待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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産土神信仰。呪産事由

 

 

 

 

 

 

 何故赤鬼が、かつての儂の姿をしているのか。それに納得してしまった。この島には、かつての儂の遺体が有る。儂が助けた子供達は、隆之は……それを祀り続けた。結果、儂の遺骨に信仰と負の感情が集まり……赤鬼が産まれたんじゃろう。かつての儂の姿を、象って。いや、もう……気色悪いなんてものじゃない。もはや理解出来ん。そこまでして、儂を信仰する理由など何処にも無いじゃろうに。何じゃって、隆之や子供達は儂を信じ続けたのか。生き永らえたのなら、儂の事など忘れて自由に生きていれば良かったものを。

 過去に戻ることが出来るなら、全員一発ずつ拳骨じゃこんなの。阿呆もたわけも通り越した、大馬鹿共め。

 

 じゃけど、まぁ。成したことはどうであれ、あの時代でも生き永らえることは出来たんじゃな。それだけは喜ばしいことじゃ。やった事については、認めてやらんが。

 

「これが貴様の、見られたくない物か?」

【……そうだ。俺はこの亡骸から産まれた。そして今も、確かな繋がりが有る】

「これを壊せば貴様を祓えるってことか? ちっ、つまらんな」

 

 儂はここに呪い合いに来た。かつての自分と対峙するのは気色悪いが、それでも楽しむことは出来ると思っていたんじゃ。なのに、蓋を開けてみたらこれじゃ。いい加減にして欲しい。心行くまで呪い合わせろ。この時代での戦闘は、退屈ばかりじゃ。楽しめる機会は幾度となく有ったのに、その度に何かに邪魔されたりお預けされたりして敵わん。不愉快極まる。

 もし被身子と出会ってなければ、儂はどうなってたんじゃろうなぁ。満たされぬまま、餓えていたのかもしれん。

 

「儂は貴様を祓いに来た。これは壊すぞ」

 

 かつての、儂の遺体じゃしな。なら、儂が壊したって問題無かろう。無いよな? これ、もしや死体損壊で罪に問われるのか?

 

 ……まぁ、遺体を壊した後でこの祠自体を崩してしまえば良いか。そしたら、今後人目に付くことも無いじゃろうし。

 

【それは構わん。だが、ひとつ聞かせろ。

 ……お前は、加茂頼皆の生まれ直しか?】

「そうじゃな。何の因果か知らんが、この時代に生まれ直した」

【そうか。なら、任せられる】

「呪霊なんぞに任される筋合いは無いが」

【いや、有るだろう。俺はお前の代用品でしかない】

 

 くだらん。まっこと、くだらん。何じゃその言い分は。貴様が儂の代用品? 訳の分からん事を口走るな、たわけ。貴様が代用品かどうかなぞ、どうでも良いんじゃ。

 これ以上くだらない話が出てくる前に、済ますべき事を済ませてしまおう。呪力を練り上げ、両手を叩き合わせる。狙いは、赤鬼ではなく儂の遺骨じゃ。それを壊してしまいなら、もうそれで良い。

 

【ちっ】

 

 血液を放とうとした瞬間。呪霊の血が飛んで来た。ので、それを右に跳んで躱す。狙いは変わらず、遺骨じゃ。鎮座する骨に向かって、圧縮した血液を解き放つ。穿血ではない。圧縮した血を、ただ前方に向けて解き放っただけじゃ。骨など、粉々に砕けるじゃろう。

 

 ……が。骨と血の間に、赤鬼が割り込んだ。炸裂した血液は、軒並み呪霊の体に直撃する。呪力を纏っているが、そんな程度で防げる攻撃でもない。

 赤鬼は、自らの血と儂の血で染まった。

 

「壊して構わんのでは無かったのか?」

【……反射的に動いただけだ。死ぬと分かれば、体は勝手に動くものだな……】

 

 傷だらけの体で、血濡れた面で、呪霊は儂を睨んだ。握り拳が震えている。瞳に宿るのは、抵抗の意志じゃ。

 

「黙って祓われる気は、無いようじゃな」

【……そうだな】

 

 ……これは、思わぬ誤算かもしれん。かつての自分と呪い合うのは何とも奇妙な気分じゃが、それでも楽しい時間を過ごせるのであれば儂は文句を言わん。貴様は、儂を楽しませてくれるのか? 心行くまで、呪い合ってくれるのか?

