待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
予約投稿し忘れてました♡
緑谷と喧嘩した。呆れたし、頭にも来た。儂を心配するのは勝手じゃけどな、儂はそれを望んでは居ない。だいたい、人の心配をする前にまず自分の心配をしろと言うんじゃ。そんな余裕は、あやつには無い。なのに儂を心配して、ああだのこうじゃの……!
思い出すだけでも、苛ついて来る。せっかく湯船に浸かっとるのに、なんでこうも苛立たねばならんのじゃ。解せぬ。まっこと、解せぬ。
そもそも。儂の何を心配しとるんじゃ、くらすめえと達は。儂は怪我をしようが呪力が尽きぬ限りは問題無い。
「ヨリくんが自分の事で怒るのって、珍しいですよねぇ」
「……急に何じゃ」
湯の中。儂を後ろから抱き締めている被身子が、しみじみと口を開いた。何か失敬な物言いをされたような気がしないでもない。儂じゃって怒る時は怒る。たまには、そういう時じゃってあるんじゃ。それを知らんとは言わせぬぞ。何年一緒に居ると思ってるんじゃ。出会ってからずっと共に過ごして来たんじゃから、儂が怒ってるところぐらい見たことあるじゃろ。まったくもう。
「ヨリくんが怒るのは、大抵誰かを思ってのことじゃないですか。私だったり、エリちゃんだったり、クラスのみんなだったり。子供に何か有ると、すーぐ顔真っ赤になっちゃうのです。激怒です激おこ」
「それはそうじゃけども……」
「まぁ今回のも、発端は活真くんが狙われてるから……なんでしょうけど」
そうじゃな。間違っとらん。最初に苛立ったのは、悪党が活真を狙ってると知ったからじゃ。そこから、くらすめえと達が共に悪党に立ち向かおうとして……こう。儂はどんどんと嫌になって来て。最後は緑谷と言い合いじゃ。誰が
「……あの悪党共を相手にするのは、儂独りでやるべき事じゃ。呪術師の管轄じゃぞ、あれは」
「そうですねぇ。それは正しいのです」
じゃよな。別に儂は、間違っとらんよな。今回の一件は、呪術師が対処するべき事態じゃ。ならば、最初から儂独りで対処すべきなんじゃ。悪党三人程度、それこそどうとでもなる。何なら殺したいぐらいじゃ。そうしてしまえば、活真や真幌に危険が及ぶことはない。くらすめえと達じゃって、怪我なくこの事態を終えることが出来るじゃろう。
そう思うことの、いったい何が悪いのか。分からん。全然分からん。
「……でも、トガは心配ですよ。幾ら円花ちゃんが強くて、怪我も直ぐ治せちゃうとしても、どこかで心配しちゃうから。信じてても、不安になっちゃうことはありますよ?」
「……それは、……すまん」
被身子に、心配させたくない。それは本音じゃ。しかし、儂が強かろうと死ななかろうと、それでも不安に思ってしまうようじゃ。大丈夫、なんじゃけどな。怪我をして帰るような野暮は、余程の事が無い限りは有り得んし。
……まぁ、治崎の時は余程の時じゃったけども。あれは危うく、被身子の前で死ぬところじゃった。
「謝って欲しいわけじゃないの。ただ、トガは凄く心配してるって事を分かって欲しいだけで」
「心配して欲しくは、ないんじゃけどな。そこは信じて待ってて欲しいが……」
「誰よりも信じてますよぉ。円花ちゃんは嘘吐けませんし、やると言ったらやっちゃうので」
……いや、嘘ぐらい吐けるが? 呪術師は騙し合いが常なんじゃ。まぁ被身子に対して嘘を吐いたことは……有ったような無かったような。どっちじゃったっけ? そんなこと、いちいち覚えとらん。そもそもこやつに嘘を吐く必要性がどこにも無いわけで。
「……でも。怪我が治せるとして、誰より強くても、まったく心配しないわけじゃないのです。やっぱりどこかで怖かったり不安になったり……そしたら心配しちゃいますよね」
……一理有る、……か? 確かに相手の立場になって考えてみれば、幾ら強かろうが怪我を負っても問題無かろうが、どうしても心配してしまうものじゃ。相手が子供なら、儂は尚更心配してしまうじゃろう。
……うぅむ……。そう考えると、くらすめえと達が儂を独りにさせたくない訳がよく分かる。分かる、が……。これについて譲るような真似は出来ん。譲って堪るか。それで子供達にもしもの事があったらと思うと、肝が冷える。見たくないものを見る羽目になるのかもしれんのじゃから。
となると、うむ。やはり儂は悪くないな。全然悪くない。被身子に心配させてしまうことだけが、良くないと思ってるんじゃけども。こればっかりは、どうしようもないと言うか……。その、被身子に甘えてしまっているの。こやつは、儂がしたい事をさせてくれるからの。呪術師として歩むことを……その為に
それを嬉しくは思う。被身子が分かってくれるのなら、もうそれだけで良いような気がする。じゃけど。
