待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
目が覚めると、被身子は居なかった。どうりで寒い訳じゃ。取り敢えず脱ぎ散らかした浴衣を着直して、寝癖はそのままに部屋を出るとする。起き掛けに時計を見ると、もうそろそろ十時になるところじゃった。取り敢えず
「あ、廻道少女。起きた?」
「……朝からなんじゃ?」
部屋を出ると、廊下でおおるまいとに出会した。寝起き一発目に会いたいとは思わん奴に出会ってしまった。相変わらず、筋骨隆々じゃのぅ。お陰で廊下が狭く感じる。と言うかじゃな? 儂は浴室に行きたいんじゃけど? そこをどけ、そこを。立ち塞がるな、たわけ。
「インターン先、決めた?」
「……あっ」
「決めてないんだね……。お昼までには決めてね? 色々手続きがあるからさ……」
「すまんすまん。今考える」
実地研修先を決めねばならんことを、すっかり忘れていた。そうか、今日は二十三日か……。なら、面倒じゃとしても決めておかねばならん。
行く先の候補は色々と有るが、その中で魅力的に思える事務所は特に無い。ただ、世間に平和の象徴の後継として認知されている以上は
……そう考えると、世間の注目を浴びやすい事務所で実地研修を受けるべきか。なら、まぁ……。うぅむ……。
「……おおるまいと。目立ち易い事務所は、何処じゃと思う?」
「それは……。まぁ、良くも悪くもエンデヴァーのところだね。現・No.1は彼だから、世間からの注目はやっぱりどうしてもね」
まぁ、それはそうじゃろうな。おおるまいとが
「あやつ、嫌いなんじゃよなぁ……」
「なら、ギャングオルカはどう? また熱烈なオファーが来てるけど」
「鯱頭は、どうせ海上保安が主じゃろ? 儂の力じゃ向いとらん。そういうのは、梅雨の領分じゃって」
「確かにね。でも、勉強にはなるんじゃないかな? 何も海に有利な個性でなければ海上保安をしちゃいけない……なんて事は無いんだし」
それもそうかもな。ただやはり、海に強い個性を持った者が海上保安を務めるべきじゃろう。儂の場合は、海が相手では渦潮を起こすことしか出来ぬし。あと、隆之の遺した呪具『
「エンデヴァーの所に行けば、大きな経験を得られるのは確かだね。勉強になるよ。それに……窓のことも有る」
「……それもそうなんじゃけどなぁ……」
総監部は、どうしても人手不足じゃ。窓以前に、呪術師の数が足らん。窓が増えたとて大きく何が変わるとは思えんが、それでも無いよりは良い。えんでゔぁが
その辺りの打診は、総監部が既にしている。結果がどうなってるのかは知らんけど。
んんむ。えんでゔぁ、えんでゔぁ……か。あの燃え面、まっこと嫌いなんじゃよな。ただ、まぁ。行く末が気になる奴では有る。あの男が、家族に対して
……はぁ。まぁ、良い。えんでゔぁの事務所を選ぶことは、公安の目論見的にも儂としても都合が良い。あやつが嫌いって私情に目を瞑ればな。今回の実地研修は、公安からの要請である以上はやるしかないのぅ。どうにも、気は進まぬ所じゃけども。
「……分かった。えんでゔぁの所にしよう。手続きしといてくれ」
「ん、分かった。手続きしておくよ」
「じゃあ儂は風呂にするから、そこを退いてくれくれんかの」
「あぁ、うん。引き留めちゃってごめんね??」
「こっちこそ。忘れてて済まなかった」
……さて。
◆
被身子への贈り物選びは、相変わらず難航している。今日こそは何を贈るのか決めなければならん。明日には
と、言うわけで。この際、拘っている場合ではない。儂の納得はさておいて、被身子が喜びそうな物のみに焦点を絞るとする。それでもやはり、選択肢は多くて悩ましいんじゃけども。しかし、もはや悩んでいる場合ではない。何せ、時間が無いんじゃ。こんな事になるなら、もっと早くから色々見て回るべきじゃったなぁ。来年は、
「結局、服にするのか?」
取り敢えず洋服屋に足を運んだところで、ながんが口を開いた。何じゃこやつ。さては、何か文句でも有るのか? 良いじゃろ別に、服を選んだって……!
「こ、これなら喜んでくれるじゃろ??」
「それは間違いない。でも、私と被るぞ」
「は?」
被る? 今、被ると言ったか??
……ながん、貴様。被身子に贈り物をするつもりか。それ自体はまぁ見逃してやっても良いが、何でよりによって服を選んでしまったのか。それでは儂が服を贈れないではないか……っ! 何故ここに来て、被ってしまうのか! 解せぬ!!
