待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
くりすます、が近いからと言って普段の日常に大きな変化がある訳では無い。儂も被身子も、学生としてやる事が有る。儂の場合はそこに呪術師としてやるべき事も追加されており、被身子は被身子で特待生としてやっておくべき事が有る訳じゃ。まぁつまり、
「もっとスピード出せないのか」
「うるせーな、落ち着けよ」
「USJで一度戦ってる。そんな素振り、微塵も……」
現在。儂は車の中じゃ。目的地は、たるたろす。何やら儂の知らんところで
呪詛師とて、人間じゃからの。例え個性の影響で見た目が人とかけ離れていたとしても、人間は人間じゃ。付け入る隙が無いわけではない。
まぁ、とにかく。
で。その黒霧への尋問が今日行われる。捕らえたのは死穢八斎會とのいざこざが有った時のことじゃったらしいが、今日まで伸びるに伸びた。理由は幾つかある。まず今日まで尋問が伸びた理由のひとつは、単に儂が忙しいから。次に、相手が呪詛師故に拘束しておくことに手間取ったから。あとはまぁ、この件で儂を引っ張り出すことを良く思わなかった連中がおっての。具体的には、運転席と助手席に座ってる奴等じゃ。つまり、相澤。それと、ぷれぜんと・まいく。
で、尋問する理由は最近
じゃから今、こやつ等と共に黒霧への尋問をしに向かってるわけじゃ。いつも通り、ながんも巻き込まれた。今は儂の隣で、
……に、しても。何やら前の席に座ってる大人二人はまるで落ち着きが無いの。苛ついているし、焦っているし、動じている。何故尋問を前にこうも平静を欠くのか。見たところ何か事情がありそうなものじゃけど、まぁ放って置くとする。子供ならまだしも、大人を気遣ってやる必要は何処にも無いからのぅ。
「これ、見ときな」
隣に座るながんが、儂に電子端末を手渡して来た。補助監督として、知って置いて貰いたい情報が有るようじゃ。画面に目を落とすと、そこに映っていたのは黒霧に関する情報。身長やら体重、個性の詳細に呪力持ちであること。呪詛師の個人情報を知りたいとは思わんが、まぁ一応目を通しておくとしよう。どれどれ……。
……。………。………………。
ええっと? ……つまり? この黒霧は、脳無? まぁ確かに人間離れした姿はしておったが、よりによって脳無か。
ただまぁ。こやつが脳無じゃからって、儂がやる事は変わらん。これから、尋問しに行くわけじゃ。幾つか話を聞き出せば良いんじゃろ? そういう細かいことは得意ではないが、やるしかないか。これも呪術師としてやるべき事じゃからな。
「ここ、よく読んでおけ」
「ん?」
ながんが指で差した部分にある、一文。所有する遺伝子、個性因子が故人である白雲朧に極めて近い……? つまりこの黒霧とか言う脳無は、その白雲朧とか言う奴の遺体を使って作られた……??
なるほど。確かにそれは、相澤が言うように悪趣味な話じゃな。
「呪術師として、どう思う?」
「どう、と言われてものぅ」
それこそ、悪趣味な話では有るとは思う。が、呪詛師のやる事なんて大抵はそんなものじゃ。死体を利用して化け物を作る、なんてのは呪術的に見れば別に有り得ん話でもない。死後、呪物になる術師じゃって居るわけで。まぁ呪術のそれの比べたら、脳無はかなり悪趣味じゃが。
死体を利用して脳無を作ると言うことは、儂がこれまで出会って来た脳無も死体が元か? いや、生きた人間を改造したのが脳無とおおるまいとは言っていたな。であれば、生きた人間も死んだ人間も脳無に出来る訳じゃ。それを術式か何かしらの呪術で行っているのか、それともこの時代の科学技術でどうにかしているのか。
どちらにしたって、悪趣味じゃ。好ましいとは思わん。
「死体を動かす呪術は、有り得るのか?」
「有り得ん、とは言えんよ。条件次第じゃろうなと思うし、結ぶ縛りによっては可能じゃろうなとも思う」
「ケッ。呪いらしい事だな……!!」
「おい、アンタ……」
「気にはせんよ。そう思って当然じゃから」
普段はどちらかと言えばふざけ倒してる喧しい男が、生徒に向かって悪態を吐かねばならん程に頭に来ている。と、見るのが自然じゃろうな。黒霧に関する情報は、
「趣味が悪いにも、程がある」
「俺ぁ……、塚内さんの勘違いに賭ける」
に、しても。どうにも車内の空気が悪いの。窓を開けて、外の空気を取り込むことにする。って、ぬお……っ。さ、寒い……!
