待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「終わっ……たのか?」
「やったか……!? やったんだよなオイラ達……!!」
「そうだね、ちゃんと全員……無傷で……!」
領域を解いた後。子供達の緊張が緩んだ。まぁ、気持ちは分からんでもない。ないん、は儂が行動不能にしたし、獣面は二重三重の拘束で動けん。そもそもまだ意識が戻っとらんようじゃ。今は、轟と飯田……それと麗日がどうやって氷の中から引き摺り出すかを話し合っているの。そして梅雨が海中に引き摺り回した赤髪女も、かなり体力を消耗したようで動けぬようじゃ。瀬呂の
ないんの傷は、面倒ではあったが応急処置はしておいた。失血死されては、人殺しになってしまうからの。傷口を
それに。この時代の医療技術は凄まじいものじゃったりするから、治療を受ければ案外元通りになるのかもしれぬ。平安時代なら、失血死せずに済んでも感染症やら何やらで苦しんで死ぬことになったじゃろう。良かったな、超常時代で。適切な治療を受けるまでに死ななければ、まず生きていられる。筈じゃ。
……何で悪党なんぞの命を心配しなければならんのか。これはこれで解せぬ。
で、じゃ。この後の事が面倒じゃ。悪党捕縛を一般人に伝えて、また工場まで誘導してやらねばなるまいて。家を失った者ものは多いからの。しばらくは避難所生活を強いることになってしまうわけじゃけど、そうなると不満が出てくるのが人間じゃ。その辺りの対応は、……まぁ救援が来るまではやるしかないのぅ。一通りの事後処理が終わったら、それから子供達に話をしなければな。今回の件については……褒めてやりたい気持ちが半分。もう半分は説教することになるじゃろう。
別に、くらすめえと達が悪党にしたことは間違いではない。相手の弱点を攻めるのは、定石じゃからの。むしろ、分かり易い弱点なんぞを晒した悪党共が悪い。それにな、弱点を攻めなかったから負けた……なんて事態になるぐらいじゃったら多少悪辣な戦い方をした方が良い。
お人好しのこやつ等が悪党のような戦い方をするのは……、こう。気になるところでも有るんじゃけどな。うぅむ……、これはこれで面倒じゃ。
あの動きは、多分儂からの影響じゃよなぁ。儂は、悪党は容赦無く打ちのめすからの。くらすめえと達に悪影響を与えてしまっている、と思うと……。うむ、良くない。まっこと良くない。
少しでも、残忍な行為は避けるべき……か? いや、しかしじゃな。呪い合いに綺麗も汚いも無い。有るのは、命のやり取りだけなんじゃ。勝てば生き、負ければ死ぬ。戦いの場なんてものは、所詮はそんなものでしかなく……。
「おい、クソチビ」
「……何じゃ?」
「次は守らせねえぞ。首洗って、待っとれや……!!」
悔しそうな面で何を言い出すのかと思えば、今回は珍しく理由の分かる事を宣いおって。
さては雨に打たれて風邪でも引いたか? 熱でも有るんじゃないのか?? と、つい口走りたくなる。が、実際に口にするわけにはいかん。それはただ、不必要に煽ってるだけじゃ。
「殊勝な心掛けじゃな。……期待せずに待ってやろう」
「ちっ。次はこうは行かねえぞっっ!!」
舎弟が睨み付けて来おった。嫌とは言わん。むしろ好ましいぐらいじゃ。今、この場において舎弟のように悔しさだけを感じてる者は何人居るんじゃろうな? 全員、同じ気持ちを抱いてくれて居ると良いんじゃけども。
今回の結果に満足している者は、居ないと思いたい。こやつ等は……儂からの信頼を得たいんじゃろう。
じゃから、儂を心配させることなく、儂に守られることなく、悪党を倒したかった筈じゃ。結果は、良くないの。そもそも無理な話であることを自覚して欲しいんじゃけど。儂が子供達を心配しない、なんて日は訪れないんじゃから。
ただ、まぁ。一つだけ、伝えてやるとしようかの。これについては、当然の褒賞と言うか、何と言うか。
ある程度の成果は出したんじゃから、このぐらいはな。
「……よく、怪我一つなく戦えたの。その調子で、今後も無傷で乗り越えてくれ」
「っっ!? だっ、てめ……っ!! 何してんだ!!?」
何って、子供を褒めるならまずは頭を撫でて甘やかすのが常識じゃろ。ほれほれ、そんな嫌そうな面をしとらんで大人しく撫でられとけ。ただしこの事を、被身子には話すなよ? 絶対に黙っとらんからの。頼むから言い触らしてくれるな。
「褒めてんじゃねえぞ!! ンな事される筋合いはねえんだよ!!」
舎弟が吠えた。至近距離で叫ぶのは喧しいから止さぬか、このたわけめ。
