待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「まさか、この島に居るとは。君だけは、排除させてもらう」
「こっちの台詞じゃっ、たわけ!」
儂を前に、悪党が身構えた。その瞬間、呪力が大きく増した。淀み無い呪力操作、とはとても言えんお粗末な呪力操作じゃが、さも当然のように呪力を扱いおって。こやつの背後には、間違いなく悪党連合が居る。じゃったら、何か目的が有るんじゃろう。この覆面白髪は陽動の可能性が高い。
まぁ、良い。こやつを引っ捕らえて、聞き出せば済むだけの話じゃ。
今回は、呪い合いを楽しむつもりは無い。この男一人に時間を掛けてられないからじゃ。楽しみたい気持ちが無いと言ったら嘘になるが、子供達の命が優先じゃ。
両手を、叩き合わせる。大きな音を立てると同時、覆面白髪の悪党が儂の真正面から逃れようと走り始める。同時に、何かが指先から飛んで来た。百斂を続けつつ、飛来する物体を横っ飛びで避ける。今のは、爪……か? 爪を飛ばす個性……?
解せぬな。穿血を一瞬受け止めた空気の壁に、爪の弾。どうやらこやつは、ふたつ、或いは複数の個性を扱えるようじゃの。脳無みたいな奴じゃな。他にも何かの個性を持っていると考えた方が良さそうじゃ。
「穿血」
「ちっ」
もう一度、穿血を放ってみる。が、またも空気の壁? で、一瞬の時間を稼がれる。その間に悪党は体の位置を動かし、同時に爪を飛ばして来た。軌道は丸見えな上に、速度は速くて遅い。いやまぁ、速くはあるんじゃけどな。穿血と比べたら、遅いってだけで。
このまま中距離や遠距離で戦うのは、時間が掛かるだけな気がするの。どの距離であれ、この悪党を倒すことは難しくなさそうではある。しかし、時間を掛けては居られない。ならば……!
呪力強化と赫鱗躍動を同時に扱い、身体能力を引き上げる。さっさと殴り飛ばし、引っ捕らえてしまおう。焦っているわけではないが、下手に時間を掛けたくないんじゃ。警戒を怠るような真似はしないが、出来る限り最短で済ませたい。
覆面白髪に向かって、幾つかの苅祓や赤縛を放ちながら駆ける。すると悪党は、爪弾や空気の壁を駆使して儂の血を遮って見せた。中距離や遠距離では、中々の動きじゃ。
あやつの手札は、今のところは三つ。空気の壁に爪の弾、そして呪力じゃ。幸い、術師としては三流も良いところじゃ。呪力を扱えるだけで、使いこなせてるわけじゃないからの。
間合いを潰し切る、その直前。悪党が手をかざした。目の前に、空気の壁が作られた。そんなもの、殴り砕いてくれるっ。
「よっ、こいせぇ!!」
振り被った右拳を、呪力を込めて全力で振るう。空気の壁に込められた悪党の呪力が揺らいだ。が、壁そのものは砕けていない。……何じゃと? 儂が本気で殴って砕けない、じゃと……?
どうやら、かなりの硬さがあるようじゃ。手加減抜きに殴ったのに、それでも破れんとは。最低でも穿血が必要か。
「飛べ」
「ぬお……っ!?」
体が吹き飛ばされる。突風? いや、衝撃波か? くそっ、これじゃから体が軽いと不便なんじゃっ。簡単に吹き飛ばされてしまうっ。幸い、怪我をするほどのものではない。当然のように呪力強化してあったようじゃが、それよりも問題はこやつが複数の個性を持っているということ。これで三つ目。まだまだ手札があると考えて良いじゃろう。……ああもぅ、面倒じゃっ!
こやつを引っ捕らえるのは、簡単にはいかん……! 何より―――。
「けひっ」
楽しくなってしまうじゃろ。楽しむ余裕なんてものは、何処にも無いのに。今回に限っては、そんな余裕は……。あぁ、くそ。くそっ。抑えろ、抑えろ……!
宙で体を捻り、着地する。空気の壁は穿血でなければ貫けん。拳であれを叩き割るのは、時間が掛かる。じゃが、穿血は最警戒されているの。儂の手の内は、殆どが悪党連合に知られている筈じゃ。当然、対策してあるに決まっている。
「それでは生き辛いだろうに。
……どうだ? 俺達と共に来ないか?」
「は?」
覆面白髪が、動きを止めた。その上、訳の分からんことを口にした。共に来い、じゃと? 行く筈がなかろう。阿呆かこやつ。さては目的は儂……か? 夏合宿を思い出すの。悪党連合は、まだ儂を引き込むことを諦めてないのか?
