待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
『あら円花。どうかしたの?』
「ぅ……む。少し、相談したくてのぅ」
『だと思った。被身子ちゃんのことでしょ?』
「うむ。そうなんじゃよ……。被身子の進路についてなんじゃけど……」
被身子が補助監督になると宣言した、その日の晩。儂はこっそり、母に連絡することにした。いおぎ荘の玄関で、被身子から隠れるように。と、言うのもじゃな? 儂が何度駄目じゃと言っても被身子は頑なに「補助監督になるのです!」と言い返してくるんじゃ。儂としては、これは何としても止めたい。止めねばならん。命の危険が無いとは言えんのじゃ。何せ儂が相手にするのは、呪霊や呪詛師。ここ最近、まぁ悪党連合のせいなんじゃが、呪力持ちの悪党が増えて来た。しかも、儂の事を知っている。じゃから、ないんのような悪党が今後出て来ないとは言い切れん。
儂を知った悪党が儂を対処しようとする時、まず真っ先に思い浮かべるのは被身子を狙うことじゃろう。儂と被身子が愛し合ってることは、残念ながら全国に知れ渡っている。じゃってほら、表彰台の上で
もし、補助監督として呪詛師の居る場所に被身子が同行するようなことが有ったら……。もしかすると、被身子が狙われる。そもそも呪詛師相手でなくとも、巻き込まれる可能性が有る。呪術師の任務は、命なんて簡単に失われるものじゃ。そんな所に、被身子を連れ回したくない。
じゃから。どうにかして被身子の進路を変えさせたい。儂だけでは駄目そうじゃから、母の助力を得られればと思い至ったわけじゃ。そして、隙を見て電話した。今、被身子は洗い物をしとるから。しばらく戻って来ない……筈じゃ。
「その、補助監督になると言って聞かなくてのぅ」
『補助監督?』
「ほら、儂……呪術師として活動しとるじゃろ? で、呪術師の活動を補佐するのが補助監督で……」
『別に良いんじゃない?』
「良くない。一緒に現地に出るんじゃぞ。危険じゃろ」
『そこは円花がしっかり守ってあげれば良いのよ』
それは、まぁそうじゃけど。被身子が補助監督になってしまったら、そうするしかない。守り切る自信は有るけども、それでも不安じゃし心配じゃ。出来れば、補助監督になんてなって欲しくない。
『要するに、心配だから被身子ちゃんの進路に反対ってことでしょ? で、私なら止めてくれるかもって思って、電話したんでしょ?』
「ぅ、うむ……」
『なら、母は被身子ちゃんを応援します』
……は? いや、おい。待て待て、何でじゃ。何でそこで、被身子の応援をするなどと宣うんじゃっ。そこはむしろ、儂の味方になって欲しいんじゃけど? 儂一人ではどうすることも出来ぬから、こうして母に電話しとるのに……!
『円花。私や被身子ちゃん、あとついでにお父さんに、散っ々心配させてるのは自覚してる?』
「……しとる。す、すまん」
『母は娘が心配だから、ヒーロー免許を取るまで呪術師は禁止と言いました。約束したわよね? まぁ、直ぐ破らざるを得ない状況になったけど、そっちは良いわ』
「ぐぬ……」
『聞いてるわよ。誰にも頼ろうとしないで、独りで危険に向かって突っ走るって。被身子ちゃんからも、担任からも。あと、緑谷くんからも』
……何、じゃって? 被身子は、まぁ分かる。母と仲良しじゃからの。たまに長電話しとる時もあるし。じゃけど、担任? 何故相澤がそんな事を母に……? って、あぁ。担任じゃからか。で、何で緑谷まで母に話してるんじゃ? いつの間に。そもそも面識は、ろくに無い筈なんじゃけども。もしや、前に一度会った時に話したのか? 何してるんじゃあやつ。いやまぁ……魂を読んだのか。やはりとんでもない個性じゃの、霊能は。
『放って置くと独りになって、危険に突っ走る子が居たら円花はどうする? 例えばそれが被身子ちゃんとか、クラスのお友達なら?』
「……止める」
『止めても駄目なら?』
「……意地でも、一緒に居る。何が何でも」
『被身子ちゃんが補助監督になろうとしてるのは、そういう事よ』
「んん……」
その気持ちは、……分かる。分かるんじゃけども、納得は出来ぬ。納得したくない。万が一にで被身子に何か有ったら、儂は堪えられん。それは被身子も同じじゃけども。
『被身子ちゃんに何か有ったらって思うと、怖いんでしょ?』
「……うむ」
『でもそれは、被身子ちゃんだって一緒なの。円花に何か有ったらって思うと怖いから、一緒に居たくて補助監督を選んだのよ』
「……」
『そんなに嫌だと思うなら、心配させないこと。怖がらせないこと。貴女、それが全然出来てないじゃない』
「……それは……。んん……」
……そうじゃな。出来とらん。心配させぬと、怖がらせないと、儂は被身子と約束したのに。なのに全然、守れていない。治崎の時も、そうじゃった。心配させて、怖がらせて。挙げ句、あんな無茶をさせてしまった。一歩間違えれば、被身子は死んで居たかもしれんのに。
これは報い、なのかもな。被身子の気持ちを蔑ろにした、報いなのかも。でも、じゃけど。それでも……嫌じゃ。こればっかりは、駄目じゃ。
『被身子ちゃんが補助監督を目指すのが嫌なんだったら、心配させない道を選びなさい。怖がらせない道を選びなさい。その為に、何をするべきなのかちゃんと考えなさい。分かった?』
「……ん」
『返事』
「ぅ、む……。分かった……」
ぅ、うぅむ……。叱られてしまった。思いっきり叱られてしまった。何とも、情けない。
『被身子ちゃんのこと、愛してる?』
「……愛しとるよ。急に何じゃ?」
『何より大切?』
「……ぅむ。そう……じゃの。何より大切じゃ」
『だったら、信じてあげなさい。そして、守ってあげなさい。円花は強いんだから、出来るでしょ?』
「……出来る。じゃけど母、やはり心配で……」
『じゃけども、やはりも無いっ!』
「んぐっ!?」
み、耳が……っ。急に大声を出すのは、流石に勘弁して欲しいんじゃけどっ!? と言うか母、今日はやたらと声が大きくないかっ!?
