待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
理屈は分からぬ。事情も知らぬ。階段下にある噴水広場に、誰とも分からぬ人間が二人と、特級呪霊が姿を見せた。
あやつらの出現に、相澤は直ぐに気付いた。そして生徒全員に指示を出す。その判断は正しい。相手がこの場に紛れ込んだだけの、悪党だけならな。
「かはっ」
ああ、駄目じゃ。駄目じゃ、駄目じゃ。笑みが止められぬ。目の前の強敵を前に、血が滾る。血液は沸騰していないのに、そう感じてしまう程に心が昂っている。
ああもう、何で貴様はもっと早く儂の前に現れなかった? 今までどこで何をしていた? どうして直ぐに現れてくれなかったんじゃ……!
「ふーー、ふーーっ」
落ち着け。落ち着け。まだ逸るな。まだ動くな。ここに居るのは儂だけじゃない。守るべき子供達が居る。儂からすれば、全員が守るべき対象じゃ。大人は知ったこっちゃ無いが、生きていなければ子供を育めないじゃろう? それに、儂からすれば教師とて小僧みたいなもんじゃ。
だから。だから、だからだからだから……っっ!!
「相澤よ。お主はここから動くな。大人なら、子供を守れよ。貴様もじゃ、十三号っっ!」
「廻道、何を言っている。ここから動かないのはお前の方―――」
「今の儂に触れるな!!」
―――殺したくなる。
「勝己! 貴様は他の者を守れ! 轟、貴様もじゃ! 緑谷! 逃げられないと感じたら直ぐに個性を使え!! 常闇!! 誰も儂に近付けさせるな!!」
ああ、ああ……。もう無理じゃ。駄目じゃ。我慢出来るわけが無かろう? やっとじゃ。やっと見付けたんじゃ。儂が全力を出して良い相手が。死力を尽くして、呪い合える相手が!
……いや、まだじゃ。まだ抑えろ。まだ、もう少しだけ、抑えろ……っ。
「来るぞ! 全員、この場を生き延びることだけ考えよ!! 生きる為に、儂を見捨てろ!!」
周囲が。誰が儂をどう思うが、構わん。これも儂じゃ。これが儂じゃ。
困惑してる場合ではないぞ、貴様等。もう来てる。もう直ぐそこまで、あの呪霊の手は迫っている。
「う、うわぁあああっっ!? ご、ごきっ、ゴキブリ!?」
そうじゃ。
とにかく。塵を漁る気色悪い虫共じゃ。それが今、四方八方から大群となって真っ直ぐ儂等の側まで迫っておる。誰が悲鳴を上げたかは知らん。もう儂の背後では、皆が襲われてるのかもしれん。
じゃけどそれを確認する余裕は儂には無い。あの呪霊から目が離せぬ。離してはならぬ。あれは特級じゃ。今生ではまだ巡り会うことが無かった、猛者なのじゃよ。
「八百万! 脇差しを寄越せ! 一振で良い!! 急げ!!」
「えっ、いや、廻道さん!? 何を……!?」
「良いから出せ!! 全員死ぬぞ!!」
「っっ!?」
別に、儂一人じゃったら脇差しなんて必要無い。今目の前に迫る
だから最低限、後ろの連中が少しでも生き残れるように手助けをしてやらねば。
誰かを守りながらの戦いは、いつ以来か。
そんな真似、したくはない。今すぐにでも、あの呪霊と戦いたい。あの呪霊を祓いたい。じゃけど、子供は見捨てられぬ。
糞っ。何でじゃ、何で今、貴様は姿を見せた!?
儂が一人の時に襲ってこんか!!
「廻道さん!!」
背後から飛来する物がある。
そして、振り抜いた。溢れんばかりの呪力は鞘を砕き、刀身を剥き出しにする。同時に放出された呪力は、目の前まで迫っていた虫の波を消し飛ばす。
「ちっ」
刀身が砕けおったわ。当たり前じゃ。今の儂の呪力を力任せに叩き込み、放出なんてすれば器は耐えられない。呪力が強いのも考えものじゃの。得物を使用した呪力放出がやりにくい。加減ひとつ間違えれば、直ぐに壊してしまう。
じゃが、気にすることはない。八百万の個性がどのようなものかは、対人訓練の時に把握しておる。あやつの力は便利そのものじゃ。やってることは、構築術式みたいなものじゃからな。なのに呪力消費が無い。呪力の代わりに何かを使っているのじゃろうが、脇差し程度なら負担にならんじゃろうて。
「八百万! もう二振り寄越せ!! 鞘など要らん!!」
「っっ、はいっ!!」
まだ虫はおる。正面から迫るものを消し飛ばしただけに過ぎん。左右からも迫っておるし、後ろに回り込もうと動いているのも居る。その全てを律儀に消し飛ばすつもりはないが、ひとまずあと二回は呪力放出で消し飛ばす。それが済めば、あとは、もう……。
再び用意された脇差しを左右同時に振り抜き、また虫共を消し飛ばす。数はまだまだ居るが、大分減った。儂があの呪霊を祓うまで、誰も死にはしない筈じゃ。そうあることを願う。子が死ぬところを見たいとは思わん。
「あなたは……危険ですね」
「っっ!?」
誰じゃこいつ。どうやって儂の背後に立った?
