待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「死ぃいねやああぁっ!!」
「セントルイス……スマーーッシュ!!」
緑谷と舎弟が、覆面白髪の悪党に向かって真正面から突撃した。様子見すること無く悪党に向かう様を見るのは、肝が冷える。勝手に飛び出しおって……! まったく……!
二人の攻撃は、やはり悪党には届かん。見えぬ壁に、蹴りも爆破も容易に阻まれてしまった。ので、反撃が来るよりも先に二人の体を儂の方へ引き寄せる。直後、爪と衝撃波が空を切った。こやつ等が悪党に向かって行った時、咄嗟に二人の背に血を付けておいて良かった。下手をすれば今の反撃で死んでいたかもしれん。くそっ、手間が掛かる……! 儂一人にやらせておけば良いものを。何じゃってこっちに来たんじゃこやつ等は。やはりこうなったら、さっさと領域を使うしか無い。それが最も手っ取り早く、安全じゃろう。相手が呪力を持っているのなら、尚更じゃ。
「ちっ! なんだありゃあ……!」
「見えぬ壁じゃ。強度は穿血でやっと貫ける程。それと、あやつは個性複数持ちじゃ。呪力も有る」
「複数の個性に、呪力……。それって……!」
「ハッ。AFOもどきかよ……!」
……そうじゃな。舎弟の言う通り、あの背広男のような力を持っている。そう考えると、とても一筋縄ではいかなさそうじゃ。
「まぁ、新たな脳無……と言う線もあるがの。どちらにしても、呪力操作は拙い。持ってる個性は、見えぬ壁に爪飛ばし。それと衝撃波に……背中から蛇が生えるぞ」
「なら、近付いてぶっ殺す! 遠距離系ばっかなら、近距離は大したことねぇってことだろ」
「見えぬ壁が無ければな」
あの壁が、どうにも厄介じゃ。穿血ならば貫けるが、それ以外に有効な手は領域しかないように思える。……いや、待て。まだ二つ、試していない事があったの。片方は有効とは思えんし、実戦では余り使いたくないんじゃけども、そうも言ってられない。この戦いの先に有ること。いずれ起こる呪い合いの為に、訓練だけではなく実戦でも使っていかなければな。
よし。そうと決まれば……。
「まずはあの壁を破る。話はそれからじゃ。
……無茶はするなよ」
両手を叩き合わせる。念の為、もう一度緑谷と舎弟の背中に血を付着させておく。いざって時の保険じゃ。
「遠距離系も、あの壁も……全て儂が引き受ける。良いな?」
「……分かった。何か、策が有るんだね……?」
「試す価値はある。成功率は、限り無く低いんじゃけどな」
「ハッ。ひよってねえで一発で決めろや!」
「大丈夫、出来るよ!」
勝手な事を言って、勝手な期待をするんじゃない。この目論見は、個人的な鍛錬では一度も成功してないんじゃけど? 意気揚々と飛び出しおって。失敗した時の事を考えろ。それに子供を囮に使うなんて真似は、儂の主義に反するんじゃ。気が気じゃない。領域を使ってしまった方が絶対に速い。こんな事になるのなら、さっさと領域展開してしまうべきじゃった。後先を考えて呪力を温存しようとしたのが、そもそも間違いじゃったかもしれん。
まったく、愚かな真似をしてしまった。儂が何に重きを置くか、それを儂自身が失念してしまっては元も子もない。
今度、今と似たような機会が有るのなら即座に領域を使ってしまおう。子供達の命が優先なんじゃから。
飛び出した舎弟と緑谷に向かって、悪党が衝撃波を飛ばした。舎弟はそれを辛うじて避け、緑谷は何とか防御してみせた。後退させられてしまった緑谷に向かって、爪が飛ぶ。それを舎弟が残らず爆破して見せた。
「ボサッとしてんじゃねえ! ぶっ殺すぞ!!」
「ご、ごめん! ありがとう……!」
「いらねんだわ!!」
……うかうかしてられんの。覆面白髪が繰り出す見えぬ壁を、今直ぐにでもどうにかしなければ。気が散るこの状況で意識をひとつに集中するのは、難しいの……。じゃが、やるしかなかろう。
片目を閉じ、呪力操作と個性操作に気を配る。血液を圧縮しつつ、かつ呪力に干渉しないように呪力強化した個性で血液そのものに回転を加えていく。しくじる事は出来ん。そんな真似をすれば、大きな隙を晒してしまう。そしたら、これ幸いとあの悪党は目の前の二人を蹴散らすじゃろう。そんな真似はさせん。儂の目の前で、子供を傷付けれると思うなよ。
爆破を使い器用に宙を飛び続ける舎弟が、悪党の頭上を取った。同時に、緑谷が懐に跳び込もうと駆け出している。
緑谷にまで接近を許すつもりは無いんじゃろう。緑谷に向かって突き出した手から、またも爪が飛びそうじゃ。なので、予め苅祓を五つ飛ばしておく。
五つの爪が飛び出す。が、それは苅祓で撃ち落とした。その時、舎弟が両手を構えた。悪党は咄嗟に、見えぬ壁を張る。じゃけど、それは無駄じゃ。何せ、見えぬ壁じゃからな。向こう側が透けて見える壁じゃ。爆破そのものは防げたとしても、防げぬ物があるじゃろう?
