待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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産土神信仰。子守り

 

 

 

 

 

 

「って、言うわけなんやけど……」

 

 一通り、話は聞いた。どうやら被身子が、何故儂が何が何でも子供を守ろうとするのかを話したようじゃ。軽くとは言え、頼人と比奈の事を話すとはのぅ。それだけ、儂のする事に被身子は被身子なりに思うところが有った……と言うことか。うぅむ……。心配させたくないのに、この始末。我ながら情けないのぅ。

 しかしなぁ、こればっかりは変えようと思っても簡単には変えられん。あの日からずっと、変わることのない儂の主義じゃ。始まりは頼人と比奈の死を聞かされた時かもしれん。或いは、それよりもずっと前だったのかも。少なくとも、儂がこうなった切っ掛けは……二人が殺され掛けた時……か。多分あの時から、儂は何も変わってない。変わりたいとも、思わない。じゃって、あんな光景は二度とごめんじゃ。子供が、誰かに殺されかける場面など見たくない。それはきっと、誰じゃって似たようなものじゃろう?

 

 ……それで? だから、どうするんじゃ貴様等は。儂の過去の一部を知ったから、理解者面でもするのか? それとも、勝手に慰めようとするのか?

 

 ―――冗談じゃない。そんな同情は要らん。そんなものを与えられたって、嬉しくも何ともない。誰が何と言ったとろで、過去は変わらん。いつまでもいつまでも、儂の中に残り続けるだけなんじゃから。

 

「……すまなかった、廻道。俺は……誤解していた。ただ、意固地になってるだけのものかと。友で居ながら、何も見えてなかった」

 

 何故か常闇が、頭を下げた。何でじゃ、たわけ。別に謝るような事でも無いんじゃぞ、これは。

 

「儂が話さなかったんじゃから、気付かなくて当然じゃろ。これは別に、謝ることじゃない」

 

 ただ、申し訳ない……とは思う。こやつ等は、お人好しじゃから。そんな奴等が儂の過去を知ったら……、まぁ良い顔はしないじゃろうな。舎弟ですら、神妙な顔付きをしてるぐらいじゃ。この事を気にして欲しくはない。もう、終わった事じゃ。今更蒸し返されても、鬱陶しいだけじゃし。

 とは言え。これで少しは大人しくなってくれると良いんじゃけども。儂の事情を知った上で、なお命を投げ捨てるような真似をすると言うなら……。それはもう、見限ったって良いじゃろう。意固地になって死に行く阿呆に、何を言っても仕方ないからの。無論、自殺なんて真似は儂の目が届く範囲ではさせぬけど。儂の知らん所で勝手に死なれても、それはそれで困るんじゃけども。

 

「わりぃ、廻道。渡我先輩に言われるより早く、俺が気付くべきだった」

「いや、気付かれたいとは思っとらんが?」

「……俺なら、気付けた筈だ」

「気付かんで良い。貴様とて大変じゃろうが」

 

 何で轟まで謝ってくるんじゃ。他のくらすめえと達も、何やら謝りたそうにしておるし。緑谷なんかは、悔しそうにしとるの。で、舎弟は……顔を背けとるわ。見てる方角は、本島の方じゃ。儂に思うところが有っても、警戒を怠っていない。普段の態度はともかくとして、英雄(ひいろお)としての姿勢は悪くないの。子供達の中では、もっともまともに思える。儂も、くだらん話をしてないで警戒に当たるとしよう。いつ、悪党が姿を見せるのか分からんのじゃから。

 

「廻道っ!」

 

 ぬお……っ。あ、芦戸貴様……っ。何故急に抱き付いた!? そういうのを許すのは被身子だけなんじゃけど!? あぁもう、離さんかたわけ! くっ付くな鬱陶しい!!