じゃとしたら、とんだ間抜けじゃ。交渉など、とっくに決裂しとるんじゃから。
「
「違う。我々は敵連合ではない」
「……ほぅ?」
連合ではない、と。よくもまぁ、平然と嘘を吐ける。貴様が
例えば、身体強化の個性と思ってもおかしくはない。……今は余分な思考じゃ。こんな事は考えなくて良い。それよりも大事なのは、目の前の悪党を倒して捕まえること。それと、情報を吐かせることじゃな。
幸い、勝手に語ってくれそうな感じじゃの。どれ、少し聞いてやるとするか。
術式を解き、
「……この世界を、歪だと感じたことはないか?」
「ふむ……。無いと言ったら嘘になるな。
この時代はどうかしとる。子供にひいろお、等と言う夢を見せてるところとかな」
これは本音じゃ。個性という力がある以上、
が、しかしなぁ。
「……今の時代。過ぎた力を持てば、それだけで迫害される。並外れた姿形を持っているだけで、差別されてしまう。君も、そうだろう? 或いは……これからそうなっていく。呪力なんて力を、持って居るのだから」
「どうじゃろうな。幸い、儂は人に恵まれていてな。差別も迫害も経験しとらんよ」
「では、これから経験したらどうする?」
「さぁの。それはその時にならねば分からん事じゃ」
くだらん話しか、聞けそうにないのぅ。お喋りは、もう良いじゃろ。たった今、緑谷から無線が入った。真幌と活真を事務所まで連れて行ったと。ひとまず、保護は出来たようじゃな。
「で。貴様の目的は? まさか差別や迫害の無い世界にしたいなんて宣うのか?」
「……この世界を、壊す。そして、力だけが支配する世界を……作るのだ……」
「まぁ、嫌いじゃないがの。そういう世界も」
そういう世界で生きて来たのが、儂じゃからの。呪術全盛のあの時代は、力こそ全てと言って良い世界じゃったし。呪術師は勿論、非術師じゃって争ってばかりじゃった。
「ただなぁ、悪党。そんな世界を作ったところで、結局また差別やら迫害が起きるだけじゃぞ? それでは、今と何も変わらん」
「……変わるさ。虐げられて来た者と、虐げて来た者の立場がな」
「同じ世界が繰り返されるだけじゃ。阿呆か貴様」
いやはや……。悪党と話し合うものではないな。どうにも話が平行線を辿ってしまう。まぁそもそも、止まれないから人は悪党になってしまう訳で。そういう輩は、何を言い聞かせたって考えを改めたりしない。逆上して、暴れ回るだけじゃ。
「貴様の誘いには乗らん。話は終いじゃ」
「そうか。残念だ」
手がかざされる。飛び出すのは爪か、衝撃波か。或いは別の何かか。呪力を練り上げると同時、悪党の背から何かが飛び出した。それは真っ直ぐ儂へと向かって来たから、前へ踏み込むことで避けつつ距離を潰していく。何じゃこれ? 蛇か? 背から蛇を生やせるのか貴様。訳の分からん個性じゃのぅ!
両手を叩き合わせながら懐に飛び込もうとすると、今度は爪が飛んで来た。ので、血を放ち軌道を逸らす。
「返すぞ」
ついでに、血が付着した爪を操って悪党に向けて放つ。が、これは空気の壁に阻まれた。その壁、さては真正面にしか出せぬのでは? どれ、試してみるか。
「どっ、こいせぇ!!」
全力で、見えぬ壁を殴るっ。やはり硬いの……! じゃが、本命は別じゃ!
拳を囮とし、正面を迂回するように苅祓を放つ。左右に一つずつ、上に二つ放ってみた。……が。
「その程度、か?」
見えぬ壁に、苅祓は全て阻まれた。どうやら、この壁は複数張れるようじゃ。……厄介じゃ。ただただ面倒じゃっ。こうなったら……!
力尽くで、押し通る……!!
「まだまだぁ!!」
二度、三度、四度と、見えぬ壁を殴り続ける。赫鱗躍動も呪力強化もしているのに、砕ける気配が無い。単純な物理攻撃では、突破は難しいか……?
「無駄な事を……」
「ちっ!」
見えぬ壁を殴り続けていると、また蛇が飛び出した。片方を跳躍して避けると、もう片方が突っ込んで来た。ので、それを足場にして真後ろに大きく跳ぶ。すると、今度は爪が飛んで来た。先程と同じように血で軌道を逸らし、もう一度悪党に向けて飛ばし返しておく。これは、再び見えぬ壁によって弾かれた。
落下の最中、両手を叩き合わせる。その時、また衝撃波が飛んで来た。空中故、避けることは出来ぬ。儂の体はまたと吹き飛び、更に覆面白髪が離れてしまう。
現状、悪党の攻撃で怪我をすることは無い。じゃけど、時間だけが過ぎて行く。次第に気が急いてくる。
この白髪覆面、やはり厄介じゃ……!
儂の手の内であの防御に対して有効なのは、穿血のみ。苅祓と赤縛では、あやつの防御を突破出来ない。
あぁ、面倒じゃ。面倒この上ないっ。ならば、無理矢理攻撃を当てるしかないのぅ……っ!
掌印を組む。如何に頑丈な壁があろうと、領域内でならば関係無い。まさかこんな悪党如きに領域を使わねばならんとはの……。しかし今は、時間が惜しい。こやつ一人に、いつまでも構ってる場合では無いからの。それなりに呪力を使うことになってしまうが、この際仕方ない。あの覆面白髪相手に、これ以上時間を掛けたいとは思わんからな。
「ヨリミナ!!」
は……? 緑谷? 貴様、何で戻って来てるんじゃっ。儂の所に来るより、他の所に行かんか他の所に! 勝手に儂の隣で拳を構えるんじゃない!
「僕も、一緒に戦うよ……! 真幌ちゃんと活真くんは安全な場所に居るから、大丈夫!」
「退いてろ、たわけ。邪魔じゃ邪魔っ」
くそっ。また面倒な事になって来た……! 儂独りで戦ってた方が、手っ取り早いと思うんじゃけどっ!? 何で儂の方に跳び出してくるんじゃこやつはっ。
「一対二か」
「―――三対一だ! クソ
おいおい、今度は舎弟まで駆け付けて来おったわ……っ。何でどいつもこいつも此処に来るんじゃ、まったく! 増援がしたいのなら、他のくらすめえと達の所に行けば良いじゃろ……!
まっこと、仕方ない奴等じゃ……!! 死んだら呪うぞ、たわけ共めっ!!
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