「はぁーー!? 廻道、アタシ達には!? ねぇアタシ達には!?」
「……ほれ、来い。左手なら空いとるぞ?」
「よっしゃーー!!」
芦戸が突撃して来た上に、頭を差し出して来たので撫でてる。そんなに儂に褒められたいのかこやつ。仕方ない奴め。今回は、じゃからな? 次はこうして撫でて貰えると思うなよ。
「……は? 今ならオイラにもワンチャンが……!?」
「廻道、峰田は撫でなくて良いぞー。止めとけ止めとけ」
「そうね。円花ちゃん、峰田ちゃんは撫でなくても良いかも」
「そうじゃな。峰田は止しておく」
「テメェ瀬呂ォ!! 余計なこと言いやがって……!!」
実のところ、褒めるべきでは無いのかもしれん。ただ甘やかしてしまってるだけじゃからの、これ。良くないと自覚しつつも、どうにもな。子供が頑張ったなら、褒めるのは当たり前では有るんじゃけども。
……やはり、叱るか。叱らねば。しかし儂も悪いところが有ったのは事実じゃし。悪影響じゃよなぁ、儂。離れた方が良いんじゃろうか? しかしこやつ等、まず間違いなく儂から離れたとしても追い掛けて来たり付き纏ったりするじゃろ。儂が独りで居ることを良しとしないお人好しじゃしなぁ。
「言っておくが、後で説教……と言うか反省会じゃからな貴様等」
「えっ」
えっ。ではない。それと、まだ気を抜くんじゃない。悪党共を捕らえたとは言っても、まだまだやることが……。……って、おい。おいおい。獣面を覆い囲う氷から、妙な音がする。ってことは、つまり。
「がっ……ぁああアああ!!」
咆哮と共に、氷が砕けた。から、儂は呪力を纏い獣面に向かって駆ける。まさか、もう起きるとはの。もう暫くは気絶したままかと思ったんじゃが、頑丈のようじゃな。
「キメラ……!! お願い、ナインを!!」
ちっ。余計な事を伝えおって。
「スライス……。ナイン……!? 腕が……!
テメェ等……!! 何をしたぁア!?」
獣面が、吠え狂う。だけではない。へし折れた筈の足で確かに砂を踏み締め、口から火を吐き出そうとしている。動きが、早い。いかん、これは間に合わん……!!
「全員、その場から跳ね除け!!」
駆けながら、叫ぶ。獣面を再びぶん殴るまで、あと三歩……いや二歩は掛かってしまうっ。
「―――! くそっ!!」
「っっ、総員退避!!」
獣面の向こう側に居る轟と飯田が、咄嗟に動こうとしている。麗日は、捨て身で獣面の背に駆け出している。が、それも間に合わんっ。こうなったら……!
「こっちじゃ、悪党!! ないんの腕を潰したのは儂じゃ!!」
せめて、儂に意識を向けさせねばっ。跳躍し、獣面の視界に跳び込む。
―――その時。何かが帳の内から飛び出して来た。それが何だったのかは、分からん。赫鱗躍動で動体視力を上げていれば或いは見えたかもしれんが、今は術式が焼き切れとるんじゃ。
とにかく。確かな事は一つ。飛び出して来た物が、獣面の足を貫いた。折れてない方じゃ。その衝撃からか、獣面の顔は地面に近付き吐き出された炎は砂を焼く。着地と同時、足元の炎に触れ回転させることで一つに束ねる。それから……!
「終いじゃと、言ったじゃろうが!!」
「くたばれ!!!」
「スマーーッシュ!!!」
距離を潰し、獣面の頭を力いっぱい蹴り上げる。あ、いかん。勢いが付き過ぎた。嫌な感触が脛から伝わって来たわ。しかもそれだけではない。いつの間にやら儂の背後に追い付いて居た舎弟と緑谷が、儂に数瞬遅れて獣面を爆破したり殴り飛ばしたりした。これは、死……んではない……か。ないな……? ないよな……?
二転三転と転がった獣面を凝視すると、……まぁ息はしているようじゃ。まったく動かんけど。また意識を失ったようじゃ。こやつ、中々に頑丈じゃの。儂にしこたま急所を殴られたのに、気を失っていたのは数分程度とは。体が頑丈じゃから、回復力も凄まじいんじゃろう。多分。
念の為、倒れた獣面に近付いて様子を見てみる。……うむ、生きては居るの。何とも情けない真似をしてしまった。下手をすれば色々と大惨事じゃったぞ、これ。
「……はぁ。危なかった……っ」
しっかりしなければ。反省じゃ、反省。残心を怠るなど、恥じゃ。何かが帳の内から飛び出して来たから良いものの、それが無かったらと思うと……肝が冷えるなんてものじゃない。いったい、何が飛び出して来たんじゃ? と言うか、誰が何をして……。
……む? 周囲を見渡してみると、少し離れたところに何かが砂に深く突き刺さっておるの。手に取ってみると、これは……。
ながんの、髪……か? ということは、ながんが帳の内から何かをしたのか?