「
「っっ!」
そう。閃光そのものは、防げまい。至近距離であれを受けたんじゃ。しばらく、目は使い物にならんじゃろう。
……撃つとするなら、ここじゃの。
狙いは、足じゃ。右足を狙う。さぁ、上手く行ってくれよ……!
「―――穿血」
……おっ? 暴発、しない。しとらんな。螺旋回転を加えた穿血は、覆面白髪の右足を容易く貫いた。この穿血は、速度自体は普段と変わらん。が、貫通力が凄まじい。足とは言え人体を貫いたのに、速度はまるで落ちとらんように見えた。
「スマーーッシュ!!」
緑谷の左足が、悪党の頭を打ち抜いた。
「くたばれぇえええ!!」
舎弟の爆破が、悪党の体を吹き飛ばす。
「赤縛」
吹き飛んだ悪党を、血で縛り上げる。
ううむ……。螺旋回転を加えた穿血で、見えぬ壁ごと貫いてやろうと思ったんじゃけどな。舎弟の起こした閃光で大きな隙が出来てしまったから、つい放ってしまった。そこで姿勢は崩れ、緑谷と舎弟の追撃も直撃じゃ。
……生きてる、よな? まさか、死んだりしとらんじゃろうな? 吹き飛んだ悪党は、縛られているとは言え微動だにせん。
「……で!? 何か言う事が有るんじゃねえのかクソチビィ!」
いや、おい。幾ら赤縛で縛り上げているからと言って、倒れた悪党を踏み付けるな。何で勝ち誇った顔で儂を見るんじゃ貴様。緑谷、舎弟を止めろ。何で貴様まで儂を見とるんじゃ。悪党を見ろ悪党を。次の瞬間には、また暴れ出すのかもしれないんじゃぞ?
