待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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産土神信仰。追憶回想

 

 

 

 

 隆之との出会いは、まぁ最悪なものじゃったと思っておる。

 

 何処ぞの山奥にある村が、戦の被害に遭っての。儂はたまたま、そこに辿り着いた。別の目的で野道を歩いて居たら、偶然にの。それで、その村で生き残ったのは、隆之一人じゃ。大人達は全員、せめて子供だけでも守ろうとして死に絶えた……らしい。もっとも、隆之以外の子供は死んだが。正確な事は知らん。これは隆之の言じゃからの。で、あやつは死体の山の下に埋もれておった。屍しか無い光景の中で気分と機嫌を悪くしていたら、呻き声が聞こえて来た訳じゃ。じゃから、隆之の存在に気付いたのもたまたまじゃ。たまたま。それ以上でも以下でもない。ないったら、ない。

 

 とにかく。そんな偶然、或いは奇跡的な出会いを儂等は果たした。果たした後、儂がやることと言えばひとまずの保護じゃ。別の村か、或いは街か。そこまで隆之を連れて行って、何処ぞの家で面倒を見て貰えればなと思っておった。

 まぁ、最終的に。隆之は儂の後を付いてくる事になったんじゃけども。

 

 途中、所用を済ませてから街へと向かった。その所用を済ませている最中で、隆之には呪術師としての才能が有ること気付いた。自前の運動能力も悪くはなかったし、術式も持ち合わせておったし。じゃからって、儂が何かを教えるつもりにはならなかったんじゃけどな。あの時の儂は、子供に何かを教えたって、どうせ死ぬだけじゃと思っておったからのぅ。

 

 それで、じゃ。山を越えて川を降って。山腹を右へ左へ上へ下へと歩き回っていたら、徘徊呆け老人などと失礼な事を口走りおったわ。あれは、心外じゃったなぁ……。今でも、心外じゃと思う。何故、出会ったばかりの子供に方向音痴扱いされてしまったのか。解せぬ。

 

『だから、何でそっちに向かおうとするんだよっ。この徘徊呆け老人……!』

 

 多分じゃけど。この時からじゃったのかもな。隆之が、儂に付いて行くと決めたのは。こやつ、街に着いて引き取り先まで見付けた後に儂に付いて行くと言って聞かなくてのぅ。あれには苦労させられたものじゃ。何度言っても、儂の言う事を聞かないんじゃもん。

 最終的に、根負けしたのは儂じゃ。昼から夜まで人の往来がある所でいいあった結果、隆之の主張が通った。いや別に、負けとらんけど。おい被身子、その目は何じゃ? その面は何じゃっ。誰に負け癖があるって?? 無いわそんなもの。絶対に無いからな……!!

 

 うおっほん。話を戻す。

 

 仕方ないから隆之を連れて、数日の滞在の後で街を出た。その際、儂の役に立ちたいと。今日まで生きてこれた恩返しをしたいなどと宣ったわ。気に食わんから、勿論断った。が、これも半ば強引な形で却下された。こうして隆之は儂の道案内役になってしまった訳じゃの。

 

 ……これはこれで、今考えても解せぬが。何じゃってどいつもこいつも、儂に付いて来たがるのか。

 

 それから数年は、行動を共にした。二人であちらこちらを歩き回って、恵まれぬ子供達を助けて回って。大体五年か六年は、隆之と共に居た気がする。まぁ最終的に、儂は両面宿儺に挑んで死んだ。隆之には盛大に反対されて、最後は喧嘩別れみたいなものじゃった。あやつはどうにも気が強くての。真面目でも有ったし、わがままでもあった。張り詰めてることが多かったと思う。そんなに儂を放っておけなかったのか? 事有るごとに人を徘徊呆け老人などと言いおって。思い返してみれば、それも悪くなかった気もするが。

 

 ……何? 隆之の好きな食べ物? 米じゃ米。白米な。他によく口にしていたのは、野菜じゃの。あやつ、肉は食えないんじゃ。馬も鹿も猪も、魚じゃって駄目じゃった。旅の道中で手に入った肉類は、まぁ大抵は儂が平らげる事になったが。隆之が肉を食らったのは、どうしても食べるものが無くて餓え死にしそうになった時か。その後、ますます肉を食えなくなったんじゃけどな。そのくせ、儂の為に肉を調理する事は多々有ったが。最初の内は血も見れんかったくせに、最後の方は割りと料理上手じゃった気がする。

 

 食べ物と言えば。あやつ、儂が毒茸を食べようとした時に猛烈に止めに入った事があった。儂はほら、鍛錬の一環で毒茸を口にすることが多かったんじゃけども。反転術式の鍛錬に丁度良くてのぅ。腹も膨れるし、ついでに美味いし。

 

 おい、ながん。なんで今、盛大に呆れた? 被身子まで引き攣った笑みを見せおって。別に大丈夫じゃったぞ。初めて毒茸を口にした時は、危うく死にかけたけども。

 

 ……で? いったい、いつまで隆之について語れば良いんじゃ? 何やら神主は嬉しそうにしているし、島民達は儂を見ながらひそひそと喋っておるし。

 

 

「……もう十分ですよ。貴女には、十分な程に前世の記憶が有るようで。本当に、生まれ変わりなのですね」

 

 

 いや、生まれ直しじゃけど? まぁ、中身が加茂頼皆本人であることは信じられんか。

 ……何はともあれ。多少なりとも、信用はされているようじゃ。過激派の島民も今は大人しい。何を信じるべきなのか、それに迷っているように思える。赤鬼が居なくなったことは、まだ知らんじゃろう。そもそも分からん筈じゃ。しかし御神体が無くなったこと、それに加えて隆之のように儂が海を割った事。この二つの事実が、どうすべきかを悩ませているように見える。

