待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
駆ける。誰より速く、誰より先に。誰より前へ。遠い後ろでくらすめえと達が何か言っているが、もう聞こえん。聞きたくない。目の前には、拙いとは言え呪詛師が居る。何やら赤髪女と獣面が寄り添っているが、知ったことか。邪魔であれば排除しよう。そうでなくとも、眼中にない。儂の目に映るのは、何らかの縛りを以て死から逃れた男のみ。もうそれ以外の事など、何もかも知ったことか―――!
「やるじゃねえか……。上等だ……! ヒーロー!!」
獣面が、儂の前に立ち塞がる。が、貴様に興味は無い。片足しか動かぬ奴と戦っても、ただつまらんだけじゃ。そんな輩の相手をしてやる理由は、何処にも無いんじゃっ。
降り続ける豪雨が鬱陶しい。これでは血液の体外操作が妨げられてしまう。じゃがこれは、よく有る状況の一つに過ぎん。悪天候の中で呪い合う経験は、それこそ幾らでも重ねて来たからのぅ!
「一度だけ言うぞ。退け」
「退かして、見せろぉお!!」
踏ん張ることも出来ぬ分際で、それでもなお獣面は敢えて負傷した足で力強く踏み込んだ。それと同時に、再び口から火を吹こうとしている。一度だけと、儂は言ったぞ。これ以上警告してやるつもりはない。立ち塞がるのであれば、退かすだけじゃっ。
正面より砂を焼きながら儂へと迫る爆炎を、前方へ跳躍することで避ける。その時、獣面は顔の向きを変えて更に儂へ炎を向けるが……遅い。もう炎の一部に左手で触れた。個性を使い、炎を回転させることで一つに束ねる。儂の背後には、欠片ほどの火も通さん。通してなるものか。じゃって、儂の後ろには子供達が居るんじゃから―――!
跳躍の勢いをそのままに、獣面の両肩に着地する。狙うは、幾ら異形じゃとしても他の人間と変わらぬ急所。幾ら肉体が頑丈じゃろうと、鍛え様の無い場所が人には有るんじゃ。
退けと、儂は言ったぞ。
「がっ!?」
顔面に拳を振り降ろす。指を立て、確実に急所を捉えるように。貴様とて、ここは鍛えられんじゃろう? ここは、儂でも無理じゃ。
なに、安心しろ。殺しはしない。ただ、貴様には半分は死んで貰う。常闇や尾白を傷付けた貴様を、儂は絶対に許さん。生きて居られるだけ、ありがたいと思え……!
指から伝わる衝撃が、感触が。確かに急所を穿ったのだと儂に伝える。もう一度拳を振り上げ、今度は側頭部を狙い殴る。拳に返ってくる抵抗は、先程よりは強い。が、関係ない。二度、三度。四度、五度と獣面の頭を殴り続ける。最後に肘を落とし、耳の間と顎を掴む。そして思いっきり、力を込めて―――。
……は、やり過ぎか。これでは殺してしまう。肩を踏み台にし、背後へ降りる。途中、身を捻って後頭部に膝を叩き込んでおく。こやつは片足でしか踏ん張ることが出来ぬ故、体勢が少し泳ぐ。そこを逃さず、背中を殴り抜く。ついでに膝裏を蹴り抜き、転ばせる。最後に、地に伏した獣面の頭を踏み付ける。
「―――次」
肩越しに、残った二人を睨み付ける。赤髪女が、息を呑んだ。覆面白髪は、顔の半分が隠れているとは言え……より一層憎悪に呑まれた。どうやら、儂が余程気に食わんようじゃな。気に食わなくて、当然じゃろう。貴様、恐らくじゃが仲間想いじゃろ。じゃったら、儂はそれを利用させて貰う。人として正しくは無い行為かもしれん。もっとも、悪党に好かれたいとは思わんが。
「ば、化け……物……っ」
随分な言い草じゃな、赤髪女。驚愕した面でそんな言葉を吐くのであれば、貴様何故……獣面を助けようとしなかった? この男が持つ頑丈さを、過信したか? 或いは、
くだらん。
「退け。獣面のようになりたくなければな」
「――っ! 貴、様ァア!!」
「ナイン!? 駄目よ!!」
沸点が低い奴め。まぁ儂もその類いではあるが。貴様の目指すところはくだらんと思うが、世界を変えたいと願い行動する姿勢は……。儂と、何ら変わらん。何も変えられず、死んだのが儂じゃ。さて、この先こやつはどうなることやら。
爪が飛来する。それを、敢えて正面から受け止める。肩に、首に、腹に、胸。腕や足も貫かれた。
おっ。今度は衝撃波か。それは跳躍することで避ける。受ければ吹き飛ばされてしまうからの。空中に跳び出ると、赤髪女が儂に向かって刃と化した髪を突き出す。邪魔じゃな。殴り壊すなり、引き千切るなりしても良いが……。
「守ってん、じゃ、ねえぇえっっ!!」
ぬおっ。突き出された髪刃が、爆破により散り散りに吹き飛ばされた。……おい、舎弟貴様……! 儂の前に出てくるんじゃないっ。
「―――っ! 良くもぉおっっ!!」
「当たらねえんだよモブがっ!!」
髪を吹き飛ばされたことが心底気に食わなかったのか、赤髪女は標的を舎弟に変えた。焼け焦げた髪刃は凄まじい速度で、舎弟へと向かって行く。ので、宙に居るから踏ん張りは利かぬものの……それでも全力で殴っておく!
