待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「んふふ、変な顔なのです」
水族館にやって来た。水槽に挟まれた廊下は広いが、人が多くて少し騒がしいの。照明が青白く、何と言うか変な感じがするの。暗いのに、変に明るいと言うか。光に当たったものが青白く染まる感じがどうにも奇妙じゃと思う。……まぁ、呪力の色合いに似てる気がするの。そう考えると、風情が無い。呪力を連想してしまったのは間違いじゃったか。
そんな事より、ひとつ問題が有る。被身子が魚を眺めて楽しそうにしているのは、まぁ良い。そこは別に良い。変な色合いの空間の中で名前も種類も知らん魚を見るのは、存外楽しいものじゃ。じゃけど、……その。我ながらどうかとは思うんじゃけども、こう……被身子の目を奪う魚が気に食わんのじゃ。
……。……何で魚にまで嫉妬してるんじゃ儂は。被身子は儂のじゃけど、じゃからって魚なんぞに妬くのはどうかと思う。人間ならまだしもじゃな、何で魚なんぞに……。
ぐぬぬ。猛然とこちらに向かってくるな、変な魚。何で貴様は、頭に赤い玉を乗っけてるんじゃ。瘤か? それは瘤なのか? 妙な面をしおって。何でよりによって、赤色なのか。被身子の目に留まってしまうじゃろ。そこはもっとこう、別の色で居てくれ。そしたら何分も貴様を眺める羽目になってないんじゃが?
「……こやつ、頭に何を仕込んでるんじゃ? さては、たんこぶか?」
「たんこぶって。……骨、とかじゃないですか?」
「骨……?」
骨……? 骨なのか? もしそうじゃとしたら、随分とおかしな頭蓋骨じゃな。魚のくせに脳が大きいのか? よく分からんな。世の中、変な魚が飼育されてるものなんじゃなぁ。
「ちなみにこのお魚、幸運を呼ぶお魚だそうですよ? 風水に基づいてるとか」
「こんな魚が??」
頭に大きな瘤を付けていて、真っ赤。所々に斑点模様のある、変な面をしたこの魚が幸運を呼ぶ……? いやいや、それは流石に嘘じゃろ。騙されんぞ。そんな訳の分からん事を言い出したのは、何処のどいつじゃ?
そもそもこの魚、面もそうじゃが名前も変じゃと思う。水槽前の
「ヨリくん。実は、意外と気に入ってます?」
「そんな訳無いじゃろ。あまりに変じゃから眺めとるだけじゃ」
「それを気に入ってるって言うんですよぉ。後で、グッズとか買っちゃいます?」
「買わん買わん」
何でこんな魚の
「次じゃ次。どうせなら、色々見て回らねば損じゃ」
このままじゃと、被身子がずっとこの魚を眺めているかもしれん。それはどうにも癪なので、他の魚も見て回ることにする。あ、そうじゃ。どうせなら大きな魚が見たいところじゃ。例えばそう、鯨とか。あんな大きな生き物を間近で見れたら楽しそうじゃ。鮫でも良いぞ。鯱は……見なくても良いか。最近、鯱の面を間近で見る機会があったし。何なら殴り合ったし。
「来てみたら意外と楽しいですよね、水族館って」
「……まぁの。魚を眺めるのもたまには有りじゃ」
薄暗いのはどうかと思わんでもないが。あと、人が多いのは鬱陶しいかもしれん。今日が
暗い廊下を歩いていると、変なものが視界の端に映った。何かと思ってみてみれば、小魚の群れが斜めに泳いどる。何故斜め上に向かって泳ぐのか。魚とは真っ直ぐ泳ぐものでは無いのか……? これはこれで、変な魚じゃなぁ。
「熱帯魚って、変な魚が多いんですかねぇ」
「かもしれんのぅ」
頭に瘤がついていたり、斜め上に向かって跳ねるように泳いだり。さっきから変な魚ばかりが目に付くの。もう少しこう、魚らしい魚はおらんのか?
