待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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よ、400話……???


逢瀬の時間。足止め

 

 

 

 

 

 

 昼食は、目に付いた定食屋に入って適当に済ませた。その後、儂等は遠巻きに同行している二人に荷物を押し付けて、天象儀(ぷらねたりうむ)へと向かっている真っ最中。……なんじゃけども、再び電車に乗って数分が立った所で何と電車が止まった。突然停止した。お陰で隣に立ってる被身子が姿勢を崩してしまい、危うく転ぶところじゃった。儂が居なかったら盛大に転んでおったかもしれん。

 

『お客様にお知らせ致します。ただいま線路内に(ヴィラン)立ち入りの為、当電車は急停止を―――』

 

 ……は?

 

「あー……。ええっと、これですねぇ……」

 

 被身子が携帯電話(すまほ)の画面を儂に見せた。映し出されているのは、報道(にゅうす)じゃの。何でも、街で犯罪しとった悪党数名が英雄(ひいろお)に追い回されて人質抱えて線路内に逃亡。そのせいで、付近の電車が軒並み止まったと。で、この映像に映ってる電車、もしかすると儂等が乗ってる電車か? と言うかおい、待て。待て。

 

 子供を人質にしている……じゃと……?

 

 

「ええっと……。どうします……?」

「ぶん殴ってくる」

「……はい。そう言うと思ったのです。

 トガはここで待ってますから、さっさとやっつけちゃってください」

 

 悪党が何処で何してようが、今日明日は儂の知った事ではない。そう思っていたんじゃけどなぁ。逢瀬(でえと)の邪魔をされて、頭に来た。儂と被身子の大切な時間を邪魔するなど、誰であろうと許さん。絶対に許さんぞ……!

 これから儂等は、天象儀(ぷらねたりうむ)に行くんじゃ。よく分からん施設じゃけど、何でも暗い部屋で寝転んで映像で天体観測する……らしい。聞いた話によると、恋仲(かっぷる)が行くにはお約束の場所らしい。ならば、是非とも被身子と体験しておきたいところじゃ。なのにそれを邪魔されるなど、儂は我慢ならん。それだけではない。子供を人質にしている……じゃと?

 

 ふざけおって、悪党め……っ。儂を怒らせるとどうなるのか、身を以て味わったら良いんじゃっ。加減なんてしてやらんからな!?

 

「すまん、行ってくる。おい、儂は外に出るぞ! 貴様等は!?」

 

 離れた位置に居るおおるまいと、ながんに一声掛けておく。すると。

 

「―――当然。私も行く!」

 

 おおるまいとが、膨れ上がりながら儂の方へと歩いて来た。と、思ったら。直ぐ側に有る扉を掴み、勢い良く開いた。おいそれ、壊れてないか? 壊したのか貴様? 後で怒られても儂は知らんぞ。やったのはこの筋肉阿呆じゃ。じゃから儂等を見るんじゃない、乗客共。

 

 何事も筋肉で解決しようとする阿呆に少し呆れつつ、停車しきっている電車から跳び降りる。着地しつつ線路の上を見てみれば、子供を高く掲げた異形の悪党がおるわ。よし貴様、その手は不要と受け取った。何、気にするな。片腕を失っても人は生きて行ける。不便になろうと、知ったことじゃない。

 

 今回は戦闘ではない。駆除じゃ。

 

 両手を叩き合わせ、狙いを定める。おおるまいとは、既に駆け出しているの。あやつは放っておいて良いが、その図体で儂の前を走るな。射線に被るじゃろっ。

 

「HAHAHAHA!! もう大丈夫! 何故って? 私と―――」

 

 筋肉阿呆が、跳んだ。線路の壁と電車の壁を足場とし、個性を失っているとは思えんような跳躍力を見せる。

 

「デート中の、ブラッディが来た!!」

 

 その登場文句は如何なものか。あと、誰がぶらっでぃじゃ、誰が。頼皆じゃと散々言っとるじゃろうが、たわけ。貴様がそんな風に口走るから、儂が変なあだ名で呼ばれるんじゃぞっ。後で拳骨じゃからなっ!?

 

 まぁ、ともかく。おおるまいとが高く跳びつつ叫んだ事で、一瞬悪党の意識がそちらに向いた。ので、穿血を放ち子供を掲げる腕を貫く。その次の瞬間、おおるまいとの拳が悪党の顔面を捉えた。その衝撃で異形の奴は地面に伏す羽目になり、人質になっていた子供が宙に放り出される。……が、これは特に問題無い。一撃で悪党を気絶させたおおるまいとが跳躍し、見事に抱き留めて見せたからの。

 

 無個性のくせに、よく動くものじゃ。同じ事を呪力だけでやれと言われたら、まぁ儂にも出来なくはない。出来なくはないが、それにしたってよくもまぁ……。

 

 衰えている、と言うには機敏な動きじゃ。力も有る。平和の象徴としては弱くなっても、英雄(ひいろお)としてはまだまだ健在のようじゃ。

 