 そうでなくては、困る。此処ならば、邪魔も入らんじゃろう。貴様が消えるその時まで、儂を楽しませろ……!

 

 再び、両手を叩き合わせる。と、同時。赤鬼も両手を叩き合わせた。姿形はもう違えど、目の前にいるのは儂そのもの。己と呪い合いをするなんて事になるとは思わなかったが、楽しめるのなら何じゃって良いっ。

 

「穿血」

【穿血】

 

 放たれた血液が、ぶつかり合う。穿血が衝突し合い、互いを弾いて四方八方に裂けた。周囲の岩壁が、飛び散った穿血に穿たれる。と、同時。儂も赤鬼も、前へと踏み込んだ。真っ直ぐに間合いを詰めつつお互いに苅祓を放つが、それは全く同じ軌道を描き衝突する。妙な感覚じゃ。もし儂がかつての姿のまま、或いは背恰好すら同じなら、この後も似たようなものじゃったろう。

 が、今の儂は小さい上に女子(おなご)じゃ。ならば当然、それに見合った体の動かし方をする。

 

 赤鬼の足を踏み抜くつもりで、踏み込む。が、それは避けられた。から、引き続き苅祓を放ちつつ目の前の脇腹に向かって全力で左拳を振るう……!

 

「せぇ、のおっ!!」

 

 全力じゃ。加減はしない。全力で、腹を殴るっ。つもりじゃった。しかし現実に、拳が捉えたのは赤鬼の右腕。それも肘じゃ。器用に防ぎおって! お陰で拳が痛いじゃろうがっ!

 もう一度、左拳を振り被る。その時、上から左拳が降って来るのが見えた。上体を右に沈み込ませ、避ける。髪に掠った。仕返しに、今度は右拳を左の脇腹に向かって突き出す。けれども、右の手のひらで受け止められた。呪力が衝突し合い、爆ぜる。その衝撃で儂は体ごと拳を弾かれ、赤鬼も体ごと手のひらを弾かれた。

 

 ちっ。どうやら、呪力出力は似たようなものらしい。

 

【聞くが、お前は本当にこの島を守らないのか?】

「そうじゃと、言ったじゃろ!」

 

 話し掛けながら間合い詰めて来たので、返答しつつ今度は踏み込んで来た足を狙って蹴りを放つ。確かに膝下を蹴り込んだ。が、またも呪力が衝突し合い、今度は爆ぜはしなかったものの蹴りの威力が殺された。相手が人間ならば、まだ有効じゃったかもしれんが赤鬼は呪霊じゃ。単純な物理では、傷を負わせられん。

 

「この島に関わるつもりはないっ!」

【何故だ? 誰もか、お前を信じて待っていた筈だ。いずれ、生まれ直して来ることを】

「生まれ直して帰るなんて約束はしとらんが!?」

 

 拳を打ち込む。防がれる。拳が打ち込まれた。避ける。血を放てば、血で迎撃される。中々どうして、手強いなこやつ。良いがな! 儂の攻めを防げるのなら、防ぎ続けてみせろっ。その防御を、突破してやろう!

 

「どっ、こいせぇ!」

 

 今度は全力で、顔面に向かって拳を振り上げる。同時に血を放ち、胴体を狙う! しかしこれもまた、躱されて防がれる。ちっ、受け捌くことは得意のようじゃなっ。呪霊のくせに、何処で戦闘経験を積んだんじゃこやつはっ!

