待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
熱が引かぬまま、夜となった。今朝目が覚めてから、最低な気分が続いている。こっそり抜け出してしまおうかと思っても、どうにも体が動かぬ。幾らなんでも、ここまで弱らなくとも良いと思うんじゃが……。
何が最低って、意識が鮮明ってことじゃ。多少なりとも薄れていたりすれば、まだここまで風邪を苦痛に感じたりしなかったじゃろう。動けぬことも、苦痛でしかない。風邪なんぞで寝込んでいる場合では無いんじゃ。倒れるなら、赤鬼を祓った後が良い。何とかして抜け出せないかと、機会は窺っているんじゃけど……それも駄目そうじゃ。じゃって、ほら。
「……じぃーーっっ」
被身子が、隣で儂を見張っているからの。少しでも動き出そうとすれば、飛び掛かってでも止めて来そうじゃ。現に、添い寝されとるし。何故かお互い裸なのは、考えておかないことにする。なんで裸なんじゃ、儂。確か意識を失う前は服を着ていたような……。
……まぁ、それはそれとして。お主なぁ、風邪が移るぞ風邪が。後で大変になるかもしれんのじゃぞ? まったく。
なんて、言える立場ではないか……。熱が有るのに動こうとして、結局倒れたのは儂じゃからな。こやつを心配させるような真似はすべきではないのに、どうにも動かなければと焦ってしまう。この熱、いつになったら引くんじゃ? 早いところ、治って欲しいものじゃが……。
「ちゃんと休まなきゃ駄目なのです。ほら、起きてないで寝てくださいっ」
んぐっ。頬を摘むな頬を。寝ろと言われても、寝付きが悪いままなんじゃ。それに今は、寝たいとは思わん。ようやく寝れたと思ったら、悪夢で跳ね起きる……なんてのは勘弁して欲しいからの。じゃけども、このまま起きていると被身子が際限なく心配し続ける筈じゃ。となると、うぅむ……。困ったのぅ……。
狸寝入りしたところで、こやつを誤魔化すことなど出来ぬじゃろうし。じゃからって生きていれば、それはそれで心配されてしまうし。何をどうするべきなんじゃ。せめて、横になったまま話すぐらいは許して欲しいところじゃけども。
「……寝たくても、寝れないんじゃ」
「それは、困ったちゃんなのです。代わってあげられたら良いのに……」
「いや、それはそれで困るんじゃけど……」
気持ちは、分かる。儂じゃって、立場が逆なら同じ事を思うじゃろう。しかし現実にそんな真似をすることは出来ぬし、仮に出来たとしても同じ事の繰り返しになるだけじゃ。
被身子も儂も、お互いを大切に思ってるからこそ、出来ることは何だってしてしまいたくなるんじゃよなぁ。いやはや、愛だの恋だのは厄介な感情じゃ。
「……少し、話さんか……? その方が、まだ気が楽じゃから……」
薬を飲もうが、一日中添い寝されていようが、体調はまるで良くならない。被身子にずっと心配されるのも、動かぬよう見張られているのも……そろそろ疲れて来た。と言うのも本音じゃの。こうなったのは、明らかに儂が原因なんじゃけども。
どうして、こんな風になってしまったんじゃろうなぁ。納得いかん。
「んん……じゃあ……。少しだけ、ですよ……?」
「ん……。少しだけじゃ……」
……少しだけ、なんて嘘になるとは思うが。風邪を引いているからか、或いはあんな夢を見てしまったからか。今はどうにも、こう……。こう、……つまり……その。
……これを口にするのは、気恥ずかしい気がするの。言ったら、儂がこんな状態でも被身子が調子に乗ってしまう気がしてならん。それが嫌とは言わんけど、流石に少し手加減して欲しいと言うか、何と言うか。
口にするのは気恥ずかしいから、せめて伝われと思いつつ被身子を見詰めてみる。口を塞いだまま、じっと。そしたら、見詰め返された。探るかのように、注意深く。
