待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
那歩島から帰って来た、その翌日の晩。儂は朝から頭を抱えて居て、気が付けば夜になっていた。何故かと言うと、
なので。今年は、と言うか今年も? 被身子には楽しんで貰いたい。それにほら、今年は何と言うか……いつもとは違うんじゃ。何がって、ほら。儂、半年前に被身子に恋をしたわけで。去年までは恋人と言うよりは、許嫁として付き合っていた。でも今は、恋人で許嫁じゃから。そう考えるとの、こう……不思議と胸が高鳴る。これも不思議に思うんじゃが、今年のくりすますが楽しみなんじゃ。
じゃからな? 柄にもなく、
何を隠そう、
取り敢えず、……じゃ。
……しかしなぁ。困ったことに、行先が決まらない。儂が行きたい場所といえば、温泉じゃの。今は冬らしく寒いから、熱い湯に浸かって温まりたい。那歩島が暑かったこともあって、昨日から寒さが半端ない気がしてならん。じゃから、温泉に行きたい。でも、果たしてそれで被身子が喜んでくれるのかどうか……。
「……んんむ……」
困ったことに、何も思い浮かばない。どうすれば良いのか、まったく分からん。あ、そうじゃ。こうなったらじゃな?
「通話。くらすめえと達、全員」
周りの連中に、聞いてしまおう。こういうのは、くらすめえと達の方が儂より知ってるじゃろ。床の上に寝転んで、さっきから掴みっぱなしの
『……どうかしたのか?』
「おぉ、常闇。いや何、少し聞きたいことが有っての?」
『どうした?』
「くりすますに被身子とでえとするんじゃけど、何処に行けば良いと思う?」
『……』
おい、電話越しに呆れるな。分かるんじゃぞ貴様。儂が質問すると、何で直ぐに呆れるんじゃ。解せぬ。儂は困ってるから聞いていると言うのにっ。
『……俺に聞かないでくれ』
「いやいや、そこは助けてくれんか? 今朝からどうしたものかと悩み悩んで―――」
『頼む。俺に聞かないでくれ』
「ぐぬ……っ」
か、頑なな奴め……! 良いじゃろ別に、聞いてみたって。現に何も思い浮かばないんじゃからっ!
『ん? 廻道に常闇? みんなに電話してどうしたの?』
「あぁ、芦戸。被身子とでえとするんじゃけど、何処に行けば良いと思う?」
『それって、渡我先輩と決めれば良いんじゃない? ウチ等に聞くこと?』
電話に出ているのは芦戸なのに、耳郎の声が聞こえた。どうやら一緒に居るようじゃ。それだけではない。何やら電話の向こう側が騒々しい。居間に全員集まって、何か話し合っているのか? 何にせよ、電話越しに全員居るようじゃ。
「いや、今年は儂が選んでしまおうかと思ってての。例年はその、被身子が決めとるから。出来れば喜んで欲しくてのぅ……」
『ケロケロ。円花ちゃん、被身子ちゃんに恋してるものね』
『え、ほんとのほんとに今年初恋なの? 最初からあんなにイチャイチャしといて!?』
……は? いや、いや待て。何故それが、くらすめえと達に伝わっているのか。確かに初恋ではある。体育祭の頃に、自覚した。それでさんざん母にからかわれた覚えがある。被身子は大分不満げにしておったけども。しかし、しかしじゃな? この事を誰かに話した覚えは無い。なのに何故、くらすめえと達はこの事を知っているのか。儂が被身子に初恋をしたと言う事実を知ってるのは、それこそ儂や被身子ぐらいのもので……。あ、そう言えば梅雨に話したような気がするが……。いやしかし、梅雨はそういうのを言い触らすような奴では無いと思う。ならば、何故?
って、あぁ。思い出した。そう言えば、被身子がくらすめえと達を前に儂が初恋であることを言い触らしておったわ。文化祭の打ち上げの時に、暴露しておった。お陰で、周囲が騒々しくて仕方なかった覚えがある。
『クリスマスにデートって言ったら、やっぱイルミネーションじゃね?』
『いや上鳴。そんなん、あの二人ならとっくに行ってるでしょ』
『クリスマスっつったら、ラブホだよなぁ!? オイラも同伴して聖なる夜に3P―――』
上鳴の提案は一応覚えておくとして、峰田の戯言は聞き流しておこう。らぶほ、て。お主それ、被身子に聞かれたら刺されるぞ? 今、被身子が部屋に居なくて良かったな?