じゃが、想定外に動揺している場合ではない。振り向き様、拳を振り抜く。が、儂の裏拳は空を切った。
「危ない危ない。流石はヒーローの卵。いえ、呪術師と言うべきか」
そうか。貴様知っているのか。とても人とは思えん風貌をしておるが、人間らしいの。こやつは危険じゃ。距離を無かったことにする術式、或いは個性を持っておる悪党など即座に潰さねばならん。動けなくするだけじゃ生温い。
―――貴様は、ここで殺す。
思うと同時、動こうとしたその瞬間。
「私ハ!! 鉄ノ味ガ好キダ!!!」
どういう理屈じゃ? さっきまで遠くにおった呪霊が、もうこの場に来ておる。構わん。距離を詰める手間が省ける。
もう単純な呪力強化だけでは間に合わん。この呪霊が如何様に動くかは知らんが、ここまで距離を詰められたなら誰かが殺されてもおかしくはない。ならば。
―――赫鱗躍動・載。
術式を以て身体能力を限界まで引き上げ、跳ぶ。あの黒い靄は厄介じゃが、一度捨て置くしかあるまい。特級呪霊を好きに暴れさせてしまえば、真に儂以外が死ぬ。
それにもう、我慢など出来ぬ!!
「その黒い奴! 貴様等に任せる!!」
赫鱗躍動・載により高まった膂力任せに、儂は呪霊を掴み階段下へと跳ぶ。地面に着地するその直前、落下の勢いを乗せこやつを叩き付ける。呪霊はこんな程度では死なん。呪いが無ければ祓えん。
なら何故、叩き付けると同時に呪力を流し込まなかったか。決まっている。
こんな極上な獲物を、直ぐに祓うのは勿体無い。
「おいおい黒沐死が見えてんのか。ってことは聞いてた通り……お前も呪力持ちか」
「あ゛?」
黙れ小僧。誰じゃ貴様は。儂の邪魔をするなら殺す。訳の分からん格好をしおって。
「良いのか? 離れちまって。あのゴキブリの群れを即死させられるのは、あんただけだろ? 直ぐに助けなくて良いのか?」
「喧しい。黙っとけ」
こんな小僧を相手にするつもりは無い。そんな事より、この呪霊じゃ。黒沐死とか言ったな。何故特級呪霊が人間とつるんでおるのかは知らぬ。利害の一致か、配下に置かれているのか。或いは操られでもしておるのか。
どうでも良い。考えるのは後にしろ。今はただ、目の前のこやつにだけ集中しろ。なぁ、黒沐死よ。楽しもうじゃないか。この呪い合いを……!!
「何故、殺ス? 何故、我々ノ邪魔ヲスル?」
「貴様こそ。何故直ぐ儂の前に現れなかった?」
「?」
特級呪霊とのお喋りに、これ以上付き合うつもりは無い。言いたいことがあるなら呪いで語れ。話している時間すら、儂には惜しい。
「赤縛」
まずは、小手調べじゃ。首や拳から噴出した血液を縄とし、それを飛ばすことで呪霊の肉体を絡めとる。同時に距離を詰め、拳を繰り出す。狙う箇所など無い。ただ目の前の呪霊を、思う存分に殴るだけじゃ。
赤縛で自由を奪っていたとは言え、無抵抗に殴られた黒沐死は吹き飛んだ。手応えはあった。しかし、こんな程度で祓われる呪霊ではない。
見たところ、まだまだ健在。良いぞ、貴様……!
「かはっ」
良いなぁ、良いなぁ!!
縛るなど生温い。殴るでも足りぬ。ならば今度は、切り裂いて……。
おいおい、何じゃその武器は。どこから取り出した。構わん。何でも好きにやって来い。貴様の呪いは儂が受け止めてやる。じゃから貴様は、儂の呪いを受け止めよっ。
「
体外に出した血液を回転させ圧縮し、大きな血の輪を作り出す。こいつは縛る為の技ではない。切り裂く為の技じゃ。どう出る? どう対応する? まさか、祓われるなんて事は無いよなぁ!?
「けひっ」
迫る血の刃を、得体の知れない武器で叩き落としおったわ。ああ、良い。良いぞ。もっとじゃ、もっと儂を楽しませよ。その武器にはどのような力が有るんじゃ? まさか見た目通りではあるまい? 特級呪霊が持つ得物なんじゃ。確実に何かあると見て良い。
背筋が粟立つ。心が昂ってどうしようもない。
儂は。儂は戦うのが好きなんじゃ。呪い合うのが好きじゃ。どうしようもなく好きで、好きで好きで堪らないんじゃよ。
じゃから呪霊を祓う。だから呪術師とも戦う。呪詛師とだって、時には非術師とだって戦ってきた。
渇くんじゃよ。魂が。
満たされない。潤わない。
この十一年。呪術師としては、ただひたすらに退屈じゃった。雑魚呪霊を潰して回るのは、楽しくも何ともなかった。
じゃから。せめて貴様は、貴様こそは……!
