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
-
良いから一人称で突っ走れ