待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「はい!」
はい、ではない。何じゃ急に。
……あの後。いおぎ荘で、くらすめえと達と意見……と言うか意思の衝突が起きてしまった後。儂等は一般人が避難している工場地帯に足を運んだわけじゃ。で、いつ悪党が襲ってくるかも分からぬから交代で寝ずの番をする事になっている。と言っても、儂の交代相手は居ない。くらすめえと達と連携する気が起きなくての。向こうは話し掛けてくるが、今は無視しとる。我ながら子供っぽい対応をしているとは思うが、許せんものは許せんのじゃ。納得出来ないものは、納得したくない。してやるつもりもない。
このまま行くと、くらすめえと達の間に深い溝が出来る。そうなったらそうなったで、儂は別に構わんけど。最近は、方針の差から衝突してばかりじゃからな。その内、向こうは愛想を尽かすじゃろう。それは儂も同じかもしれんが、何か有れば守ってやることに変わりはない。望まれようが望まれなかろうが、儂は勝手に守るし助ける。これまでもこれからも、そうして生きて行くことになる。生まれ直そうが、人の生き方は変わらないんじゃなぁ……。
「はいっ!」
簡易寝具の上で、被身子がもう一度声を上げた。隣の男子が起きてしまいそうじゃから、もう少し声量を落とさんか。仕方ないから寝具の上に乗っかると、待ってましたと言わんばかりに被身子が儂を抱き寄せた。そしてそのまま、儂を布団の中に引きずり込んだ。何じゃもぅ……。甘えたいのか? ならば、甘やかしてやるしかないのぅ。そうじゃの、まずは……力いっぱい抱き締め返してやるか。もちろん、怪我はさせぬ程度の力いっぱいじゃけども。
ぎゅっと抱き締め返すと、負けじと抱き締め返された。薄手の掛け布団の中、被身子と密着すると気が抜ける。すっかりこやつの腕の中が、落ち着ける場所になってしまった。お陰で、寝る時は抱き枕にして貰わないと物足りなくて困る。
「んっ、んん……っ。……えへへぇ、やっと一緒に寝れるのです」
「すまんの。先に寝てても良かったんじゃぞ?」
「んー、良いの。こうしないと、寝付けないので」
「甘えん坊め」
「そうですよ? 責任取ってください!」
ぐえっ。力いっぱい抱き締めるでない。息苦しいじゃろ。そんなにくっ付こうとしなくとも、儂はお主から離れんと言うのに。ひょっとして、逃さんとでも言いたいのか? お主からは、逃げも隠れもせんが? まったく、仕方のない奴め。ほれほれ、もっと抱き締めろ。好き勝手にしたら良いんじゃ。お主が望むことなら何じゃって叶えてやりたいからの。
「何時間寝れるんですか?」
「……二時間程かの。寝ると言っても、仮眠じゃけど」
ここには休みに来たわけじゃけど、じゃからって長時間寝るわけにはいかん。悪党の動向が把握出来ていない今、横になって目を閉じるだけじゃ。
って、何やら不満そうな顔をしておるの。すまんとは思うが、朝まで添い寝することは出来ん。被身子を寝かし付けたら、儂はこの工場地帯の警護に戻る。もっとも、やることは帳に異常が無いか見て回るだけじゃけど。
今居る工場地帯には、帳を降ろしておいた。術師は出入り出来ぬが、非術師の出入りは自由という条件で。上手く出来るか不安ではあったが、試してみたら案外結界として機能しておる。これならば、覆面白髪は中に入れん。入るとするなら、あやつの仲間だけじゃ。それも、一般人の居る場所には近付けん。そちらには非術師の出入りが禁止じゃからの。代わりに、術師は出入り可能と条件付けするしか無かったが。
結界の侵入及び隔離条件の足し引きは、どうにも面倒じゃ。いちいち神経を使う羽目にやる。あれこれと変えようとすると、精神的に疲弊してしまうし通常の帳と比べたら呪力量の消費も大きい。
「……むーー……。ちゃんとトガを見てくれなきゃヤですっ」
「ぐむっ」
頬を両手で挟み込まれた。儂があれこれ考えて居たことが不満らしい。まったく、甘えん坊め。体が幾つ有っても足りん気がして来た。仕方ないから、今は被身子以外は考えぬようにしよう。ここには休憩しに来たんじゃから、他の事は一旦忘れてしまうとする。一旦な。
「ふはんひゅまん」
「まったくなのです。私が目の前に居るのに、考え事なんて……!」
「ふまんへ」
喋れぬ。まぁ両頬を挟み込まれているんじゃから仕方ないが。詫びるように頭を撫でてみると、これまた不満そうに睨まれた。
……うぅむ、どうしたものかの。これは……、機嫌を直すのに時間が掛かってしまいそうじゃ。なんて考えていると、
「……悪かった。心配事が多くての」
「それなら仕方ない……とは行かないのです。もぅ、円花ちゃんのバカバカバカ」
「うぐぅ……」
今度は、これでもかと抱き締められた。お陰で被身子の胸が思いっきり押し付けられてしまう。それ、お主の方が苦しいんじゃないか? ほら、少し落ち着け。たまに落ち着きを損なうんじゃよなぁ、こやつ。自由奔放なのはいつもの事じゃけども、時には少しくらい大人しくしてくれたって良いんじゃぞ? たまには、抱擁し合うだけの時間とか有っても良いではないか。
「イチャイチャしてるんですから、トガの事だけ考えてくれないと困るのですっ。みんなが心配なのは、分かってますけど」
ぬおっ。儂を抱き締めたまま左右に転がるのは止さぬか。寝具の上から落ちたらどうするんじゃ。二人して落下するなんて阿呆な真似はしたくないんじゃけど?