 

「それで? まだ何か文句を言うつもりか?」

「……いえ。私からは何も。貴女が口にしたことは、我が家に代々伝わる伝承の一部です。それは当代神主しか知らぬ事。

 私しか知らない事を貴女は知っていた。さも自分の記憶であるかのように語って見せた。これ以上の証明は必要無いかと。海を割って見せましたしね」

 

 神主以外は、閉口が続いている。何かと口うるさい老婆まで、今は黙り込んでるの。ただ、儂を睨むこと自体は止めてはおらぬが。次の瞬間にはあれやこれやと文句を並び立ててもおかしくはない。

 

「……取り敢えず。これで円花ちゃんや私達にはお咎め無しって事で良いですか?」

「ええ、まぁ。私は不要かと。過激派の皆さんは? まだ、彼女を糾弾するつもりでしょうか?」

「……海を割って、隆之様の事を語られちゃなぁ。神主、この子が言ったことは事実なのか?」

「少なくとも発言の大部分が伝承の一部と一致します。そして彼女は、加茂家の末裔ですから。

 私としては、新たなる頼皆だと思いますけどね」

「……神主がそう言うなら、……なぁ? どうすんだ?」

「どうって、どうすりゃ良いんだよ……?」

 

 神主と島民達が、話し合い始めた。これは長引きそうな感じがするの。こやつ等が今後、何をどうするかは知らん。知りたいとも思わん。が、何であれ儂の周囲に危害が加わらないのであればそれで良い。

 

「信じたいものを信じましょう。信仰なんてそんな程度のものです。

 私は、彼女を今後の頼皆として信仰したいものですね。この島に根付く産土神信仰。それを変える時が来たのかなと、思いましたので」

「信仰って、こんな小さな子を?」

「推しですので。故人を崇拝するより、余程健全だとは思いませんか?」

「そりゃあ……まぁ。この子は、まるで頼皆様みてぇだけどよ……」

 

 ……何か、雲行きが怪しくなってきたような気がする。未だ儂に抱き付いたままの被身子を見てみると、非常に不愉快そうな面をしている。次の瞬間には、何か文句を口走りそうじゃ。しかしそうなると、また話が拗れるかもしれん。何か言い出しそうになったら、どうにかして口を塞ぐとするか。ながんは……黙って状況を見守っているようじゃ。

 

「どうでしょうか、皆さん。私と共に、廻道円花さんを推しませんか? 今なら、ファンクラブの一桁会員になれますよ。勿論、1番はわた―――」

「それは私ですぅ!! 誰にも譲らないですけど!?」

「いえ、貴女は名誉ある0番かと。そこはお譲りしますよ、えぇ」

「むーー……。なら、まぁ……許してあげなくも、……ない……ですけどぉ……」

 

 いや、おい。おいこら貴様等。急に訳の分からん会話をするな。あと、神主。推し活? とやらに、他の者を巻き込むでない。やるなら勝手に一人でやれ。いや、そもそもやるな。何かこう、気色悪い感じがするじゃろ。何故、信仰だの推し活とやらの対象にならなければならぬのか。げ、解せぬ。

 被身子、訳の分からん活動に乗ろうとするんじゃない。お主まで参加してしまったら、それこそ歯止めが利かなくなるじゃろ。何でお主はこう、突拍子も無い事をしでかしてしまうんじゃっ。

 

「信仰はともかく、円花ちゃんのファンクラブなら許してあげなくもないです。でも! 円花ちゃんはトガの永遠の推、んんむ……っ!?」

 

 何か変なことを高々と宣い始めたので、取り敢えず被身子の口を手で塞いでおく。止さぬか、たわけ。話が変な方向に拗れてしまうじゃろ。まったく、お主はいつもこう……変な風に儂を振り回そうとしてっ。駄目とは言わんが、やるなら一人でやれ一人で! お主以外まで変な真似をしたら、儂が大変じゃろ儂が……!

 

「つまり、この子も私達もお咎め無しで良いんだな? 信仰とか推し活とか、そういうのは本人の知らぬ所でやったらどうなんだ?」

「それもそうですね。ファンを認知して欲しいとは思いませんから」

 

 いや、もう認知してしまったようなものじゃけど。ふぁん……、が何なのかは知らんけども、とにかくこう……崇拝する感じの人間を言うんじゃろ?

 

 えぇ……? 儂、別に被身子に崇拝されたいとは思わんのじゃけど。そんな事をする余裕が有るなら、その分愛してくれた方がじゃな……?

 

 訳の分からん事を始めようとしている被身子をじっと見詰めると、見詰め返された。だけではない。口元を塞ぐ儂の手を退かし、嬉しそうに笑いつつ少し屈みながら迫って来た。それが何を求めているか分かったから、少し背伸びをしてやると唇を重ねられた。

 

 ……んっ。

 

「ん、ふふ……。大丈夫ですよぉ、私からの愛情は減ったりしないので。むしろ増えるぐらいなのです」

「……なら、別に良いけど」

 

 何かこう、解せないけれど。

 

 とにかく、こうして儂は推される……? ことになった。うぅむ……。何が何やら、さっぱり分からん。どうなっとるのかも一切合切分からん。けども。

 

 まぁ取り敢えず、お咎め無しの方向で話が纏まりつつあるらしい。取り敢えずは、その事を喜んでおくとしようかの……??

 

 

 

 

 

 

 









三人称による補完は要りますか?

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