 ……よし。後はおおるまいとに任せてしまおう。事後処理なんて、儂は知らん。開きっぱなしの扉から車内に戻って、真っ先に被身子の前へと戻る。これで電車が動くようになるじゃろ。出来れば直ぐに動いて欲しいものじゃ。

 

「ただいま」

「おかえりなさいっ!」

「おぐっ」

 

 車内に戻るなり、被身子が思いっきり抱き付いて来た。何やら周囲の乗客からの視線が集まっているが、気にしないでおく。

 

「もう済んだ。すまんかったの、でえと中なのに」

「仕方ないですよぉ。子供が巻き込まれてるなら、円花ちゃんは見過ごせませんしっ」

「今日明日ぐらい悪党には大人しくして居て欲しいものじゃ」

「まったくなのですっ。せっかくのデートなのにっ」

 

 うむ、その通りじゃ。せっかくの逢瀬(でえと)なんじゃから、誰であろうと邪魔するでない。無粋な真似をしおって、悪党め。悪事を働くなら、空気を読め空気を。お陰で、被身子の機嫌が少し悪くなってしまったじゃろ。さっきまで楽しそうにしておったのに、今ではすっかり拗ねてしまっとる。

 

 ……。……こうなったら、仕方ないのぅ。仕方ない仕方ない。

 

 被身子の両手を握って、背伸びをする。そしたら被身子は少し屈んでくれて、お陰でしたい事がし易くなったの。じゃから、触れるだけの接吻(きす)をする。一度、二度、三度と続けて。そしたらの、……ほら。

 

「んふふ……♡」

 

 少し、被身子の機嫌が良くなった。もう少しぐらい接吻(きす)しても良いけれど、流石にそろそろ止められそうじゃからこれ以上は控えておくとする。周囲からの視線が痛い。特に、ながんからの視線が鋭い気がしないでもない。

 さっさと電車が動いてくれると助かるんじゃけど、しばらく動かないんじゃろうな。じゃってほら、そこの扉が開きっぱなしじゃし。安全確認がどうとか、車掌が通達しておるしの。

 

 ちっ、悪党め。なんと間の悪い。人の逢瀬(でえと)を邪魔しおって。牢屋の中で馬に蹴られてしまえば良いんじゃ。まったく……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 車両の安全確認に一時間以上は足止めされてしまい、結局目的の駅に着くころにはおやつの時間になっていた。悪党のせいで電車の中では変に注目され、すっかり気疲れしてしまっての。天象儀(ぷらねたりうむ)に行く前に、休憩を挟むことにした。

 じゃから今、儂と被身子はたまたま目に付いた喫茶店に入り込んで茶をしている真っ最中じゃ。暖房が利いた室内で食べる氷菓子(あいす)は、なぜこうも美味いんじゃろうな。ぱんけぇきと合わさって、もっと美味い。もう少し生地が甘いと儂好みなんじゃけど、まぁ不満には思わん。

 

「ヒーローって、難儀な職業ですよねぇ……。プライベートが存在しなさそうなのです」

「まぁ、人助け第一の善人じゃからの。どうかしてる部分は有る」

 

 呪術師とは違う意味で、英雄(ひいろお)も大概どうにかしておる。他者を助けることを生業とし、必要とあれば休みじゃろうが何じゃろうが人助けを優先してしまう。おおるまいとなんか、その最たる例じゃろ。個性が有る頃は文字通り日本中を跳び回って、個性を失った後でも日本中を駆け回っていた。まぁ後者については、呪霊を祓うのが目的じゃったけども。

 

「円花ちゃんも、どうかしてますしねぇ……」

 

 ぱんけぇきに、ふぉおくを刺しつつ被身子がそんな事を口にした。誰がどうかしとるって? 儂はどうもしとらんじゃろ。いきなり何を言い出すんじゃこやつ。遠い目をして語れば、許されると思ってるのか? そもそも、あんな連中と一緒にされても困る。儂は呪術師じゃ呪術師。断じて英雄(ひいろお)ではない。

 

 ……まぁ、もっとも。英雄(ひいろお)活動自体は今後ともして行かなければならないんじゃけどな。結局免許を取ってしまったら、英雄(ひいろお)として扱われる仕組みになっておるし。

 

「ひいろおと一緒にされたくないんじゃけど?」

「何言ってるんですか。とっくにトガのヒーローのくせに。円花ちゃんだって、立派に善人ですよぉ」

「儂が善人なら、全ての人間が善人扱いされるじゃろうな」

「もぅ。変なところで謙虚なんですから」

「事実を述べてるだけじゃ。謙虚でもない」

 

 流石に、儂が善人は言い過ぎじゃ。善人っていうのはもっとこう……、くらすめぇと達みたいな連中を指す言葉じゃ。儂は助ける相手も、守る相手も選んどるからの。それに場合によっては、どちらも切り捨てられる。割り切れる。相手が一般人なら、誰彼構わず助けようとするあやつ等とはどうしても違うんじゃ。