何か鈍い音が電話越しに聞こえた。いつも通り、峰田が処されたらしい。何であやつ、
『んーー、廻道さん。そういうのって、廻道さんが一人で決めるから意味がある……んやない?』
「麗日?」
『や、えっと……。そ、その。私はそう思ったってだけだからね? 特に他意はあらへんよっ!?』
何を慌てているのやら。電話越しでも挙動不審になっているのが分かる。さてはお主、緑谷にして欲しいことを儂に伝えたか? 誰の影響かは知らんが、大分染められつつあるように見える。誰のせいとは言わんけど。
まぁ、素直になるのは良いことじゃ。でないと、ほら。儂みたいになるかもしれんしの。本心を包み隠して過ごしていると、それはもう大変な事になるからのぅ。うむ、儂みたいになるのはいかんぞ麗日。その調子で、影響されておけ。悪影響な気がしないでもないんじゃけども。
しかし、まぁ。儂自身が一人で考える……か。それが上手く行っていないから、お主等に聞いとるんじゃけどなぁ。もう少し、一人で考えてみる……か? 良い案が浮かぶとは思えんのじゃけれど。
……っと。足音が聞こえる。そろそろ被身子が部屋に戻って来そうじゃの。くらすめえと達に
「もう少し考えてみる。駄目じゃったらまた後で聞くから、よろしく頼む。通話終了! 」
それだけ伝えて、電話を切る。慌てて体を起こすと部屋の扉が開いて、被身子が姿を見せた。
「誰かと電話してたんですか?」
「ぅ、うむ。まぁ少しの? 何でもないぞ何でもっ。がははは!」
い、いかん。もしや、聞かれてたか? いや流石に今回は聞かれていないと思いたい。被身子は、ついさっきまで洗い物をしてた筈じゃ。台所に居たんじゃから、儂が部屋の中で何をして居たとしても分からぬ筈。分からぬよな……? そうであってくれねば、困る。
「……んーー……? 何か隠し事してません……?」
ぎくっ。す、鋭い奴め……! 何でこんな時だけは鋭いんじゃ貴様っ。儂じゃって、たまには隠し事のひとつやふたつぐらいしたいんじゃけど?
「し、しとらんしとらん! 何も隠し事なんてしとらんて!」
「まぁ良いですけど。何となく分かりますしっ」
「ぐえっ」
隠し事を探られて慌てていると、小走りに駆け寄って来た被身子に抱き締められた。で、そのまま押し倒されたわ。
「クリスマス、楽しみにしてますね。今年はヨリくんが連れ回してください♡」
「ぅ、うむ……。まぁその、楽しみにしててくれ……?」
……。……結局、見透かされてしまっている。何でこやつには隠し事が出来ないのか。儂の母のように魂を見れるわけでもないのに、何でか被身子は儂の内心を把握しきってるんじゃよなぁ。まぁ儂も、いい加減被身子の考えてることが分かるようになって……。は、おらんか。こやつの思考はまったく分からん。分かっていることは、儂が好き過ぎてどうにかしとるって事だけじゃ。
ところで。何やら上機嫌じゃの、被身子。嬉しそうに笑って、儂の首筋に鼻先を当ておって。抱き締めるのは構わんが、匂いは嗅ぐなよ? 別に汗をかいてたり、汗臭いわけでは無いんじゃけども。それでもこう、好きな人に体臭を確かめられるのは何か気恥ずかしいものが……。
このままでは何か負けた気がするので、儂も被身子の匂いを嗅いでみる。少し洗剤の匂いがするの。主に手の方から。さっきまで洗い物をしてたんじゃから、当然と言えば当然か。
「円花ちゃんの匂いって、とっても落ち着くのです。ずっと嗅いでたいかも……♡」
「きゅ、急に何じゃ。そんな臭うか……?」
そんな筈は、無い筈なんじゃけど……。余程忙しかったり、何か面倒な事情がない限りは風呂は毎日欠かさず入るし。なのに、臭う……のか? それは、嫌じゃのぅ。もう少し念入りに洗った方が良いのか……? いやしかし、普段から体はしっかり洗っとるしの。これ以上は無駄な気がするんじゃけども……。
「んーん。好きな人の事って、何でも好きになるじゃないですか。円花ちゃんだって、きっとそうなのです」
「……いや、そんな事は……」
……まぁ……、……ぅむ……。被身子の匂いは、好きじゃけども。嫌いなんてことは無い。
「んふふ。今日はぁ、お互いを沢山嗅いでみます? ちょっと変態な感じがしますけど、まぁそれはそれで」
「何を言ってるんじゃ。たわけ」
何故お互いの匂いを嗅ぎ合わなければならないのか。それは流石に、どうかと思う。そんな真似をしたら、峰田と同類になってしまうのではないか? ……知らんけど。何か、そんな気がしてならん。そう考えると、気乗りしないのぅ。
「そう言えば、ヨリくんって何フェチですか?」
「は?」
ふぇち……? 何じゃったっけ。確か、いつぞやに一部の男子共がそれについて語り合って、
ええっと。確か異性の特定の部位や行動に対しての執着……的な感じじゃったよな?
