待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
今日の
昨日一昨日と休んでいる間に、どうやらくらすのまとめ役が決まっていたようじゃ。飯田と八百万じゃな。舎弟が立候補しておったらしいが、あやつには無理じゃろうて。緑谷を認めんで暴れ回るのは構わんが、そんなだから負けたんじゃぞ?
小僧にはどこかで説教せねばなるまいな。爆豪夫妻から任されてる身ゆえ、放っておくことは出来ぬ。が、どうしたもんかのぅ。一度、力で屈服させるべきか? いや、あの向上心を考えると逆効果かもしれぬ。我ながら面倒な男を舎弟にしたもんじゃ。
「結局、円花ちゃんの個性って何なの?」
救助訓練の為の訓練場に向かう車の中で、儂は葉隠にそう問われた。どんな個性なのと聞かれても、説明するのが面倒じゃの。非術師に術式や呪力の説明をするのは面倒この上ない。適当に血を操る個性とでも言っておけば納得するじゃろ。して貰わないと困る。
そうじゃなぁ……視覚的に分かり易くしてやるか。
「……ほれ、こんな感じじゃ」
右手の指先全てから血を出し、その血液を宙に浮かせ、ひたすら回転させ玉とする。それから縄を解くように紐状に変え、だぁくしゃどうのような何かを作ってやる。
「うっへぇ!? 血!? 血の操作!?」
「凄いっ! ブラドキングと同じ個性だ……! ってなると捕縛に使うのかな? 凄い個性だ……!」
「ああ、そうらしいの。どちらが優れているのか、いつか手合わせをしたいもんじゃな」
しかし緑谷よ。お主、少しばかり目を輝かせ過ぎではないか? あと猛然と話し掛けてくるな。何で少し興奮してるんじゃ。もしや被身子と同じ嗜好を持っているなんて事は有るまいな?
やらんぞ。儂の血を好き勝手に吸って良いのは後にも先にも……。
……止めじゃ止め。何を考えておる。今は被身子の事を考える場面では無い。毒され過ぎじゃ。儂まで染まり切ってしまったら、誰があやつを制御するんじゃ。
「いやでも、それだと昨日の黒い光は……? あれって血とは関係無いよね……?」
緑谷よ、それには触れんでくれ。あれはただの事故なんじゃ。黒閃は奇跡的な事故なんじゃよ。
しまったのぅ。体力試験では術式を使うべきじゃったか……。どうやって誤魔化したら良いかのぅ。それっぽい理屈を並び立てるか? いや、そもそも血と光に何の関係が有るんじゃ。これはもはや、正直に話した方がいっそ楽な気さえして来たの……。今の儂の話に聞き耳を立てていた小僧だって、納得しておらんようじゃし。
「あれは……黒閃と言ってのぅ。打撃との誤差無く、じゅ、……儂の個性を使うと起きることなんじゃよ。起きるのは非常に稀で……狙って出すのは絶対に無理じゃ」
儂だって前世含めて二度しか体験しておらんしの。あれを気軽に出せたらもっと戦術の幅が広がるんじゃが、黒閃を狙って出せる術師は存在しないからのぅ。もしかすると、宿儺なら出せるのかも知れぬ。もしそうだとしたら、あやつは最早化物と呼ぶことすら出来ぬ。
黒閃を自在に繰り出す術師なんて、最強にも程があるじゃろ。黒閃の威力は凄まじいんじゃ。あんなもの簡単に出せて堪るか。
「……? そう、なの……?」
「そう……なんじゃよ……?」
頼むからこの件については、これ以上聞かないでくれ。本当に呪力の事を話さなければならなくなる。個性が蔓延るこの時代、個性以外の力を人々がどう思ってるのかは分からん。個性の一部として思うのじゃろうか。それとも、恐れて排他的になるのか。
いや、待て。それよりもじゃ。緑谷、お主……。
「そろそろ着くぞ。お喋りは終わりにしとけ」
相澤先生の一言で、全員黙った。もう少し早くその言葉を言って欲しかった気がするが……ひとまずこの場で黒閃を追及されることは無さそうじゃ。儂としては是非緑谷に追及したいことがあるんじゃけども、今は黙っておくとするか。後で聞こう、後でな。
さて。
ゆうえすじぇえ、とか言う場所に着いた。訓練場で待っておったのは、すぺえすひいろお拾参号? とか言う先生じゃ。個性がどれだけ危険なものかとか、それをどう役立てるかとか、あれこれ語っている姿は教師らしい教師のように思えた。こういう教え方が出来る大人がもっと居れば、あの時代も少しは違ったんじゃないだろうか。
いや、この先生のような者は直ぐに殺されるか死ぬのが関の山じゃな。残念ながら平安の呪術界とは、ろくな物じゃない。
皆……熱心に、話を聞いておる。この場で興味の無さを示しているのは儂ぐらいのものか。
今更この術式が、呪力が、人を助ける物とは思えん。これは呪霊を祓い、人を殺す力じゃ。
そんな物をひいろおとして人を助ける為に使う?