 

「……円花ちゃん。余計な事かもしれないけど、ただの自己満足かもしれないけど。それでも言わせて欲しいわ。

 ―――辛かったのね、ずっと。今も……きっと……」

 

 おい、梅雨。頭を撫でるな。貴様までふざけるなっ。後でこの事を被身子が知ったら、儂が大変じゃろ儂が! 同情なんて要らん。慰めじゃって、必要無い……! そんなものを受け取るには、時間が経ち過ぎとるんじゃ。こんな真似されたって、今更なんじゃよ。まったくっ。

 こら、撫でるなっ。その手をどけろ! 芦戸貴様っ、いつまで抱き付いてるつもりじゃっ!?

 

「あんな事が有ったなら……私達を見てて、嫌やったよね。ごめんね、廻道さんの事……何も分かってなかった」

 

 ―――いい加減、苛立ちが募る。どいつもこいつも、勝手な事を口走りおって。遅過ぎるんじゃよ、もう。慰めも同情も、この事について語り合うことだって。

 言葉など、要らん。相手が誰じゃろうと、何も言われたくない。

 

 

「……おいてめえ等。―――来たぞ」

 

 

 遠くを見る舎弟が、口を開いた。本島に続く一本道の向こう側を見てみれば……。うむ、確かに来ておるの。悪党が三人並んで、こちらに向かって歩みを進めている。あやつ等も、儂等に気付いたじゃろう。特に覆面白髪。分かり易く、儂を睨みおって。

 残る二人の内の一人は、赤髪女じゃ。あやつはあやつで、特に儂を睨んでおる。で、最後の一人。犬……? いや、獣面をした大男は何やら楽しそうに上着を脱ぎ捨ておったわ。やる気満々じゃの、あやつ。

 

 そんな悪党共を見たくらすめえと達は、全員が儂の前に立った。危機的状況では何かと喚き散らす峰田ですら、黙って前に出てみせた。何なんじゃもう、どいつもこいつも。まだ話は終わっとらんし、そもそも作戦とやらを全部話し聞いてないんじゃけど?

 

 仕方のない奴等め。やはり儂が守―――。

 

 

「……廻道さんは、そこで見てて」

 

 

 は? 何言ってるんじゃ緑谷。おい、いったいどういうつもりじゃ。儂に見てろ、じゃと? ここまで来て、ふざけるのも大概にしろ。悪党に向かって構えるな……!

 

「……僕達は、無傷で勝つ。怪我一つなく、必ず生き残って見せるよ……! ヨリミナに、守られることなく……!

 でないとこの先、ヒーローになれないから!」

 

 待て、待て待てっ。何を考えてるんじゃ貴様等はっ。無傷で勝つ、じゃと? それは実力と志しが伴ってる奴が言うものじゃっ。おおるまいとや、えんでゔぁならまだしもじゃな!? 貴様等はそんな台詞を吐ける立場に無いじゃろ……!!

 

「てめえは、黙って見てろ! 勝って証明してやらあ! てめえ何ぞに守られなくったって、何の問題も無えってところをよお!!」

「あぁ、行くぞ諸君! 俺達の友に、示してみせよう! 頼ったって、良いんだって事を……!!」

 

 ―――あぁ、もう……! どいつもこいつも! 被身子貴様、事が済んだら折檻じゃからな!? 面倒な状況を作りおって……! 幾ら儂が心配じゃからって、何で話してしまったんじゃ……!? こうなってしまうことは、分かってた筈じゃろっ!?

 

 両手を叩き合わせる。それよりも先に、くらすめえと達は悪党に向かって駆け出した。舎弟に轟、芦戸が先頭じゃ。咄嗟に、全員の背に儂の血を付着させる。何が有っても、直ぐ助けられるように。

 こうなってしまった以上、いきなり領域を開くのは無理じゃ。何せ今回は、海が近い故に領域を閉じる。開いてしまっては、海水で無力化されるかもしれんからの。じゃから悪党以外を領域から除外するしか手が無いわけじゃが、その場合混戦の中で除外対象を決める羽目になる。出来ぬとは言わんが、手間であることは事実じゃ。領域を閉じ切るのに、いつもよりは時間が掛かってしまう。その隙に悪党共に範囲内から逃げ出されたら、領域を開いたとて無意味になるからの。