「水族館って、普段とは違う空間って感じがして楽しいですよね」
「そりゃ、実際水槽に挟まれとるしの」
「そういう意味じゃないですよぉ。こう……、幻想的に思えません?」
「……まぁ、そうかもしれんな」
壁ではなく水槽に囲まれ、青白い照明に照らされた廊下は……何と言うか不思議な感じが来るの。何なら少し変じゃとも思う。何でこんな照明を使っているのかは、よく分からんけど。
「あっちは深海魚コーナーみたいです。行ってみます?」
「ん。そうじゃな」
この際、色々と見て回るとしよう。あれやこれやと魚を眺める羽目になるとは思わんかったけども、こういう
なんて事を考えつつ、被身子と深海魚が展示されている方へと歩いて行く。水族館は、結構広い。一通り見て回るとなると、それなりに時間が掛かりそうじゃのぅ。
◆
「結局気に入ってたんですね。フラワーホーン」
「いや、別に? そんな事は無いぞ?」
深海魚を見て回ったり、海水魚を見て回ったり。水族館そのものは、それなりに堪能出来た気がする。たまには魚を眺めて回るのも悪くない。特に深海魚が展示されている所は、悪くなかった。深海魚そのものに興味は無いんじゃけども、暗い廊下で被身子と手を繋いで歩くのは……。何と言うか、こう。周りに人が居たとしても二人きりじゃって思えて。どさくさに紛れて何度も
それで、じゃ。一通り魚は見て回ったので、儂等は最後に土産屋に立ち寄った。そこで儂を待っていたのは、頭に瘤がある赤い熱帯魚のぬいぐるみじゃ。これがまた、中々に不細工な作りでの。しかも大きいと来たものじゃ。人気が無いのか、こやつだけは山積みになっていた。頭に瘤なんか付けてるから、子供に見向きもされないのでは? 海豚とか、人鳥とか、海豹なんかと比べたらまるで人気が無い。気がする。少なくとも、儂が見掛けた子供達は見向きもしとらんかったようじゃ。
じゃからほら、つい憐れんでしまっただけじゃ。別にこの魚が好きとか、そういう訳では無い。憐れみから、やけに大きなこのぬいぐるみを買ってやっただけじゃ。断じて、気に入った訳では無いぞ? 違うからな??
まぁ。変に印象に残ったのは事実じゃけど。何なんじゃこやつ。ぬいぐるみになっても、おかしな面をしおって。ぬいぐるみのくせに瘤の部分は妙に硬いし。これでは人気が出ないのも仕方ないのではないか?
「んふふ。すっかり夢中で、カァイイねぇ」
「じゃから、そんな事は無い」
何でこんな魚に夢中にならなければならんのか。違うったら違うんじゃ。ただまぁ、ぬいぐるみの抱き心地が良い事は認めてやる。実家の部屋に置いて帰るか、寮まで持って帰るかは少し悩ましいところじゃけど。こいつは枕代わりにはなりそうな気がしないでもない。いやしかし、被身子と添い寝する際には邪魔じゃの。うむ、どう考えも邪魔じゃ。よし、貴様は実家の部屋に置いて帰ろう。
と言うかじゃな、被身子。お主じゃって気に入ってるんじゃないか? 同じぬいぐるみを買ったくせに。
「水族館、楽しかったですか?」
「……まぁまぁじゃ。お主が一緒なら、何処じゃって楽しいからの」
「えへへぇ。じゃあ、もっとデートしましょうっ」
「そうじゃな、もっとしよう。こんな程度じゃ物足りん」
水族館はそれなりに楽しめたが、じゃからって満足はしとらん。今日はまだまだ時間が有る。なら、もっと被身子と
「取り敢えず、お昼にしましょうか。何か食べたい物はあります?」
「魚が食べたい」
「……もぅ。やっぱり花より団子なんですから」
「お主じゃって似たようなものじゃろ? 花や団子より、儂のくせに」
「えへへぇ。でも、それはヨリくんも一緒なのですっ」
それは否定はしない。大抵の物事は、被身子と比べたら位が低いからのぅ。ぬいぐるみ越しに被身子の顔を覗いてみれば、それはもう楽しそうな面をしておる。かぁいい奴め。
……ところで。空腹を自覚したら余計に腹が空いて来た気がするの。食事はさっさと済ませて、それから
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