『信じて、守るの。周りの子達にもそうしてあげなさい。
……貴女ねぇ、もっと周りを頼りなさい。それが出来てれば、きっと被身子ちゃんは補助監督を選ばなかったわよ?』
「……ん、……む……」
とうとう、母からも言われた。何でじゃ。何で、誰もが同じ事を儂に言うのか。そんなに、止めたいものなのか? 儂一人にしか出来ぬことを、儂だけでやろうとしてはいかんのか……?
分からん。まっこと、分からん。じゃけど、じゃけども。それが分からんままじゃから、被身子は補助監督になると言い出したんじゃろう。
『今直ぐには無理だろうけど、周りを頼れるようになりなさい。それと、被身子ちゃんだけは今から頼ること。私生活……は、もう頼り切りだから、呪術師としても頼りなさい。ヒーローとしてもね』
「……ん……」
それ、は……。それは、難しい。無理かもしれん。
じゃけど。これからは、そうしなければならぬのかも。被身子を補助監督にするのは、怖い。心配じゃ。絶対に、やじゃ。
―――、あぁ。
そう、か。被身子、あの時はこんな気持ちじゃったのかも。儂が、神野から帰って来た時。大泣きさせてしまったあの時。こんな気持ちで、儂を信じて……やりたいようにやらせてくれたのか。そして、今もずっと。
……敵わぬなぁ、被身子には。被身子にだけは、勝てる気がしない。
「……信じて良いと、思うか?」
『良いとか、悪いとかじゃないのよ。
信じるか、信じられないか。それは自分で決めなさい』
「相分かった。……被身子を、信じる」
『それは被身子ちゃんに言いなさい。まぁ、被身子ちゃんのことだから聞いてるだろうけど』
「は?」
『もう後ろに居るんじゃない?』
いや、いやいや。流石にそんな事は無いじゃろ。無い、よな……? 無いと言ってくれ……!
恐る恐る、後ろを振り返ってみる。すると、そこに居たのは……。
それはもう嬉しそうに笑っている、被身子じゃった。な、何で居るんじゃっ!? 洗い物をしてるのではなかったのか……!?
『それじゃ、後は二人でごゆっくり。あ、そうそう円花。それ、スピーカーになってるでしょ? ほんともう、ポンコツなんだから。やぁねぇ、誰に似たのかしらねぇ』
「は? 誰がぽんこつじゃって??」
『―――』
あ、切れおった。切りおったな、母め。まぁ良い。儂をぽんこつ扱いしたことについては、後でもう一度電話するとして。それよりも、それよりもじゃな。被身子が、笑顔で近寄って来てるんじゃ。いやこれ、多分駄目じゃ。何が駄目って、儂は間違いなく押し倒され―――。
ぐえぇっ! 押し倒されたわっ。い、いかん。これはいかん。
「んふふ……♡ 輪廻ちゃんと、何を話してたんですかぁ?」
「そ、それはじゃな……!?」
「それはじゃな?」
「……んん……。その、じゃから……」
「じゃから??」
んっ。……こ、こら。首を撫でるな。肩を掴むなっ。耳元で囁くなっ!
「怖いけど、心配じゃけど。……でも、お主を信じるから。何か有ったら、必ず儂が守るから……。
じゃから、その。……良いぞ、補助監督に……なっても」
「ふふっ、はぁい。私生活も呪術師も、ヒーローだって、トガがしっかりサポートするのです!
だからぁ。これからは、いつでも何処でも、一緒に居ましょうねぇ……♡」
「んん……っ」
ま、待て被身子。待つんじゃっ。お、おい。何で
だ、誰か止めに来い! 誰でも良いから止めに来い!! でないと、始まってしまうんじゃけど!? 何がとは言わんけど、始まってしまうんじゃけど!!?
この後。いおぎ荘に座敷牢が出来たのは、言うまでもない。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