待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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産土神信仰。撮影開始

 

 

 

 

 

 

 那歩島の復興作業は、多少遅れ始めてしまっている。というのも、祭りをすることになってしまったからの。ぶっちゃけて言えば儂を観光大使とし祀り上げ、世間に金を落として貰い復興費用に充てる為じゃ。島が目茶苦茶になってしまったのは悪党が襲撃して来たからで、出来ることなら悪党共に責任を取って欲しいところじゃ。

 まぁ、牢屋の中に放り込まれた悪党が責任を取るなんて真似は出来んのじゃけど。そもそも犯罪者としての責任を取るために、司法に裁かれる訳じゃ。この島に何かしらの責任を取るとしたら、刑罰が済んだ後での話じゃ。それもまぁ、無理な話だとは思うけれども。

 

 とにかく。儂は那歩島の観光大使として働かねばならん。初仕事は、祭りを楽しんで写真を撮られること。それの何処が仕事なのかと疑問に思わなくもないが、何でも儂の自然な笑顔を撮影したいらしい。なので。

 

「という訳で! 今日はダブルデートなのですっ!」

 

 浴衣姿の被身子と、用意された会場で逢瀬(でえと)する。無論、儂も浴衣じゃ。仕立て直された黒い羽織りと赤い浴衣を合わせた姿で、突発的な祭りを被身子と楽しむ。それはそれとして、被身子に呼び出された緑谷と麗日は、被身子の戯言により巻き込まれた。南無。

 

「い、いや待って渡我先輩……!? 何でそんな唐突に……!!」

「とか言って、お茶子ちゃんも乗り気じゃないですか。ばっちり浴衣着て、おめかししてるのです」

「これはちゃうよ!? そういうんやなくって! エキストラやから着てるってだけで……!」

「えー? 慣れないお化粧までしてるじゃないですかぁ」

「ち、違うんやって……!? ちゃうから、ちゃうねん……っっ!!」

 

 白を基調とした淡桃色の椿柄。そんな浴衣を着て、薄化粧をしている麗日が調子に乗った被身子を前に大慌てになっておる。何やら必死になって否定しておるけど、諦めて流されるのが正解じゃぞ? 被身子が一度言い出したら聞かないのは、もう身を以て知ってるじゃろうに。

 まぁ、儂は助けてやらん。そもそも助けられんし。何と言うか、被身子に目を付けられたのが運の尽きじゃ。盛大に振り回されてくれ。

 

 さて。それはそれとしてじゃ。今宵は甚平姿の緑谷。お主はお主で、黙って事を見守っている場合ではないぞ? お主も巻き込まれてるんじゃからな?

 ここは、ほれ。おめかししとる麗日に男子として何か言うべきじゃろ。麗日は口では否定してるものの、その姿で現れた時から緑谷の目を気にしてるからの。多分これは、緑谷に褒められたいのかもしれん。知らんけど。乙女心は、儂には分からん。まぁ一応、つついておくか。

 

「で、緑谷。何か麗日に言うことは?」

「えっ。ぁ、いや……。と、特に無い……って言ったら嘘だけど……。いやでも、その……!」

 

 駄目じゃこりゃ。うむ、駄目駄目じゃの。緑谷は緑谷で、今の麗日を盛大に意識してしまってるくせに本心は口に出さん。まぁそういう勇気と言うか、甲斐性が有るなら今頃二人は付き合ってるじゃろう。この二人の仲が進展するのは、まだまだ先の話になりそうじゃ。早いところ付き合ってくれぬかのぅ。じゃってほら、でないとあと何度たぶるでぇとをする羽目になるか分からん。

 いや、待て。二人が付き合い始めたら、それはそれで……だぶるでぇと、になるのでは……?

