待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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産土神信仰。自己証明

 

 

 

 

 

 

 神主曰く。この島に根付く産土神信仰の過激派は、儂の存在を認めたくないとのことじゃ。しかし穏健派でありながらも過激派に属する神主は、儂こそが新たなる赤鬼であり、加茂頼皆の生まれ変わりなのだと両派に主張したそうじゃ。

 穏健派でありながら過激派とは、これ如何に。恐らくは中立ってことなんじゃろうけども、よく分からん。知りたいとも思えんしの。で、穏健派は儂が加茂頼皆の生まれ変わりと素直に信じたそうじゃ。元々、勝手に儂を推していた一派でもある。で、どうやら過激派の方は儂が生まれ変わりである証明が欲しいと。それが出来れば、此度の御神体喪失の件についてもう儂や儂の周りの者達に何もしないと言ったそうじゃ。さぞ見下した感じじゃったらしい。神主自体、そんな対応が頭に来たのか「あの呆け老人共め……」と、神主らしからぬ言葉を吐いていたが。

 

 ともかく、じゃ。儂はこれから、隆之が遺した呪具を振るうことになる。何でも、儂が頼皆ならば隆之が遺した物を万全に扱えるだろうと。それから幾つかの質疑応答を挟んで、納得が行けば引き下がるらしい。

 

 じゃから今。隆之の呪具を思う存分振るう為に、海辺まで連れて来られた。もう日が沈み始めているにも関わらず、じゃ。

 

 ……何でも、過去に隆之はこの呪具を用いて海を割ってみせたらしい。頼皆ならば、それと同じ事が出来るだろうと老人共は宣っておったわ。訳分からん。これは呪具じゃぞ。誰が振るっても、ある程度は勝手に機能するものじゃ。本領を発揮するとなると、呪具そのものに呪力強化を施す事になるじゃろうけども。

 こんな物を振るったとて、儂が加茂頼皆であることの証明になんてなる気はしないが……。まぁ、良い。それで気が済んで、穏便に済むのなら文句は無い。理解は、及ばぬがな。

 

「何だか、よく分からない事になったのです」

「まったくだ。その脇差し、余程特別な物なのか?」

「……術師が一つの武器を使い続けるとな。やがて呪力が染み込み、術式が付与されたりするんじゃ」

「……つまり?」

「別段特別でもない。確かにこの呪具には、隆之の術式が刻まれているようじゃけど」

 

 手にしただけで、分かる。この脇差しに触れているだけで、懐かしさを感じるんじゃ。これは、隆之の呪力じゃ。何度も見て、何度も感じて来た呪力の気配じゃ。まったく、こんな物を儂に残しおって。使い所なんて無いと思うんじゃけどなぁ。それこそ、海の上とか海の中で呪い合わなければ使い所が無い。隆之の術式は流水じゃ。水……と言うより液体であれば、術式の支配下に置いて自在に操る。じゃからあやつは、水を使い赤血操術の真似事をしていたりした。それとあやつは呪力に特性が有っての。呪力そのものが、水に近い性質を持っておった。つまり隆之は、自らの呪力を自由自在に操れたわけじゃ。

 呪力の流し方じゃったり、動かし方はいずれ儂よりも優れたかもしれんの。そんな成長を見る前に、儂は死んだけども。

 

 現在。儂は海辺に居る。神主を含んだ十数人の島民に囲まれ、砂浜の上に立っておる。何故か、隆之が遺した黒い羽織りを着てな。大きさがまるで合っとらんから、裾は砂の上に引き摺る羽目になってしまっているが。

 この羽織り自体も、どうやら呪具になっとるの。脇差しのように術式は付与されておらんが、呪力が染み付いている。染み付いた呪力は、儂の知らん呪力じゃけども。ほんの少し隆之の呪力を感じるような、感じないような。変な羽織りじゃの、これ。いったい誰が作った?

 

「……トガはよく分からないですけど。でも、それはちゃんと使わなきゃ駄目なのです。だってそれ、隆之さんが遺した物ですから」

「呪具なんて、消耗品じゃけどな。壊れる時は壊れる」

「それでも、大事に使うんですっ。そんな素敵な物、簡単に壊しちゃ駄目ですよぉ」

 

 ……。……いや、拗ねた顔で言われてもな。お主、さては隆之に嫉妬しとるな? 既に故人となった小僧に、こうも嫉妬するのか。それは何と言うか、少し……かぁいい気がしないでもない。仕方ない奴じゃとも、思うけど。

 じゃけどまぁ。良いんじゃ、別に。儂は被身子に、これ以上と無く愛されてる気がしての。実際そうなんじゃけど、実感させられると言うか。

 