 であれば、領域を開くのは……くらすめえと達と悪党にある程度の距離が出来た時。そして、儂がくらすめえと達よりも前に立ってる時じゃ。むしろ、そこしかないじゃろう。

 

 

榴弾砲(ハウザー)―――!!」

 

 

 舎弟が、誰より早く悪党の前に躍り出た。それを見た覆面白髪は、舎弟に向かって手をかざす。呪力の流れからして……あれは見えぬ壁の方か。となると……。

 

 

着弾(インパクト)!!!」

 

 

 大爆発が起きる。砂と海水が巻き上がり、まるで雨のようじゃ。まったくあやつめ。ここまで水飛沫が届かなかったから良いものの、儂が側に居たら術式が不全になるところじゃ。そもそも、今ので舎弟の背に付けていた血が流れ落ちた。わざとか、貴様わざとじゃな!?

 砂埃が立ち込めている。視界が悪い。お陰で狙いが定め難い。くそ、せめて後ろを考えて攻撃しろっ。何を考えてるんじゃ貴様ぁ!

 

「―――穿天氷壁」

 

 今度は、砂煙や水飛沫を巨大な氷壁が貫いた。轟じゃ。あやつ、周囲も悪党の動きも気にせずに氷を出したな? たわけが。どうせ全力で個性を使うのであれば、火の方にせんか。それなら視界を遮られる程度で済む。氷を出してしまったら、儂の血が悪党に届かんじゃろ……! それに後続の攻撃じゃって通らなく―――。

 

 って、あぁ。なるほど。悪党への攻撃と同時に、足場を作ったのか。芦戸が氷を踏み台として、上へ上へと向かっていく。大した運動能力じゃの、跳躍を繰り返し、容易く登っておるわ。

 氷が出来て、十数秒後。僅かそれだけの時間で、芦戸は氷の頭頂部に辿り着き……その勢いのままに更に高く跳躍してみせた。両手からは、酸が滲み出ている。何をする気じゃ?

 

「粘性MAX―――!

 アシッド・ヴェール!!」

 

 なるほど。より高いところから、粘性の強い酸をばら撒く……と。おい、皮膚が焼けてるぞ貴様。爆破に氷、そして酸。並大抵の悪党ならば、容易く仕留められるじゃろう。じゃが、今回の相手はそうではない。その内の一人は、呪詛師なんじゃぞ。幾ら個性で攻め立てたって、通用するとは思えん。

 

「ッハーー!! 通用しねぇんだよ!!」

 

 氷の向こうから、知らん声が聞こえた。あの獣面か? そう思った直後、氷壁が容易く砕かれた。ありがたい、これで射線は通る。が、まだ穿血は撃てん。儂の前で戦う子供達が邪魔じゃ。下手に撃てば、子供ごとになってしまう。くそっ、やりにくい……! こうなったら……!

 

 赫鱗躍動・積と呪力強化で身体能力を引き上げ、前へ駆ける。両手を合わせたまま動き出すと、飯田や緑谷。そして常闇が悪党に向かって飛び込む姿が見えた。

 まず、緑谷が全力で踵を振り下ろした。それは、覆面白髪の前に躍り出た獣面が両手で防ぐ。と、同時。飯田の飛び蹴りが獣面の胸に直撃する。その右隣では、だあくしゃどうを纏った常闇が赤髪女に殴りかかりおった。

 

「しっかり仕留めろやクソナード!!」

「ごめん! 任せる!!」

 

 舎弟が、緑谷を飛び越えた。直後、また大爆発じゃ。再び砂埃やら水飛沫が視界を遮る。あやつ、全力で個性を使いおって……! 視界を悪くするなっ、他の子供達が危ないじゃろっ。

 どうにか、距離を潰し切る。儂はまず、常闇が相手にしている赤髪女の前に跳び出た。今一度子供達の体に血液を付着させ、同時に手のひらに留めておいた血液を至近距離にて放つ。狙うは、足じゃ。