何にせよ、助かった。後で礼を言わねば。
「だ、大丈夫廻道さん……!? ごめん、全然間に合わへんかった……っ」
「いや、良い。儂もすまなかった。むしろ、咄嗟に良く動いたの麗日」
麗日が青ざめた顔で駆け寄って来たので、背伸びして頭に手を置いておく。今さっきのは、儂の失態じゃからの。こやつが謝る必要は何処にも無い。もっと獣面を痛め付けておくべきじゃった。殺してはならぬからって、生半可な殴り方をするのは良くないの……。
「すまない廻道くんっ」
「悪い廻道、拘束甘かった……!」
「ちゃんと拘束しとけや!! 何やっとんだ!!!」
「……いや、こやつが一際頑丈じゃっただけじゃ。今度は、もっとしっかり拘束を。さっきみたいなのは勘弁じゃ」
警戒を緩めぬまま、瀬呂と轟に指示を出しておく。峰田にも頼むとしよう。あと、舎弟の後頭部を軽く叩いておく。こんな豪雨でなければ、術式が回復しさえすれば儂が拘束するんじゃけども……。
何が有っても良いように、しっかりと身構えておかねば。残心じゃ、残心。
「ナイン……キメラ……っ。そんな……っ!」
喧しい雨音の中に、赤髪女の呟きが混じった。つい振り返ってみれば、
まぁ、そういう面をして当然じゃろう。ないんを痛め付けたのは儂じゃ。そして、獣面をここまで痛め付けたのも儂じゃ。赤髪女の目の前で、徹底的に痛め付けたんじゃ。憎まれて当然。当たり前のことじゃ。こやつ自身も何かするかもしれんな。念の為、気絶させておくか。そんな体力が残ってるように見えぬが、暴れられても厄介じゃからのぅ。
「……貴様も、もう終いじゃ」
「! 待って、円花ちゃん……っ」
梅雨に見張られている悪党に近付き、蹴り飛ばしておく。その後、赤髪女は動かなくなった。拘束のかけ直しは……念の為にして貰おう。こんな豪雨じゃからな、瀬呂の個性は普段程の拘束力を持たぬかもしれんし。
「私、思ったことは口にしちゃうの。
……幾ら相手が
……まぁ、それはそうかもしれんの。被身子に心配されたくない。そう考えると、少々やり過ぎたかもしれん。が、獣面のように暴れられても困るしの。気絶させておくのは正解じゃとも思う。
「でも、ありがとう。この人、ナイフを隠し持ってたみたい。もしかしたら、刺されてたかも」
「拘束の際、所持品検査ぐらいしておけ。阿呆」
「そうね。ごめんなさい、気を付けるわ」
「らしくないんじゃないのか?」
「……」
……おい。何じゃ? 黙って儂を見詰めるな。言いたい事が有るなら口にしろ。と言うか貴様、思ったことは口にすると自分で宣ってたじゃろうが。らしくない真似を続けるな、奇妙に思えてくるじゃろ。
「円花ちゃん。違ってたら謝るんだけど」
「何じゃ?」
「誰かが傷付くのが怖いから、独りで戦おうとしてるのかしら?」
「そんなことは無いが??」
何を言い出すかと思えば、的外れな事を口走りおって。儂が独りで戦うのは、儂が楽しみたいからじゃ。それと、お主等が子供じゃから出来ることなら戦わせたくないってだけでもある。くらすめえと達が
「聞いたのよ、私達。円花ちゃんに何が有ったのか。あんな事が有ったんだって聞いたら……どうしても見る目は変わっちゃうから。ごめんなさい」
「終わった事じゃ。慰めは要らん」
「……そうね。円花ちゃんが呑み込んでるなら、何も言わないでおくわ。でも……吐き出したいと思ったら言ってね。私で良ければ、幾らでも聞くから」
それは要らん気遣いじゃな。まっこと、要らん。が、子供の善意を突き返すのは……それはそれで違うか。ひとまずは、その気持ちを受け取っておいてやろう。
まぁ今後、仮に吐き出したくなったら被身子に受け止めて貰うから、梅雨の出番は無いんじゃけどなっ!
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