待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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産土神信仰。撮影終了

 

 

 

 

 

 

 いやぁ、遊んだ遊んだ。途中で被身子が勝負を持ち掛けて来た時は勢いで乗ってしまったが、結果として儂が勝ったので良しとする。堂々の一位じゃ。輪投げはもちろん、他の遊びもな。水風船を釣り上げるやつじゃったり、よく跳ねる球を紙ぽい……じゃったっけ? で掬うやつじゃったり。

最終的に、敗北を喫したのは麗日じゃ。まぁ途中、緑谷と白熱した最下位争いしとったんじゃけどな。

 被身子が言っていた罰則は、意中の人に愛の言葉を囁くこと。これを決着が付いた際に改めて通達された麗日は、顔から汗を流しながら顔を背けた。悪どい笑みをした被身子がしつこく追撃すると、その場にしゃがんで顔を覆った。可哀想じゃから、麗日がそうしたいと思った時にすれば良いと一応提案しておいた。こんな形で本心を緑谷に打ち明けるのは、絶対に違うからの。その辺りは被身子も思い直してくれたのか、儂の提案を受け入れてはくれた。

 

 その代わり。儂は被身子に愛を囁くことになってしまった訳じゃけど。それも今夜、布団の中で。被身子が満足するまで。

 ……今夜は寝れそうにないの、儂。また朝まで求められるのか。それを嬉しく思ってしまう辺り、儂も大概じゃのぅ。

 

 まぁ、そんなこんなで。儂等四人は、祭りを一通りは見て回った。遊べそうな所は遊び尽くしたし、食べ物についてはまぁ……甘味だけは楽しんだ。変な光景を見る羽目になったんじゃけどな。

 例えば、かき氷。切島が硬くなって、轟の出した氷をひたすら削り取ることで、かき氷を作っていての。何でそんな真似をしてるんじゃと聞いてみたら、どうやらかき氷機が壊れてしまったらしい。……八百万に創って貰えば良いのでは? 何であやつは手刀で氷を削ってたんじゃ。まぁ良いか、かき氷自体は美味かったし。頭が痛くなったのは、お約束じゃの。

 

 と言うか、切島。お主、最初は焼きそば屋に居なかったか……?

 

 変な光景と言えば、舎弟の奴が砂藤と峰田が居る屋台で型抜きをしておったの。何でか、ながんも一緒じゃった。儂等も挑戦してみたが、これが中々に難しくての。結局、全員して失敗したわ。何か負けた気がするから、来年の夏祭りは型抜きに挑戦しようと思う。そんな暇があれば、じゃけども。

 

 そもそも。何故、ながんと舎弟は二人で型抜きを? あの二人、ろくに接点が無い筈なんじゃけどなぁ……。

 

 他にも。梅雨と芦戸が作った毒々しい見た目のりんご飴を食べる羽目になったり、八百万と葉隠、それから耳郎が作り出した即席お化け屋敷に入ることになったり。突発的に開催された祭りにしては、楽しめそうな屋台が多くての。途中から、儂も童心に返って騒いでいたような気がする。

 

 で、現在。祭りを一通り楽しんだ儂等は、神社本殿の(きざはし)に腰掛けて休憩中じゃ。緑谷と麗日は立ってるけどな。

 

「今日は久し振りに、遊び倒したのですっ」

「そうやね。こんなに遊んだのは、久し振りかも」

「僕達、夏合宿後から自由に外出できないもんね。だからかな、小さなお祭りでも……結構楽しく感じて」

「みんな楽しそうにしてましたねぇ。円花ちゃんはどうです?」

「どうって、儂も楽しかったが?」

「んふふ。ですよね、結構ゆるゆるな笑顔でしたし!」

 

 ゆるゆるな笑顔って何じゃ。そんな笑みを浮かべてた覚えは無いが。いやまぁ、楽しかったのは事実じゃけども。今晩は、時間の流れがあっという間じゃった気がする。今が何時かは分からんが、それなりに時間は経ってるんじゃろうな。

 ただ、まだ何と言うか……。物足りぬとは思ってる。一通りは遊び倒した筈なのに、物足りない。それがどうしてかは、分かる。しかしそれを口にするつもりは無い。この不満は、人前で口にしたいとは思わん。特に、この二人の前ではな。せっかく楽しい気分が続いているんじゃから、これを途切らせてしまうのは勿体無い。儂が抱いた不満については、後で被身子と二人きりになった時に解消するとする。