結果。髪刃の軌道は逸れた。舎弟には傷一つ付いとらん。ただ、殺してやろうと思った。儂の邪魔をした挙げ句が、ここに来て再び子供に手を上げるなど……! 許さん。断じて許さん……っ!!
着地と同時、儂は再び駆ける。覆面白髪も、赤髪女も。もう目前に居る。一足で距離を潰し拳を振り被ると、赤髪は後ろに下がろうと動く。じゃけど、白髪は前に向かって動こうとした。お互いに支え合わねば立ってられんくせに、別々の動きをしたら何がどうなるのか。それは、火を見るよりも明らかじゃろう。
そう。ここに来て悪党共は、二人して体勢を崩した。何とも情けない。しっかりせぬかっ、それでは儂が楽しめぬじゃろうが!
「どっ、こいせぇえっ!!」
「っっ!!」
前に出てこようとして体勢を崩してしまった覆面白髪に向かって拳を振るうと、見えぬ壁に阻まれた。と、思ったら。体が吹き飛ばされる。衝撃波じゃ、くそっ。儂と呪い合いたいなら! 吹き飛ばすんじゃない、たわけが!!
「ちっ!」
吹き飛んでなお、悪党からは目を離さない。儂が着地するよりも速く、覆面白髪は背中から巨大な蛇を出した。それはしっかりと呪力で強化されており、大きさと力強さは……恐らく儂が初めて見た時以上なのじゃろう。強大……とも言えるかもしれん呪力出力の高さによって、蛇そのものが大きく強化されている。じゃけど、それでも。
まだ、儂を倒すには至らないじゃろう。全身に呪力を纏い、目前に迫る蛇二匹に備える。
「危ない!!」
ぐえっ。き、貴様……! 緑谷ぁっ! 貴様まで前に出てくるんじゃないっ。儂を抱えて跳ぶな!! 邪魔をするな邪魔をっ! これから、楽しくなりそうなんじゃぞ!! 儂はあの悪党と呪い合うんじゃっ。誰であろうと邪魔は許さん……!
「ツクヨミ!」
「受ける! 行け!!」
ぬおっ。人の体を投げるな! いつの間にやら空を飛んでいた常闇に向かって、儂を投げ付けるんじゃないっ。そのまま悪党に向かって走り出すな! そもそも呪力を纏うな、たわけ!!
「たわけ共が……! 離せ!!」
「離して堪るか!」
こ、の……っ! おいふざけるな、邪魔するな! 儂の楽しみを奪おうとするんじゃないっ。こうなったら、だあくしゃどうを殴ってでも……!!
「ツクヨミ、パス!」
「セロファン! 任せる!」
ぬぉおっ、投げるな! 地面に向かって人を投げるなっ。瀬呂貴様っ、
「タッチ! ピンキー!」
「ま、かせて!! ヨリミナ!!」
ぐえぇっ。き、貴様……! 芦戸貴様っ、受け止めるならもう少し丁寧に受け止めんか! と言うか、貴様の腕の中に居たって何も嬉しくないんじゃけど!? 麗日も麗日じゃっ、勝手に儂に個性を使いおってっ。何でどいつもこいつも急に割り込んで来るんじゃ!
儂の邪魔をするんじゃない! いい加減にしろぉ!!
「まだまだこれからだ! やるぞ諸君!!」
「あぁ、ここからだ……!」
おい、おい……! 何が、ここからだ……じゃっ。まだ戦うつもりか貴様等!? もう良いじゃろうがっ。もう十分、貴様等は働いた。これ以上は何もしないで良いんじゃたわけ共!
……ああ゛もぅ゛っ!!
許さんぞ、どいつもこいつも!! 特に緑谷貴様っ、覆面白髪が捻り出す呪力が見えてるのに何じゃってまだ戦おうとするのかっ。いい加減、退くことを覚えんか……!!