「んん゛っ。それでは、準備はよろしいですか? 思う存分、その刃を振るってください。そして願わくば、貴女が加茂頼皆であると証明して頂きたい」

「……こんな物を振るったとて、何が証明出来るとも思わんが。まぁ、良いじゃろう」

 

 神主と、島民達の視線がさっさとやれと語っている。ちっ、空気の読めぬ奴等め。儂と被身子の時間を邪魔するでない。儂の気が済むまで待てんのか、まったく。

 

 柄を握り締め、鞘から刃をゆっくりと引き抜く。何じゃ、随分と綺麗な刃をしておるの。傷も汚れ無ければ、曇り一つ無い。新品同然に思える。長く使われ続けた呪具の筈なのに、劣化が少ない気がする。まぁ、呪具になった時点で物質の頑丈さや保存性の高さは凄まじいものになるんじゃけども。

 

 それにしても、この呪具。不思議なものじゃな? この感覚は……手に馴染む? ……いや。ただ単に儂が、勝手に懐かしさを覚えているだけじゃの。

 

 

 ―――のぅ、隆之。余計なお世話じゃよ、たわけ。貴様が心配しなくとも、儂はもう幸せに生きとる。上手く行かない事もあるけれど、何かと大変な事も有るけれど。それでも、幸せじゃと胸を張って言える。

 じゃって、被身子が居るんじゃ。あの日出会ってから、ずっとずっと一緒に居てくれる女性(ひと)が居る。しかも婚約者じゃぞ、婚約者。将来は、結婚するんじゃ。まぁ、儂自身が女子(おなご)の身に産まれ直した事は……よく分からんけど。

 

 

 浜辺から海へと真っすぐ歩き、足に波が触れても進む。やがて、膝下まで波に呑まれた。柄をしっかりと握り締め、刃を高く振り上げる。高く掲げたまま、一度柄を握り直す。あぁ、変な感じじゃ。もう隆之は居ないのにな。それなのに、今も直ぐ隣に居るような気がしてならん。

 

 貴様は、儂が何も受け取らないことを癪と思っていた。何がそんなに気に食わないのかは知らんが、この脇差しと羽織りは……受け取ってやる。でないと被身子に怒られるし。それに、こうして手に触れて見ると……うむ。

 

 存外、悪い気がしないんじゃ。

 

 高く掲げた刃に呪力を込め、真っ直ぐ振り下ろす。空を斬った刃は、やがて波に触れる。

 

 ……不思議な感覚が、した。海面に向かって振り下ろしたのに、何の抵抗もない。思わず手元を見てみると、脇差しそのものはまるで濡れていない。

 

「……うわぁ……」

「こんな事、個性も無しに有り得るのか……? いや、個性が有ったってこんな事には……」

 

 後ろから被身子と、そしてながんの驚いた声がする。島民達は、大きく息を呑んでいるようじゃ。前を見てみれば、目に映るのは……。

 

 うぅむ……。これは、とんでもないの。海が割れておる。見事に割れて、まるで向かい合う滝のようじゃ。水飛沫が煙となって、とんでもない。とんでもないが、この呪具の術式を使う事はあまり無いじゃろう。じゃってほら、言ってしまえば水を操るだけの術式じゃからの。水辺か海辺でなければ、使い道が無い。

 取り敢えず、振り返ってみる。事を見ていた島民達は誰もが目を丸くし、口を開いた間抜け面。そこまで驚くような事では……。いやまぁ、脇差しの一振りで海が割れたら誰でも驚くか。儂も、驚いたんじゃし。

 

「で? 儂に何を聞きたいんじゃ?」

「……ええ、まぁ。しかし、それは必要無いのかもしれませんね。貴女は、見事に海を割ってみせた。言い伝えによれば、これは私の祖先がやった事と同じでしょう」

「それは、……どうじゃろうな」

 

 儂は、ただこの脇差しに呪力を込めて振っただけじゃ。その結果、海が割れた。呪力を流し込める者ならば、誰じゃってこの呪具を存分に扱えるじゃろう。なのに、儂を頼皆の生まれ変わりと断定するのは早くないか?

 まぁ別に、疑われずに済むのならそれで良くは有るんじゃけども。島民達が大人しくなるのなら、それはそれで。

 

 未だ唖然としている島民達を横目に、脇差しを鞘に納める。

 

「わ、わたしゃ認めないよ……! 幾ら海を割ったって、何の証明にも……!」

 

 それはそうじゃな。儂もそう思う。しかし、他の連中はそうでもないらしい。この老婆の言う通りにするべきか、或いは神主のように儂を認めるのか。それを悩んでいるように見えなくもない。どっちだって良いんじゃけどな。子供達に危害が加わらぬのなら、儂はそれで。