今度こそ、儂を楽しませてくれ!!
「うわぁあああっっ!?」
ちっ。喧しいの。今、儂は楽しんでるんじゃ。邪魔するな。……と言いたいところじゃが、どうやら上の連中は押し潰されそうになってるようじゃな。
ああ、もう! まだ楽しみたいのに! もっともっと、呪い合いたいのに!! 何でどいつもこいつも、儂の邪魔をするんじゃ!?
「……ああ゛ぁっっ、仕方のない連中じゃよ貴様等はっ!!」
まだ始まったばかりじゃと言うのに。まだまだこれからなのに。何で時間をかけられない? 儂はまだ満たされておらぬ。もっともっと、この愉悦に身を浸していたい。じゃけど、じゃけど……っ!
子供を見殺しにするのは、主義に反する!!
「ああ゛くそっ! つまらんつまらんつまらん!!」
掌印を組む。これは使いたくない。使えば直ぐに、終わってしまう。折角の特級呪霊なのに。思う存分呪い合えそうな相手が、やっと見つかったのに!
じゃが、早く黒沐死を祓わねば誰かが死ぬ。それは駄目じゃ。くそっ。
「領域展開」
不満じゃ。まっこと不満じゃ。時間をかけたいのに、かけられぬ。
黒沐死よ。せめて足掻いてくれ。儂の領域に招かれても、直ぐには祓われないでくれ。特級呪霊じゃろう? なら当然、貴様も持っている筈じゃ。使える筈じゃ。
頼む。まだ、まだ足りないんじゃよ儂は!!
「
◆
儂の世界じゃ。
儂の心の中。
儂の術式の内。
奉迎赭不浄。それが儂の領域の名。
この閉じた領域は、血で満たされておる。儂の背後にある穴から、膨大な血液が流れ落ちる。赤暗いこの空間は、血の臭いで満ちておる。
足元は、正に血の海。この血の海の全てが、赤血操術の対象内。つまり、儂の内臓じゃ。
なぁ黒沐死よ。分かるじゃろう? 儂の術式は血を操る。ならばこの血の海に招かれてしまった者が、どんな末路を辿るのかを。
「……百斂」
血の海より、血の球が幾つも幾つも浮かび上がる。それら一つ一つが圧縮されていく。この全てが、穿血となる。四方八方から襲い来る、必中の血飛沫。
つまらん。くだらん。ただでさえ当たれば必殺の穿血が、領域の中では必中する。避けれぬならば、せめて防いでくれ。まぁそれも叶わんがな。
「穿血」
幾つもの穿血が、黒沐死を貫く。領域展開より数秒。奴はもう、全身が穴だらけになってしもうた。
……弱っている。そうか。貴様は領域を使わないのか。ならばもう、終わりじゃ。使おうとしても、もう遅いからの。
この空間の中では、術式対象の範囲が広まる。儂の血が一滴でも血液に混入した者は、全ての血液を儂の支配下に置かれてしまう。そして赤血操術において、血液とは内臓と定義されるのじゃ。
じゃから。
「終わりじゃよ。黒沐死」
全ての内臓を腹の内から引きずり出されて、貴様は祓われる。折角出会えた特級呪霊は、こうして体内を体外にぶち撒けて祓われた。
「つまらんなぁ……」
やはり領域展開は使うべきではない。もちろん、呪い合いの果てに使うのならば良い。じゃがこれを直ぐに使ってしまうと、楽しい時間が直ぐに終わってしまうんじゃよ。
……黒沐死は祓った。残るは
「はぁ。折角の特級呪霊じゃったのに……」
次はいつ、特級呪霊に会えるんじゃろうなぁ。近い内に会えれば良いんじゃけど……。
「……はぁ」
円花のコスチュームは巫女装束となりました。しっかりした巫女装束でも良し、巫女装束風の何かでも良し。そこは読者の皆様でご自由にご想像ください。
以下、ちょい語ります。
円花が領域展開しました。閉じた領域です。奉迎赭不浄。赭不浄は赤不浄から一文字変えたものです。そして赤不浄とは女性の忌み血。分かりやすく言うなら生理です。奉迎はそのままの意味です。つまり生理を受け入れるって意味。捻って穢れを受け入れるとも言えます。
我ながらきっっっしょいネーミングだと思ってます。
だから書いたんですよ。生理回。あの話自体がこの名前の伏線だったと言っても過言では……いやそれは過言。
つまり円花の領域に入った人は円花の経血で殺されるってことかもしれません。えぇ……??
赤血操術の領域展開はクソゲーだと思ってるのでクソゲーにしました。赤血操術は血液を内臓として見ます。そして領域内は術者にバフがかかり、術式の精度や範囲が広まります。広まった筈。なので解釈が広がると言って良いかと。
だから血液混入からの血液操作(臓物引きずり出し)が必中で行われるクソゲーです。まぁそれやんなくても穿血が必中って時点でもう……。
これには戦闘狂の円花はげんなり。目撃した人はドン引きするでしょう。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