片腹痛い。
ひいろお。英雄、……か。
そんな者に儂が成れるのか? 成る為には、人を殺し過ぎたように思える。呪術師として活動する為に、人助けの勉強をせねばならんとはの。人生とは分からんものじゃなぁ。
それにしても。このゆうえすじぇえとか言う建物の中は広い。目の前には長い下り階段があるし、ここから見渡せる風景は何とも面白い。ひたすら水が溢れている場所もあれば、燃えている場所もある。転落防止用と思われる柵に寄り掛かりながら、何となくこの場全体を見渡すと、やはり呪霊が目に入る。四級ですらない雑魚呪霊が殆どじゃ。数だけは無駄に多い。
雄英は沢山の人間が集まる場所じゃからの。その分呪霊が発生しているのは分かる。その理屈は理解出来る。しかし、産まれる呪霊が幾らなんでも弱過ぎる。
呪力量だけなら一級相当の呪霊は、何度も見てきた。しかし今日まで祓ってきた呪霊の中に、術式を使ってきた輩は一匹としておらん。一匹もおらんかったのじゃぞ?
そんな事、有り得るのか? なんでこの時代はこんなにも呪霊が弱い?
これは少し、考えた方が良いかもしれぬ。
例えば、じゃ。例えばの話。
個性と言うものがこの時代には有る。人間の殆どがそれを持っておる。ならば負の感情はあれど、目に見えぬものに恐怖を持たなくなりつつあるのではないか? しかしそれならば、弱まるのは自然呪霊の類いじゃろう。
山や樹木、そして海への畏怖。そう言った物へ向ける負の感情が個性によって弱まっていると言うのであれば、その手の呪霊は弱くなるじゃろう。産まれることすら無いのかも知れぬ。産まれたとしても……強いとは言えぬかもな。
なら、純粋な負の感情から産まれる呪霊は? 大量に発生しているこやつらは、何故ああも弱いのか。
……個性。個性、か……。誰もがあんな力を持っていたなら、儂が生きていた時代は大きく違ったのかもしれん。とは言え、悪党による犯罪が起きやすくなったのも事実じゃからのぅ。だから英雄が必要とされて、こんな社会が出来上がって……。
いや待て。この時代、人々は悪党を恐れる。そして悪党は英雄を恐れる。
おいおいおい。そんな事、有り得るのか? もしもこれが正しいものじゃとしたら。この考えが間違っていないとするのなら。
悪党の呪霊と、英雄の呪霊が産まれるのかもしれん。更に言えば、個性の呪霊なんかも有り得るかもしれん。
悪党、英雄、そして個性。この三つは切り離す事が出来ん。全てが繋がっておると言って良い。もし負の感情がこの三つにばかり集中したら? そして呪霊が産まれてしまったら?
……いや。戯言だな。余分な思考じゃろこれは。
結局のところ、何で呪霊が弱いのかとか、数だけは多いのかとか、答えは出てこん。詳しく研究してる奴はおらんのか? おらんな。この十五年、儂は儂以外の呪術師に会ったことが無い。
呪術師はどこに行ったんじゃ? 居るとするなら、何故呪霊を祓わないで居る?
考えたところで答えは出ない。この辺りで考えるのは止めにしておこうかの。儂、考えることはそこまで得意でもないからの。
溜め息を吐き、思考を切り替える。今は授業中じゃ。あれこれ考えるのは止めにして、授業に集中するとしよう。
再び担任や拾参号の話を聞こうと後ろに振り返った、その時じゃった。
「っっ!?」
背筋が凍った。あから様におかしな呪力を背後から感じた。今の儂が、全身総毛立つような気配じゃと?
「……おいおい。何じゃ、これは……っ!」
下り階段の先。噴水が見える広場。そこに、人影が三つ現れた。黒い靄をくぐって、確かに現れた者がある。二人は人間じゃ。けれど、一人は人間ではない。
あれは呪霊じゃ。虫の風貌をした、気味が悪い黒い呪霊。その実力は……見ただけでも分かる。
あれは……、あれは……っ!
特級呪霊じゃっ!!
長くなりそうなので、ここで一旦切ります。
次回は黒い虫の特級呪霊とガチバトルです。
あと、アンケート取りますね。期間は次の話を書き終えるまでになります。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