◆
かつて、ながんが収容されていた監獄。たるたろす、にやって来た。儂等を出迎えたのは、何処かで見た老人と警察官。それと、七山。知らん二人組の片方は、あれじゃ。ぐらんとりの……じゃったな。緑谷の職場体験先じゃった筈。もうひとりは……。まぁ、思い出せなくても構わんか。そんな事より、話はちゃんと聞いておこう。元・担任も、英語教師も、落ち着きが無い。と言うか、酷く動揺している。平静になろうとしているようじゃが、どうも無理そうじゃな。
白雲朧。とか言う奴は、教師二人にとって余程大切じゃったんじゃろう。それは、何となく分かる。で、じゃ。何で儂を、この場に呼んだ? 呪術師としての見解が欲しいだけなら、それこそ電話で良かったじゃろ。わざわざ儂を連れて来るように頼んだと言うことは、何かやれと?
「まず話しておきますが、彼女を呼んだのは不測の事態に備えてのことです。相手は呪詛師で、脳無です。今後は彼女の見解も欲しい。あなた方は、不服かもしれませんが」
たるたろすの、見覚えの有るような無いような廊下で。七山が最初に口を開いた。なるほど、不測の事態の対応策か。まぁ、良いじゃろう。尋問する相手は呪詛師じゃものな。当然の判断と言える。
「対呪詛師っちゅーのに、この嬢ちゃんは必要なんだろ? こいつが象徴の後継じゃなきゃ、とっくに摘み出してる。子供に立ち会わせる場じゃないからな」
七山の次に口を開いたのは、ぐらんとりのじゃ。探るような目で、儂を睨んで来た。見たところ、かなりの老齢じゃの。もしかすると、儂よりも歳を食ってるのかもしれん。或いは……同年代……? その可能性は、無いとも言えんが。
……ともかく、じゃ。何やら儂に対して思うところが有るらしい。それについては、後回しにしておく。
「……分かってます。廻道、或いはオールマイトが居れば何が起きてもまず対処出来るでしょうから。ですが七山さん、グラントリノさん。こっちは授業トばして来てるんですよ。
―――簡潔に、お願いします」
らしくないな。こうも動揺し、周囲も立場も見えなくなりつつある相澤は。周りに向けることはなくとも、激怒してるのは確かじゃ。そんな元・儂の担任の肩を、ぷれぜんと・まいくが掴む。落ち着けと諭すように。止めるように。もしくは、自分自身を止めたくて。
「では、簡潔に済ませましょう。私としても、こんな胸糞悪い話は手早く片付けたい」
「順を追おう。気持ちの整理を付ける為にも―――」
「いえ、大丈夫です。……合理的に行きましょう」
大丈夫、には見えんが? 仕方ない奴じゃな、こやつ。動揺も怒りも静められてないのに、話を進めようとしている。話を早く進めたい気持ちは分かるが、せめて一呼吸ぐらい入れておけ。
「そうかい。その虚勢が見れただけでも、嬢ちゃんを連れて来て貰った価値が有るな。先生としちゃ立派なもんだ。
……黒霧は脳無で、白雲朧の遺体がベースになってる可能性が高い。っつーことだ」
ながんに見せられた資料を今度は口頭で聞きつつ、全員で廊下を歩く。やがて辿り着いたのは、椅子しかない監獄。その椅子には、黒霧が縛り付けられておるの。見たところ、眠っとるようじゃ。微塵も動く気配が無い。
「今は眠ってる。個性や呪力を使おうとするからな」
「何で我々を? 『絆による奇跡』でも期待してるなら、大衆映画の見過ぎでは?」
「根拠が有れば奇跡も可能性に変わる。それと……」
