待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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洋服を選ぶ。

 

 

 

 

 

 今日は臨時休校じゃ。

 昨日、悪党が校舎に侵入して来たからの。警備体制の見直しやら、設備の点検やらで丸一日時間が欲しいから休校になると担任は言っておったの。その上、また悪党が襲ってくるかもしれない。今回は大きな被害無く済んだんじゃけど、次もこうなるとは限らない。悪党(う゛ぃらん)連合とやらが、また儂を狙って侵入してくる可能性は無いとは言い切れんそうじゃ。

 別に、襲いに来るなら襲いに来るで儂は構わん。黒靄人間と手だらけ小僧の背後には、間違いなく呪術を扱う者が居る。でなければ呪霊を従えるなんて真似は出来んじゃろうて。

 相澤よ。やはりあの時、黒靄を逃したのは失策だったと儂は思うぞ。どこにでも行ける個性を持っているのなら、攻め入る機は向こうが決められると言うこと。そして最悪なのは、呪霊のみを送り込んでくることじゃ。こうなった場合、現状は儂一人でしか対処出来ん。

 

 悪党連合の背後に居る者が、何者かは知らん。しかも狙いは儂と、おおるまいと。儂はともかく、おおるまいとは殺される可能性が高い。平和の象徴とまで呼ばれる英雄を呪殺したいとはの。いつの時代も、頭の狂った連中は居るもんじゃなぁ。

 

 さて。それはそれとして……。

 

 これからどうするべきか、儂は悩んでおる。何に悩んでいるって、着る服に悩んでおるんじゃよ。

 今日、儂は被身子と逢瀬(でえと)することになっておる。あと数十分もしない内に、玄関の外で待ち合わせじゃ。あやつとしては駅前で待ち合わせをしたかったらしいんじゃが、儂が迷子になるから諦めると抜かしおったわ。失礼な奴じゃな。駅ぐらい一人で行けるわ。まったくいつまでも儂を方向音痴扱いしよって……。最悪、常闇か舎弟に頼めば問題無いと言うのに。

 

「……うむ。分からん!」

 

 儂と被身子の部屋。その押し入れには、被身子と母が買い漁った儂用の洋服が沢山ある。今日は着物は無しと被身子が言うものだから、仕方なく洋服を着ることにしたんじゃが……これがまったく分からんのじゃよ。やはり着物では駄目かのぅ? 現代の服はどうにも分からん……。

 

 何故、上下で組み合わせを考えねばならぬ?

 

 下に穿くものは袴と違ってどれもこれも形が違うし、しゃつも上着も種類が豊富じゃ。この中から、儂が可愛いと思った組み合わせを選べじゃと? いやもう、まったく分からんぞ……。分からん……。現代の衣はさっぱりじゃ。

 とは言え。あまりいい加減に選ぶと、多分被身子は怒るのぅ。可愛いは最低限守らねばなるまい。しかし可愛いが儂には分からん。うむ、もう駄目かも知れぬ。

 

 よし。こうなったら人を頼ろう。母と父は仕事中じゃから……そうじゃな。常闇にでも連絡して聞けば良いんじゃ。そうと決めたら早速連絡をせねば。最近買い与えられた、すまあとふぉんとやらは電話が出来るそうじゃ。こんな小さくて固い板があれば何処でも誰とでも会話が出来るらしい。電話機とやらを初めて見た時も驚いたが、これにも儂は驚いた。人類の進歩とは凄まじいものじゃのぅ。まぁ、儂が生きていた時代から千八百何十年と時間が経っておるんじゃ。そう考えたら当然と言えば当然の進歩なのかも知れぬ。

 

 で、これどうやって使うんじゃっけ? 机の上のすまあとふぉんを手に取ったは良いが、分からぬの。まだ電話機の子機の方が使い易いぞ。数字を押せば良いんじゃからな。

 

 ええっと……。ああ、こうじゃな。で、確かこれをこうして……。お、かかった。

 

『もしもし。廻道か?』

「うむ。廻道円花じゃ。突然なんじゃがな常闇、でえとには何を着ていけば良いと思う?」

『……』

 

 おい貴様。今呆れたな? 分かるぞ? 顔が見えなくても分かるんじゃぞ?

