待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
渡我被身子。それがこの間、怒られていた女児の名前じゃ。輝く髪につぶらな瞳。呪霊に勝るとも劣らん、歪な笑顔。歳は儂のひとつ上。五歳だそうだ。好きなものは柘榴。あと赤いものが好みのようじゃ。儂が飲んでた『とまとじゅうす』なるものを見て、物欲しそうにしておった。あんまりにも見詰めてくるものだから一口分けてやると、涙目になっておった。口に合わないようじゃ。
被身子と出会ってから、七日が過ぎた。夏は暑くて敵わん。くうらあの無い部屋では生きていけん。どうしてこの便利な機械が平安の世には無かったのか。人類の進歩というのは凄まじいのぅ。冷蔵庫のお陰で食べ物は腐りにくくなっとるし、冬はすとおぶで暖かいし、一年通して快適に過ごせる。
さて、現在夕方の六時。そろそろ日が沈みきって暗くなる時間。儂は和室でごろごろしておったのじゃが、来客が来た。この廻道家に、儂を訪ねてやってくる者は一人しかおらん。
「まどかー。被身子ちゃん来たよー」
今日は八月七日。家から少し遠出したところにある神社で祭りがあるそうじゃ。そこに被身子と行くことになっておる。この話を持ちかけられた時、何で真夏に外出せねばならんのかと思ったし口にした。そしたら被身子に泣かれた。何故か父に「女の子を泣かせちゃ駄目だ!」と拳骨を落とされた。
その後は、そりゃあもう大変じゃった。被身子を泣き止ますのに大層時間を費やす羽目になったのぅ。結局、祭りに行くと言えばさっきまでの大泣きが何だったのかと思う程にすんなりと泣き止みおったが。
まぁそんなこんなでの。今日は被身子と祭りに行く。
「こ、こんばんわ……まどかくん……」
和室から玄関まで向かうと、何故か照れている被身子がおった。母よ、何故儂を見て邪な笑みを浮かべる。お主が最近、何やら被身子と結託してるのは把握しているぞ。まぁ良い。その話は後でするとして……。
「お、今宵は浴衣か。よう似合っとるぞ被身子」
「……ぁう……」
今宵の被身子は、蝶柄で薄桃色の浴衣で着飾っておる。しかしこやつ、儂に褒められると直ぐ顔を赤くするのぅ。そして恐らくは被身子しか持ちえぬ笑顔を浮かべおる。なお儂の父と母は、被身子の笑顔を初めて見た時は度肝を抜かれおった。が、驚いたことにその後直ぐ「被身子ちゃんは特別な笑顔をするんだね」と笑顔で褒めおった。以来被身子は、儂の父と母に懐いておる。
「円花、そろそろ準備なさい」
「もう出来とるが?」
「浴衣は? 甚平で行く気?」
「嫌じゃ。着とうない」
浴衣を着るのは構わん。じゃがな母! 女児用の浴衣は勘弁してくれ! どうにも落ち着かんのじゃ!
「駄目よ。着なさい」
「何故じゃ。甚平で良かろう?」
「駄目よ。着なさい」
「同じ言葉を繰り返すな母。儂は着とうない」
「着 な さ い」
「……ぐぬぅ」
儂の抵抗は無意味じゃった……。結局儂は用意されていた女児用の浴衣を着る羽目になってしもうた。今生の儂は女児。母が正しいのは分かっておる。分かっておるのだが、この抵抗感は中々消えぬ。
朝顔柄の赤い浴衣を着て廊下に戻ると、被身子が大層落ち込んだ。どうやら儂が女児じゃと今知ったらしい。何だ気付いておらんかったのか。
おい待て母、今何を被身子に吹き込んだ?
こら待て被身子。今、母に何と答えた?
