待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
寒い外を目的無いままに被身子と出歩くのも、たまには悪くない。せっかくの
被身子が編んでくれた襟巻きが良い感じに温くてのぅ。それにほら、被身子の左腕を抱き締めてるのも相まって……。寒いは寒いんじゃけど、気分的には暖かくての。ついでに言うと、今日の儂は機嫌が良い。柄にもなく気分が舞い上がってる。だって、
毎年、この時期になると世間が浮かれるのは知っていた。特に、いわゆる
ただ、何と言うか……。……そう、自分から積極的に参加しようとは思って居なかった。また被身子に振り回される時期が来たな、としか思わんかった。
……じゃけど、今年は違う。今年は儂も浮き足立っとる。半年以上前に初恋したのが原因じゃろう。思い当たるのはそれしかない。恋人が居るってだけで、こうも楽しいものなんじゃな。今まで勿体ない事をしていた気分じゃの。今年も来年も、その先も。こんな風に被身子と過ごしたいと思う。ただ、贈り物選びはもっと事前に。こればっかりは忘れてはいかん。来年こそは、妥協無い贈り物を用意したい。いっそ、和歌でも用意するべきじゃったかのぅ? いやしかし、今更そんな真似をするのは気恥ずかしいなんてものじゃない。まぁ……少しぐらい考えても良いけどな。何たって被身子は、儂の許嫁で恋人なんじゃから。
「んふふ。甘えんぼなんですから」
「良いじゃろ別に。お主じゃってそうなんじゃし」
「えへへぇ、今日はそういうとこもお揃いなのですっ」
ぎゅっと抱き締められた。今、儂等は宛もなく駅前に出て来た訳じゃ。つまり周囲には、浮かれた連中がおってのぅ。すれ違うのは浮足立ってる
とにかく。すれ違う人々は浮かれている。で、被身子も儂もすっかり浮かれている。じゃからまぁ、往来の真ん中で
「それで、どうする? 時間は幾らでも有るが……」
「んー、そうですねぇ。どうしましょ?」
結局の所、儂も被身子も何も考えていない。
……そうじゃなぁ。今日も寒いし、寒いと言えば温泉じゃよな。せっかくの
まぁ、取り敢えず。思い浮かんだことを口にしてみるか。言うだけならただじゃ。
「……温泉、とか?」
「んーー……」
言うだけ言ってみたら、被身子が考え込んだ。どうやら、温泉って気分では無いらしい。残念じゃが、湯は諦めるとしよう。まぁほら、今温泉に浸かってしまったらそれだけで一日が終わってしまうからの。二日間の
「しっぽり温泉ってのも良いんですけどぉ。でも他の事が良いかなぁ……なんて」
「ん、相分かった。温泉はまた今度行こう」
「こぅ、恋人らしいデートがしたいなぁって。あ、そうだ。今日はお約束のデートスポット巡りなんてどうですか?」
「お約束?」
の、
「水族館とか遊園地とか、イルミネーションなんかも良いですねぇ。あとはぁ……お洒落なレストランとか! プラネタリウムのカップルシートなんかも気になるのです!」
「ぉ、おう……」
急に案が出て来たな……? 顔を輝かせて嬉しそうに語るのは良いんじゃけど、圧が、圧が……。まったく、そんなに騒ぎおって。良いけど。そういう被身子も、かぁいいものじゃからな。
すっかり笑顔な被身子を眺めつつ、少し考えてみるか。案は今、幾つも出た。取り敢えず、遊園地は駄目な気がする。今から向かったら、それなりに時間が経ってしまうし。となると、水族館……? 水族館って、近場に有ったかの? いや、遠くても良いか。まだまだ時間は有る。二人で電車を乗り継いで遠出するのも悪くない。そういう時間もな、きっと大切じゃ。
いるみねぇしょん……はよく分からん。何年か前に被身子に連れ出されたが、被身子がやたら喜んでたことしか記憶にない。で、ぷらねたりうむ……は、あまり行ったことが無いのぅ。確か小学生の頃、遠足とか社会科見学で行ったような行かなかったような。学校行事は被身子が居ないから、何も印象に残っとらん。作文が面倒じゃったことだけは覚えとるが。
「じゃあ……水族館でも行ってみるか? 遊園地は無しじゃ。今から行くには面倒じゃろ?」
「夢の国に行くには遠いのです。でも、いつか行きましょうね。クリスマスに、夢の国!」
夢の国、て。遊園地は夢の国……なのか? そう言えば東京の方にやたらと有名な遊園地があったの。これも小学生の頃に行った覚えがある。やったら被身子が楽しそうにしていて、騒ぎ過ぎて迷子になったのは良い思い出じゃ。いやまぁ、迷子になったのは被身子じゃけど。犬の着ぐるみに急に近付かれて、驚いてぶん投げたのは……悪い事をしたと今では思う。うむ、あれは良くなかったのぅ。すまん、着ぐるみの中身。
まぁ、いつかまた行ってみるとするか。夢の国。遊園地なのに夢の国とは、これ如何に。
「それで、水族館は何処に有るんじゃ?」
「んー……と。じゃあまずは、電車に乗りましょうっ」
◆
電車の中は暖房が利いてて温いんじゃけど、駅に停車する度に寒くなる。扉付近の席に腰掛けたのは、間違いじゃった。外気が寒い。ので、少しでも暖を取る為に被身子にくっ付くことにした。術式で体温を少し上げるか悩ましいが、こんな事で順転させるのは流石に阿呆な気がしてならん。
……んん、寒い寒い。何でいちいち停車するのか。各駅停車、というのは不便じゃのぅ。目的の駅まで、あと何駅止まるんじゃこれ?