 

「穿血」

「なっ!?」

「スライス!!」

 

 赤髪女の右足を足を撃ち貫き、残る左足を蹴り払う。姿勢が崩れたところを―――。

 

「ふっ!」

 

 常闇の拳が、撃ち抜いた。赤髪女は二転三転と転がり、覆面白髪の足元へ。

 

 

「貴、様……!!」

 

 

 呪力が迸る。仲間を一人やられ、覆面白髪の平静が乱れた。その一瞬の隙を、舎弟は逃さない。儂よりも早く悪党の頭上を取り、両手を前に突き出している。貴様、またそれか……!

 咄嗟に悪党から顔を逸らしつつ、今度は獣面に向かって駆ける。直後、激しい閃光が辺りを照らした。

 

「せぇ、のおっ!!」

 

 全力で、獣面の脇腹に拳を叩き込む。不意打ち、にはならなかった。脇腹を捉えはしたものの、踏ん張りおったわ。が、意識が儂に向いた。それを逃さんと言わんばかりに、緑谷は大きく拳を振るう。飯田も、速度と力に任せて左足を振った。

 顔面を拳が、首を蹴りが捉えた。じゃから、儂も全力で拳を振るう。狙いは、腹じゃ。手応えは確かに有る。が、それでも。

 

「痛、てえじゃねえか……!! ヒーロー!!」

 

 獣面は、倒れない。どころか、腕を振り回し緑谷と飯田を。足を振り上げ儂に反撃を試みる。

 

「やかま、しい!!」

 

 振り上げられる蹴りを、肘を振り下ろすことで迎え撃つ。が、それでも体が宙に浮く。くそっ、馬鹿力め……! じゃがその足は、使い物にならんじゃろっ。

 

「おぉおおっ!!」

「ちっ」

 

 緑谷と飯田を振り払った獣面が、勢いのまま儂に拳を打ち出した。それを腕で防ぐが、宙に浮いていては踏ん張れん。体が吹き飛ばされる。姿勢を整え着地した、その時。

 

「やって、くれるじゃない……!」

「常闇!!」

「っっ!!」

 

 起き上がった赤髪女が、刃と化した髪を振り回す。が、何とか寸での所で苅祓が間に合った。常闇に向かって伸びた髪先を、切り飛ばすことが出来た。

 

「アンタ……! よくも女の髪を……!!」

「甘えんだよ!!」

 

 今度は、儂に向かって髪が伸びる。が、それを舎弟が爆破した。赤髪女は、足の負傷から立ち上がることが出来ない。髪を振り回すことは出来るようじゃが、その範囲も今ので理解した。不用意に近付かなければどうとでもなるじゃろう。常闇に血を飛ばし付着させ、真後ろへと引っ張る。

 

「ヨリミナばっか、見ないでくれるかなぁ!?」

「―――!」

 

 いつのまにやら間を詰めていた芦戸が、腕を振るって酸をばら撒く。それを覆面白髪は見えぬ壁で妨げ、その直後に爪を飛ばす。いかん―――!

 

「ピンキー!!」

 

 だあくしゃどうが、儂が血を飛ばすよりも早く芦戸を抱えて空を飛んだ。なんじゃ常闇、やれば出来るではないか。後で褒めてやらんでもない。そんなことより、じゃ。

 

「スマーーッシュ!!」

「ぐっ!?」

「おぉおっ!!」

「がっ!?」

 

 獣面に目を向けると、緑谷と飯田が速度と力で翻弄している姿が見えた。悪党の動きが鈍い。明らかに片足を庇っているの。ということは、儂の肘で骨が折れでもしたか? じゃからって、油断はしない。子供達だけに任せるつもりもない。再び両手を叩き合わせると、その音で覆面白髪の意識が儂に向いた。なるほど、こやつ……余程穿血を警戒しているように見える。まぁ当然と言えば当然か。奴の片足を貫いたのはこの技じゃ。見たところ貴様、まだ足が治りきっていないようじゃな? 治っているのなら、棒立ちなどしとらんでもっと動き回るものじゃよなぁ!?