 

 ……。……まぁ、良いか。別に儂は困らんし。強いて言うなら、被身子のわがままが増えるだけじゃし。

 

「緑谷、ひとつ助言しておくが」

「ぅ、うん……?」

「好意は、変に照れてないで素直に口にしておけ。でないと、後が大変じゃぞ」

「えっ、えっ……と?」

「とにかく大変なんじゃ。儂の経験談じゃ、胸に留めておけ……」

「それは、ええっと……。前にも言ってたよね……?」

 

 ……言ったか? まぁ、言ったかもしれん。が、これに関しては口酸っぱく言っておきたい。気がする。

 じゃって、好意は素直に口にしないと色々と大変なんじゃもん。少なくとも儂は、それはもう大変じゃった。何なら、今も大変かもしれん。もっと早く、もっと沢山伝えておけば良かったなと思う時が有ったり無かったり……。

 

「そうなんですよぉ。円花ちゃん、ぜんっぜん愛を伝えてくれなくって! お陰でトガは苦労したのですっ」

「じゃ、じゃから……それは謝っとるじゃろ? そろそろ許し―――」

「許さないですから。こればっかりは一生恨んでも良いのですっ。円花ちゃんの馬鹿っ」

 

 ぐぬ……。睨まれた。この話題は、被身子の前でするべきではなかったの。数秒前まで楽しそうに麗日をからかっていたくせに、今ではすっかりお冠じゃ。これから逢瀬(でえと)なのに、それは……困る。ど、どうにか許して貰わねば……! ど、どうすれば……!?

 

「じーーっ」

「……」

「じぃーーっ」

 

 わ、分かった。分かったから。そんな分かり易く、大袈裟に拗ねて睨むのは止さぬか。お主、さてはわざとか? 儂を困らせたくて、わざとそんな素振りをしとるのか? まったく、仕方のない悪女め……!

 

「……愛しとるよ、被身子。じゃからほら、機嫌を直してくれ」

「ヤです。もう一回」

「……被身子、愛してる」

「もう一回」

「……被身子、愛してる。だ、大好きじゃぞ」

「んふふ。トガも愛してますし、大好きですっ! 気持ちを伝えないとこうなるので、緑谷くんも思ったことは口にしちゃいましょう!」

 

 ……何をさせられてとるんじゃろうな、儂……。何かこう、変に辱められた気がしないでもない。被身子と所構わず愛し合うのは、まぁここ最近の儂からすれば珍しくも何ともないことではある。と、思う。しかし、じゃからってこう……人前で言わされるのはな? 求め合ってる時ならばともかく、そうでない時に言わされるのは……。っておい、その目は何じゃ麗日。緑谷まで、白い目で儂等を見るな……!

 

「えーーっ、と……。そ、その……。僕は、二人みたいにはなれない……かな……」

「……うん、私も……。ちょっとここまでのバカップルには……」

「えへへぇ、そこは譲らないのです!」

「いや、何で誇らしげにしとるんじゃ……」

 

 少なくとも誇らしげにする理由は何処にも無い、と思う。まぁ、愛の大きさで言えばこやつに敵う奴は居ないじゃろう。居て堪るか、と思わんでもない。

 と、とにかくじゃ。早く祭りに行こう。もう、神社の外が騒がしい。祭りは始まってるようじゃから、参加しなければの。でないと、仕事にならんし。

 

「ほら、行こう。……ん!」

「はぁい。行きましょうかっ」

「ぅ、うん……。せっかくのお祭りだし、デートとかは抜きにして楽しもう……!」

「そうだね、楽しまなきゃ……!」

 

 麗日と緑谷は、逢瀬(でえと)から目を背けている。が、それは無理じゃろう。被身子が居る以上、嫌でも意識させられる筈じゃ。早いところ、諦めてしまった方が良いと思うんじゃけどなぁ。

 ……まぁ、恋愛は人それぞれじゃ。被身子のようにくっ付けようとは思わぬが、どうも焦れったい。儂が言えた義理ではないが、それでもお主等はもう少しこう……本心を口にしても良いのでは??

 

 ところで。撮影係を務める筈の神主は何処に行った???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祭り、というのは良いものじゃ。何せ子供が笑顔で居られる場所じゃからの。まぁわがままを口走って親に叱られて泣き喚いたり、迷子になって泣き喚く子供も居るわけじゃけど。そういう例外も含めて、祭りは良いものなんじゃ。明るく愉快で、騒々しい感じがの。夜の参道に屋台が並んで、人混みが有って。この空気感が、不思議と好ましい。祭りに欠点が有るとすれば、被身子の手料理が食べれんことぐらいか。こればっかりは仕方ないから、諦めるしか無いんじゃけども。

 

「んふふ。まずは何をしましょうかっ」

「そうじゃなぁ……。取り敢えず、何か食べておくか? 晩飯はまだじゃろ?」

「あ、うん……。実は結構お腹空いてて……」

 