「グレープジュース! 分かってんよな!?」
「やりゃあ良いんだろやりゃあ!! 何でこうなるんだよぉお!!?」
瀬呂と峰田が、伏したまま動かぬ獣面に向かって個性を使う。
「てめえ等! 今度こそ助けはねえぞ!!」
「分かってる……! だからこそ、僕らでやるんだ!!」
「分かってんならさっさと終わらせんぞクソナード!! 付いて来いやぁ!!」
「かっちゃんこそ!!」
「だぁれに向かってほざいとるんじゃ!!」
ちっ。何をやってるんじゃあやつ等二人。覆面白髪と赤髪女の両方を相手にしつつ、何なら口喧嘩しているように見える。それでも、連携が出来ているような……出来ていないような。
覆面白髪の衝撃波やら蛇を舎弟は容易に避けて見せる。赤髪女の刃を、緑谷は寸での所で避けつつ指を弾いて空気弾を打ち込む。
「―――邪魔、だ!!」
「邪魔はてめえなんだよ!!」
こうしては居られん。胴体に巻き付いた
距離を詰める。全速力で、ただ真っ直ぐに。覆面白髪が儂を見て、儂に向けて手を向けた。憎悪に染まった面でじゃ。
「何処を、見てるんだ!!」
緑谷が、覆面白髪の手を呪力を込めて蹴り上げた。
「てめえの相手は俺だろうが!!」
「ぎゃっ!?」
姿勢が崩れたところを、間髪入れず爆破が襲う。この攻撃自体は、通用しとらん。舎弟がどれだけ強く爆破しようが、溢れ出る呪力によって軽減してしまう。ただ、視界は奪える。それに、器用な真似をしおって。覆面白髪に大きな爆破を当てると同時に、赤髪女に並の爆破を当ておった。そこは褒めてやっても良い。無論、儂の前に勝手に出たことを叱ってからじゃけどなっ!!
全力で駆け続ける。なのにまだ、覆面白髪までの距離が遠く感じる。確かに近付いている筈なのに、まだ儂の手が届かない現実に焦りが生じる。くそっ、何なんじゃこの豪雨は! 今こそ術式を使いたいのに、これでは体外での血液操作が出来ん!!
急げ、急げ急げ―――! もっと速く、もっと速くじゃっ!!
「赫灼、熱拳……―――!」
背後から、凄まじい熱を感じる。すぐ真後ろに轟は居ない。なのに、この熱さ。降り続ける雨が、消えてなくなったと錯覚しそうになる。
赫灼熱拳、じゃと……? 轟、貴様っ。まだそれは会得してない筈じゃ。到底、あの燃え面のようには―――。
「噴流熾炎―――!!」
背後から、熱が近付く。咄嗟に真上へ跳躍すると、儂が駆けた場所を凄まじい炎が真っ直ぐに奔った。とんでもない真似をしおって! 儂じゃから避けれたんじゃぞっ!? 儂じゃなかったら、それはもう大惨事になるところじゃったが!!?
「―――!! 邪魔、を……!!」
覆面白髪は炎には呑み込まれていない。見えぬ壁を張ったからじゃ。あやつ一人ならば、溢れ出る呪力で熱の殆どを遮れたかもしれん。少なくとも、焼け死ぬような事態にはならん。じゃが、あやつの側には赤髪女が居る。そいつを庇ってしまっているが故に、足を止めて炎を真正面から防ぐしか無いんじゃ。緑谷や舎弟のように、大きく跳んで避けることが出来ん。
何せ。仲間を見捨てれるような奴では無いようじゃからの。そんな気がするんじゃ。
そして、奇しくも
しかも、梅雨。やっと姿を見せたと思ったら、舌で赤髪女を巻き取りおって。貴様、さては海の中で機を伺っていたな?? しかも海中に引きずり込むなど、どうにもやることが手酷い。
まぁ、儂は子供達が何をしようが大概の事は許容するが、教師が見たら何と言うことやら。まして、一般人が見たら有ること無いこと騒がれるような気がしないでもない。
……ともかく。轟の赫灼熱拳と、足も髪も負傷し動くこともままならなくなりつつある赤髪女。更には自身の怪我。この三つが、覆面白髪を一箇所に縫い止めている。もうずっと、ろくにその場から動けておらん。じゃからっ!
もう貴様は、儂の手の届く範囲に居るぞ……!!
「領域展開」
さぁ。もう邪魔は入らん……! 入れさせん!!
ここからは、貴様と儂だけの時間じゃっ。その溢れ出る呪力を以て、今度こそ儂を楽しませろ!!
「奉迎赭不浄―――!!」
轟くん、さらっと赫灼を使ってるの巻。
それはそれとして、奉迎赭不浄くんちゃん? がアップを始めました。あーあ、もう滅茶苦茶だよ。
次回でナイン戦は締めになる筈です。どうなるんでしょうねぇ、彼……。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