待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
さて。雨に濡れた体を、風呂でのんびりと暖めたりそのまま湯船の中で被身子と触れ合ったり何なりした後。儂は臙脂色の袴に着替えて、皆が集まる広間に戻ったわけじゃ。風呂から上がった後、被身子は儂の背中に隙間無くくっ付いて居るんじゃけども。お主それ、歩き難くないか? まったくもぅ、仕方ないんじゃから。
……おほん。それで、ええっと……。そうそう、これからの事について各々が話し合っていた訳じゃが、それに参加するつもりは無い。勝手にやってくれ、としか思わん。時折くらすめえと達が儂を見て何か言いたげにしておるが、わざわざ話を聞いてやるつもりは微塵もない。
儂は勝手にやるから、貴様等も勝手にすれば良い。なに、死にそうになろうものならその時は助けてやる。私情で主義に反する……なんて真似はしないからの。くらすめえと達が子供である以上、しっかりと守るとも。
あぁ、でも緑谷。今は儂を見てくれるな。今は、その面を見たくないんじゃ。下手に話し掛けられようものなら、逆上する自信がある。我ながら子供相手にどうかと思うが、これは意地の張り合いみたいなものじゃからな。意地は張り通してこその、意地じゃ。一歩も引いてやらんからな? 引くのは貴様じゃ、頑固者め。
「それで? 何がどうなったんじゃ?」
くらすめえと達ではなくて、ながんに聞いてみる。儂と被身子が入浴していた間、ながんは子供達と一緒におった。じゃから、ある程度は子供達の目論見は聞いている筈じゃ。まぁ儂の同意が得られない以上、勝手に動き回ろうとしてるのは間違いない。被身子に煽られたり、儂の扱い方を教えて貰ったばかりじゃからのぅ。
もっとも、こやつ等に振り回されてやるつもりはないが。残念じゃったな、最終的に流されるなんて事態は起きぬ。今回は……と言うか今回も、儂はいつも通りにやるからの。子供達の心配やら何やらなど、知ったことか。ふんっ。
「……取り敢えずこれを見て、頭に入れたら良い。この子達は、ここで
悪党を迎え撃つ……? いや、そんな事を画策しても無駄じゃ無駄。じゃってほら、儂が悪党共を引っ捕えてしまうからの。そしたら、子供達の策は無駄になる。あれやこれやと考えて居たところ悪いが、全て無駄じゃぞ。貴様等に出番など無い。儂が悪党共を
……それで? 机に広げられたこの地図は何じゃ? 止め針が刺してあるが……。あぁ、ここは確か……真幌が舎弟やら緑谷に悪戯しようとしていた場所じゃの。あの悪戯は、結局失敗に終わったんじゃけども。
「何でこの場所なんじゃ?」
「ここって、お城の跡地……でしたっけ?」
「あぁ、此処なら防衛線を敷くのに悪くない。視野の確保も出来るしな」
「へぇー……。そうなんですねぇ」
被身子が興味無さそうに相槌を打った。自分から聞いといてそんな反応を見せるのはどうかと思うが、こやつは
それはともかく。一度地図に目を通しておく。何やら書き込まれているが、読んでも覚える必要は……無いとは言えぬか。子供達に万が一何か有った時の事を考えると、円滑に助ける為には色々と知っておいた方が良い。誰が何処に居るとか、そこにはどうやって行けば良いのか……とかの。
ええっと……? なになに? 跡地とやらに入るためには、道が一つしか無いと。で、そこから悪党を分断して……各個撃破を狙う? 正気かこやつ等。確かに数で言えばこちらが有利じゃけど、個の力量で言えば向こうの方が上じゃろ。そんな相手に分断作戦? どうかしてる。それに、日々の訓練で習ってるじゃろうが。相手が自分より上の力量ならば、現場から脱出して救援を呼ぶのも手じゃと。期末試験とかは、そういう