 

「被身子も、楽しかったか?」

「それはもちろんっ。円花ちゃんが楽しんでたから、トガも楽しかったのです!」

「なら良いが。それはそれとして、ほれ」

 

 体を被身子に向けて、両腕を広げる。祭りの会場からは離れているし、ここは少し薄暗いし。麗日と緑谷の目はあるが、まぁ抱擁(はぐ)したって許されるじゃろう。というか、このくらいは許せ。

 

「えへへぇ、円花ちゃんは甘えんぼなのです」

「それはお主じゃってそうじゃろ?」

「そうですよぉ。円花ちゃんがいっぱい甘やかすから、我慢出来ない子になっちゃいました!」

 

 そう言って、被身子は笑う。それが作り笑いなのは、一目で分かる。じゃからって、こやつが楽しんでるふりをしている訳では無い。ただ、いつも通り人前では笑顔を隠しているだけじゃ。

 勢い良く抱き付いて来た被身子を受け止めつつ、なるべく麗日と緑谷の視線から被身子の顔を隠す。少し苦しいかもしれんが、肩に顔を埋めさせる形で。そしたら、いつも通りの笑みを浮かべてくれた。見ることが出来ぬのが残念じゃけども、ひとまず笑ってくれたから良しとする。後で、たっぷり笑わせてやらねばな。被身子は、儂や儂の家族の前でしか笑えないんじゃから。

 

「またイチャイチャしてる……。デクくん、何とか出来ないかなこれ……」

「それは、うーーん……。難しいかなって……」

「だよね。お互い好き過ぎて、ブレーキ壊れとるもん。世の中のカップルって、誰でもこうなんかなぁ……」

「ど、どうだろ……? 廻道さんと渡我先輩はこうってだけじゃないかな……? でも、羨ましいなって思わなくもない……かなぁ」

 

 (きざはし)下に居る二人が、儂等を見て何やら言って居る。直ぐ止めに来ない辺り、麗日はもう諦めたか? 丁度良いから他の連中も諦めてくれ。被身子と触れ合うことを邪魔されたいとは思わんからの。座敷牢に入れられるのもそろそろ回避したいところじゃし。くらすめえと達が諦めてくれる方が何かと早い気がしてならん。じゃって被身子を言い聞かせるのは、無理難題みたいなものなんじゃもん。

 

「えっ、で……デクくんって……。恋人に、こういう事されたいん……?」

「えっ!? いやいや、そうじゃな……いかもしれないけどっ。そ、そうじゃなくって! 単純に、廻道さんから信頼されてる渡我先輩が羨ましいって話で……!!」

「あっ、そ……そうだよね……! うん、それは私もそう思ってるよ……! 羨ましいよね、渡我先輩が……!」

 

 ……何を言ってるのやら。被身子が羨ましい、じゃって? まぁ、そうかもしれんの。儂がもっとも信頼を置いているのは被身子じゃ。許嫁で、幼なじみで、恋人じゃし。過ごして来た年数が、圧倒的に違う。それに、少し心外じゃな。儂は、くらすめえと達を信頼してない訳では無いんじゃぞ。学友としては、むしろ頼りにしとる。ただ、いざって時には一切頼らんだけで。特に戦いの場では、儂の前や横に立って欲しくないだけじゃ。子供が戦う姿なんて、見たくもない。

 

「んふふ。ちょっと優越感です」

「……そうか?」

「そうですよぉ。円花ちゃんの心も体も、何もかも許されてるのは私だけって感じがして!」

 

 ……何かとんでもない事を口走られた気がするの。いや、被身子が今言った事は事実じゃけども。儂が身も心も、それこそ何もかも許しているのは被身子ぐらいのものじゃ。とうとう、呪術師としても信頼を置くことになってしまった。これからは、儂の補助監督じゃからの。恐ろしい事態になってしまったと思うが、こうなるのはとっくの昔に決まっていたのかもしれん。こやつをずっと心配させて、怖がらせてしまったのは儂じゃからの。

 

「ところで。もう少し押せばお茶子ちゃんは素直になりそうな気がするんですけど、どう思います?」

「そうかもしれんが、黙って見守ってやるべきじゃないのか?」

「それじゃ進展しないのです。我慢は体に毒なんですよ? 特に心の我慢って、かなーーりしんどいんですから」

「……それはそうじゃけど」

 