「呪術的に、彼を戻せる方法が有るかもしれません。それを彼女が知っていれば、ですけど」
「あぁ、呪術についちゃDDG以上に知ってる奴はいねーもんな。……なァ、出来るのか?」
「知らんよそんなの。儂とて、呪術について何でも知ってる訳じゃない。……何も思い浮かばぬ訳でもないが」
これから行うであろう尋問の相手は呪詛師であり、呪力を持っている。ならば、やれる事は無い。とは言えんの。ただそれが、こやつ等が望むものを用意してくれるかは知らん。空振りに終わる可能性じゃってある。しかし、それでも可能性が有るのならそこに賭けたいんじゃろ。
にしても。よく寝てるな、こやつ。椅子に縛り付けられてるくせに。誰かの個性か、或いは薬品か? どっちにしたって、捕えた人間にするような事では……。いや、厳密に言えば遺体じゃから関係無い……のか?
「何か、思い当たるのか?」
「要は、こいつから情報を引き出したいんじゃろ? 手っ取り早いのは、儂と縛りを結ばせてしまえば良い。
こやつが望むものを儂が与える。代わりに、こやつは儂が望むものを差し出す……って感じでの」
気乗りはしない。他者と縛りを結ぶのは、出来る限り避けたいところじゃ。が、これについてはそうも言ってられんか。黒霧は
「……呪術による契約の事だったな。強制力が有るのか?」
「有る。事実上、縛りを結べばそれを破ることは叶わん」
「……確か、罰が下るんでしたね。それは、どのような?」
「不確定の不明瞭。酷く曖昧で、何を失うのかも分からん。
じゃが、まぁ。他者との縛りを破るとろくな事にならんのは事実じゃ。故に、呪術師も呪詛師も縛りは破らん」
……うぅむ。面倒じゃし、やはり気が乗らん。他者との縛りは結ぶべきではない。が、時にはそれが必要な場合も有る。今回の場合は、必要なんじゃろうな。儂は
「廻道。それは、こいつに望まれるもの次第ではお前にどんな不利益が出るか分からないって事か?」
「そうじゃな。無論、その不利益に見合った不利益を黒霧にも背負って貰うが。縛りとは、そんなものじゃ」
「……だとするなら、七山さん。その線は無しです。ここで生徒に不利益を背負わせる真似は出来ない」
……は? いやいや、何言ってるんじゃこやつ。おい相澤。縛りを結んでしまえば、それが手っ取り早いじゃろ。黒霧から情報を引き出すのに、これ以上のものは無い。縛りは、絶対じゃ。それから逃れられる者は呪術師じゃろうと呪詛師じゃろうと、存在しないんじゃからな。
「そうですね。彼女は我々の切り札でもあります。ここで切るわけにはいかない。ですのでイレイザーヘッド、プレゼント・マイク。どうか貴方達に、白雲朧の執着を呼び覚まして欲しい」
ちっ。どうやら、ひとまずは儂無しで尋問するそうじゃ。尋問をすることが楽しみ、なんて趣味は儂には無い。が、此処まで連れて来られたのに何もするなと言われると、それはそれで不服なものじゃ。
まぁ、良い。黙って見ててやろう。今回の場合、不測の事態に備えるのも儂の任務の内じゃ。じゃから、そちらに集中するとしよう。
原作では新年にある黒霧尋問ですが、クリスマス前にぶち込みました。ってのも、理由はクリスマス以降は円花にそんな余裕が無いからと決まっているからです。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