待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「縛りを結ぼうか。漏瑚、花御」
夏。廻道円花がI・アイランドでの
信じるに足らぬ笑みを浮かべた男が、かつての世では自然呪霊と呼ばれた人ならざる者達に一つの提案をした。
ソファに腰掛けている
「断る。貴様、何のつもりだ?」
廃工場にある一室が、熱気と煙に埋め尽くされる。
漏瑚。と呼ばれた者が、頭から蒸気を吹き出しながら男に近付き、睨んだからだ。掌を叩き付けられた机が、黒く焦げていく。一つしかない大きな眼に浮かぶのは、苛立ちと疑い。そして警戒。漏瑚自身、出来ることならば目の前の男を今直ぐ消し炭にしてしまいたいと思っては居る。が、実のところその望みが叶うような状況でもない。
呪霊操術。呪霊を取り込み、使役する呪術。その支配下に、漏瑚は居るのだ。ある程度の自由は許されているものの、目の前の男に危害を加えることは出来ない。その上、男の命令は絶対だ。漏瑚の意思がどうであれ、男が命じればそこに拒否する権利はない。
「保険を作りたいんだ。君達、廻道円花は知ってるね?」
【……雄英体育祭以降、貴方が気に掛けている少女。ですか】
「いいや? それよりも前から、僕は彼女を気に掛けてるさ」
【貴方に目を掛けられるとは。あの娘は不幸なものですね】
「くだらん。あの小娘が何だと言うんだ。取るに足らぬ、脆弱な人間だろう?」
漏瑚からすれば。と言うより、呪霊からすれば。人間とは脆弱な有象無象でしかない。呪力を持たず、呪霊を認識することが出来ぬ者が殆ど。対抗する術もない。殺すことは容易く、その気になれば滅ぼすことだって出来る。もっとも、わざわざそんな真似をする理由は無い。脆弱とは言え、日本だけでも人間の数は一億を越える。時間を掛ければ絶滅させれるだろうが、時間と手間が掛かるくせに手に入る物が何も無いのだ。
その気になれば滅ぼせる人間達。その内の一人を目の前に居るいけ好かない男が気に掛けようが、漏瑚が興味を示すことは無い。……筈だった。
「黒沐死が二度に渡り祓われた」
「……何?」
男の一言に、漏瑚は驚嘆せざるを得なかった。黒沐死と言う呪霊の強さを、彼は知っている。それは花御も同じだ。人間程度ではどうしようもない存在の一つと、彼等は認識していた。
なのに。男は淡々と、黒沐死が祓われたと言う。その言動に嘘が何一つ無いことにも、呪霊達は気付く。
【それが事実であるのなら、放っては置けませんね。彼女は間違いなく我々の障害になる】
「僕が思うに対呪霊においてはこの国で最も、……いや、世界一だろうね。時代一と言っても良い。僕等からすれば、彼女程に邪魔な存在は今の日本に無い」
廻道円花の実力が如何ほどなのか。それを詳しく知るのは、手駒を祓われたこの男にしか分からない。
「貴様を殺し損ねた男は? オールマイト、とか言ったな?」
「あれは放っておけば良い。呪力を得たようだが、もう僕はあの男に興味は無いんだ。
それより、君達の意思で僕と縛りを結んで貰うよ。漏瑚、花御」
「……何をさせるつもりだ。下らぬ縛りであれば、焼き尽くすぞ人間」
【漏瑚。我々は彼には逆らえませんよ。彼が生きている以上はね】
「言われんでも知っておるわ。忌々しい術式め……!」
呪霊操術さえなければ、漏瑚はとっくにこの男を焼き尽くしているだろう。それ程までに、この男を憎く思っているようだ。部屋を覆い満たす蒸気には確かな熱気があるが、それでも男を傷付けたり苦しめる程のものでは無い。結ばされた主従関係により、目の前の男を傷付ける行為が許されないのだ。
花御の忠告に悪態を吐き、漏瑚は男から一歩離れる。頭より吹き出る蒸気は未だ健在だが、勢いは少しばかり弱まっているようだ。もっとも、焦げた机は炭となって砕け散り残骸と化してしまったが。
「僕は近々、廻道円花に向けて行動を起こして死ぬ。君達は僕の死後、僕が蘇るまでは死柄木弔を守ってくれ。多少壊れてしまっても構わないが、命だけは守って貰う。あぁ、精神の無事については問わないよ。重要なのは、あの肉体が無事であること。
代わりに僕が与えるのは、僕が蘇った後は君達を自由にしよう。再び呪霊操術で取り込まないことを約束する」
男の提案に、漏瑚も花御も暫し思考を巡らせる。果たしてこの縛りが、自分達にとって利するものであるのか。呪霊達は、目の前の男を信用していない。そもそも呪霊操術によって支配下に置かされている以上は、この男には従うしかない。男は呪霊達の意思を尊重しているかのように喋るが、実のところ命令にしかなっていない。……故に。
「……良いだろう。胡散臭いが、その縛りに乗ってやる。だが忘れるな。自由になった暁には、まずは貴様から殺す」
「君はそう言うと思ったよ。花御は?」
【……良いでしょう】
縛りを、結ばざるを得ない。どのようにしてこの男が死からの復活を遂げるのかは分からないが、それでも呪霊達は縛りを結ぶ羽目になってしまった。
「では、縛りは成立。変わらず僕の為に動いてくれるね? 漏瑚、花御」
男は笑う。悪どく、強かに。
―――そして。縛りが交わされた数日後。男は後に廻道円花を拉致し、予定通り死んでみせた。計算通りとでも言わんばかりに。漏瑚にとって誤算だったのは、花御が祓われてしまったこと。力及ばず、現代唯一の呪術師に仲間の命を奪われた。
その恨みと憎しみは、廻道円花にのみ向けられる。男が死んだことで、漏瑚は呪霊操術の縛りからは開放された。しかし、男が復活を迎えるその時までは死柄木弔を守る。この縛りは、守らなければならない。でなければ、どのような罰が与えられるか分からないからだ。
自由を得ながら、自由ではない。それでも漏瑚は、いずれ廻道円花を殺す為に牙を研ぎ続ける。死して尚、忌々しく思える男をこの手で殺す為に。そして何より、花御の仇を討つ為に。
三人称久し振りに書きました。今回はAFOが漏瑚や花御に縛りを課してたって話です。まぁ、花御は円花に祓われましたけど。
産土神信仰編が長々としてしまったので、漏瑚視点はさらっと書きたいですね。短くサクッと纏めるのが目標です。
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