 まぁ、確かに。被身子の言う通り、我慢は体に毒じゃ。心にも、良くない影響を及ぼしてしまう。恋心を我慢することが、どれぐらい苦しいものなのかは儂には分からんけど。じゃって儂は我慢したことがないし。こやつに恋をしたと自覚した時から、困惑したり恥ずかしくなったりはしたが、別に我慢はしとらん。被身子が好きって気持ちを、抑え込んだ事は無い。

 

「まぁ本人のペースがあるのは分かってるんですけど、こう……焦れったいので」

「……まったく。お主は、まっこと仕方ない奴なんじゃから」

「えへへぇ」

「……褒めてないんじゃけど?」

 

 何でそこで嬉しそうにしてしまうのか。まぁ笑顔で居る内は文句なんて無いんじゃけども。まっこと、愛い奴め。ほれほれ、もっと甘やかしてやろう。生涯甘やかしてやるつもりじゃから、覚悟しとけっ。ふふん。

 

「なんかもう、放っといて良い気がする……」

「んん……。言って止まる二人じゃないしね……」

 

 白い目で見られている。何じゃもぅ。別に良いじゃろ、人目を憚らず触れ合ったって。被身子とはそういう関係なんじゃから。それにお主等じゃって、付き合い始めればこうなるんじゃないか? 世の中のかっぷるって言うのは、だいたい儂等のようになるものじゃろ。……知らんけど。

 

 ……で。それはそれとして。今日は祭りを楽しんだ訳じゃけど、神主は何処じゃ? あやつが撮影するんじゃろ? なのに、祭りが始まる直前ぐらいから姿が見えん。撮影は上手く行ってるのか? 何も気にせずに祭りを楽しんでしまったけれども……。

 

 まぁ、良いか。なるようになるじゃろう。儂の仕事は、写真を撮られることじゃからな。儂の目に入らぬ位置で、撮影していたのかもしれんし。

 

「……さて。これからどうする?」

「んーー、どうしましょうか? 一通り見て回りましたし、遊び倒しましたしねぇ」

「ゆっくりするにしても、場所が無いし……。でも、撮影が有るから離れるのはあかんし」

 

 そうなんじゃよなぁ。被身子や麗日が言う通り、実はもうやる事が無い。祭りそのものは一通り見て回ってしまったし、休憩するにしても場所が無い。設営されてる休憩所は、島民達や他のくらすめえと達で埋まっているしの。じゃから本殿の(きざはし)を、こうして占領している訳で。撮影が無ければ、今日はもう帰ってしまって良いんじゃけどな。してるかしてないか分からん撮影の為に、やる事もないのに会場に居続けるのは……。……こう、骨が折れると言うか……。

 しかし、観光大使になることが無罪放免の為に必要な事じゃからの。今更島民達の反感を買う訳にはいかんし。うぅむ……。

 

「まぁまぁ。ここでのんびりしてれば良いのです。撮影は順調みたいですし」

「その撮影役が見当たらんのじゃけど?」

「居ますよ? ずっとそこに。ほらほら」

「は?」

 

 被身子が指差した方向を見てみる。が、別に誰もおらん。いったい、何が見えてるんじゃこやつは。儂には何も見えんが?

 

「あ、えっとね廻道さん。神主さんの個性で、一時的に気配を欺くことが出来るんだって。見破り方にはコツがあって……」

「は??」

 

 個性で、気配を欺くことが出来る……? 姿が見えんのはその個性の応用、か? まぁ確かに思い返してみれば、初めて会った時は急に姿を見せて来たが……。しかし、気配を消す個性とな。また、よく分からん個性じゃの。何で個性と言うやつは、こうも何でも有りなのか。

 

「確か。ぼーっと見てみると、見えるんやっけ?」

「そうみたいですよ? だからほら、ぼーっとしてみてください」

「要は対象の意識を逸らすってことなんだって。だから、ぼーっとされると意識が散漫になるから、意識が逸らせなくなって気配が隠せないとか。使い方によっては凄い個性だよね……!」

 

 (まこと)に? 意識を散漫にすると姿が見える? 緑谷の言うように凄い個性かは分からぬが、変な個性じゃとは思う。

 

 ……にわかには信じ難いが、試してみるとするか。意識を散漫にすれば良いんじゃよな? ええっと……。

 

 

 ……。…………。………………。

 

 

「……いや、見えんけど?」

 

 そもそも。変に意識を散漫にすることを意識すると、意識が散漫にならん。よく出来るな、お主等。変な器用さを発揮しおって。その分の集中力……? を、普段から別の事に使って見せたらどうなんじゃ? まったく。どいつもこいつも……!