 拳を空振りさせられたことで出来てしまった隙に、血が放たれる。これを血で相殺し、着地して直ぐに距離を取る。反転術式(はんてん)を回し血液を補充していると、赤鬼が両手を叩き合わせた。当然、そう来るじゃろうな。

 

【穿血】

「足らんわ、たわけっ!」

 

 放たれた穿血を、屈むことで避ける。圧縮がまるで足りとらん一撃じゃった。血液は補充したばかりじゃ。距離を離して戦いたいのであれば、付き合ってやらんでもないっ。

 苅祓を三つ、飛ばしておく。並行して、片膝のまま両手を叩き合わせ穿血の準備を進めていく。すると、今度は赤鬼が距離を詰めて来た。儂の両腕を蹴り上げようとしたから、重ね合わせた手に当たる前に両手を離す。そして、圧縮していた血液を置いておく。

 

「甘いのぅ!」

【っっ!!】

 

 留めておいた血液が蹴飛ばされる瞬間に、爆ぜさせる。儂の血は勢い良くあちらこちらへと飛び散り、赤鬼の足に激突した。

 

 一瞬、怯んだな?

 

 僅かに出来た隙を逃さず、苅祓を幾つも飛ばしながら、赤鬼の頭上目掛けて跳ぶ。宙に居る間に両手を叩き合わせ、狙いを頭へと定めておく。圧縮は半端じゃが、この距離ならば有効打になるじゃろう。

 

「穿血!」

【が……っ!?】

 

 脳天に穿血を叩き込む。致命傷には程遠いの。咄嗟に呪力を首や頭部に集中させて、辛うじて受け流しおったわ。着地までの間に、もう一度百斂を……。ちっ。

 蹴りが飛んで来た。ので、それを両腕を交差させて受ける。宙に居ることもあって、踏ん張りが効かん。半ば強引に、距離を離されてしまった。

 

【……、埒が明かないな。この上なくやり難い】

「お互い様じゃ。が、楽しいのぅ……!」

【……まぁつまらなくは無い。が、長引かせたいとも思わん】

 

 ……おいおい。掌印を組みおったわ、こやつ。それは……つまらんじゃろうが。何も楽しくない。領域の競い合いなど、好ましくないんじゃが? なのに、やる気じゃこやつ。呪力の流れからして、間違い無く領域を使うじゃろう。くそっ、つまらん。くだらん……! 領域の競い合いは、もっと後でも良いじゃろうがっ。

 

【領域展開】

「領域展開」

 

 あぁ、もう。つまらん、つまらんつまらん―――!!

 ここで領域勝負になったら、勿体無いじゃろうがっ。せっかく楽しめそうじゃったのに! これから面白くなりそうな気がしていたのにっっ!!

 

 

【奉迎赭不浄】

「奉迎赭不浄」

 

 ……。……は? いや、おい。おい待て。貴様、今なんと言った? 何を口走った??

 

【……驚いたな。同じ名か】

「あぁ、まったくじゃ」

 

 同じ名の領域は、本来有り得んものじゃ。領域は、生得領域の具現化と言って良い。人の心を、結界術で外の世界に引っ張り出すんじゃ。それ故に、同じ領域名など存在しない。何故ならば、同じ生得領域を持つ者は一人も居ないからじゃ。

 じゃというのに、こやつ。何故儂と同じ名の領域を扱うのか。き、気色悪い……!

 

【俺は、加茂頼皆への信仰で産まれたからな。こういう事もあるだろう】

「……」

 

 まぁ、理由なんてものはこの際どうでも良い。気色悪さは有るが、それよりもっと気に食わん事がある。領域の競い合いに、手応えがない。まるで拮抗してないんじゃ。それが何を示すかと言うと……。

 

【……ちっ】

 

 赤鬼の血の海を、儂の血の海が呑み込んで行く。全ては呑み込まれまいと抗っているようじゃが、それも無駄に終わるじゃろう。貴様、何故領域を使った? これならばまだ、領域無しで呪い合って居た方が楽しめたじゃろうに。

 

 両手を叩き合わせる。その時、赤鬼は……まるで全てを悟ったかのような面をして抵抗を止めた。

 

「……穿血」

【―――】

 

 幾条もの穿血が、赤鬼を貫く。直後、こやつの領域は消え失せた。あぁ……つまらんのぅ。こんなつもりじゃなかったんじゃ。儂はもっと楽しみたかった。なのに、何じゃこれは? どうしていつもいつも、こうなるのか。死力を尽くさせてくれ。心行くまで、儂を満たしてくれ。儂の姿をしていながら、こうもあっさり倒れるなど……。許さん。ふざけおって、ふざけおって……!!

