待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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産土神信仰。笑顔の裏

 

 

 

 

 

 

 覆面白髪……ないん、とか言う名の悪党が赤髪女により奪還された後。儂は緑谷に連れられる形で浜辺までやって来た。その道中、何か花火のようなものが空に打ち上げられたわけじゃが、どうやらそれは悪党達が取り決めていた撤退の合図じゃったらしい。儂等が浜辺に着いた頃には、悪党は姿を消していた。ひとまず、くらすめえと達の中で死人は出ていないようじゃ。しかし、何人かは化け物みたいな姿形をした悪党との戦闘で、傷を負ってしまった。くそっ、不甲斐ない。あの時、さっさと領域を使って覆面白髪を倒しておけば良かった。そしたら、直ぐにでも合流して守れた筈なのに……!

 情けない。何と、情けないことか……! やはり、間違っていた。くらすめえと達は事務所に待機させておいて、儂一人で動くべきじゃった。そしたら、怪我人など出なかったというのにっ。

 

「……この怪我は廻道のせいじゃない」

「悪いのは、(ヴィラン)と、……俺達の未熟さだよ。もっと強くならないと」

 

 などと常闇や尾白は言っているが、そんな言葉で気が晴れたりはしないんじゃ。浜辺で悪党と戦闘したくらすめえと達は、誰も彼もが怪我人じゃ。幸いにも大きな怪我はしていない。打撲に擦り傷が主で、命や英雄(ひいろお)活動に支障は無いじゃろう。じゃからって、この失敗を無かったことには出来ない。

 ……もう、くらすめえと達には何もさせない。この島にやって来た悪党を全員引っ捕らえるまでは、危険な真似は一切させぬ。戦闘なんて以ての外じゃ。

 

「確かに俺達は怪我をしてしまったが、ヒーロー活動に怪我は付きものだ! この傷を廻道くんのせいにする者など、一人も居ないさ!」

「そうよ円花ちゃん。それに、悪い事ばかりでもなかったのよ。爆豪ちゃんが、(ヴィラン)を一人捕らえたわ」

「……大丈夫か? 廻道」

 

 ……うるさい。喧しい。儂を囲って、儂のせいではないなどと宣うのは止さぬか。お主等が傷を負ったのは、儂が手間取ったせいじゃ。儂がさっさと駆け付けていれば、誰も怪我を負うこと無く悪党を追い払えたかもしれないじゃろ。或いはこやつ等が全員、舎弟のような結果を出していれば何の問題もなかったんじゃけども。

 事態が事態じゃったとは言え、もっとやりようが有ったのではないか? 子供達が誰一人傷付かないで悪党を制圧するような手段が何処かに……。……流石に、都合が良過ぎるか。仕方が無かった、なんて言葉で済ませたくはないんじゃが……いつまでも後に引き摺るのはそれはそれで良くない。切り替えるとしよう。

 

 次は、あんな指示は出さない。儂以外は、全員後方待機してもらう。

 

「……それで。島の状況は?」

 

 不満も不服も拭い去れぬが、これからの話をしよう。苛立ちは、隠しておく。表向きは何とも無いように振る舞おう。余計な気を遣われても、頭に血が上るだけじゃし。

 

「状況は……良くねぇ。島のあちこちで、爆発が有った。その上、通信基地と船は全滅してる」

「脱出も連絡も困難だ。(ヴィラン)は退いたが、この島に潜伏してるのは確かだろう。また襲ってくるかもしれない。どうにか、対抗策を考えよう!」

 

 ……なるほど。最低な状況じゃの。こんな状況下でまた悪党が攻め込んで来たら、ろくな事にならんじゃろう。幸い、儂の消耗は小さい。再び攻め込まれたとしても、何ら問題は無いじゃろう。次は、後先など考えん。即座に領域展開して、悪党共を引っ捕らえてくれる。これ以上、子供達を戦わせるのは無しじゃ。独りでやる。懸念点が有るとすれば、また悪党が複数の場所を同時に襲撃して来るかもしれんということ。

 情報が足りぬな。何故、あやつ等はこの島に攻め込んだ? 目的は何じゃ……? 何か狙いが有るのは確かなんじゃけども……。

 

 ……。考えたって、今ある情報で分かる事は何も無い。もう少し、あの覆面白髪から情報を引き出すべきじゃったか。赤髪女にはしてやられたの。お陰で今、面倒な状況になってしまっている。

 

「誰か、悪党の狙いを聞き出せた者は居るか?」

「それは……分からない。ここに攻め込んで来た(ヴィラン)に目的があるとするなら、派手に暴れること……のように見えた。とにかく好戦的だった」

「こっちには、そんな(ヴィラン)が……。廻道さんが戦ってたあのナイン……って(ヴィラン)はどうだった…!?」

「儂を勧誘してきた」

「へ? じゃあ、狙いは廻道さんってことなん……?」

「いや、事のついでじゃろ。訳の分からん事をほざいておったが。確か……力が支配する世界がどうとか」

 

 悪党は悪党で、思うところが有って悪党をしてるんじゃろう。知らんけど。世の中、正しく生きれる人間などまず居ない。大抵が黒でもなければ白でも無いんじゃ。その中で、より濃く黒くなってしまった者が世間から悪党と呼ばれているだけであって。実のところは、悪党では無いのかもしれぬのにな。あの覆面白髪の言ってることに賛同は出来んが、理解は出来る。

 虐げられる者が虐げられない世界を願うこと自体は、否定しない。儂じゃって、そうじゃったんじゃから。

 