「ぶっちゃけ、私のどこを見たら興奮します?」
「そんなものは無いが??」
何を聞いてくるんじゃ、こやつ。被身子の体で、興奮する部位……? いや、そんなのは思い浮かばん。まぁ強いて言うなら、血を前に興奮してるお主を見ると目茶苦茶にされることをつい期待して……。って、何を考えてるんじゃか。これでは、変質者と同じな気がする。それは嫌じゃの。
「ちなみにトガは、ご存知の通り血ですけど。あとは……肌、ですかねぇ。真っ白な肌は、血で濡れるとすっごく素敵なのです!
あ、鎖骨も捨て難いです。円花ちゃん、ここに黒子が有ってえっちだなって……」
「へんたい」
儂が着ている着物をはだけさせながら、鎖骨を撫でるな。皮膚を撫で回すな、鎖骨下の黒子も撫でるなっ。何がしたいんじゃ貴様! さては、会話の流れで儂を抱こうとしているな? 何なら、噛み付こうとしているな??
そういうのはじゃなっ、直接「したい」と言わぬか! 別に、お主に求められて嫌なんて思うことは無いんじゃから。いつ何時じゃって、被身子が求めるんじゃったら幾らでも……。
まったく、仕方のない奴なんじゃから。まっこと、仕方のない! そんなお主に付き合えるのは、儂だけ何じゃからな!? その辺り、よぅく自覚して貰わなければ困るっ!
なので!
「んむっ」
取り敢えず、被身子の口に人差し指を入れてみる。で、少しだけ。ほんの少しだけ、指先から血を出す。そしたら被身子は少し驚いて、でもすぐ……嬉しそうに笑って。
あぁ、うむ。ふぇち……とは違うけども。儂はこの笑顔が好きじゃ。儂の前でだけしてくれる、儂だけの笑顔。最初はどうかと思ったが、今ではすっかり好きになってしまった。
って、こら。被身子。そんなに指を吸うな。もっと欲しいんじゃったら、ねだるような目をしないで噛み付いて来たら良いじゃろ。ほら、着物は着崩してやるから。
「……ぁはっ。そんな風に誘って、どうされたいんですかぁ?」
「うるさい。したいならすれば良いじゃろ? 要らんなら、もうしまうぞ」
直ぐには噛み付いて来なかったので、体を起こし着崩した着物を直して行く。そしたら。
「欲しいです。チウチウさせて?」
被身子が後ろから抱き付いて来て、そう囁いた。……最初からそう言え。回りくどいのは、儂は好かん。だいたい、いつもは儂の意思なんてお構い無しに噛み付いてくるくせに。
自分からもう一度、着物を着崩す。今度は帯も緩めて、大きく前を開いてやる。そしたら、直ぐ真後ろに居る被身子はこの上なく嬉しそうに息を漏らして。それから―――。
「んぁーー、むっ!」
思いっきり、首に噛み付いて来た。そしたら、背筋が震えて。……その。熱っぽい吐息を、つい漏らしてしまって。
……後はもう。流れに身を任せた。
そろそろクリスマスデート編です。円花が一世一代の過ちをするお話でもあります。これが済んだら、今度こそ加茂頼皆:昇華を書きたいですね。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