例えば……八百万。儂等が乗って来たような船は無理でも、小さな船ならばもしかしたら創れるのでは? 船は全て壊されたと言っても中には比較的無事なものも有るかもしれない訳で。木っ端微塵になってたらどうしようも無いんじゃろうけどな。
例えば……轟。海を凍らせて道を作ればよいのでは? そうでなくとも巨大な氷塊を作って、船のような物を作るとか。緑谷や砂藤、梅雨とかと協力すれば泳ぎながら押せるじゃろ。最悪、舎弟の爆破で推進力をじゃな……。
……まぁ、流石に色々と無理が有るか。無理は有るけれど、どうせ無理をするなら逃げる方に無理をしてくれんかの。立ち向う事だけが正解とは限らんじゃろ。
とにかく。くらすめえと達が何を考えているかは分かった。であるなら、儂はこの一本道の途中に立って居れば良い。あぁそうじゃ、帳を降ろそう。結界の要項は……非術師は通れるが術師は通れない。あぁあと、非術師を通さない帳も降ろそう。そこに基本の視覚効果も付け合わせれば良い気がする。効果の違う帳を二重に降ろすなんて真似は面倒じゃけど、このくらいはやって見せねば。子供達を守ることに、手段は選ばん。
……よし。やるべき事は決めた。後は、そうじゃな。先に儂は、この地図の場所まで行ってしまおう。帳を降ろすのに、少しばかり時間が欲しいからの。
などと、考えていると。
「廻道くん! 君が入浴してる間に、俺達で作戦を立てた。それを説明するから、聞いて欲しい!」
飯田が腕を振りながら、そんな事を言い始めた。勢い良く振り下ろされた指が示すのは、ついさっき儂が見た地図じゃ。
「聞かんよ。こんなのは、儂からすれば論外じゃ。作戦とは呼べん。自殺行為にしか見えんぞ」
「だったら……廻道はどうすんだ? 俺等が立てた作戦以上のものが、有るのか?」
今度は轟が口を開いた。帳について説明してやりたいところじゃけど、そうもいかん。
「帳を降ろして一般人と貴様等を隠し、儂独りで悪党共をまとめて相手にする。それが最も手早く安全じゃろ」
「帳……?」
「結界じゃよ。呪術師にしか見えぬ壁みたいなものじゃ。それで納得しろ」
説明しても良いんじゃけど、呪術は秘匿じゃからの。新たに教える訳にはいかん。秘匿は秘匿じゃ。そこは守らねば。
「俺は反対する。それでは廻道が危険だ」
今度は常闇か。まさかとは思うが、一人ずつ儂に話し掛けて来たりしないじゃろうな? 面倒じゃからまとめて話し掛けてくれ。いや、やっぱり止せ。一斉に話し掛けられても、聞き取れんからの。
「この分断作戦、とやらの方が危険じゃろ。例えば此処、一人ってなんじゃ一人って」
まず、そこが解せぬ。自らより格上に一人で挑むなど、死に行くようなものじゃ。儂を止める為にこんな策を考えたのなら、今直ぐ殴り飛ばしてやっても良いが? 命を粗末にするような考えを、儂が許すとでも?
「……俺の策の為だ。
「ほぅ? 貴様が?」
「……分断し誘導するポイントの一つは、洞窟だ。そこは暗い」
……なるほど。確かに、暗闇の中ならば常闇の個性は強い。であれば、もしかしたらもしかするかもな。前提として、こやつが自らの力を満足に扱える必要があるが。だあくしゃどうを完全顕現させられるのであれば、大抵の悪党は独りで制圧出来る。それどころか、仮に悪党が大勢居たって何とかなるかもしれん。
常闇が、だあくしゃどうを完全に扱えるなら、な。
「……殴られたいか? この期に及んで、儂の主義を知らんとは言わせんぞ」
「分かっている。だから絶対に、死にはしない。廻道、……俺を信じてくれ」
「殴るぞ」
よし、殴ろう。拳骨じゃ拳骨。思いっきりその鳥頭を殴ってやるから、歯を食い縛れ……!
