待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「あ、はは。つまり、追い出されたって事ですねぇ……」
被身子とながんの下に向かうと、実は儂が呼ばれていないことが判明した。詰まる所、儂は設営作業の邪魔じゃから追い出されたって訳じゃ。げ、解せぬ。儂じゃって、屋台を組み上げることぐらい出来るんじゃけど?? こんな時でも儂をぽんこつ扱いしおって……! 後で覚えてろよ男子共……っ!
「ほら、こっち来てくださいこっち。丁度良いからお茶にしましょうか」
畳の上に座す被身子が、膝上を叩いた。ので、誘われるままに隣に座り寝転ぶことにする。被身子の膝上に頭を乗せると、髪を撫でられた。どさくさに紛れて耳の近くを撫でたことについては、せくはらじゃから許さん。後で仕返ししよう。除け者にされるわ、せくはらもされるわ。まったく、どいつもこいつも儂を何じゃと思ってるんじゃか。
仕方ないから、仕返しに被身子の手を取って指を絡める。ふふん、いつもいつもやられっぱなしじゃと思うなよ? 仕返しぐらいしようと思えば出来るんじゃ。ふふん。
「もぅ、分かり易く拗ねちゃって……。そうやって不貞腐れるの、子供っぽいですよぉ」
「……ふん。別に良いじゃろ別に」
儂じゃって拗ねる時は拗ねる。そんなこと、知っとるくせに。ってこら、首筋を撫でるな。顎下を擽るな。儂は犬でも猫でもないっ。これはせくはらじゃ、せくはら!
「……この子に会場設営なんてさせたら、それこそ大惨事だろうからな。あの子達の判断は、 まぁ正しい」
「まぁ、それもそうですねぇ。私のお嫁さんは世界一のポンコツですし」
「は?」
誰が世界一のぽんこつ、じゃって? おい、何でどいつもこいつも儂をぽんこつ扱いするんじゃ。儂はぽんこつではないと、何度言えば分かるんじゃ。そろそろいい加減にして欲しいところじゃのぅ。いったい、どうしたらぽんこつ扱いされなくなるのか。何か良い方法を見付けなければ。一生ぽんこつ扱いされるのは、流石に嫌じゃ。
ぐぬぬ。何か悔しいので、被身子の両手を掴んで握ったり摘んだりしてみる。そしたら被身子は笑みを零して、何かこう……小動物でも見るかのような目で儂を見詰め始めた。これはこれで解せぬ。
「きっと前世の影響でしょう。頼皆様は、それはもう大層なポンコツだと伝承にも残っておりますし」
「は??」
盆の上に幾つもの
「さて。打ち合わせの休憩がてら、頼皆さんにお話したいことが有るのですが」
「はい、何でしょう?」
「ぶっちゃけ、お金の話です。観光大使に務めて頂く以上、しっかり報酬を出したいと思っております。勿論、今回協力してくださる御学友の皆様にも。
しかし現状、那歩島にそんなお金は無くてですね」
「儂は、金なら要らんぞ」
これはまぁ、仕方ない事じゃと思う。今の那歩島は復興作業中で、どれだけ時間と金が掛かるか分からん。誰もが少しでも早く島を元通りにしようと頑張ってるが、中々思い通りに行かぬのが現状じゃろう。儂等も、もう数日したらこの島を去る予定じゃ。そうなると、復興作業にある程度は遅れが出てしまうじゃろう。
それにの。ぶっちゃけ、儂は金など要らん。子供達にはしっかり報酬が支払われるのであれば、特に文句は無い。と言うか、ただでさえ金の使い道には困ってるんじゃ。総監部から給与が支払われるようになってから、凄まじい勢いで金が増えておる。被身子曰く、税金の支払いが大変になるらしい。じゃから、今以上に金が増えてもそれはそれで困るんじゃよなぁ。
「まぁぶっちゃけ、円花ちゃんはお金に困ってないので。円花ちゃんが良いって言うなら、トガは反対しませんけど……」
「そう言って頂けると、助かります。ですが、ご厚意に甘えるのは心苦しい。と言うわけで、どうでしょう? 隆之様が遺した遺産の一部を、今回の支払いに充てる……と言うのは」
「あーー……。円花ちゃん、どうします……?」
被身子が顔を覗き込んで来た。ので、頬を撫でておく。わざわざ儂には聞く必要が有るのか? その辺りの煩わしい事は、出来れば被身子に任せてしまいたいんじゃけどなぁ。ほら、こやつは儂の補助監督じゃし。とは言え、隆之の遺産の一部とやらが何なのかは知っておきたい。直ぐ思い浮かぶのは、あの呪具のことじゃけども……。