「……すまんて。悪かった」
「ほんとにそう思ってます?」
「思っとる思っとる」
「……怪しいのです。じーー……っ」
「思っとるって。仕方ない奴じゃなぁ、被身子は」
仕返しに抱き締め返して、背中を擦る。そしたら、何やら嬉しそうに微笑んだ。そうやって笑っていれば良い。お主が笑顔なら、儂は何の文句も無いんじゃ。
ただ、それはそれとして。何で儂が着ている袴紐を緩めてるんじゃ貴様。おい、隣との隔たりは布一枚しかないんじゃぞ?? せくはらしようとするなっ、へんたい……!
「少し着崩しちゃいましょう。そしたら、少しは楽ですよね?」
「いや、結び直すのが面倒……」
「そこはトガが結んであげますから!」
……脱がす気満々じゃの、こやつ。まぁ良いか。この島の夜は暑い。仮眠するんじゃから、多少薄着にされてしまっても良いじゃろう。って、こら。
「肌と肌が密着すると、安心しますよねぇ。だから、はい!」
はい、ではない。と言うか、何じゃ貴様。もしや、儂を安心させたいのか? じゃったら、せくはらをするな。せくはらされて安心するような人間など、何処に居るんじゃまったく。
……まぁ、でも。裸でくっ付き合うことは嫌いじゃない。衣服を着ている時より、被身子をより近くに感じられると言うか。冬なんかは特に熱が混ざり合う感じが……こう。
「乳繰り合うなら他所でやれや!!」
ぬおっ!? 舎弟の声が仮眠室に轟いた。と思ったら、扉が勢い良く開け閉めされた音も聞こえて来た。隣で寝てたのは貴様じゃったのか。仮眠の邪魔をするつもりは無かったんじゃけどなぁ。これについては、後で謝っておくとしよう。流石に申し訳ない。
「……ほんっと。何でいつもあんな感じなんでしょうねぇ、爆豪くんは」
「性格が悪いんじゃろ」
実のところ。今日まであれと接し続けて来た身としては、何で舎弟がああいう態度を取り続けるのかは分からなくもなかったりする。っと……いかんいかん。これは余計な思考じゃ。今は被身子を甘やかすんじゃから、他の事は考えなくて―――。
「……やっと爆豪くんが居なくなったから、聞いておくんですけど」
は? 何じゃ急に改まっ……てはおらんの。半着の中に手が入り込んで来とるし。くすぐったいから止さぬか。まだせくはらするつもりか貴様ぁ……!
「……円花ちゃん。クラスのみんなが無傷で
……。……いや、じゃからな被身子。何じゃ急に。相変わらず、唐突な奴め。どうなっとるんじゃお主の思考は。急に方向転換して。
まぁでも、答えておくとするかの。何やら気になるようじゃし。それを聞いて、何をどうするつもりなのかは知らんけど。
「無理じゃの。そもそも、今のあやつ等で通用する相手じゃない」
複数の個性を操るだけでも強力なのに、呪力まで扱うのが覆面白髪じゃ。その気になれば、 あやつは一人だけで子供達全員を殺害出来るじゃろう。それに加えて、この島を襲った悪党はあやつ一人ではない。あやつに付き従う悪党が二人以上居る。まだ姿を見せてない奴も、ひょっとしたら居るのかも。そう考えると、くらすめえと達が無傷で悪党共を引っ捕らえるのは無理難題でしかない。
まぁ、その無理難題を提案したのは被身子じゃけども。何でそんな真似をしたんじゃこやつは。何を考えてるのかさっぱり分からん。
「じゃあ、もう一つ聞くんですけど」
……今度は何じゃ?