「どうどう。円花ちゃん、怒るのは最後まで話を聞いてからしましょう」
ぬぐっ。おい被身子……! 何で止めるんじゃっ。思いっきり抱き寄せるんじゃないっ。脇の下に腕を差し込むなっ、抱え上げようとするな……! こらっ、離さんかたわけっ。
「意外と、円花ちゃんでも思い浮かばない凄い作戦が有るかもしれないのです。ね?」
「……無いじゃろ、そんなの」
「決め付けは、良くないですよぉ」
「んぐっ」
こら。手で口を塞ぐな、喋れんじゃろ。こやつ等の話を黙って聞けと……? 子供が独りで戦おうとしてるのに、儂に黙って居ろと……?
確かに常闇の考えは、上手く行けば単独で悪党の一人を捕らえることが出来るじゃろう。しかし、それには大きな危険が伴う。悪党相手に独りで戦うなどと、そんな馬鹿な真似を儂が許すと思うなよ。
「まぁ常闇はこう言ってるけど、実際には青山と葉隠も一緒だからほんとに独りでって訳じゃない。それじゃ廻道と変わんねーし」
「そうそう! 青山くんが居れば、ダークシャドウが暴走しても止められるからね!」
瀬呂と葉隠が、何か言っておる。悪党一人を三人で相手取るつもりらしいが、それじゃ足りぬじゃろ。せめてその倍は、常闇と共に行動して欲しいものじゃ。まぁ青山さえ居れば、仮にだあくしゃどうが暴走したとしても問題は無いが……。
しかしそれでもじゃな。やはりどうかと思うぞ儂は。悪党の一人を任せる気には、とてもなれん。
で、被身子。いつまで儂の口を塞いでいるつもりじゃ? そろそろ離さんか。まったく……!
「危険なのは、みんな分かってるのよ。でも、その危険から……いつまでも遠ざけられたくないの。円花ちゃんが、私達を守りたいと思う気持ちは……とっても分かるけど」
梅雨。分かってるのなら、黙って守られて居て欲しいんじゃけど? そもそも、お主等はまだまだ子供じゃ。
「ウチ等は、ヒーローを目指してる。なのにさ、守られてばっかりじゃ……ヒーローになれない」
じゃから、悪党と戦うと? そう言いたいのか、耳郎。
この時代、もしかすると……どうにかしているのでは?
……そう考えると、苛立つのぅ。何でいつの世も、大人は子供を死地に追いやるのか。有り得ん。理解が出来ん。理解したくもない。これまでは子供達の意思を尊重して容認して来たが、もう駄目じゃ。許さん。これはどうにかした方が良い。どうやるのかは、皆目見当も付かんが。
「あの覆面野郎は、俺がぶっ殺す。てめえは、バックアップでもしてろや」
は? 貴様が
「今回の分断作戦、私がバックアップを務める。アンタの気持ちは分かるが、この子達はヒーローだ。守るのと、甘やかすのは違う」
は? ながんが、
それと。守ると甘やかすが違う、……じゃと? そのくらい、言われんでも分かっているが?? 儂を何だと思っとるんじゃこやつ。さては儂が、ただただ子供を甘やかしてるとでも思っているな?
