待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
はぁ……。
領域、解くか。解いた。
つまらん戦いじゃった。もっと楽しみたいところじゃったのに、水を差されてしもうた。仕方ないと言えば仕方ないんじゃがの。上の子供等を見殺しにするのは、儂の主義に反する。
それはそれとして、ひいろお目指しておるのなら、呪力で強化された
はぁ……。残念じゃ。
さっきまであんなに楽しかったのにのぅ。
……。……良し、切り替えるとしよう。仕方がない。この鬱憤は後で晴らすとして、取り敢えず今はくらすめえとを助けに行かなければな。術式は焼き切れとるし、呪力も大分減っておる。術式の回復まで……あとどれくらいかかる? 回復するまでは術式無しで動かなければ。とは言え、まだまだ戦える。
……階段上が騒々しい。急がねばならない。その為に使いたくない領域まで使ったんじゃ。残りは消化試合と言っても良い。気が静まってしまったのも事実じゃが、まだ止まって良い訳でも無い。
「待て。お前……黒沐死を殺したのか? こっちはオールマイトを殺しに来たってのに……!」
階段を上り始めると、全身に手を模した飾りを付けた小僧が話しかけて来よる。振り返ることなく、その通りじゃと返答しつつ片手を振っておいた。貴様に興味は無いんじゃよ。聞きたいことは有るんじゃが、後でにしておく。
さて。階段を登った先に見えたのは未だ
虫共の数は、そう多くない。儂が相手にしていた時は津波かと見間違う程の大群じゃったが、今は足元が埋まる程度で済んでおる。それと、黒い靄を体が発しとる男。あいつ、呪力持っとるの。それで身体能力を強化して、教師二人と殴り合っておる。
ん? 呪力を、持って、る……?
……いや、どうでも良いな。大した呪力量じゃない。あやつの術式、もしくは個性を考えると見逃してやる道理は無いんじゃが……ひとまず後回しにしておくかの。子供が死ぬ。
「八百万、脇差し」
「廻道さん! ご無事で!?」
何故顔を輝かせる。儂が助けに来たからと言って、嬉しそうにするな。
……ざっと見たところ、怪我人はおっても死人は居ないようじゃ。ならば、良しとしておこう。手足が千切れる者ぐらい一人か二人は居てもおかしくなかったんじゃけどな。
こやつ等は、儂が思ってるよりは強いらしい。これなら
「うむ。それより早く脇差しを寄越せ。後はまとめて吹き飛ばすから」
「はい!」
しかしまぁ……。年頃の娘がその格好をしているのはどうなんじゃ? 露出が多過ぎやせんかお主。腹が冷えるぞ腹が。まったく、今の時代の若い者と来たら奇っ怪な格好ばかりしよる。こすちゅうむとか言う服を考えた奴は、頭が狂っとるんじゃないか? あぁ、やじゃやじゃ。
「全員、儂から離れろ」
鞘無しの脇差しを受け取った儂は、それに呪力を込め足元に突き刺す。すると呪力が逆巻き、辺りの
取り敢えず子供等の安全を再度確認して、意識を残る悪党共に向ける。後は二人。殺してやっても良いが、情報が欲しいの。そもそもこの時代、人前で人を殺すのは止めておいた方が良いのぅ。法を犯すような真似はしない方が良い。両親にも被身子にも迷惑がかかるからな。
殺すのは、呪霊だけにせねば。いやしかしこやつが持つ力は放っては置けぬ。やはり殺すか?
「黒沐死を倒しましたか……。あの呪霊を無傷で倒すとは……やはり貴女は、危険ですね」
儂が近くに来たからか、それともこれ以上戦うつもりは無いのか。黒い
「ここは退かさせて頂きます。貴女の実力が、我々
う゛ぃらん連合? ああ、悪党の集まりってことかの。どうでも良いな。そんな事よりも、儂は聞いておかねばならんことがある。
「……逃がすと思うか? お前はここで捕らえる」
「それは不可能でしょう。貴方の個性、強力なものですが呪力は消せないようだ」
「……」
「本来ならばそこの生徒を連れ帰らなければならないのですが……今回は諦めるしか無いようです。
それでは廻道円花、またお会いしましょう」
なるほど。目的は儂、と。それは構わん。好きにしたら良い。ただ……これだけは聞いておかねばなるまいな。
「貴様の背後に居るのは呪術師……或いは呪詛師か?」
「……」
「答えよ。場合によっては、ここで貴様は殺す」
場合によらずとも殺すがな。まだ術式は戻っておらんが……殺すだけなら造作も無い。殴ればしまいじゃ。この距離ならば、一足で間合いは潰せる。
「殺されると分かっていて、答えると思いますか? ではまた、いずれ別の機会に」
……答えは無しか。とは言え、悪党の集まりには呪力を扱う者が居るのは確かじゃろう。或いは呪力の扱い方を教えられる者がおるのか。