 じゃろうな。今日の復興作業が終わったのは、夕方を過ぎて暗くなり始めてからじゃ。既に七時を越えて八時になろうとしてるのに、撮影の為にくらすめえと達は駆り出されているからの。確か、えきすとら……とかで全員が祭りに参加している。現に祭りを楽しむ島民達の中に、くらすめえと達が紛れておる。頭に鉢巻を巻いて焼きそばを作っとるのは切島じゃし、射的に興じてるのは舎弟と瀬呂じゃ。お好み焼きを作ってるのは……梅雨と葉隠か。

 

「復興作業が終わってから、直ぐだもんね。デクくん、何食べたい?」

「うーーん……。こぅ、ガッツリと食べたいです」

「じゃあ焼きそばだ! それともお好み焼き?」

「……りょ、両方かな……?」

「ヒーローは体が資本やもんね!」

 

 ひとまず、晩飯にするとしよう。腹が減っては何とやら、と言うしの。これから被身子に振り回されると考えると、腹は満たしておくに限る。儂は食欲なんて無いんじゃけどな。ここ数日、どうにも食が細い。被身子の手料理が食べたくて仕方ないんじゃ。

 

「じゃあ、まずはご飯ですねぇ。円花ちゃん、甘いのとしょっぱいのはどっちが良いですか?」

「……甘いの」

「なら、綿あめにしましょう綿あめ。大好きですもんね!」

 

 ……まぁ、否定はしない。綿飴は美味い。ふわふわで、甘くて。初めて食べた時は、それはもう驚いたものじゃ。晩飯になるかと言われたら微妙じゃけども、ほら。どうせ食べるなら甘味の方が食べ易い。しっかりした食事を取ろうとすると、こう……気分が下がるからの。今日はせっかくの祭りで、しかも逢瀬(でえと)なんじゃから。味に文句を言っていては勿体無い。

 

「じゃあそうですねぇ……。トガはお茶子ちゃんと甘いものを買い漁って来ますので、円花ちゃんは緑谷くんと晩御飯を買って来てください!」

「は?」

 

 またこやつは、好き勝手な事を……。何で緑谷と買いに行かねばならぬのか。そこはほら、だぶるでえと……なんじゃから、緑谷と麗日に買いに行かせれば良いのでは? 何を考えているのやら。儂としてはじゃな、せっかくの逢瀬(でえと)なのにお主と離れるなんて真似は……。

 

「いや、おい被み―――」

「じゃあ行きましょう、お茶子ちゃんっ」

「えっ、ちょっ。と、渡我先輩……!?」

 

 ……。……儂が文句を言う前に、被身子は麗日を連れ去る形で走り去っておったわ。何じゃもぅ、自分勝手な奴め。いったい、何を考えてるつもりなんじゃか。隠れて浮気しようものなら許さんからな? 離婚じゃ離婚! いや、まだ結婚はしとらんけど。

 

「……はぁ……。まぁ取り敢えず、買いに行くか?」

「ぅ、うん。大変……だね?」

「お主こそ覚悟しておけ。被身子が悪巧みすると、大変じゃぞ」

 

 今回の場合、と言うか今回の場合も、何か被身子はろくでもない悪巧みをしていることじゃろう。この後、何がどうなるかはさっぱり分からん。麗日、強く生きろ。大丈夫じゃ、被身子に悪気は無いから。これは所謂……そう、余計なお世話ってやつじゃな。お主等英雄(ひいろお)候補生がしょっちゅうやってるやつじゃ。

 ついでに、これを機に学んだら良い。世の中、余計なお世話が邪魔になる場合が有るってことを知ってくれ。

 

「それは……重々承知します……」

「どうじゃか。

 ……さて、待たせるわけにはいかんからさっさと済ませよう」

「うん。廻道さんも食べる?」

「遠慮しておく」

 

 どうせ美味くは感じないじゃろうし。っと、いかん。食事を前に気を重くしてる場合ではない。それでは勿体無いからの。今日は、とことん楽しまねば。

 

 ……で? 神主は何処じゃ? まったく見当たらないんじゃけど??

 

 

 

 

 

 

 








明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。


ところで呪術アニメのOP、掌印ラッシュがあるあの曲なんですが円花っぽいなって思いました。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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