 

「させん!」

 

 爪が飛んでくる。それを複数の苅祓で撃ち落とせば、今度は衝撃波が飛んで来た。防ぐことは出来たが、また体が吹き飛ばされる。くそっ、さっきから容易く儂を吹き飛ばしおって……!!

 

「ヨリミナ!」

「ぬおっ!?」

 

 吹き飛ばされた体が、粘着帯(てえぷ)に巻き取られ速度を失う。瀬呂、貴様……! 儂は良いから他の連中を助けんか!! 峰田も何を……! って、ああ。必死になって、引っ付く玉を悪党に向かって投げ飛ばしておるわ。幾つかは海に落ちてしまっているの。何やってるんじゃあやつ……。じゃがまぁ、存外効果はあるらしいの。覆面白髪は峰田の個性を見えぬ壁で防いだり、爪で撃ち抜いたり、衝撃波で吹き飛ばしている。そこまでして防ぐ代物ではないと思うが……まぁ何も知らん悪党からしたら得体が得体が知れぬものではあるか。

 

「んっ!」

「ぐえっ」

 

 麗日に受け止められた。別に受け止めて貰わんでも、着地出来るわたわけっ。

 

「テメエ等……! 鬱陶しいんだよ!!」

「させるか!」

 

 獣面が吠える。直後、奴は片足で踏ん張りながら、口から火を吹いた。狙いは緑谷と飯田じゃ。しかしそれは、轟の氷が壁となり僅かに軌道を逸らしてみせた。氷は直ぐに溶かされたが、それでも数秒は火に耐えた。その間に、緑谷と飯田は獣面の前から離脱。そして。

 

 

「穿天氷壁―――!」

 

 

 二度目の氷壁が、悪党共を凍らせようと襲い掛かる。今度は、先程よりは少し小さい……か? じゃが、攻撃としては十分じゃろう。真夏の気候にも関わらず、轟は白い息を吐いた。それから左側から炎を出し、下がり切った体温を調整している。

 氷の向こう側は、今は静かじゃ。悪党共は今ので凍て付いた……か? いや―――。

 

 氷壁の一部が赤く光り、溶け始めた。氷の中、或いは向こう側で獣面が炎を吐いているのじゃろう。まだまだ、この戦いは続くじゃろう。今回ばかりは、気が気じゃない。何なんじゃこやつ等。無茶苦茶しおって。誰一人怪我をしとらんから、今はまだ許してやる。じゃが、掠り傷一つ負ってみろ。もう儂は、貴様等を戦わせんからな……!

 

「諸君、気を抜くな! まだ(ヴィラン)は健在だ!!」

「あれだけやってまだピンピンしてんのかよぉ!?」

「ったりめーだろ。こっからだぞてめえ等!!」

「おおっ!!」

 

 ……まだ、やるつもりなのか? もう、いい加減にしてくれ。ここまでは上手く行っているが、これから先はどうなるか分からん。何が起こるのか分からんのじゃぞ、たわけ共。

 なのに、こやつ等は退こうとしない。何がなんでも、この場で悪党共を捕らえるつもりじゃ。それも無傷で、儂の目の前で……!

 

「貴様等、もういい加減に……」

 

 下がれ。とは言い切れなかった。氷が全て溶かされ、悪党共が姿を見せたからじゃ。赤髪女と覆面白髪は互いを支え合いながら。獣面は、足を引きずりながら。

 ……ちっ。もう駄目じゃ。これ以上は看過出来ん。我慢の限界じゃ……!

 

「少しはやるじゃねえか、ヒーロー……! だがなぁ、そんなんで俺達を倒せると思ってんのか!!」

 

 獣面が両腕を広げ、跳躍した。直後、あやつは翼をはためかせ空を飛ぶ。……は? 何じゃあやつ、空を飛べる……じゃと? これはまた、面倒な真似をしおって……!

