待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
気温が高い中で復興作業を続けていると、神主が現れた。それも何人……どころか何十人の島民を引き連れて。何やら真顔で近付いて来とるが、一体何の用なんじゃか。ひとまず話は聞いてやらんでもないが、今現在儂は忙しいんじゃ。後にしてくれると助かるんじゃけどなぁ。
持ち上げている瓦礫を、次々と
「お忙しいところ、失礼します。皆さん、少し頼皆と渡我さんをお借りしても?」
「へ? あぁはいっ! バカップルで良ければどうぞ!」
……葉隠。その物言いは……。いや、まぁ……そう言われても仕方ないか。儂と被身子がばかっぷる、である自覚は……残念ながら有る。歯止めが利かなくなってしまってるからの。時にはこう、慎ましく親密な関係で居たいと思わなくもない。思わなくもないんじゃけど、お互いに我慢が出来ぬからのぅ。愛を伝え合う事に遠慮など要らんと思うようになってしまってからは、人目など気にならなくなってしまったと言うか。そしてそれを、好ましく思ってすら居る。じゃってほら、被身子は儂のじゃって見せびらかしているような気がしての。それも悪くないんじゃ。
まぁ、くらすめえと達にはすこぶる不評じゃけど。まさかこの島で座敷牢に入る羽目になるとはの。八百万の創造は、便利な個性じゃよまったく。
「では失礼して。頼皆さん、渡我さん。大切なお話があります。ご同行して貰えますね?」
何か、どうしても話したい事があるようじゃ。何の用かは知らぬが、聞いてやるとしよう。ひとまずいったん、作業を切り上げて―――。
「あんた、赤鬼様に何をしたんだ!!」
神主に付いて来ていた島民の一人が、そう叫んだ。その声と面に覚えがある。この島に来てから、何度か面を会わせた老婆じゃの。そやつは足元に転がっている石を振り被り、儂に向かって投げた。当たったところで怪我をするものでもないし、特に何もせず受けることにする。
まぁ、こうなるよなぁ。少し考えれば分かる事を、すっかり失念していた。この島の住民は、赤鬼を産んだ連中じゃ。始まりは儂への信仰じゃったのかもしれんが、時間が経つにつれ信仰対象が赤鬼に変わっていても何ら不思議ではない。
で、その赤鬼を祓ったのは儂じゃ。何なら、祠から骨を持ち去ったのも儂じゃ。ちなみにその骨は、持ち帰った日の晩に呪力で砕いて海に流した。
「祠に入ったのかい!? だからさっさと追い出そうって、あたしゃ言ったんだよ!!」
「落ち着いて婆さん。まずは話を聞こう、その為にみんなであの子に会いに……」
「お黙り!! あの子は御神体を持ち出したんだろう!? 赤鬼様に何かしたんだろう!? 話を聞く必要が、何処に有るってんだい!!」
また、石が飛んでくる。ひとつふたつ、みっつと。島民の一人が老婆を止めようとしたが、無駄じゃった。老婆は引き続き石ころを投げているが、儂には届いたり届かなかったり。これ自体には何の問題も……無いわけ無いか。離れたところに居た被身子が、儂の方に駆け寄って来ている。いや、被身子だけではない。くらすめえと達も、ながんもこの状況を見て動き出そうとしている。
……いかんな。しくじったか。こうなると、ひたすら面倒なだけじゃ。
「まぁ待て、話を聞こう。儂を何処へなりとも連れて行けば良い。
……代わりに、他の子供達には手を出さんでくれるか?」
ひとまず、儂の身を差し出しておこう。それで溜飲が下がるかは知らん。しかしまぁ、今になって騒ぎ始めたか。それだけ儂の骨と、赤鬼の存在がこの島には大事じゃったと言うことじゃ。それを土足で踏み荒らしたのは、まぁ儂等じゃけども。
「っっ、待ってください! それならトガも一緒に行きます!!」
「……私もだ」
「いや、それはじゃな……」
良くない。まっこと、良くない。怒り狂った島民が何をしでかすか分からん。ながんは儂から離れられぬ故に仕方ないとして、被身子を連れて行く訳には……。……しかし、うぅむ……。ここで儂が一人で島民に連れ出されてしまえば、それはそれで被身子を心配させてしまうか。
何より、儂は約束しているからの。早速こんな形で、被身子に負担を掛ける羽目になるとは。呪術師をやっていると嫌でも向き合う羽目になるこういう面を、最初から見せたくは無かったんじゃが……。
「えっと……、ヨリミナ。これ……どういう事……?」
「気にするな。お主等は復興作業を続けてくれ。
……何、大丈夫じゃよ。この手の事は呪術師をやってればよく有ることじゃ」
くらすめえと達にまで、心配されてしまっている。これはこれで、良くないのぅ。この騒動に巻き込みたくは無いんじゃけど、皆は間違いなく首を突っ込んでくるじゃろう。
「……すみません。貴女は貴女がすべき事をしただけなのに」
「仕方ない事じゃ。儂にも非は有るところじゃしの。ほれ、さっさと連れてけ」
神主が申し訳無さそうにしているのは、島民達を止め切れなかったからじゃろう。くらすめえと達に何もしなければ良いが、場合によっては有り得るか。
その時は……うむ。いつも通り動くだけじゃ。流石に、殺しはせぬが。ただ、二度と子供に悪さが出来んように痛め付けるだけじゃ。
「……すまん、巻き込む」
「それは別に良いんですっ。私と火伊那ちゃんは、円花ちゃんの補助監督なので……!」
「そういう事だ。どの道、私はあんたから離れられないからな」