 

『……それは渡我先輩に聞いてくれ。俺に聞かれても困る』

「いや、被身子が儂に選べと言うんじゃよ。着物ならまだ分かるんじゃけど、今時の服はよう分からんくてのぅ。

 ……主、なんか可愛い組み合わせを知らんか?」

『……そうは言われても、俺も女子のファッションには疎いから』

「じゃあこの際、男子の服装でも構わん。お主、普段どんな服を着ているんじゃ?」

『最近は、ワイシャツやベストを組み合わせて……色は黒で選ぶことが多いな』

「黒か。じゃあそれで行こう。助かったぞ常闇。明日撫でてやろう」

『それは止め』

 

 よし。黒い服じゃな。常闇の言うことならば、間違い無いじゃろうて。それはそうと、わいしゃつ? べすと? それってなんじゃ?? この洋服の山の中に有るのか???

 

 しまった。通話を切るべきでは無かったかもしれんの。しかし時間は無い。黒いの黒いの……。ううむ、これとこれで良いか。

 

 

 

 

 

 

 儂が選んだのは、確か……ぱあかあとか言う名前の大きな服。これには胸の辺りに変な形の英語が書かれておる。字が崩れてて、読めん。それと、みにすかあと? とか言う腰布じゃ。上着の丈が長くて、この腰布は殆ど隠れてしまっておるがな。常闇の言っていた通り、どちらも黒にした。生足を晒すような服を着るのは好きではないが……被身子は儂がすかあとを着ると喜ぶからの。多分、これで良いじゃろ。知らんけど。

 

「上から下まで真っ黒なのです……。これ、円花ちゃんが選んだの?」

「いや? 分からんから、常闇に聞いた」

「……常闇くん、ファッションセンスが無いのです……」

 

 じゃそうじゃぞ、常闇。これを機に、ふぁっしょんせんすとやらを磨くが良い。あと被身子の反応がすこぶる微妙じゃ。覚えておれ鳥頭。許さん。

 

「んん……。まぁ……。ボーイッシュって感じですけど、……ちょっとカァイイ、かも……?」

「そうか。じゃあこれで良いか?」

「……次から、洋服は私が選びます。円花ちゃん、服について二度と常闇くんに聞かないでくださいね」

「お、おう……。分かった……」

 

 駄目じゃった。常闇のふぁっしょんせんすは、被身子のお気に召さなかったようじゃ。儂の前で複雑そうな顔をしているこやつの格好は……儂にはよう分からん。

 確かこれは……たいとすかあと? 上は……ぶらうすみたいなやつじゃ。半袖で、ふりる? とか言うのが付いておる。

 洋服をもう選ぶつもりはないが、もしまた選ぶ機会があれば被身子の真似でもしようかのぅ。そうすれば、変にはならんじゃろ。

 

 何はともあれ。今日は被身子と出掛けるんじゃ。何処に行くかは聞いておらんが、こうしてこやつと出掛けるのは随分と久しぶりな気がする。最後に二人で出掛けたのは……温泉旅行以来か?

 今日一日ぐらい、被身子が羽を伸ばしてくれると良いんじゃがのぅ。家事や勉強を相変わらず頑張っているのじゃから、一日ぐらい遊んだって構わんじゃろ?

 

「ん。手」

「ふふっ。はい」

 

 いつものように手を繋いで。指を絡めあって。儂と被身子は最寄り駅へと向かっていく。そう言えば、目的地は何処じゃろう?

 

 まぁ、何処でも良い。こやつが笑えるなら、儂はそれで良い。こうして手を繋いで歩くだけでも楽しそうにするんじゃから、もっと逢瀬に誘うべきかのぅ。

 

 

 

 

 









バトルパートを書いた反動でイチャイチャしています。多分あと二話ぐらい続く、かも。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ

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