 

 

【―――敵わない、か……。そうだろうな……】

 

 

 大の字に倒れた赤鬼が、呟いた。まだ消失反応は起こっとらん。であれば、呪い合えるじゃろう? さっさと立て。こんなくだらん結末を儂に見せるなっ。今からでも、儂を楽しませてみせろ……!

 

【……伝えておきたい事がある】

「……知るか。喋る余裕が有るなら、立ち上がらんか」

【初めから勝てる戦いではなかったさ。俺が負けるのは当然。続けたとて、同じだろう】

「……ちっ。腑抜けが」

【お前には、伝えておくことがある】

「知らん。貴様はもう消えろ」

【……これは隆之の言葉だ。聞いておくべきだろう?】

 

 隆之の? ……ちっ。遺書だけでは飽き足らず、呪霊にまで言伝を頼んだのかあやつは。となると、隆之が生きてる頃から赤鬼は居たのか? 流石にそのような事は無いと思うんじゃけど。そんな事が有り得るのか……?

 

【誰もがお前と共に居たかったそうだ。なのに、最期は独りで死なれて……。それが大層、不満だったらしい。何百年と語り継がれる程にはな】

「……」

 

 ……はぁ。何なんじゃもぅ。隆之まで、くらすめえと達や被身子と同じ事を言いおって。儂が独りで居ることの、何がそんなに不満なんじゃ。仕方ないことじゃろう? あの時も、今じゃって、儂は子供を戦わせたくない。命のやり取りとは無縁の場所に居て欲しいんじゃ。じゃから、独りでやるんじゃ。戦いでなければ、別に頼らんわけでも無いんじゃし。現に、私生活では被身子に頼り切りなんじゃから。

 

【加茂頼皆。お前は、前とは違う生き方をするべきだ。そうでなければ、また繰り返すことになるだろう。

 ……子供達を、悲しませて良いのか?】

 

 ……それは、嫌じゃけどな。とは言え、生き方を変える程ではない。そもそも、生き方ならとうに変えてるんじゃけど? 儂は呪術師としては死なんと決めている。被身子の為に、そこは変えたんじゃ。これ以上、何を変えろと言うんじゃ。まったく、どいつもこいつも。何で呪霊なんぞにまで、心配されなければならんのか。そもそも貴様、何故真幌と活真を守りに出て来なかった? かつての儂と同じ事をしているのなら、しっかりやり通さんか。たわけ。

 

【―――変わるべきだ。でなければ、また赤鬼が産まれることになる】

「その時は、また祓うだけじゃ。儂は呪術師じゃからの。

 生きても死んでも、……生まれ直しても。それだけは変わらん」

 

 この道を歩み続けることになるのは、自然な事じゃ。呪力を持って生まれたのなら、その道を歩む他ない。じゃって、そうしなければ助けられない命が有る。英雄(ひいろお)では駄目じゃ。医者じゃろうと、警察じゃろうと、どんな奴で在ろうとも。呪術師でなければ、誰も呪いから守れない。

 何より。儂は変わらない。変われない。変わりたくないんじゃ。頼人と比奈が死んだと聞かされたあの日から、何一つ変わらず生きてきたんじゃから。

 

【―――】

 

 赤鬼が消えて行く。消失反応が進み、痕跡ひとつすら残さずに。もう言葉すら喋らん。けれども、この呪霊は。

 

 まだ何か言いたいのか。完全に消え去るその時まで、儂を見詰めていた。

 

 

 

 

 

 










そろそろ産土神信仰編が終わりそうです。多分。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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