 

「こんなやり方は、趣味じゃねえんだけどよぉ!!」

 

 空に居る獣面が、火を吹こうとしている。

 

「……直ぐ離れろよ」

 

 覆面白髪が、手をかざした。何じゃこやつ等、何をするつもりじゃ?

 どうあれ、黙って見てやるつもりはない。両手を叩き合わせる。舎弟も同じ考えじゃったのか、獣面に向かって飛んで行ったわ。

 

「消し飛べよ、ヒーロー!!」

「ああ゛っ!? 消し飛ばねーんだわ!!」

 

 空から、炎が吹かれる。それを舎弟は避けたが、火の軌道は地上に居る俺等に向かっている。あれは轟の氷を容易に溶かす程の熱を孕んでいる。避けようにも、地面にぶつかれば広がるじゃろう。ならば……!

 

 子供達全員に血を付着させ、少しでもこの場から遠ざける為に後ろに引っ張る。これで前に居るのは儂だけじゃ。ならば、問題は無いじゃろう!

 降り注ぐ炎を、右手で受け止める。と、同時に。

 

「回れ……!!」

 

 炎を、最大限に回す。周囲は海じゃ。最悪回転が止まっても、燃え移るものは人以外何も無い。

 降り注ぐ炎が回って行く。手のひらが焼けたり、後で目が回るじゃろうけど問題は無い。どちらも反転術式(はんてん)でどうとでもなる……!

 

 

「―――もう終わりだ」

「何じゃと……?」

 

 

 終わり? どの口でそんな事をほざく。誰が終わり、じゃって……? むしろ終わりに近いのは、貴様等悪党の……!!

 

 って、おい。これは何じゃ貴様。どういうことじゃ……!

 

 風が吹き荒れる。快晴じゃったのに、空は曇る……どころか激しい雨まで降って来おった。おいまさか貴様、天候まで支配の内か? そんな個性まで存在するのか……!? 何でも有りと言っても、いい加減にしろよ……!!

 

「はぁ!? 竜巻ぃ!?」

「くそっ! 諸君、今は退避するしかない!! あんなものに巻き込まれたら……!!」

「ひよってんじゃねえぞてめえ等!!」

「ぐおっ!? このガキぃ……!!」

 

 炎が止まった。それは舎弟が、獣面に向けて爆破を叩き込んだからじゃ。そして子供達の中ではこやつだけが、怯んでいない。

 宙に居る舎弟と、目が合った。生意気な奴め。儂に目で指示を出すなど……! そこは声に出して頼めば、少しは可愛げもあると言うのにっ。まっこと、仕方のない奴めっ!

 

 

「―――回れ……!!」

 

 

 個性に呪力を流し込み、最大出力で解き放つ。覆面白髪の放った竜巻は、決して小さなものではない。天変地異の類じゃ。前世までの儂ならば、逃げることしか選べなかったじゃろう。じゃが、今は……! 同じ天変地異の類で、対抗出来る……!!

 

 もっとじゃ、もっと回れ! もっと早く、もっと大きく、もっと荒く! 何もかも、吹き飛ばしてしまう程にっ!! 何もかもを巻き込んでしまえば良いっっ!! この世界がどうなろうが、今は知らん!!!

 

「貴様等、巻き込まれるなよ……!!」

 

 限界まで回転を行った、その時。何か……妙なものを見た。何じゃ? 今一瞬、儂の作り上げた竜巻そのものが変に歪んだような……。いや、気のせいじゃ。何事もなく、竜巻は回っている。巨大にもなった、勢いも凄まじい。人が巻き込まれれば間違いなく死ぬじゃろう。

 

 竜巻に、竜巻が向かっていく。それを見てる最中、平衡感覚が失われ膝が折れ曲がった。視界が回り吐き気が出て来た、どころではない。凄まじい頭痛がした挙げ句、鼻血まで。何か、壊れてはいけないところが壊れた気がする。意識を失うより先に反転術式(はんてん)を全開で回し、体も脳も治癒していく。

 直ぐ、頭痛も鼻血も収まった。反転術式(はんてん)がなければ、儂は動けなくなってるところじゃ。

 

「―――ッハ。てめえ……とんでもねえもん出しやがって……!!」

 

 気が付けば、舎弟が戻って来ていた。貴様、獣面はどうした? 姿が見えんが、海にでも叩き落としたのか……?