……と、まぁ。こんな形で。儂等は、そして……くらすめえと達も。人の負の感情と向き合う羽目になってしまった。赤鬼を祓った後、直ぐにでもこの島を出るべきじゃったかもしれんな。
◆
島民達に囲まれる形で、被身子と儂とながんの三人は神社にやって来た。で、神社の本堂に連れ込まれて囲まれた。どいつもこいつも、儂等を殺気立った目で睨みおる。どうやら余程、頭に来ているようじゃの。そうなる原因を作ったのは、儂じゃけど。
「だから言ったんだよ! さっさと追い出すべきだって! 野放しにしといたから、御神体が無くなったんだ!!」
「そうだそうだ! 神主、どう責任を取らせるつもりだ……! 御神体が無くなったら、赤鬼様はどうなるんだ……!?」
「そもそもこんな子供が、頼皆様の生まれ変わりなんて事は無いだろう!? ちょっと似たような個性を持ってるからって……!!」
うぅむ、騒がしいの。若いのも混じっているが、主に老人達が儂等を指差したり睨んだりしながら怒鳴り合っておる。こういう老人にはなりたくないものじゃの。いやまぁ、中身の年齢で言えば儂はとっくに老人じゃけども。若いのは外見だけで、それも女体じゃし。
「……皆さん。まずはこの方から事情を聞きましょう。そもそも、彼女達が御神体を盗んだとは限りませんし」
「あたしゃね! 島乃さんちの子達が、その娘達を祠まで案内してる所を見たんだよっ。
そして今日、御神体が無くなってたんだ! だったら、その子達の仕業に決まってるんだ!!」
うむ。まぁ、それは正しい事じゃの。儂等は真幌と活真に案内された事で、祠に辿り着いた。その後は赤鬼を祓い、かつての儂の遺骨を勝手に持ち帰った。で、骨は砕いて海に流したとも。島民にとって、あの骨はかなり大切な物だったようじゃ。儂の死体を御神体として崇めるとは、何とも気色悪いんじゃけど。今じゃって、神社の中には儂の羽織りと隆之の刀が祀られておる。隆之の遺品はともかくとして、儂の羽織りは処分して欲しいものじゃ。真っ二つに裂けた血濡れの羽織りなぞ、祀るような物では無いと思うし。
「とにかく、話を聞きましょう。事実確認をして、糾弾するのは……それからで良いのでは?」
「ふんっ、聞いたところで変わらんさ!」
それもまぁ、その通りではあるの。しかしこの老婆、随分と声が喧しい。耳に響く。もしや、事務所に悪戯電話をして被身子の耳に向かって叫んだのはこやつか? じゃとしたら許さんが。
「頼皆さん。貴女達は、海辺の祠に立ち入り御神体を盗み出しましたか?」
「う、むぅう……っ。むぐむぐむぐ……!」
神主の言葉に答えようとすると、被身子に口を塞がれた。これでは話せん。おい、何じゃ被身子っ。答えさせんかたわけっ。隠したって、何にもならんと思うが?
「それにはトガが答えます!
まぁ確かに、祠の近くまでは行きました。でも、道が狭かったので途中で断念して戻ったのです。それと……御神体? って何ですか?」
……うぅむ。儂の口を塞ぐだけ塞いで、そのうえ平然と嘘を並び立ておったわ。確かに事実を話したら何かと面倒な事になるじゃろう。それは分かる。嘘も方便とは言うが、じゃからってそんな平然と人を騙すような真似はして欲しくはないのぅ。被身子なりに考えて、嘘で切り抜けようと思ったことは尊重してやりたいとも思うんじゃけど。
「……そうですか。頼皆さん、これは事実ですか?」
「……」
神主も、他の島民も、被身子の嘘を聞いた後で一斉に儂を見る。疑いの眼差しが集中するのは、何とも居心地が悪い。
さて。この状況、いったいどうしたものか。被身子の嘘に便乗してしまうか? いやしかし、調べれば分かることなんじゃよな。大人達が真幌と活真に詰め寄れば、二人は話してしまうじゃろう。同行していた緑谷や麗日じゃって、黙って居られるとは思えん。今ここで島民を騙せたとしても、後で事実が発覚したら余計に面倒な事になるだけじゃしなぁ。
……じゃからって、素直に謝るつもりも無いんじゃけど。じゃって、儂は呪術師として必要な事をしただけじゃ。呪霊を祓い、呪霊の発生源を潰した。その為に御神体を砕いて海に投げ捨てた。これを咎められても、ただただ面倒なだけじゃ。
「ヨリくんは黙っててください。これは、正直に話しちゃ駄目ですから」
そう、被身子に囁かれた。他の連中には……聞こえて無さそうじゃの。さて、いったいどうしたものか。この場を切り抜けるのは、最悪実力行使で良いじゃろう。島民が何人居ようが、儂なら問題は無い。全員赤縛で縛り上げるなりなんなりして、それで終いじゃ。しかしそれは、相手からの恨みを買うことになる。儂個人には何をしたって構わんが、恨みの矛先が儂以外に向けられるのは好ましくない。それは許せん事じゃ。と、なると……。……うぅむ……。
……仕方ない。嘘で切り抜けられるなら、一旦は切り抜けるとするか。で、その後でくらすめえと達と合流して、何が有ったのかを伝えよう。今後島民達が何かしてくるかもしれんからの。注意喚起をして、儂が守るとしよう。何、大丈夫じゃ。人の悪意など、儂からしたら大した問題では無い。
ひとまず、神主の問い掛けに頷いてみる。任務は終わったと言うのに、面倒な事になってしまった。
どうしたものかのぅ、これ。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