……これは、あまり否定出来ぬか。被身子を甘やかしてばかりじゃし。
「現状判明している
つまり、五人ずつに別れると言うことか。いや、常闇のところは三人じゃから残る三組のどれかが六人じゃったり七人じゃったりするんじゃろう。
で、飯田よ。何勝手に話を進めようとしとるんじゃ。分断作戦について、儂は詳しく聞いてないが? そもそも、儂は反対じゃ。分かれるとするなら、儂一人と残る全員の二組じゃろ。で、戦闘は儂。それならば納得出来る。
「……しかしこれは、君が俺達と協力しない場合の作戦だ。正直、リスクが大きい。俺は、君に協力して欲しいと思ってる」
「……」
「君の背中を目指して、俺達は訓練して来た。着実に前に進んでいるが、それでも廻道くんとの距離は……縮まらない。当然だ、君は君で強くなろうとしてるんだから」
……そうじゃの。それは、その通りじゃ。こやつ等と儂の差は、まだまだ縮まらん。永久に縮まらないままかもしれんの。儂は儂で、色々とやっている。領域の飛躍に、個性の扱い。呪術と個性の組み合わせを試したり……と言った具合にの。儂の限界は、今はまだ見えとらん。鍛えられるところまで、鍛えるつもりじゃ。どうしようもない事も、有るには有るんじゃけどな。
「君は強く、俺達は弱い。それは分かってる。それでも、精一杯やりたいんだ。君一人だけを戦わせていたら、俺達はヒーローを目指せない」
「……」
じゃから、何じゃ? じゃからって、子供が呪詛師の前に立つことを儂が許すと思うのか?
何を言われようが、この考えを改めるつもりはない。生半可な力を持った子供が呪詛師の前に立つとどうなってしまうのか。儂はそれをよく知っている。知ってるんじゃよ。儂の側を離れなかった子供は、一人を除いて全員死んだ。呪霊や呪詛師に、……時には非術師にさえ殺されたんじゃ。
あんな光景は、もう見たくない。見て、堪るか……!
「俺達は、ヒーローになる。ヒーローになって、沢山の人を助けたい。その為に、
だから、廻道くん。俺達も共に、戦わせてくれ……!」
……あぁ、もう。何でじゃ? 何で、どいつもこいつも儂の言う事を聞かないんじゃ。そうやって夢を目指しては、儂の隣に立とうと無茶ばかりして。そして、勝手に死んでいく。それが嫌なんじゃよ。嫌で嫌で、仕方ない。死んで欲しくて助けるわけじゃない。死んで欲しくて、守るわけじゃない。ただ……、幸せになって欲しいから。何に縛られることもなく、自由に生きて欲しいから。
その為に邪魔なものが有るなら、それは全て儂が取り除くから。
じゃから、黙って守られてくれ。儂を心配なんて、しなくて良い。夢を目指すなとは言わんが、今だけは我慢してくれ。わがままを、言うな……!
「んーー……。これは、駄目駄目な感じ……」
「……んぐ、むぐ……」
何が? と言うか、被身子。そろそろ口を塞ぐのは止してくれ。さっきからずっと、喋れないんじゃけど? いい加減、噛んででも抵抗すべきか? いやしかし、こうもしっかり手で口を覆われていてはな。噛み付こうにも噛み付けん。少しでも首を動かせれば良いんじゃけども。
「トガの言ったことを忘れてるのです。もう一度言いましょうか?
そろそろ校訓を守ってください。みんなは、円花ちゃんを人殺しにしたいんですか?」
「そんな訳、ない……! 人殺しなんて、絶対させへんから」
「なら、やる事は決まってるじゃないですか。
……そしたら、円花ちゃんも少しはみんなを頼れるようになりますよぉ。きっと一緒に、ヒーロー出来ます。まぁ、それはそれでトガは絶対にヤですけど」
は? いや、いやいや。お主なぁ、何でこう……いい加減で目茶苦茶なことを口走るんじゃ。幾ら子供達が無傷で事を済ませられたとしても、じゃからって頼るような真似はじゃな……!
「別に良いんですよ? プルスウルトラ出来なくても。そしたら円花ちゃんは、ずぅーーっとトガだけの円花ちゃんになるので!」
じゃから、いい加減なことを口走るな。とっくに被身子だけの儂じゃけど? それと、口から手を離せっ! いつまで儂の口を塞いでるんじゃ貴様ぁ!
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