 姿が見えんと言えば、梅雨も見当たらん。何処に行ったんじゃあやつ。

 

「ほんっと、目茶苦茶……! (ヴィラン)もヨリミナもっ!」

「あぁ。だけど、味方で良かった」

「悪鬼羅刹」

「ヨリミナ、平気? ……立てる? 起こすよ?」

 

 くらすめえと達にあれこれと言われることは、どうにも解せぬ。貴様等とて、目茶苦茶な力を振り回してるじゃろうが。麗日に支えられながら立ち上がると、ちょうど竜巻と竜巻が正面衝突したところじゃ。この先がどうなるかは分からん。分からんが、あれがどうにかならなければ儂等が大惨事じゃ。

 

「一旦退こう……! ここは巻き込まれるかもしれないから……!!」

「てめえ等だけ逃げてろモブ共。俺は……見てえ」

 

 いや、おい。見たいって何じゃ見たいって。竜巻と竜巻のぶつかり合いを見て、何が楽しいんじゃ貴様。そこは緑谷の言葉に従っておけ。この後、何がどうなるのか分からんのじゃぞ。現に儂が放った竜巻は、勢いを増しながら前へ前へと進んで……。は? もう個性は使ってないのに、まだ勢いが増している……じゃと……!?

 おい、おいおい。何処まで膨れるつもりじゃあの竜巻。これは……流石に悪党共が死ぬのでは。あんなのに巻き込まれたら、確実に死ぬと思うんじゃが……。

 

 い、いかん。どうにかしなければっ。ど、どうやって……っ!?

 

 竜巻が衰えない。覆面白髪が放った竜巻とぶつかり、それすらを呑み込み、更に巨大なものと化した。竜巻の向こう側がどうなってるかは分からん。距離的に、もうそろそろ竜巻に呑み込まれるところじゃろう。こうなったら、悪党が死なぬよう祈るだけじゃ。

 ……何で悪党の命を心配しなければならないのか。子供を狙う輩なぞ、死んだって良いじゃろ……。

 

 竜巻が、とうとう悪党達が居た地点を通り過ぎた。勢いはちっとも衰えぬ。これ、島ごと吹き飛んでしまうのでは? 流石に、それはいかんじゃろ……!

 

 これから起こり得る事態に肝を冷やしていると、今度は背筋が粟立った。竜巻向こう側……ではなく、竜巻の中で。凄まじい呪力が流れるのを感じたからじゃ。

 

 次の瞬間。突如として竜巻が消し飛んだ。何をどうやったのかは、知らん。……いや、これは……。どうやら、あの覆面白髪は即席の縛りで呪力出力を限界以上に引き出したようじゃ。そうでなければ説明が付かん。そうであっても、説明は付かん気がするが。

 

 あやつ、何を代償とした? いったい何を捨て去って、それだけの呪力を得た?

 

 ……ともかく。これ以上、くらすめえと達に戦わせるのは駄目じゃ。呪力出力どころか、呪力量すら極端に増えておる。あやつの呪力量は、精々が並じゃった筈じゃ。なのに今は、猛者程度に呪力が膨れている。

 ……それが、嬉しくて嬉しくて堪らないと思ってしまう。期待は、してなかった。子供達が居るから。相手が誰であれ何であれ、つまらない時間になるじゃろうと思っていた。じゃけど……!

 

「……貴様等は下がっていろ。ここからはもう、呪術師の管轄じゃ」

 

 

 もう誰も、儂の前で戦おうとするな。ここからは……。……ここ、から、は……!!

 

 

 

 ―――けひっ。

 

 

 

 

 

 

 








複数人描写のバトルは文字数増えがちですね。分けても良かったかもしれません。

三人称による補完は要りますか?

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