「……遺産の一部というのは、あの脇差しの事か?」
「ええ、まぁ。あの脇差しのことです。私が所有してても、宝の持ち腐れですからね。隆之様も、きっと貴女の手に渡ることを望んでいますから」
「……なるほど。であれば、こちらが断る理由は無い。あんたも、それで良いか?」
「うむ、それで良い。
……ながん、被身子。後処理は任せた」
「はぁい。細かい事はこっちでやっておきますねぇ」
しかしまぁ……。写真を撮られるだけであれだけの呪具を回収出来るのか。そう考えると、破格の仕事になるのぅ。流石に釣り合いが取れとらん気がするから、貯金からある程度の金額をこの島に寄付しておくとするか。何せあの脇差し、等級を付けるなら特級な気がしてならんからの。呪力を込めて振るうだけで、海が割れる程の代物じゃ。そんな凄まじい物を作り出すとはの。隆之め、あの呪具を作るためにどれだけの犠牲を払ったんじゃか。まさか、絶命の縛りなんぞしとらんよな? してないと思いたいところじゃが、……うぅむ……。
「では後程、前払いとしてあの脇差しを差し上げましょう。どうか、役立ててあげてください」
「使い所があれば、じゃけどな」
「それで構いませんよ。貴女が所有していることが、大切だと思うので」
……まぁ。笑顔でそう言うなら、そうさせて貰うけれども。あれは非常に強力な呪具じゃからの。儂が持つよりは他の者、今後窓として働く
「それと、羽織りの方も一着進呈させていただきます。残りは、私が保管させていただきますが」
「相分かった。好きにしてくれ」
あの羽織りはあの羽織りで、呪具なんじゃけどな。この間、神主に着させられた時に理解した。どのような効果が有るのかは知らんが、まぁそれは後で調べれば良い。
……で、被身子。何を嬉しそうに話を聞いとるんじゃ。今の話のどこに、そんな喜ぶ部分が有ったんじゃ?
「んふふ。良かったですね円花ちゃんっ」
「……そうか? まぁ、そうかもな……?」
よく分からんけど、喜んでいるのならそれで良しとするか。って、こら。こら被身子。そんなに頭を撫でるんじゃない。気が抜けて、眠たくなるじゃろ。
「それじゃ、神主さん。明日の事、もう少し詰めちゃいましょう。って言っても、殆どは決めてありますけど」
「そうですね。では、もう少しだけ決めてしまいましょうか。残る部分は、アドリブでどうでしょう?」
「トガもそう思うのです!」
……む……。……被身子……? お主、なんかこう……。そう、神主と仲良くなっとらんか? 何でじゃ貴様。何で儂以外の奴と親しくしとるんじゃ。母や父、くらすめえと達ならともかくじゃな? 何じゃってこんな奴なんかと……!
うぅむ。これはこれで、解せぬ気がする。神主貴様、儂の被身子にどうやって取り入ったんじゃ。駄目じゃぞ、駄目ったら駄目じゃ。儂の被身子じゃ、儂のっ。儂の知らんところで仲良くするような真似は許さんからな??
◆
さて。夜になった。昼間は結局、殆どの時間を被身子の隣で寝転んでいることになってしまった。じゃって、復興作業も会場敷設もやらせて貰えなかったんじゃもん。神社の回廊で、被身子やながんと並んで会場が出来上がっていく様を見ているだけで一日が終わってしまった。何をしてるんじゃろうな、儂。それとじゃ、今夜は神社に泊まることになった。明日の事を考えると、そうした方が手っ取り早いってことで話が纏まってのぅ。
それで、今は神社本殿の
「あ、こんな所に。もぅ、何してるんですか?」
「会場を眺めてるだけじゃよ。暇じゃったから、つい」
一人静かに座り込んでいると、まだ髪が濡れている被身子がやって来た。ので、右手で階段を叩く。ほれ、さっさと座らんか。もっとこっちに寄って来い。
「……どうかしたの? 一人になるなんて、珍しいのです」
「そうか?」
「そうですよぉ。ヨリくんはトガにベッタリですから! それに、トガもヨリくんにベッタリなので!」
「ぐえっ」
隣に座った被身子に、またも抱き付かれた。しかも、儂の頭を好き勝手に撫で回しおる。嫌とは言わんけど。むしろ、もっと撫でろ。こうやって寄り添い合ってると、落ち着くようになってしまったからの。いや、そうなるようにさせられたと言うべきか……?