数秒、いや……数分? とにかく、見詰めあって居ると……被身子が徐々に口角を上げていく。何をそんなに嬉しそうにしてるんじゃ、こやつ。儂を心配して、不安そうにしているよりはずっと好ましいけれども。
「ん、ふふ……。もぅ、甘えるのが下手なんですから……♡」
「……全然、違うが……?」
誰が甘え下手じゃ、誰が。お主が人より甘え上手なだけじゃろ。嬉しそうに儂を抱き締めおって。そんなでは足りぬが? もっと、もっとこう……儂に触れてくれ。今は、……その。ええっと。
あぁ、もぅ。そうじゃ、心細いんじゃ。熱を出して嫌な夢を見て、寝付くことすら出来なくて。じゃから、お主に甘えたい。甘えたって良いじゃろ、風邪の時ぐらい。こんな時ぐらい、お主にだけはそうしたって良いと……思いたいんじゃっ。
……うぇっ。いかん、甘えたいと思ってしまったら……余計に気持ち悪くなってきた。胸が苦しくて、辛くて。とても、堪えられそうにない。
「……ね、円花ちゃん。お医者さんに、色々聞いたのです」
「んぅ……。何、を……?」
「何か、悩んでませんか……? 嫌な事とか、我慢出来ない事とか、……そういうの」
「……ん……」
「抱え込んでるんじゃないかって、お医者さんは言ってました。それが知らず知らずの内に負担になってて、それで……不調になったんじゃないかって……。
もし、もしそうだったら……、言って欲しいの。一人で抱え込むのは、ヤです」
「……ん、ぅ……」
悩んでる、こと? 抱え込んでる、こと……? そんなもの、儂は……。……まぁ、無いと言ったら多分嘘……かもしれん。
儂じゃって、悩むことはある。嫌なこも、抱え込んでることも……有るには有る。じゃけどそれは、それを口にしてしまうのは、駄目なんじゃないかとも思うんじゃ。
じゃって、じゃって。言ってしまったら、きっとこやつが傷付く。それは堪らなく不愉快じゃ。他の誰かならまだしも、儂が被身子を傷付けるなんて真似はしたくない。いやそもそも、何者じゃろうと儂の被身子を傷付けるような輩は許さん。それが例え、儂自身じゃったとしても。
……言えない、なぁ。これは、言えない。被身子が愛しいから、この上なく大切じゃから。どうしても、伝えたくない。
「……ヨリくん。何か有るなら、言って欲しいの。私には、何でも言ってくれなきゃヤです」
んん……。んんん……っ。言いたく、ない。こればっかりは、吐露するわけには……。しかし、言わねば言わねばで被身子は……。
うぅ、どちらも嫌じゃ。言って傷付けるのも、言わずに傷付けるのも。どっちも、嫌なんじゃ。
どう、したものかのぅ。嫌じゃ嫌じゃと思いつつも、甘えてしまいたい自分も居る。胸の内に有るものを吐露して、楽になりたいと思わなくもない。
「ん、ぅ……。被身子……、被身子……っ」
儂からも、被身子を抱き締める。離れたくなくて、もっと近くに感じて居たくて。じゃから……。
「……、なんじゃ……」
「……はい」
「嫌なんじゃ。子供が傷付くことが、傷付けられることが」
「……うん、知ってます。ヨリくんは、そういう人ですから」
「戦って欲しくもないんじゃ。死んでしまったらと思うと、怖くて堪らない……っ。じゃから、儂は独りで良いのに。独りが、良いのに……!」
子供を守り、助ける。それは儂の主義じゃ。そうしたいと思って、そうし続けて来た。望まれようと、望まれなかろうと。
……じゃって。儂はそうしなければならない。助けられなかった命がある。儂が守りたかった子供達は、二人は……儂のせいで死んだんじゃ。あの時、無理じゃとしても連れ出さなかったから。あの家から、連れ出していれば……もしかしたら。
―――あの子達の死から、儂は目を逸らせない。逸らしてはならん。じゃからこそ、同じ事を繰り返したくない。
なのに。あれから八人も、死んだんじゃ。呪霊に、呪詛師に……時には非術師にすら殺されて。儂の側に居続けた子は、一人を除いて全員死んだ。また同じ事を繰り返すのではないかと思ったら……。……っ。