「俺ぁ怪我ひとつしてねぇ! さっきも今も、無傷で勝ったぞ!! てめえに守られる必要なんて無えんだよ!!」
中指を立てられた。何じゃっけ、それ。確か、
……。……まぁ、良いか。そんな事よりも、じゃ。
「うむ、良くやった。まさか無傷で引っ捕らえることが出来るとはの」
「ったりめーだっ。俺が
いやまぁ、やられるじゃろ。まだまだ未熟者であることに、変わりは無いんじゃから。とは言え、今回の悪党相手に無傷で立ち回れたのは褒めてやっても良い。さっきも、と言っていたの。こやつ、二人の悪党を無傷で制したのか? 舎弟なら、或いはやれるじゃろう。こやつの才能は、かなりのものじゃからの。呪力さえあれば、完璧じゃった。
……さて。今の内に、倒した悪党を厳重に縛り上げておくとしよう。赤縛に赤縛を重ね、雁字搦めにしておく。これで、ちょっとやそっとじゃ動けないままじゃろう。
ひとまず、ここは制した。後は、他の場所に居るくらすめえと達を守らなければ。あと何人、この島に悪党が来ているのかは分からん。とにかく、今は無線を使って状況の通達と共有をじゃな。
「か、かっちゃん……! 足蹴は止めようよ足蹴は……! ヒーローらしくないから……!」
「俺に指図すんなやクソナード!! てめえ、いつまでもクソチビに守られてんじゃねえぞ!! てめえの身はてめえで守れぇ!!」
「んぐ……っ。これから頑張るから、見ててよ……!」
「俺ぁ待つ気はねえぞ! ちんたらしてる奴は置いてくだけだっ。いつまでもクソチビの負担になってて恥ずかしくないんか!!」
「そ、それは申し訳なく……思うけど……!」
ううむ……。仲が良いのか、悪いのか。舎弟の態度や口の悪さは相変わらずじゃけども、言ってることは別に間違ってないんじゃよな。
舎弟や緑谷が成長していようとも、儂にとっては守らなければならぬ子供なんじゃから。まぁ、あと数年もするが守ってやる理由は無くなるんじゃけども。儂が守るのは、子供だけじゃからの。大人は知らん。大人まで守ってやろうと思う程、儂はお人好しではないからの。
「……全員聞こえるか? こちらの悪党は制した。戦闘している者は居るか?」
『浜辺で、
取り敢えず無線を使って連絡してみれ、切羽詰まった常闇の声が直ぐに返ってきた。浜辺で交戦中、じゃと? いかん、直ぐに向かわなければ。ここから浜辺に向かうには、何処をどう進んで行けば良いんじゃっけ? そもそも儂は、今何処に居るんじゃ……?
「―――ナイン!!」
む? 誰かがこちらに向かって飛んで来た。だけではないの。儂等に向かって、何かを飛ばしておる。それを血を飛ばして撃ち落としつつ、緑谷と舎弟を血で引っ張って覆面白髪の側から引き離す。誰じゃあの、赤髪女。この白髪の仲間……じゃろうな。
「よくもナインを……!!」
ぬおっ。髪の毛が襲ってくる。風切り音が凄まじい。何じゃ? 髪を刃物にでもする個性か? それとも、髪を自在に操る個性……? まぁ、何でも良い。振り回される髪を、避ける。こやつも悪党か。覆面白髪の仲間であることは、間違いない。この赤髪の目は、さっきから……
赤い髪が、一塊となって上から下に振り下ろされる。それを跳び退いて避けると、髪が地面を切り裂いた。大した切れ味じゃの。そこらの包丁よりは良く切れそうじゃ。
っと、いかん。闖入者が、
「赤縛」
「はっ!」
おっ。赤縛が、赤髪に切り裂かれた。中々やるようじゃ。この女、決して弱くはない。強くもなさそうじゃけどな。って、何じゃこれ。こやつ、儂の前に何をばら撒いて……。
「ぬお……っ!?」
何じゃこれ。煙……? 煙か?? 突然煙が立ち上り、視界が遮られる。赤髪女の仕業であることは、間違いない。このまま煙に巻かれてる訳にもいかんから、個性を使って煙を一箇所に収束させる。後でまた広がるじゃろうけど、取り敢えずこれで視界は確保出来るの。
「げほっ。煙い……!」
「ヨリミナ、無事!?」
煙が晴れると、緑谷が駆け寄って来た。心配させてしまったか……。別に心配する必要は、無いんじゃけどなぁ。
「無事じゃ無事。ところで、でく。覆面白髪の悪党は……」
「とっくに連れて行かれたわ! 何を油断してるんだクソチビィ!!」
「いや、しとらんしとらん」
してやられただけじゃ。あの女、意外とやるの。それに、覆面白髪を奪還されたところで今直ぐ何かあるわけでもない。あの悪党は、当面気絶したままじゃろうし。足の傷が深いから、暫くは動けぬ筈じゃ。
ひとまず悪党が退いたのであれば、今は気にしなくて良い。それよりも気にするべきは、浜辺の方じゃ。今直ぐ、常闇と合流しなければ。
「舎弟、でく。浜辺まで案内してくれ。常闇が危ない」
「うん……! 直ぐに合流しよう!」
「俺ぁ先に行ってんぞ! てめえクソチビ! 後で締め上げっからな!?」
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