 それはそれとして、この脇差しは神主にしっかりと返さねばな。隆之の遺品じゃとしても、これは儂の物ではない。後で総監部が回収するじゃろうけど、今は持ち主の手にあるべき物じゃ。隆之の子孫が持つことの方が、儂が持つよりも良いじゃろう。被身子は、反対するじゃろうけど。

 

「……その脇差しは、貴女に差し上げます。もちろん、羽織りも。貴女が持つに相応しいと、私は感じましたので」

「儂が生まれ変わりじゃったとしても?」

「生まれ変わりだからこそ、今度こそ共にあって欲しいと思うのです。この島に住まった子供達は、きっと……頼皆様と共に在りたかった。ならそれを、叶えてあげたいと思うんですよ。

 ……この島の伝承を継ぐ者として」

「……ですって。良かったですね、円花ちゃん」

「……」

 

 何が良いんじゃか。そこはまったく分からん。こんな物を押し付けられたって、嬉しくも何とも無い。儂は誰かの遺品を大事に抱えたいとは思わんからの。それに、助けた子供達から何かを授かりたいとも思わん。儂に何かを渡すぐらいなら、今度こそ幸せに生きてくれた方が何倍も良いのに。

 

 ……まぁ、そういう意味では。この島が現代まで存続しているのは、悪くない。と言うか喜ばしいのかもな、儂。

 儂が助けた子供達が生き延びて、大人になって……子を育んで。そうして、今の時代まで続いたのがこの島じゃ。きっとこの先も、続いて行くんじゃろうな。それこそ、儂が望むべきものじゃ。子が続くとということは、しっかり幸せになれたと言うことでも有るし。

 

「認めないよ……! あたしゃ、認めない……っ! あんたが頼皆様の生まれ変わりだとしたら、どうして今なんだい!?」

「それは知らん」

 

 何故この時代に生まれ直したか、なんて。それは儂が聞きたいぐらいじゃ。何か理由が有るんじゃろうけども、何なんじゃろうな? 確か隆之の遺書に何か書いてあったような……。

 ……思い出せん。何て書いてあったんじゃっけ? 何か、書いて有ったような無かったような……。うむ、忘れたの。記憶力が悪い、なんてことは無い筈なんじゃけども。

 

「まぁ、それでも。儂は加茂頼皆の生まれ変わりじゃよ」

 

 実際は生まれ直し、なんじゃけども。世の中、不思議なものじゃ。死んだと思ったら生まれ直す、なんて不可解な事も有るんじゃなぁ……。

 

「それを証明する手立ては!? そんなの、あんたの勝手な言い分じゃないか……!!」

「円花ちゃんは、頼皆くんの生まれ変わりですよぉ。それは、ずっと一緒に居たトガが保証するのです!」

「待て渡我。こんな時ぐらい、大人しく……」

「こんな時だからこそ、大人しくなんて出来ないの!」

「おぐっ」

 

 抱き付くな抱き付くな。急には止さぬか、急には。まったく、仕方のない奴め。日に何度でも儂に抱き付かんと気が済まんのか? 儂は、抱き付いて貰わねば気が済まんぞ。すっかりそう思うようになってしまった気がする。

 

「……何か、ありませんか? 貴女が頼皆様の生まれ変わりである、証明となりそうなものは。例えば、前世の記憶とか」

 

 何か? ……何かと言われてもなぁ。まぁ前世の記憶は確かに有るが。

 あぁ、そうじゃ。隆之に話した事が伝え残っているのなら、儂が隆之に話した事を言えば少しは証明になるのかもな。生まれ直しの証明なんて、必要とは思わんけど。しかし今は、それが必要な状況でもある。

 

 ……とは言っても。いったい、何を話すべきかのぅ……? うぅむ、何か有りそうな気がしないでも……。うぅむ……。

 

「何か無いですか? 隆之さんとの、思い出話」

「……隆之は、生き物の内臓を見るのが駄目での。それと初めて会った時は、そう……。死人の山に埋もれてたんじゃ。危うく素通りするところじゃったのを覚えとる」

「……それはそれは。記し遺された伝承の通りですね」

 

 は? 記し遺された……? 記し遺したのか? あのたわけ。じゃがまぁ……、それなら覚えてる限りに隆之について語ってやるとするか。儂は記し遺された伝承など、知らん。この島に来て、そんな物を見た覚えは無い。

 これが証明になるかは知らんけど。何なら、多分ならんと思うが。

 

 それでも。何故か神主は興味有りそうに耳を傾けている。それは、さっきから叫んでばかりの老婆もそうじゃ。ならば、まぁ……。

 

 少しだけ、語ってやらんでもない。何と言うか今は、そういう気分じゃ。こんな呪具を振るったせいか、隆之の事を思い出しても良いと思ったんじゃよ。

 

 

 

 

 

 

 

 









三人称による補完は要りますか?

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