待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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蒸気の噴出。

 

 

 

 

 

 

「何故儂がこんな事をせねばならんのだ……!」

 

 AFOと呼ばれる男の死亡後。(ヴィラン)連合の面々は、バックボーンを失い低迷していた。が、実のところ生きることには困っていない。人の目に付くことなく、自由に動き回れる漏瑚が居るからだ。一般的に、呪霊は一定以上の呪力の持つ人間にしか見えない。その痕跡も辿れない。つまり漏瑚と言う呪霊が盗みを働けば、誰に気付かれることも無く痕跡を残すことも無く、目的を達成することが出来る。

 例えば。適当に目に付いた店に入りレジから金を掠め取ったって、人に盗む瞬間が見られるわけでは無い。

 

 なので。食うに困りつつ有った死柄木弔が、漏瑚に一つ命令したのだ。ちょっとその辺の店から、食べ物なり金なり生活用品を盗んで来いと。この指示に、漏瑚は頭から蒸気を噴き出した。何故儂が、この小僧の指示で盗みなど働かねばならんのだと。そんな真似をするぐらいなら、まだ他の事をしていた方が良いと苛ついたのである。が、しかし。死柄木弔の肉体を守るのが漏瑚がAFOと結んだ縛りである。後に自由を得る為に、あのいけ好かない男が復活するまでは死柄木弔の健康状態を維持しなければならない。

 せっかく呪霊操術の支配下から離れることが出来たのに、縛りのせいで常に死柄木弔を気に掛けなければならない。それは彼にとって鬱陶しいことだ。さっそくAFOと縛りを結んでしまったことを後悔しつつ、それでも漏瑚は盗みを働かなければならない。

 

 都会とも田舎とも言えない県の、何処ぞのコンビニにて。沸々と煮え滾る苛立ちで頭から蒸気を噴出しつつ、漏瑚は盗みを働く。レジが開くタイミングを見計らい、レジが開いた瞬間に横から金を掠め取る。ついでに、トゥワイスに頼まれた煙草を幾つか懐に収め大きな足音を立てながら店を出る。すれ違う人間共を焼き尽くしたい衝動を堪えつつ、目に付いた路地裏へ踏み入る。すると。

 

「よう。頭から蒸気出すなよ富士山。暑いだろ」

「あ゛? 何の用だ小僧……!」

 

 漏瑚の前に現れたのは、全身に火傷痕が残る黒髪の男。(ヴィラン)連合の一人、荼毘だ。

 

「迎えだよ迎え。連合でアンタが見えるのは俺一人だ。知ってんだろ」

「……黒霧め。そもそも彼奴が捕まりさえしなければ、儂が街を歩き回ることなど……!」

「だから暑ちいよ。血圧上がってんのか?」

「それもこれも貴様等のせいだが!?」

 

 蒸気が噴出する。それはあっという間に路地裏を埋め尽くし、周囲の壁を僅かに蒸していく。苛立ちを隠そうとしない漏瑚は荼毘へと歩み寄り、下から思いっきり睨み上げる。もやはチンピラが如き風情だ。これで何百年と生きる呪霊なのだから、彼は些か人間味が強い。

 

「北海道じゃ我儘に付き合ってやっただろ。ヤクザん時もだ。それで我慢しろ」

「あの程度では足りんわ! 廻道円花を殺すには、まるで足りんぞ!!」

 

 蒸気の噴出が激しくなる。呪力によって発生したこの蒸気そのものが人目に付くことは無い。が、その蒸気による影響は周囲に出る。建物の壁は熱気により塗装が溶け始める。路地裏周辺を歩いている人間は突然の熱に驚き、悲鳴を上げた。

 

「ちっ。人間め……!」

「蒸気引っ込めろよ。そんなだからスチームシーフとか呼ばれんだぞ」

「ああ゛? 突っ立ってないで足を動かせ小僧。さっさと帰るぞ……!」

 

 苛立ちをそのままに、頭からの蒸気噴出もそのままに。漏瑚は荼毘を引き連れ、路地裏の奥へと消える。

 

 数時間後。お茶の間に流れるニュースが、今日の漏瑚の悪事を小さく取り上げていた。彼の姿が見られることは無いのだが、現場に残る痕跡から正体不明手口不明の盗っ人「スチームシーフ」として世間を少しばかりお騒がせしてしまっているのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れさん! もっと働け!」

 

 今日も盗みを働かされた漏瑚が荼毘と共にアジトへ戻ると、まず真っ先にトゥワイスが親指を立てた。そして親指で地面を指した。

 

