待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
神社の本殿。その裏にある居住部分の和室に、現在儂等三人は監禁されている。部屋の外には、二人以上の見張りが居る。障子一枚を隔てては居るものの、恐らく聞き耳を立てて儂等の会話やら行動なんかを監視していることじゃろう。こんな面倒な事をする暇が有るなら、全員で復興作業に取り掛かった方が余程島の為になると思うんじゃが……。まぁ、良いか。信仰に溺れた老人など、話が通じる相手でも無いしな。
取り敢えず被身子の並べ立てた嘘に乗ってみたものの、儂等を非難する何人かの島民達は儂等を信用することは無かった。まぁ、当然と言えば当然かもしれん。儂等が言ってることが真実かどうかは分からぬしな。裏を取るまでは監視させて貰うなどと言い出しおったわ。それを無視しても良かったんじゃけど、そうすると余計に話が拗れそうじゃったから一度従ってみることにした。被身子とながんが巻き込まれている手前、無茶な真似をするわけにもいかんしの。
そんな訳じゃから、今は三人揃って和室に居るわけじゃ。今は、これからの事を囁き声で話し合ってる最中でもある。それはそれとして、被身子は儂の膝を枕にして寝転んで居るが。こんな状況じゃって言うのに、図太い奴め。
「それで、どうする? 裏を取られたら更に面倒な事になる。さっきのは、直に嘘だってバレるだろ」
「真幌ちゃんや活真くんは話しちゃうでしょうしねぇ……。どうしましょうか?」
「いざとなったら、全員縛り上げるなりするが? 正面からの制圧は容易じゃ」
「まぁそれは、最終手段ですけど。これって、拉致監禁になるんですかね?」
「拉致はともかく、監禁にはなる。現に私達を見張った上で、閉じ込めてるんだからな」
まったく。面倒な事になってしまったものじゃ。信仰対象をどうこうすれば、まぁ信心深い連中が何かしでかすと予想は出来たんじゃけどな。その辺りを考えずに、赤鬼を祓ったり儂の遺骨を持ち出してしまったのは不覚じゃった。細かな事を考えずに動いた結果が、今回の事態を招いた。ながんはともかく、被身子まで巻き込む羽目になってしまった。この後、更に子供達を巻き込むことになるじゃろう。これは良くない。まっこと、良くない。
どうにかしたいとは思うが、下手に動くと事態が悪化するのも事実じゃ。出来ることなら、くらすめえと達を巻き込むこと無く解決したいの。もっとも、儂等が囲まれる形で連れ出されるところを何人かのくらすめえと達は目撃している訳じゃけど。変に話が広まって無ければ良いがのぅ。下手をすると、此処に乗り込んで来る可能性が有る。それはそれで、話が拗れそうじゃ。
……それに。出来れば、誰にも関わって欲しく無い。こんな形で、人の悪意や害意を知って欲しくないんじゃ。
「嘘だったってバレる前に、ここから抜け出しちゃいます?」
「……いや。その場合、他の子達に危害が加わるかもしれない。逃げ出したら、今度はあの子達の誰かがこうして監禁されるかもな。私達を呼び出す為に」
「んん……。そこまでやったら、
「信仰心に取り憑かれた人間は、行くところまで行く。だからカルト宗教は消えないんだ」
……そうじゃな。かると? は知らんけど、ともかく昔も今も行き過ぎた信仰心を持った者はどこかで暴走してしまう。この島の産土神信仰は、平安時代から途切れる事無く続いてるものじゃからのぅ。熱狂的な信者が居てもおかしくはない。むしろ居なければ続いておらんじゃろう。現に今、儂等を監禁してるのは神主曰く過激派らしいしの。
「嘘がバレるのは時間の問題だ。どうする?」
「スマホも取り上げられちゃいましたし、先に連絡して口裏を合わせるってのも無理ですね。その場しのぎの嘘なんて吐かなきゃ良かったのです」
「まぁ、やった事は仕方ないじゃろ。大事なのは、その後でどうするかじゃ」
被身子がしてしまった事は、結局良くは無かった。むしろ、これから悪くなる。儂等が島民に連れ出された事は既にくらすめえと達全員が知っているが、じゃからって儂等が監禁されているとまでは思わん筈じゃ。都合の良い助けは来ないじゃろう。
……じゃったら。もう仕方ないか。黙って監禁されてるつもりもないし、動いてしまおう。何、大丈夫じゃ。島民から永遠に恨まれることになろうと、儂は気にならん。
「駄目です」
「ぷえっ」
下から鼻を摘まれた。何じゃもぅ、まだ何もしとらんが? 何かするのはこれからで、止めてくれるな。手っ取り早く脱走してしまえば良いんじゃ。後の事は、総監部にでも放り投げてしまえば良い。今は被身子と、ついでにながんの安全が最優先じゃ。それと、くらすめえと達に恨みの矛先が残らんようにしなければ。
今回の件は、儂の自業自得じゃからの。その尻拭いは自分でしなければなるまい。となると……。
「だから、駄目なのです。物騒な事考えたら、めっ! ですよぉ」
「実力行使での脱出は最終手段だ。会話でどうにか出来るなら、それに越したことはない」
どうやら、駄目らしいの。儂のやり方を良くないと、二人は思っておる。まぁ儂としても平和的に解決出来るのならそれに越した事は無い。この和室を出ることは簡単じゃけども、それじゃと島民達が何をしでかすかも分からん。強行突破以外の方法が有るのなら、その方が良いに決まっている。んじゃけども、儂は何も思い浮かばんぞ。
「……何を話したって、話にならんと思うが?」
「んーー……、それなんですけどぉ。一応無くもないのかなーー……って」
「……話してみろ」
どうやら、被身子には何か思い浮かぶ事が有るらしい。それがこの状況をどうにか出来るのであれば、頼ってみるとしよう。まさかまた、嘘を並び立てるなんて真似はしないじゃろう。
「その、この島の信仰って赤鬼……。つまり、円花ちゃんに向いてるものですよね?」
「……何でこの子に?」
「まぁそこは、色々有ったんですよ火伊那ちゃん。それはもう深い事情が有るんですけど、今は説明を省きます。
……で、島の人達は御神体が無くなったことを怒ってる訳で。だったらぁ、そのぉ……。……んん……」
おい、何じゃ。お主にしては珍しく、言い淀みおって。普段は突拍子も無いことを口走って儂も周囲も盛大に振り回すくせに。
そんな被身子が言い淀むということは、余程ろくでもないのか? いや、こやつが口走ることは大抵ろくでもない。悪どい笑みも一緒じゃったりもする。こんな風に言い淀んで、儂の顔色を窺うことは珍しい。いったい何を思い浮かんだんじゃ、こやつは。
「……円花ちゃん。いっそ何もかもぶち撒けて、信仰されちゃいません?」
「は?」
は?
