待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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公安の要請。

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさいっ」

「ぐえぇ」

 

 被身子への贈り物に何を選べば良いか。それをくらすめえと達に相談してみたんじゃが、やはり答えは出ないままじゃった。こればっかりは、自分で決めるしか無さそうじゃ。聖夜(くりすます)まで時間は無い。そう思うと、どうにも気が逸る……。何とかして、贈り物を用意しなくては。

 門限と同時に寮に戻ると、前掛け(えぷろん)姿の被身子に抱き付かれた。それも玄関の扉を開けた瞬間に、真正面から思いっきり。押し倒されぬように何とか踏ん張ると、背中に回った両腕に力が込められた。少し、と言うか結構息苦しい。でも、こうされることを好ましく思うんじゃから儂も大概じゃ。我ながらどうかと思う。

 ……じゃけど。こうして変える場所があって、儂の帰りを待ってくれる人が居るのは幸せなことじゃ。

 

「ご飯にします? お風呂にします? それともぉ……」

「被身子からじゃ。ほれ」

「んふふっ。はぁい♡」

 

 暖まるまで被身子に抱き付いて居ても良いんじゃけど、ほら。それはそれとしてしたい事があるものじゃろ?

 少し背伸びをして顎を上げると、被身子が屈んで接吻(きす)してくれた。ので、お返しに儂の方からも一度しておく。廊下の向こう側で相澤がこっちを見て呆れていたが、知らん知らん。良いじゃろ、ただいまの接吻(きす)ぐらいしたって。今日は割と、被身子を放ったらかしにしてしまったんじゃし。

 

「すっかり積極的なのです。えっちになっちゃいましたねぇ♡」

「うるさい。責任取れ責任」

 

 抱き付き直して、儂も思いっきり腕に力を込める。あくまで素の身体能力のままで。こうするとな、うむ……。冬は温くてちょうど良いんじゃ。どうにも人肌恋しい季節と言うか、何と言うか。寒いのは苦手じゃ。前世ではそうでもなかったのに、今生は文明の利器のせいですっかり寒さに弱くなってしまった。それと、暑さにも。気温に対して軟弱になってしまったのぅ。それもこれも、冷房と暖房が悪い。

 ……さて。被身子との抱擁を堪能し、少し暖を取ったところで腹が空いて来た。いや、寮に戻る前から腹は鳴っていたんじゃけど、玄関まで漂う夕飯の匂いで余計に腹が減って来たんじゃ。今晩は何かの? 漂う匂いからして、味噌汁が有るのは確実じゃけども。それとは別に、香ばしい匂いが……。

 

「ご飯にしましょっか。今夜はコロッケなのです」

「お、良いな。かれぇ味か?」

「はい。あとクリームコロッケとエビフライも有るのです!」

「それは、何やら豪勢じゃのぅ」

「クリスマスが近いですから!」

「気が早いじゃろ。まったくもぅ」

 

 まだ聖夜(くりすます)まで何日も有るのに、被身子はすっかりその気になって浮足立っている。まぁ、儂も似たようなものじゃ。例年と比べると、どうにも浮足立ってしまう気がする。早いところ当日に……なったら困るか。まだ困る。しかし、もう少ししたら逢瀬(でえと)出来ると考えると……。うむ、待ち遠しい気がするのぅ。すっかり被身子に毒されてしまっているが、悪い気はしない。

 何と言うか、そう。こやつが言う、何でも一緒が良いって気持ちが今なら分かる。

 

 とにかく、夕飯を食べよう。晩飯じゃ、晩飯。儂は腹が減った。まずは腹を満たして、それから風呂じゃ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飯も食った、風呂にも入った。夕飯はいつも以上に美味かったし、風呂なんて入浴剤入りじゃった。お陰で今宵はもう何もしたくない気分じゃけども、そうも言ってられん。年末が近い故、少し呪具作成を急がねばならん。具体的には、呪眼(のろいまなこ)じゃの。年が明けるまで、二週間を切っている。総監部からの依頼をこなせなかった、なんて結果は勘弁じゃから納期までは集中しなければ。

 ……それと、武器としての呪具も幾つか作っておきたい。気は進まんが捕縛布やら拡声器やら、短刀(ないふ)やら何やらを作り上げようと思う。特に捕縛布は気が進まんけど。

 何で相澤なんかの為に、既に作った物を余分に作らねばならんのか。理由は、まぁ分かるけども。恐らく、と言うか間違いなく、心操の為じゃ。なら、やらん理由は無い。何か特別交流が有るなんてことは無いが、それでも子供の為じゃ。ひと肌脱いでやるとする。

 

 ちなみに。被身子は部屋に引き籠って、何かしておる。勉強じゃったら居間でするじゃろうから、勉強とは違うことをしているのかもしれん。多分、編み物じゃの。数ヶ月前に、その手の類の本を儂の前で買っておったし。何なら宣言もしておったわ。なのに、何やら隠しておきたいようじゃ。あやつ、さては何か悪巧みをしとるな? まぁ、駄目とは言わんけど。好きなようにしたら良い。

 

「や、廻道少女。調子はどうかな? 呪具作成は、順調?」

 

 作り掛けの呪具に呪力を流し込んでいると、湯上がりのおおるまいとが話し掛けてきた。脇に何かを挟んでいるが、これから教師として仕事でもするんじゃろうか?