「十分働いてンだよこっちは。暑苦しい奴の迎えなんてさせんな」

「そうは言ってもねぇ荼毘くん。漏瑚ちゃんが見えるのは、今は貴方しかいないわけだし……」

「退け。邪魔だ」

「見えてねぇし聞こえてねぇよ。そこ漏瑚が通るぜ、マグネ」

「あらやだ、お肌焼けちゃう! それと、そろそろマグ姐って呼んでくれても良いのよ?」

「うぜェ」

 

 (ヴィラン)連合の中で、漏瑚を視認し会話出来る存在は二人。黒霧と荼毘だ。しかし黒霧が捕まってしまっている以上、漏瑚と会話出来る者は荼毘一人しか居ない。奥の部屋で熟睡している死柄木弔も、呪霊を見ることは出来ないのだ。

 

「んじゃ漏瑚。金はそこ置いといてくれない?」

「ちっ。手品師風情が……!」

「だから聞こえてねぇって」

 

 Mr.コンプレスの指示に、漏瑚は蒸気を噴き出しつつも応える。古ぼけたソファの前に置かれた、机代わりの木箱に今日の成果を投げ捨てた。ついでに煙草も取り出し、トゥワイスに向かって投げ捨てる。

 呪霊が見えない彼等からすれば、突然金が現れて煙草が飛んだようにしか見えない。漏瑚からすれば、物に八つ当たりしているようなものだ。

 

「……いつも助かるぜ漏瑚! ありがとな!」

「そうだな。漏瑚がこうして足が付かない盗みをしてくれてるから、俺達は食い繋いでられる」

「焼き尽くすぞ貴様等……!!」

「あっつ!? ちょっと漏瑚ちゃん! 蒸気出すのは止めてくれないかしら……!?」

 

 漏瑚と(ヴィラン)連合の面々の仲は、実のところそう悪くはない。ただし、良くもない。彼は縛りが有るから死柄木弔の守護をしているだけであり、縛りが有るから死柄木弔の指示を聞く。もっとも、指示に従うのは主に生活に関わることのみなのだが。

 

「いつまでこのような日々を送るつもりだ。もう一度、廻道円花と戦わせろ……!」

 

 蒸気が更に噴出した。今の生活に、漏瑚は不満を募らせている。神野にて廻道円花に敗北、彼女に復讐を果たす為の北海道での修行、及び死穢八斎會での引き分け。彼は未だ、現代最強の呪術師と決着していない。だが縛りがある以上、好き勝手に動くこともままならない。自由に出来るのは、たまに死柄木弔から許可が降りた時のみ。そろそろ縛りを破ってしまっても良いのではないかと何度も考えはしたのだが、どのような罰が待っているのか分からない以上は縛りを守らざるを得ないのだ。

 故に。漏瑚にはストレスが溜まり続けている。今の自分の実力ならば廻道円花に勝てると確信しているのに、早いところ花御の仇を討ちたいと思っているのに、動くことが許されない。ここ最近の彼は、常々蒸気を噴出してしまっている。

 

「あのイカレ女とやるとしても、効果的なタイミングってのが有るだろ」

「そういう貴様は、脳無と共に廻道円花に会って来たそうだな……!」

「あぁ、お陰で良い勉強になったぜ。特級呪術師様の呪力操作を間近で見れたのは、デカい収穫だ。お陰で調子が良い。便利な力だぜ、反転術式ってのは」

 

 苛立つ漏瑚を煽るかのように、荼毘はさも楽しそうに笑みを浮かべる。火傷面故に悪どい笑顔になってしまっているが、当人も周囲もそれを気にすることは無い。この場に、他者の在り様を諫めるような者は居ないのだ。

 

「まぁもう少し待ってろよ。いずれ、廻道円花とタイマンさせてやる」

「その言葉、違えるなよ……!」

 

 募る苛立ちを、不快を、漏瑚はひたすら抑え続ける。全ては廻道円花との決着の為に。そして、いずれ訪れる自由の為に。彼はその日がやって来るまでは、(ヴィラン)連合と共に居るようだ。

 

 

 

 

 

 

 








振り回される漏瑚。さらっと呪力持ちの荼毘。まぁ敵連合で呪力持ちが居るとしたらそれは荼毘だなとずっと思ってたので(黒霧は脳無なので除く)
死にかければ脳が変異し呪力を得ますからね。荼毘はそこんとこピッタリだと思います。
だから轟くんに早い段階で赫灼熱拳を体得させたんですよね。原作より荼毘の脅威度が跳ね上がってるので。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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