「すっかり寒がりなのです。昔は暖房なんて無かったのに、どうやって過ごしてたんですか?」
「どうって……。いや、昔はそこまで寒くは無かったぞ?」
流石に、雨や雪が降ったりしたら寒かったけれども。平安時代は、暖房だの冷房などは無かったからの。いや、火桶が有ったから暖房は有ったか。冷房は間違いなく無かったが。この時代は何処にでも当たり前に暖房や冷房が有るから、室内の快適さがまるで違う。今生の儂が暑さや寒さに辟易してしまうのは、文明の利器が素晴らしいからじゃな。
「平安と超常じゃ、技術が違い過ぎるじゃろ? 儂が寒がりなのはそのせいじゃ」
「じゃあ……例えば。この時代に生まれ直して、一番驚いた技術って何ですか?」
「冷蔵庫。年中通して食べ物が腐らんし、水さえあれば氷も作れる」
あれが平安時代に有ればなぁ。と、何度か思った事が有る。そしたらほら、旅の最中に食べ物が腐るような事は……。いや、冷蔵庫なんて背負って動く物ではないか。
「あー……、なるほど。確かに冷蔵庫は偉大な発明なのです」
「あとは水道とか。水を汲みにいかなくて良いのは便利じゃ」
「井戸とかですか?」
「そうじゃな。あとは川とか」
何とも他愛無い会話をしている気がする。もう少しこう、恋人らしい会話がしたいような気がしないでもない。いや、恋人らしい会話が何かなんて分からんけども。
でもまぁ、目的地に着くまではただ座ってるだけじゃからの。こうして無駄話をするのも悪くない。むしろ何か話していないと、ただただ暇なだけじゃ。
「ところで、水族館って魚が居るんじゃよな?」
「? はい。魚を眺める場所ですよ?」
「それは、腹が減りそうじゃなぁ……」
水族館、という場所は大量の魚と水槽がある場所の筈じゃ。泳ぐ魚を眺めることの何が楽しいのかは分からんが、少なくとも腹は減りそうじゃな。そう言えば最近、めっきり魚捕りをしなくなったのぅ。この時代、食うには困らんからな。一日中川やら湖やら、海で粘る必要はどこにも無い。寝床だって用意しなくて良いしの。
自然の中で暮らすことを、さばいばる……って言うんじゃっけ? 前世では道すがらそういう生活をしていることが多かった。と言うか、そうしないと生きるのに困った。じゃから食える動植物を見るとな、観賞で楽しむよりも先に食欲が出て来る。
「もぅ。花より団子なんですから」
「三大欲求には流石に勝てんし」
「じゃあトガより団子ですか?」
「そこは同列じゃろ。食もお主も等しく大事じゃ」
「んふふ。えっち♡」
んにっ。頬をつつくな頬を。あと、誰がえっちじゃって? そうなるように散々好き勝手したのは、お主のくせに。まったく、こやつと来たら。
「ん」
「ん、……ふふ。もぅ、見せ付けちゃって……♡」
良いじゃろ別に。
二度、三度と徐々に夢中になりつつ
「ん゛っ、んん゛っっ!」
わざとらしい咳払いが聞こえて来た。……いかんな。電車の中なのに、まるで自制出来とらんかった。思わず盛り上がってしまうところじゃったの。
名残惜しいがここまでにしておこう。車両の端の方を見てみると、萎んだおおるまいとと顔を隠したながんが儂等を睨んでいた。ちっ、野暮な奴等め。儂と被身子の邪魔をするなど……まったく。
まぁ、続きは夜になってからたっぷりするとしよう。取り敢えず、今はこう……健全な
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