 何にせよ、こやつが寮に居るのは、珍しい気がする。部屋にあれやこれやと荷物を運び込んでいたくせに、寮に居ることが殆ど無いのは如何なものか。まぁ、こやつが居るお陰で楽が出来ているのも事実じゃけど。この筋肉阿保が居なければ、儂は全国を飛び回る羽目になっていたじゃろう。その点は、これでも感謝しとる。

 

「少し予定とは遅れとるの。那歩島に行かなければ、もっと余裕が有ったんじゃけどなぁ……」

「あぁ、うん……。君も色々と忙しいからね……。そんな君に、悪いんだけど少し大事な話があってね?」

 

 おおるまいとが、畏まった。何か嫌な予感がするのぅ。話を黙って聞いても良いんじゃけど、聞かぬ方が良い気がする。……なので。

 

「……やじゃ。聞きとうない」

 

 取り敢えず、断ってみる。

 

「……まぁまぁ、そう言わずに。君には先に言っておかなきゃならないんだ。

 雄英は、と言うより全国のヒーロー科が有る学校は、ヒーロー科全生徒の実地研修実施を要請されたんだ。つまり、インターン再開ってこと」

「は?」

 

 ……何じゃって? 実地、研修……? いんたぁん? 公安め。そんな要請を出すとは、いったい何を考えて居るんじゃ。それは要するに、学徒動員ってことじゃないのか? 流石にどうかと思うぞ。この時代、英雄(ひいろお)は飽和しとるんじゃろ? じゃったら……。

 

「このヒーロー飽和社会で、ヒーローの数が足りないって暗に公安は言ってる。詳しい事情はまだだけど、多分……泥花市の事で何か有った……んじゃないかな」

 

 英雄(ひいろお)が足りない……? それは、どういう意味じゃ? 呪具作成の手を止め、椅子を回しておおるまいとの方へ体を向ける。

 

「それでね。廻道少女だけはインターン先を前倒しに決めて、ひと足早く現着してくれって要請も有った。本当は元旦からなんだけど、君は二十六日からだってさ」

「は??」

 

 何じゃって? 二十六日から、いんたぁん……じゃと? それは、まぁ……。うぅむ……。いや別に、問題は無い。二十六日から始まるのであれば、前日の逢瀬(でえと)に何の問題も無いからの。もしこれで、あと一日早くいんたぁんに参加しろと言われたら頭に来ていたかもしれんが。

 

「それで聞いておきたいんだけど、行きたい研修先は有るかな? 一応、君の希望が優先ってことになってるんだけど。あ、これがインターン先のリストね」

「……取り敢えず、寄越せ」

 

 おおるまいとが取り出したのは、一枚の用紙じゃ。手渡されたそれを見てみると、様々な事務所名や英雄(ひいろお)の名が書いてあるの。上から順に、えんでゔぁにほおくすに、えっじしょっと……。お、鯱頭の事務所も有るの? げっ、ないとあい……!

 ……ざっと用紙を見てみたところ、見覚えの有る名前が多い。この中から、いんたぁん先を選べと?

 

 ……うぅむ。何と言うか、気乗りしないのぅ。じゃって、これは公安からの要請じゃろ? つまりそれは、儂に英雄(ひいろお)として働けって事じゃ。呪術師として働けと言うならしっかり働いてみせるが、英雄(ひいろお)としてはなぁ……。

 

「そのリストに書かれてるのは、今後窓としても働く事になってるヒーロー達だ。どこを選んでも良いけど、出来れば君が学びたいって思えるところを選んで欲しいかな」

「……学べる事が有るのか?」

「戦闘技術って点ではあまり学べないかもね。でも、それ以外の部分で学べることは沢山あるよ。例えば、エンデヴァーのところね。彼の事務所の方針や考え方は、参考になる」

 

 えんでゔぁ? あやつの事務所で学べることが有る……? んんむ、まぁ……確かにそうかもしれんな。一応、あやつは英雄(ひいろお)の頂点じゃからの。何かしら学べることは有るじゃろう。そしてそれが、将来英雄(ひいろお)免許を取る際に大いに役立つ筈じゃ。多分。

 英雄(ひいろお)としての将来を考えるなら、えんでゔぁの所に行った方が得かもしれんな。しかしなぁ、儂は別に英雄(ひいろお)になりたい訳じゃ無い。儂がやるのは、後にも先にも呪術師なんじゃから。

 

「諸々の手続きが有るから、遅くとも二十三日迄には決めて欲しいかな」

「……相分かった。気乗りせんけど、適当に決めておく」

 

 うぅむ……。これは、気乗りしないのぅ。とは言え、公安からの要請を無視するわけにはいかんか。下手すると、総監部からの要請に変わってしまうかもしれんし。まぁ、これについては後で考えるとしよう。取り敢えず今は、呪具作成が先じゃ。二十三日までに決めれば良いわけじゃし、時間は……数日は有るの。一応、寝る前にでも用紙を眺めて考えるとするか。

 

 

 

 

 

 

 







三人称による補完は要りますか?

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