良くは、ないよなぁ。くらすめえと達の心配はともかくとして、被身子に心配させてしまうのは許嫁として……こう。儂はこやつに笑って居て欲しいから、あの時求婚になってるとも知らずにあんな言葉を吐いてしまった訳で。そして今は、あの時よりもずっと被身子を愛しく思ってる訳で。
なら、心配させるのは違う。せめて被身子にだけは、心配捺せぬように努めなければ。その為に、何が必要かと考えると……。うぅむ……。
「どうしたら、お主は安心してくれる?」
「それには答えません」
ぐぬ……っ。いや、そこは言ってくれんと分からんのじゃが? 何で答えようとしないんじゃこやつ。後ろを振り向くと、儂が如何に愛しいかと語り始めそうな面をした被身子と目が合った。いつもの……欲に浮かされた目とは違う。この目を知っている。何処かで見たような気がする。何処じゃったかは、まるで思い出せんのじゃけども。
「そこは教えてくれても良いじゃろ?」
「教えませんよぉ。教えたら、ヨリくんが自分の考えを簡単に曲げちゃうので。それはトガの望むことじゃないの」
「むぐっ」
鼻を摘むな、鼻を。急に人の呼吸を妨げるな。
「ヨリくんが、自分で考えて答えに辿り着いてください。悩んで迷って、それが私の望みと同じだったなら……その時は受け入れられるので」
……? また訳の分からん事を、悪どい笑みを見せながら言い出しおって。どうせろくでもない事でも考えてるんじゃろ、貴様。ずっと一緒に過ごしてるから分かるんじゃぞ。お見通しじゃ、お見通し。まったく、こやつと来たら……!
「でも、一つだけ。この島の事は、大事にしてって思うのです」
「……は?」
「だって、ヨリくんが頑張った証……じゃないですか。ヨリくんが助けたり守ったりした人達が、きっと今もこれからも残り続けて行くんです。それって素敵なことじゃないですか」
それは、……うぅむ。どう、なんじゃろうか? 素敵な事とはとても思えんぞ。じゃって、あんな気色悪い呪霊が産まれてしまったぐらいじゃからな。それに儂の事を信仰して、語り継いで……産土神に変えてしまったのは喜ばしくない。儂の事など変に思い出せず、各々が勝手に幸せになってれば良かったんじゃ。生き方を縛る為に助けた訳じゃない。自由に生きて欲しかったから、幸せになって欲しいと思ったから、助けたり守ったりしてやっただけじゃ。
儂に助けられたり守られたりした後の人生は、ただただ幸せになってれば良かったんじゃ。生き死にとは無縁の場所で、静かに暮らしていれば良いのに。
「……この島を大事に思えば、分かるのか?」
「さぁ? 分かるかもしれないですし、分からないままかもしれないですねぇ」
「……」
「んふふ。そんな風に睨んだって、教えてあげないのです」
ぷえっ。頬を突くな頬を。ついでと言わんばかりに頭や首筋を撫で回すのは止さぬか。お主なぁ、この話を有耶無耶にしようとしてるじゃろ? せくはらすれば話を逸らせるとでも思ってるんじゃないか? そんな真似はさせんぞ、へんたいっ。
「それで、これからどうするんですか? 独りで呪詛師を探しちゃう、とか?」
「……そうしたいところじゃな」
「それ、見付けるより先に迷子になるのです」
「……」
それは、……まぁ。否定したい。とても否定したい。が、方向音痴なのは自他ともに認めているところじゃ。方向音痴扱いされたら逆らうがの。うむ、逆らいたくなって来た。迷子になんぞならんが? さっさと悪党を見付けてじゃな、とっとと今回の件を解決出来るかもしれんじゃろ……!
「そうですねぇ……。独りで探すって言うなら、トガは勝手に付いて行くのです。心配なので、道案内します!」
「……それは止してくれ。儂がお主を危険な場所に連れて行くと思うか?」
「思わないです。嫌なら、心配させない方法を選んでください。そしたら、普段よりちょっぴり心配しないのでっ」
いや、それでは別の方法を取る必要性があまり……。しかしのぅ、被身子に心配をさせてしまうような真似は……やはりしたくない。笑顔で居て欲しいから、例え少ししか心配が減らなかったとしてと、心配させぬように済ませるべきなのじゃろう。それにはどうすれば良いのか、まるで分からんところじゃけど。こやつは教えてくれないし。
いつ悪党共が再び襲い掛かってくるかも分からん状況で、悠長に考えてる暇は無いんじゃ。しかしそれでも、考えなければならぬのじゃろう。
うぅむ……。ううむ……。ぅうむむむ……っ。
何も! 思い! 浮かばんがっ!?
じゃって、儂が独りで動いた方が絶対に速いんじゃ……! 儂以外は誰も傷付かず、無事に事態を解決出来る手段じゃろっ。他の手段なんて、儂は知らんのじゃ。じゃって、ずっと独りでやって来たんじゃからっっ!
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