 

「あっ」

 

 緑谷と麗日を睨んでいると、視界の端に神主の姿が見えた。ので、視線を動かしてみる。そしたら、また神主の姿は見えなくなった。これは……うむ。緑谷の言う通りじゃの。大した個性じゃと思う。使い方によっては、ろくでもない事を起こせそうじゃ。

 

「もう気楽になさって結構ですよ。撮影はだいたい終わりましたし」

「ぬお……っ!?」

 

 お、驚いた……! 急に目の前に、両手に写真機(かめら)を持った神主が現れるんじゃもん。どうやら驚いたのは儂だけのようじゃけど。解せぬ。

 

「じゃあ、良い写真は撮れたってことですか?」

「ええ、まぁ。何枚かは使い物になると思います。メインの方は動画になりそうな気がしますけどね」

「えっ、動画も撮ってたん……?」

「ええ、まぁ。ですが主に映っているのは渡我さんと頼皆さんですから、お二人がPVに出るのは短い時間だけでしょう。勿論、一切出演したくないと言うのならこの動画は削除させて頂きますが」

「いやいや、那歩島の為になるなら喜んで!」

 

 ぴぃぶぃ……? 何じゃそれ。よく分からんが、とにかく撮影自体は順調のようじゃの。麗日や緑谷まで巻き込まれてしまっているし、この分じゃと被身子も巻き込まれてそうじゃの。

 

 ……ええっと? つまり? 撮影されたのも、宣材になるのも、儂だけではない……と?

 

 ……。いや、おい。せめてそれは、儂に一言断ってからにしろ。何を勝手に、儂のくらすめえと達を使おうとしてるんじゃ。大人が子供を利用するような真似など、儂は許さんけど??

 

「一応、A組のみんなには許可取ってくださいね? 勝手に使ったら、円花ちゃんが激怒(げきおこ)なのです。おこですよおこ」

「それは勿論、分かっています。一人でも断るようでしたら、その時は写真の方を使いますので」

 

 文句を言おうとしたら、先に被身子に言われてしまった。ので、ひとまずは黙っておくとする。まぁ誰か一人でも断れば、撮影された動画は使われない。二十人も居るんじゃから、誰かしら断るじゃろ。動画が使われることは無さそうじゃ。

 

「と、いう訳で。撮影はこれにて終了とさせて頂きます。お疲れ様でした」

「……相分かった。儂、何もしとらんけど良いのか?」

「貴女の素が撮れれば、それが一番だと思いますので。まぁ、多少手は加えますけどね。このままだとホームビデオみたいなものですので」

「そ、そうか」

 

 まぁ、なんだ? 神主の言ってることはよく分からん。が、取り敢えずじゃ。撮影は儂が知らん間に終わっていたらしいの。気配どころか姿形すら隠しての撮影は、もはや盗撮としか言えんと思うんじゃけども。

 

 と、とにかく。撮影が終わったのなら、儂は宿に帰らせて貰おうかの。今晩はゆっくり風呂にでも浸かって、被身子とのんびり過ごしたい。まぁ寝る前に、あれこれとするのは確定事項みたいなものじゃけどな。これは逢瀬(でえと)した後のお約束と言うか、いやそもそも逢瀬(でえと)してなくともお約束と言うか……。

 

 ……結局、全然自制が出来とらんの。当たり前のように、毎日毎晩求め合って。結果、被身子と一緒に、人として駄目になっている。それも悪くないと思ってしまうんじゃから、恋や愛は厄介なものじゃよなぁ。まったく、二人揃って仕方ない奴になってしまった気がするの。

 

 まぁ、これはこれで良いことじゃと思うが。……良いこと、じゃよな? 良いことじゃと、思うことにする。愛し合うことに、理由も理性も要らんのじゃから。

 

 

 

 

 

 

 









三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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