「もしかして円花ちゃんって、子供が傷付くことが怖かったりします……? 多分トラウマ……ですよね」
それは……。……間違い、とは言えんな。これが
じゃから、守りたいと思う。助けたいと思うんじゃ。そうしなければ、二人のような子供で世の中は溢れ返ってしまうじゃろう。そんな光景は、何があろうと見たくない。二度とごめんじゃ。
「……頼人くんと比奈ちゃんが傷付けられて、殺されて……。だから円花ちゃんは、沢山子供達を助けるようになって。それは、今も変わらなくって」
……そうじゃな。それは正しい。いつぞやに、儂は被身子に二人の事を話した。何で儂がこうなのかも、大旨は話した。何で今更、そんな事を振り返るのか。儂からすれば、思い出したくもない。思い出せば、心が揺れる。こればっかりは何度思い出しても……薄れることは無い。どれだけの月日が流れようとも、幾歳になろうとも。生まれ直したとしても。
「そんな円花ちゃんを否定するつもりは無いんです。でも、ここに出来た傷を……少しは痛くないようにしてあげたい……とも思うのです」
胸を、指でなぞられた。何が言いたいかは、分かる。要するにこやつは、被身子は、儂の心に有るものを……どうにかしたいんじゃろう。じゃけどこれは、この傷は。儂だけのものじゃ。誰にも渡せない。渡せたとしても、渡さない。どうにかして欲しいとも、思っとらん。
そもそも。これは済んだことじゃ。過去は、何をどうしたって変えられないものじゃろ。終わった事じゃ。こればっかりは、どうしようもないと諦める他無い。
「気付いてます? もうずっと……緑谷くんと喧嘩した辺りから辛そうな顔してるのです。エリちゃんの時だって、そうでした」
「は?」
辛そうな、顔……? いや、いやいや。そんな顔はしとらん。いつも通りじゃいつも通り。今じゃってほら、いつも通りじゃろ? 念の為に手で触れて確認してみるが、……うむ。辛そう顔なんてしとらん。何を言ってるんじゃこやつは。まったく、儂の許嫁と来たら。直ぐそうやって、訳の分からんことを口走るんじゃから。
嫌ではないがの。嫌では。好き勝手にしてる被身子は、かぁいいものじゃからの。
……何を考えさせるんじゃ、こやつ。油断も隙も無い。
「……全部受け止めるって、言ったじゃないですか。痛かったり悲しかったり、……そういうのも全部言って欲しいの。私は、ぜーんぶ一緒が良いから」
うぅむ……。まっこと、仕方ない奴じゃの。もはや、どうしようもない。こやつは何かと儂とお揃いにしたがるんじゃけども、同じ傷まで背負おうとしなくて良いじゃろ? そもそも、儂の過去を知ることは出来ても儂と同じ過去を得ることは出来ぬ。そんなこと、こやつが分かってない筈が無い。なのに、いったい何じゃって被身子は……。
「なので、ほら! プルスウルトラしてくださいっ!」
「何を言ってるんじゃ貴様は」
何を言っとるんじゃ貴様は。そして何をしとるんじゃ貴様は。儂に向かって作り笑いなどしおって。許さん、それは断じて許さん。作り笑いなんて、儂以外の誰かにしてれば良いんじゃ。そんなものより、いつも通りの笑顔を見せんか。儂の前では、心の底から笑わんか。たわけ。
「プルスウルトラしてくれないと、ワンチャン家庭内別居なのです。それでも良いんですか?」
「いや、おい……。訳の分からん事を宣うな……」
「むーーっ。円花ちゃんは、へたれなのです。円花ちゃんは、へたれなのですっ」
何故、二度言った? 誰がへたれ、じゃって? おい、何でへたれ扱いしたんじゃ。そんなことは無いんじゃけど? へたれって言うのは、もっと別の奴に向かって使う言葉じゃ。例えばそうじゃなぁ……、峰田……とか? いや、青山……は違うか。そもそも峰田自体、そこまでへたれでは無い。あれはどちらかと言うと、命知らず……。
あぁ、そうじゃ。緑谷がへたれじゃ。あやつがあんなじゃから、麗日が被身子に振り回されて大変な目に遭ったりしとる。まぁ麗日自身もへたれかもしれんが。
と、とにかくっ。儂はへたれではない! ないったらないっ!
「円花ちゃんは、へたれなのですっ」
「違うが?」
「円花ちゃんは、へたれなのですっ!」
「違うがっ!?」
へたれへたれと、連呼するな。よぅし、分かった。儂がへたれではないところを見せ付けてやろう……! 後で謝ったって許さんからな!? へたれなのは……、ここまでしておきながら何故か儂を抱かない貴様じゃろっ!!
人の服をはだけさせたなら、いつも通り儂を抱かんかっ! まったく!! こうなったら、意地でもその気にさせてやるからなっ!?
抱かれなければ抱かれないで不満になっちゃう面倒臭い円花ぇ。かぁいいね♡
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