「……は??」
「いや、まぁ……そういう反応しちゃいますよね……。でも実際、手っ取り早いって言うか。あの人達が直ぐに信じてくれるかは怪しいですけど、でも……可能性は有るのかなって」
え、えぇ……? 何を言ってるんじゃ、こやつ。また訳の分からん事を口走りおって。全てをぶち撒けてって、それは儂が生まれ直しで有ることを島民に伝えろってことか? そうでなければ、島民に信仰されるかどうかを聞いてきたりせんよなぁ。
……まぁ、確かに。儂がかつての加茂頼皆で有ることを暴露すれば、この事態は収束するのかもしれん。もしかすると、じゃけど。
いやしかし、それは無理じゃろ。流石に無理じゃって。島民が、儂の話を信じるとは思えん。
「私とヨリくんだけの秘密を他の人に教えるなんて、絶対ヤですけど。ヨリくんの事は、私だけ分かってれば良いの」
「……どっちじゃ貴様……」
生まれ直しであることを広めろと言ったり、広めるなと言ったり。言ってることが真逆になっておる。どんな手のひら返しじゃそれは。まったく、仕方のない。
……その気持ちは、分からなくも無いけども。じゃってほら、これは儂と被身子だけの秘密じゃ。他の誰かに話すつもりは無いんじゃ。なのに、この秘密を晒して信仰されろと? いやいや、駄目じゃ駄目じゃ。信仰などされたくないからの。そんな柄でもないしな。
儂はただ、やりたいようにやり続けただけじゃ。そこに見返りを求めたいとも思わん。見返りなんかを貰うより、一人でも多くの子供を助けたかった。……これはこれで、隆之は癪じゃと思ってたようじゃけどな。
「儂の事は、話さんで良いじゃろ。信じて貰えると思うか?」
「隆之さんの言葉が現代まで残ってたんですから、案外信じちゃうと思うんですけどねぇ。ほら、ずぅーーっとヨリくんを信仰してた人達の子孫ですよ? だから、ワンチャンある気がしてならないんですよねぇ。
それが、とっても嫌ですけどっ!」
「ぐえぇっ!」
じゃ、じゃから被身子っ。急に抱き付いて、そのまま押し倒すんじゃない! せめて首に回した両腕の力を緩めぬか……! 首が締まるんじゃ首が!!
「……だからつまり、どういう事だ?」
「要するに、円花ちゃんを信仰対象にしちゃいましょうって話ですよぉ。これ、自分で言っといて大反対ですけどっ」
「ぐえぇ……」
し、締ま……。首、締ま……っ!
「腕を緩めてやれ、極まってるから」
「じゃあこうですっ」
「うぐっ」
ぶはっ。死ぬかと思った。遠慮なく首に抱き付くのは、危ないから止さぬか被身子。危うく絞め殺されるところじゃった。
覆い被さる、どころかのし掛かって来た被身子が頬擦りしてくる。何じゃもぅ、わがままで甘えんぼなんじゃから。仕方ないから頭を撫でたり、背中に腕を回してやるとする。どうせまた、ながんは呆れるんじゃろうけどな。
「……馬鹿やってないで、これからどうするのかちゃんと考えろ」
「馬鹿じゃなくて、愛の確認作業なのですっ」
いや、それは馬鹿じゃろ。とは、言わんでおこう。口走ったが最後、被身子が盛大に機嫌を損ねて何をしでかすか分からん。それに、儂もその……。ほら、愛の確認作業……? とやらは、……まぁ……歓迎じゃし……。
なんて、思っていると。
「失礼します。頼皆さん」
襖が開き、神主が姿を現した。何やら疲れ切った顔をしている上に、見覚えが有る羽織りと脇差しを手に持っている。おいおい、物騒じゃな。いったい何のつもりなんじゃか。場合によっては、その手を吹き飛ばすぞ??
「皆で話し合い、勝手ながら貴女の処遇を決めさせて頂きました。どうか、この脇差しを振るっては貰えないでしょうか?」
……は? おい、今度はいったい何じゃ? どういうつもりで、そんな訳の分からん頼みをしてくるんじゃ貴様……!
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