いかん……。どうにも、弱っている。幾ら風邪を引いたからと言って、ここまで気が弱くなるのは如何なものか。しっかりせねば。儂がしっかりしないと、駄目なんじゃ。呪術師は、儂しかおらん。おおるまいとに頼り切ることは出来ん。緑谷は、儂が守ってやらねば。じゃからせめて、あやつが独り立ち出来るようになるその時までは……っ。
「……でも、独りで居て欲しくないって私は思うの。みんなも、きっと……」
「……っ、何でじゃ……っ。儂独りで良いじゃろ……っ!」
「そうかも、しれないです。だって呪術師はヨリくんしか居なくて。だからみんながヨリくんに頼るしかないってのは……仕方ないことなのかなって。
でも、だからってヨリくんを独りにするなんて……私は嫌なの。トガは、ずっと側にいます」
「じゃからっ、何で……!」
「だって、ヨリくんがずっと側に居てくれるから。私の為に怒って、笑って……。何でもしてくれて、何でも許してくれて。たぁくさん、愛してくれて。まぁ口下手なのは絶許ですけど。でも……。
……そんな人に、自分からも何でもしてあげたいって思うのは普通のことじゃないですか」
それは……。それは、そう……かもしれんけども。儂じゃって、被身子が愛してくれるから。何でもしてくれるから、何でもしてやりたいと思う。例え何もしてくれなくたって、儂に出来ることなら何だって。出来なかったとしても、出来るようになりたいと思う。きっとそれが、愛するってことじゃから。被身子の愛情に、応えるってことじゃと思うから。
「……もっと頼って、良いんですよ? 私に甘えて、みんなに甘えて。今は……まだ難しいかもしれないですけど、ヨリくんには……いつか誰かを頼れるようになって欲しいの。
だって、そうじゃなきゃ死んじゃいます。それは、絶対に嫌なので。何が有っても嫌なので」
甘、える……? 誰に……? そんな真似、どうして儂が出来るんじゃ。出来る筈が無い。子供達に甘えて、そのせいで誰かが死んでしまうのかもしれんのじゃぞ……っ。そんな事になったら、堪えられん。無理じゃ。もう、子供達が死ぬところを見るのは嫌なんじゃ……!
「意外と人間不信ですよね、円花ちゃんって。大人も子供も、等しく信じてない部分が有るっていうか。
……そういうところも、愛しいなって思いますけど。私はヨリくんの、円花ちゃんの全部が大好きなので!」
「ぐえぇっ」
うぅむ……。そんなに抱き締めるのは止さぬか。普段はともかく、今は駄目じゃ。弱ってる時に、優しくするのは止めてくれ。じゃって、そんな真似をされたら……。そんな風に、優しくされたら……っ。
良いんじゃないかって、思ってしまう。そんな筈は無いのに。今だけは、今ぐらいは……っ。
良いのか? 誰かを頼って……? いや、駄目じゃ。絶対に駄目じゃ。私生活ならば、別に頼っても良い。被身子には頼りっぱなしじゃから、そこは今更じゃ。じゃけど、じゃけど……。呪術師として、子供達に頼るなんてことは絶対に出来ないんじゃ。そんな真似をしたら、死んでしまう。死んで欲しくない。あの子達は、誰一人欠けることなく生き延びて欲しい。そう思うことは、きっと何も間違っていない筈じゃ。これが間違いじゃ、なんて……誰にも言わせない。言わせてなるものか……っ。
―――大丈夫。大丈夫じゃ。独りでやれる。独りでも、問題は無い。ずっと、そうして来たんじゃ。勝手に付いてくる子供は、何人も居たけれど。
今度こそ。今度こそ、違えない。誰も死なせない。じゃから……。
じゃから……。儂は、独りで良い……っ!
このあと、トガちゃんの胸で滅茶苦茶泣いた。
この強がり呆け老人、何をどうしたら周りに頼るんでしょうね。簡単に考えを変えれるなら徘徊呆け老人なんてしてないですからねぇ……。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