おい父、ひょっこり顔を出したと思ったら腕を組んで深々と頷くな。その薄ら笑いで儂を見るな。
「円花、ちゃんと責任取りなさいよ?」
だから待て母。邪な笑みを我が子に向けるな。
「お母さん驚いちゃった。あんたが女の子に興味があるなんてねぇ。でも良いわよ? 今時は同性婚も珍しくないし。被身子ちゃんなら大歓迎だわぁ」
待て! 気が早い!! 結婚は十三からじゃろうが!!!
何? この時代は十八から? おほん。
結婚は十八からじゃろうが!!!
◆
綿飴が美味い。何じゃこのふわふわで甘々な食べ物は。本当に美味い。この時代の食が豊かなのは知っておったが、こんな美味いものがあったなら何でおやつの時間に出さなかったのだ。綿飴甘い……美味い……。甘……うま……。
林檎飴も美味いのぅ。林檎だけでも美味いのに、飴など表面に塗りたくって……これは駄目じゃろ……。
ちょこばなな? は嫌いじゃ。被身子、そんなものを嬉しそうに頬張るな。女児が逸物に似た物を食すな。
べびいかすてら? も嫌いじゃ。ちょこばななを見た後だったからか、睾丸にしか見えん。止めろ被身子、頬張るな。嬉しそうに頬張るな!!
いや、儂は食べんぞ? 止めるんじゃ、口の中に放り込もうとするな。止めっ……あ、これ美味い……。ぱんけえきに似ておる……。
それと、たこ焼きは二度と食わん。食した者に反転術式を使わさせるなど……。なんと厄介な食べ物であることか。熱すぎて味が分からなかった上に、舌を火傷した。
まぁそんなこんなで、今の儂は冒涜的な甘味を貪りながら被身子と母、そして父と共に祭りを楽しんでおる。やたらめったら人が多く、騒々しい。しかも家を出てからというもの、被身子が手を離してくれぬ。左手が塞がりっぱなしじゃ。
「……ぁ……」
「ぬ? どうした被身子」
「……」
何じゃ何じゃ、足を止めおって。何をそんなに熱心に見ておる。
……射的? ほう、的当てか……。景品が貰えると……。で、どの景品が欲しいんじゃ? 指輪? ああ、父と母が薬指に付けてるやつじゃな。夫婦の証っぽいやつじゃ。
ほれ父、金を出すのじゃ。なーにこんな物、儂にかかれば簡単よ。
弓じゃ。弓と矢を持ってこい。何? なんじゃこれは? 銃? ほう、構えて……引き金とやらを引く。……なるほど、当たらん!
……良かろう。ならばこうじゃ。
まず、両手で『こるく』とか言う小石を挟むじゃろ?
「百斂」
程よく圧力をかけてじゃな。ちょっとだけ血を出すんじゃ。
「
するとほれ、どうじゃ! 当たったぞ!!!
何? 駄目? 何故じゃ。仕方ないのぅ……。銃とやらに呪力を込めてじゃな。ついでにこるくにも込めておくか。
お、当たった。
「ほれ被身子」
「ふぇっ」
「何じゃ? 欲しかったんじゃろ?」
何でこんなものが欲しいかは知らぬがな。あと、何でまた照れてるんじゃ? 何でそんな熱っぽい目で儂を見る?
ちなみに。この時の指輪は今も被身子の首にぶら下がっておる。思い出の品だから、肌身離さず身に付けたいそうじゃ。
そろそろ捨てたらどうなんだ? 今度、ちゃんとした指輪を贈ると言っておろうが。
待て、悪かった。拗ねるな。機嫌を直せ。
お主が拗ねると、ろくな事にならん。チウチウなら幾らでもさせてやるから、そっぽを向くな。
……愛してるって言ってください。じゃと?
いや、それは……。……。
あ、愛して……おる、ぞ……?
ほら言った! 満足か!? 満足したじゃろ!? 満足したなら機嫌を直せ!!
待て。その顔はなんじゃ。こら、人を寝具に横たわらせるな。おい、服を脱ぐな。脱がすな! 何をする気じゃ被身子!!!
うぅ……被身子のばかぁ……。ぐすっ。
何度でも言うぞ。続きなど無い。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