「……この事は話すのは後で良い。それより、これからどうするか決めねばならん」

 

 直接見たわけでは無いが、漁港を真っ先に襲撃されたのなら船は全滅しているじゃろう。その上、通信基地まで壊された。じゃから携帯電話(すまほ)は使えない……らしい。つまり、外部にこの島の状況を伝えることは出来ない。悪党は、何処かに身を潜めている……筈じゃ。覆面白髪の奴が儂等に倒されたからとっくに島から逃げ出した、なんて都合の良い事は起こるまい。

 あやつの傷が癒えるまでどの程度の時間が掛かるかは分からん。複数の個性を持ってるんじゃから、傷を癒やす個性があってもおかしくはないしの。脳無のような超再生が無いことだけが救いかもしれん。それと、反転術式は体得しとらん筈じゃ。あの呪力操作の拙さでは、反転術式(はんてん)を回すのはまず無理じゃ。

 

「これからの事は、みんなで決めようよ。一旦、全員合流してそれからどうするかを話し合おう!」

「んなもん、言われなくてもこいつは分かってんだろ。つーかよぉ! 何か言ったところで、こいつは独りで勝手に動くだろうが! これまでクソチビの何を見てきたんだクソナード!!」

「それは、……そうだけど……。でも、意思確認は大事だよっ」

「したところで無意味だっつってんだ! こいつは独りで動いちまう! それをどうすんのか考えるのが先だろ!!」

 

 ……喧しい奴め。何でお主は怒鳴り散らしてばかりなんじゃ。そんなじゃから態度が悪いと思われるんじゃぞ、いい加減に直せ小僧。

 あと、貴様に腹の内を見透かされるのは中々に不快じゃ。不快。そういうのは、被身子だけで良いんじゃ。あやつ以外に分かられたって、別に嬉しくも何とも……。何なら、気色悪いかとしれん。儂の心は被身子だけのものなんじゃけど?? 勝手に覗こうとするんじゃない。儂の理解者面をするのは止さぬか、まったく。

 

 なかなか腹立たしいけれども、舎弟の言っていることは残念ながら正しいものじゃ。じゃって、くらすめえと達が何を提案したって儂は一歩も譲らん。あの悪党の前に立たせるつもりはこれっぽっちも無いからの。絶対に、覆面白髪とは戦わせない。赤髪女とも、化け物みたいな悪党とも……じゃ。

 

 儂独りでやる。やるったら、やる。手加減などもうしない。再び面を見せて来たら、その時は。……その時は。殺してでも―――。

 

「廻道さん。それはあかんよ、絶対あかん」

 

 顔を顰めた麗日が、儂の前に立った。何が、いかん……じゃって?

 

「……何の話じゃ?」

「……間違ってたら、ごめんね。廻道さん、今……人殺しを考えてたんやない? そういう顔、しとったから……」

「……」

 

 それは、……図星じゃ。うむ、殺すことを考えていた。殺すつもりじゃ。あの悪党共に容赦する理由は、もう無い。くらすめえと達との約束を破ることになってしまうが、それでも殺す。もう、殺すしかない。子供を傷付けた輩を、何で生かして捕らえなければならんのか。

 どんな理由が有るにしても、子供に手を出した輩は死んでしまえば良いんじゃ。あんな輩が居るから、子供が不幸になる。障子が顔に傷を負ったのも、尾白や常闇が……くらすめえと達が怪我をしてしまったのも、手を出した輩が悪いんじゃ。殺してやるから、死んでくれ。

 

「……廻道さん。人殺しなんて、僕達はさせない。前みたいに、……治崎の時みたいに止めてみせるよ。今度も、次も。その先だって」

 

 麗日の隣に、緑谷が立った。他のくらすめえと達は、何でか儂を見ては固唾を呑む。……あぁ、そうか。これは、流石にいかんな。つい、殺気を放ってしまっていた。どうやったら悪党を殺せるか、そればかりを考えようとしてしまっていたの。

 

 ―――今は、隠せ。治崎の時のように止められたら、不愉快じゃからの。

 

 

「……殺さぬよ。そう約束したろ」

 

 

 緑谷の胸を、軽く小突く。それから二人の間を通り抜けて、数歩歩いてから後ろを振り向く。

 

「ひとまず、合流するんじゃろ? さっさと動こう。いつまた、悪党が攻め込んで来るかも分からんからの」

 

 ……うむ。上手く笑えたの。自然に笑えた筈じゃ。これで、くらすめえと達は変に儂を止めようとはしないじゃろう。って、何じゃ貴様等。全員して、神妙な面持ちをしおって。何か言いたい事が有るなら、さっさと口にすれば良いじゃろ。何で全員して黙り込んでるんじゃ。

 

 もしや、上手く笑えていなかったか……? ううむ、儂としては自然と笑えた気がしたんじゃけどなぁ。まさか笑顔の練習が必要……なんてことは無い……よな? えっ、儂……笑顔が変じゃったりするのか……??

 

「諸君、分かってるよな?」

「ケロッ」

「うん」

「あぁ」

「そうだな」

「ったりめーだ」

 

 おい、何じゃ貴様等。今度は全員して、意を決した顔をしおって。貴様等だけで何を共有しとるんじゃ? さては儂を仲間外れにするつもりじゃな? ……まったく。そういうのは、上手くやらんか上手く!

 

 

 

 

 

 

 

 







三人称による補完は要りますか?

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