まぁ、何じゃって良いんじゃ。被身子の隣に居ることが、儂は幸せなんじゃから。それ以外の事は、そんなに深く考えなくて良いと思っても居るし。
「何と言うか……。色々変な風になってしまったの」
「そうですねぇ。まさかヨリくんが観光大使になるなんて、思いもよらなかったのです」
まったくじゃ。この島に来た時は、さっさと呪霊を祓って
分からんけども、呪霊が産まれてしまう程に想われていたのは……分かる。儂なんぞにそんな時間を費やすぐらいなら、もっと別の事に時間を割けとも思うが。
「この島の事、どう思います?」
「別に何も。強いて言うなら、手を焼かれた」
「あ、はは……。まぁ、色々有りましたからねぇ。でも、トガは素敵な島だなって思いますよ?」
「……そうか?」
「そうなんです。だって、ヨリくんが居たから今の那歩島が有るんですよ? ヨリくんが沢山の子供達を助けたから、この島は出来たんです。それで、今の時代まで続いて……。
そんなの、許嫁としては鼻高々ですよぉ。私のヨリくんは誰より凄いって、自慢も出来ますし!」
……んん。自慢出来る事か……? 儂にはそうは思えぬが。呪霊が産まれる程の信仰がこの島には有ったんじゃぞ? 下手をすれば、今後も似たようなことが起きないとは限らぬ。まぁ赤鬼のような呪霊が産まれることは、もう無いじゃろうけど。あれは少々、と言うか大分……特殊な呪霊じゃったからの。思い返すだけでも気色悪い。
でもまぁ、そうじゃなぁ。この島での経験は、儂を見詰め直す事に役立った。と、思う。忘れてはならない事が有る。変えてはならない事が有る。それを、思い出すことが出来ただけ良かったのかもしれん。
被身子が居て、くらすめえと達が居て。そんな日々を、居心地良く思ってる。じゃけど、じゃからこそ。儂は……儂の原点からどうしても目を逸らせなくなる。
忘れるな。と、儂自身が語り掛けてくる。ずっと背後に、いつかの儂が付いて来ている……気がする。今じゃって、そうじゃ。
……これは、まぁ。一種の強迫観念に近い。と言うか、そうなんじゃろうな。かつて、子供達を置いて集落を出た時もそうじゃった。一箇所に長く留まる事が出来なかったのは、そうしなければならないと思ってしまうから。今この瞬間にも、助けを必要とする子供達がいる。親や環境、時代に恵まれなかった子供達が傷付いているのかもしれん。
そう考えてしまって、とても落ち着けない。動かなければと、助けなければと。気が逸る。
「……なぁ、被身子」
「はい?」
「儂は、多くの子供達を助けたい。助けなければと、そう思って駆けて来た。脇目も振らず、ひたすらやって来た」
「……はい。それは、今も変わらないと思うのです」
「そうじゃな。儂は変わらん。とても、変われぬよ。じゃから、多分また……同じ事を繰り返すんじゃろうな」
被身子の肩を抱き寄せて、それから頭を撫でてみる。愛おしいと思う。大切じゃと思う。こうして被身子と愛し合えて、共に居られることが……何より幸せな気がして。もちろん、それでも譲れない事が有る。如何に被身子が大事じゃとしても、じゃからって他の全てを投げ捨てることは出来ん。
二つもある一番大切なものを、両方変わらず大事にする方法は、……今も分からん。
―――でも。
「儂は、お主と一緒が良い。お主だけは、側に居てくれ」
被身子は、被身子だけは。どうしても、側に居て欲しい。儂が心から愛するこやつだけは、儂を心から愛してくれるこやつだけは。何が有ったって、何が起こったって、一緒に居たい。呪術師としても、廻道円花としても。そして、加茂頼皆としても……じゃ。
「……ぁ、愛してる。許嫁としても、呪術師としても、ずっと一緒じゃからな?」
「ん、ふふっ。はいっ!」
満面の笑みで、被身子が再び抱き付いて来た。勢い余って押し倒されて、そのまま二人で
ただ、その前に。押し倒されたまま、
なのに。
『忘れるな』
また、かつての儂の声が聞こえて来た。
円花自身が変わろうとしても、トラウマ自体はまだ残ってます。加茂頼皆:昇華はまだお預けになりそうです。
あと、産土神信仰編は年内に終わりませんね。ち、ちがっ!こんなつもりじゃ……!
今年はありがとうございました。読者の皆様には沢山お世話になりまして、お陰様で何とか続けることが出来ている現状です。
長々と続いてる本作ですが、来年もよろしくお願いします。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