どうあれ退かせるつもりは無いな。こやつはここで捕らえるなり、殺すなりした方が良い。距離を無視して移動出来る個性や術式など、厄介極まりないからのぅ。
などと考えている内に、黒靄人間は跳びおった。長い階段を二度の跳躍で下り、まだ広場におる小僧を抱えて何処かへと跳躍していく。
……余裕で追い付けるな。人前から遠退いてくれるのは助かる。殺しに行くとしよう。
「待て廻道」
「止めるな。あれは殺しておいた方が良いじゃろ」
人に布を巻き付けるな、たわけ。貴様ごと跳んでも良いんじゃぞ? 儂の邪魔をするなよ担任小僧。
「厄介なのは事実だが、追撃はするな。それに……詳しく聞きたいことがある」
「あれは厄になるぞ。殺しに行く」
「待てと言ってる。ヒーローは殺さないし、殺させない。卵のお前が、今の内から殺人を選択肢に入れるな」
「そうか。ご立派な考えじゃな。後でどうなっても儂は知らんぞ」
あの黒靄に、恐らくは呪霊を操る術師。手の小僧も呪力を持っているかも知れぬの。そやつ等が儂を狙っているのは分かった。その為に、特級呪霊を連れてまで雄英の中に忍び込んだ。
そして今回、担任の相澤も拾参号とやらも呪力と言う力を感じた筈じゃ。それがどれだけ強い力であるのかも、分かっておるじゃろう。くらすめえとだって、儂が呪力放出で
説明は必須か。信じて貰えるかは分からぬが、一から話さなければならぬ。正直、面倒じゃのぅ。
どう説明していけば良いか考えつつ、辺りの警戒はまだ怠らない。もう
「廻道、怪我は? 何故あんな無茶な真似を……」
「あれは儂しか見えんから、儂が相手にするのは当たり前じゃろ。それより常闇こそ、怪我はしとらんか?」
「無傷だ。二度と
そりゃあそうじゃろうな。数匹程度ならまだしも、津波か何かに見間違える程の大群で押し寄せてきたんじゃ。虫嫌いの
「おいクソチビィ! てめえ何と戦ってたんじゃ!?」
「おまっ、爆豪! 助けて貰ってそれかよ!?」
「俺は助けられてねえっ!」
「実際、何と戦ってたんだ? 葉隠のような透明人間か?」
「廻道ちゃーーん!! 大丈夫!? なんか凄い事してたし一人で下に行ってたけど!?」
「廻道くん! 何故一人であんな無茶を!? 大丈夫か!? 怪我は!?」
「一人で戦おうとするのは良くないわ。無事だったから良かったけど……」
「どーでも良いけどさ。本当に血を操る個性? 明らかに衝撃波とかそんな感じの飛ばしてたけど……」
何じゃこやつ等。一斉に駆け寄ってくるでない。あと、一斉に話し掛けるな。そんなまとめて話し掛けられても、誰が何を言いたいのか分からんが?
面倒じゃ……。ひたすらに面倒じゃ……。近寄るな鬱陶しい。儂、機嫌悪いんじゃが? 貴様等がしっかりしてなかったせいで、楽しい時間が台無しになったんじゃが??
次に特級呪霊と出会えるのは、いつかも分からんのに……。やはり惜しい事をした。
……はぁ。猛者と呪い合いたい。それはそうと貴様等。緑谷の心配をしてやれ。腕折れてるんじゃぞ? 麗日一人に任せてて良いのか? 慌ててるぞあやつ。
ううむ。苛立ちが止まらん。こういう時は、甘いものでも食べたいのぅ。けえきが良いな。あれじゃ、黄色くて栗の味がするやつ。ちょこれえとけえきでも良い。今日のおやつは何じゃろうなぁ……。被身子の手作りなら何でも良いが……。
うぅん。やっぱり、けえきが良い。けえきな気分なんじゃ儂は。誰か隠し持ったりしておらんか? おらんよなぁ。
「全員居るようだが、点呼取るぞ。緑谷は婆さんのところに行け。麗日、付き添ってやれ。整列!」
そんなこんなで。この後、点呼を取った後で今日の授業は中止となった。悪党が忍び込んで襲ってきた事で、翌日は休校と通達された。
儂は別途呼び出され、呪力やら呪霊やらについて教師達に説明する羽目に。ひとまずの情報共有を済ませる頃には、日が沈んでおったわ。
は? おやつ食べ損ねたんじゃが? あと、儂はどうやって家まで帰れば良いんじゃ??
何? 安全の為、家まで送る? うむ、苦しゅうない。良きに計らえ。ところでおやつを食べ損ねた件については、許さんからな。
食べ物の恨みは凄いんじゃぞ? 凄いんじゃからな!!
円花居ないと実は全滅した上にオールマイト死んでたと言う事実。黒沐死はいかんよ黒沐死は。今回は円花が安全に処理しましたが、それはそれとしてA組の皆さんはさぞゴキブリが嫌いになったでしょう。黒沐死ファンの方は安心してください。まだまだ出番有ります。こんなところで使い潰すには勿体無いんでね……!
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