 じゃからほら、儂は英雄(ひいろお)などでは無いじゃろう? まぁ、仮免許は持ってしいずれ免許を取得するつもりではあるが。

 

「将来はやっぱり、呪術師一本ですか?」

「二足の草鞋は履かんぞ」

「それはケースバイケースです。絶対に」

 

 いやいや。何を言っているのやら。今も将来も儂は呪術師じゃ。で、被身子の許嫁で夫……。……夫? 妻? 嫁か……? に、なる。そこは変わらんし、かと言ってそこに英雄(ひいろお)が付け足されるなんて事は無い。儂はならんよ、英雄(ひいろお)になんて。第一、適性が無い。困ってる善良な一般市民を、誰彼構わず助けたいとは思わん。儂が助けるのは子供だけじゃ。大人は助けん。

 

「子供救助専門のヒーロー、ってのも有りだと思いません?」

「そんなのは罷り通らんじゃろ」

 

 まっこと、何を言っているのやら。子供救助専門て。そんな英雄(ひいろお)、見たことも聞いたことも無いが? なりたいとも儂は思わんし。

 ところで。ぱんけぇきが美味い。蜂蜜や氷菓子(あいす)と一緒に頬張ると、口の中が幸せじゃ。生くりぃむを付けても良い。もう一人前ぐらい、追加で注文しようかのぅ? いやしかし、そうしてしまうと夕飯が食べれなくなるか。甘味は程々にしないとな。何事にも限度と言うものが有るんじゃから。

 

「呪術師もヒーローも、やってる事は変わらないと思いますけどねぇ。だって結局、誰かを助けてるじゃないですか」

「それは結果として誰かが救われるってだけじゃ」

「人助けって点では同じですよ? 遠回しか、直接の差異が有るってだけなのです」

 

 それは、まぁその通りじゃけど。儂が呪霊を祓うことで、いずれ出る筈じゃった被害者が知らぬところで救われているのは事実じゃ。が、別に人を助けたくて呪術師をやってる訳では無いんじゃ。儂が昔も今も呪術師を続けるのは、単にそれが儂の生き方じゃから。この理由に他人が介入することは決して無い。例え被身子じゃろうと、何を言ったところで何にも変わらん。

 

 ……と、言ったら流石に嘘か。じゃって、呪術師としての生き方はこやつに変えられた。呪術師なんてやってる以上、いつ死んでも良いしいつかは死ぬものと思っていたのに。今では呪術師として死にたくないからのぅ。呪術師として、生きて帰ると決めておる。それにじゃ、こやつと生涯を共に出来る輩なんて、それこそ儂しかおらんし。そこは誰にも何にも譲らん。儂の被身子じゃ、儂の。

 

「まぁそれに。呪霊に襲われてる子供が居たら真っ先に助けますよね? それってつまり、ヒーローじゃないですか」

「ただの呪術師じゃ」

「えー? 絶対ヒーローですってば」

 

 何じゃもぅ……。違うったら違うんじゃ。聞かんぼめ。儂が英雄(ひいろお)になること自体は反対しとるくせに、何で儂が英雄(ひいろお)扱いしようとするのか。いつもの事じゃけど、被身子が何を考えてるのかまったく分からん。お陰で大変なんじゃぞ、儂は。自重と自制って言葉を知ってくれ。まぁもっとも、最近の儂はそんなものは忘れつつあるがな。主にこやつのせいで。

 ……何か悔しいから、被身子のつま先をつま先で小突いておく。そしたら、つま先が踏まれた。と言うか、重ねられた。

 

「分からず屋なんですから。そういうとこも、愛してますけどっ」

「そう言うお主は聞かんぼじゃろ。何でこんな風に育ったんじゃが」

「それは円花ちゃんのせいですよぉ。トガを散々甘やかした結果なのです!」

「良いじゃろ別に。子供は甘やかすものじゃからな」

「じゃあ、私が大人になったら甘やかしてくれないんですか?」

「お主は生涯甘やかすが?」

 

 何ともくだらん話をしている気がする。甘やかすだの、どうだの。まぁ良いか、逢瀬(でえと)の真っ最中なんじゃから。こうやってくだらん話をすることも、きっと大切なんじゃと思う。被身子はずっと楽しそうにしておるし、儂も楽しいし。

 

「んふふ。ここにクリームが付いてますよ? 取ってあげますねっ」

「じゃあ取ってくれ」

「はぁい♡」

 

 被身子が机に身を乗り出したので、儂も身を乗り出すことにする。口元にくりぃむを付けた覚えなんて無いんじゃけど、付いてるのなら取って貰うとするか。どうせ接吻(きす)したくなっただけじゃろ貴様。分かるんじゃからな、まったくもぅ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







三人称による補完は要りますか?

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