「服にするなら、ダッフルコートは止めておきな。私と被る」
「は??」
おい。おい、ながん……! 何故それを選んだっ。儂、上着を贈ろうかと考えていたんじゃぞ! 冬は寒いからちょうど良いと思ったのに、何でそこまで被ってしまうのかっ。ぐぬぬ、こうなったら上着は止そう。いやいっそ、上下一式用意してしまうのはどうじゃろうか? こう、冬をあったかく過ごせそうな服をじゃな? それじゃったら、ほら。ながんとは被らんし。……被らんよな? 被らんって思うことにする……!
まっこと解せぬが、店頭に置かれていた暖かそうな
ええっと。被身子はどうやって儂の服を選んでるんじゃったっけ? 確か、着せたいを第一に……とかなんとか。
……つまり、じゃ。儂もその感じで選べば良いのか? 被身子に着せたい服を、儂が選べと??
ん、んん……。それはそれで、難しいのぅ。被身子に着せたい服か……。そうなると、この場には無くないか? この店、洋服しか置いとらんよな? 儂が着せたいって思うのは、どちらかと言えば和服じゃのぅ。儂も被身子も着物や袴は何着も持っているけれど、洋服の数と比べたらそう多くない。しかもその全てが、似たような色合いばかりじゃし。儂は臙脂色を選びがちじゃし、被身子は儂とお揃いにしたがるからのぅ。
……そうじゃなぁ。たまには、別の色合いを選んでも良いのかもしれん。と、なると……。この洋服屋では駄目じゃ。ちゃんと和服屋に行かなければ。
「よし、ながん。今から和服屋にじゃな?」
「着物でもプレゼントするのか?」
「うむ。袴をな?」
「だったら、こういうのは?」
「……んん?」
店を出ようとすると、ながんが洋服屋の一角を指差した。そこに有ったのは、袴……のような洋服じゃ。袴によく似ている。が、袴ではないように見える。なんじゃこれ、洋服……か?
「たまに有るんだが、袴風のスカートだ。袴よりは気軽に着れる」
「……なるほど」
それはまた、奇っ怪な物が売ってるんじゃなぁ。この時代の衣服は、時折訳の分からん
少し気になったから近付いて見てみると、……うむ。これ、袴とは言えんな。全然違う。袴のような、何かじゃ。しかしこれ、存外悪くないのかもしれん。ほら、洋服と和服が混じってるような感じがして。これなら、まだ儂でも詳しくなれそうな気がしないでもない。洋服よりは分かり易いような、そうでもないような……。それに上衣の色や柄も、まぁ悪くない。種類はあまり無いみたいじゃけど、ふむ……。
「これ、どういう作りじゃ? 大分袴とは違うように見えるが……」
「袴っぽいプリーツスカートって言えば分かるか?」
「な、なるほど……?」
ぷりぃつ、すかぁと……? ええっと確か、制服のすかぁとがそんな感じの名称をしてた気がする。展示された袴風すかぁとを改めて観察してみると、うむ。袴のようでありながら、これはすかぁとじゃな。前紐や後紐はどうなって……。あ、無いのかこれ。は? じゃあこれは何じゃ? あぁ……なるほど。後付の飾り帯か。
ふぅむ……。なんじゃこれ? 奇っ怪にしか思えんのじゃけど? それに丈が少し短いのか、上衣の裾が袴の裾から飛び出てるし。そもそも、何で袖の中から洋服の袖が伸びて……?
何? 大正ろまん……じゃって? 何じゃそれ。よく分からん。よく分からんけども、何やら袴よりは着やすそうな感じがしないでもない。和洋折衷とは、この服の事を言うのかもしれん。
「気に入ったなら、これにするか?」
「うぅむ……。まぁ、……んん……」
贈り物にするには、変な服……なのでは? 変じゃよなこれ。絶対変じゃ。でも、たまには気楽に着れる袴……というのも悪くはないか。儂からすれば袴や着物なんて普段着でしか無いんじゃけど、この時代じゃと堅苦しい衣装として見られることご多いようじゃからの。被身子と袴姿で出歩いていると、妙に注目されてるような気がするし。
「……そうじゃなぁ。これはこれで、試しに買おうかの」
「そうか。和服屋は?」
「それはそれで行く」
まだもう少しだけ、時間が有るからの。遅くとも夕方には寮に帰るつもりじゃから、そんなにゆっくりはしてられんのじゃけど。しかし、服になってしまうとはなぁ。何か、逃げてしまったような気がしないでもない。
……ぐぬぬ。ら、来年っ。来年こそはちゃんと選ぶんじゃからなっ! もっと時間を掛けて、被身子が持つに相応しい贈り物を選んで見せなければ……!!
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