待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
ぶらを大量に試着させられる経験など、もう二度としとうない。しかも試着した物の中から気に入った物を、何着かぱんつも含めて買うことになったのは想定外じゃった。何だかんだで被身子は楽しそうにしておったが、儂はまったく楽しめなかった。何だって良いじゃろ。下着なんて、下着なんて……っ。
下着なんて嫌いじゃ! 儂、もう下着なんて着ないで過ごす!!
……なんて事が出来たら良かったんじゃがなぁ。下着を着ないで過ごすと、後で被身子が怖い。それは今回でよぅく分かった。ちゃんと気を付けなければ……。もう二度と下着の試着なんて勘弁じゃからな……。
さて。下着選びやら近寄ってくる呪霊でげんなりしていた儂じゃが、今はそれなりに気分が良い。と言うか、嫌でも気分が上がる。これから被身子とくれえぷを食べるんじゃ。その為にくれえぷ屋に来た。それなりに賑わっておる。
まぁあれは美味じゃからな、人気が有るのも頷ける。もうわくわくじゃ。下着の件に関しては許してやるとしよう。儂も少しは悪かったし。いや、悪いのは被身子じゃと思うがな。試着室で散々せくはらして来たことは許さぬ。人目に入らぬからといって、血を吸いおって……。
誰かに見られたらどうするつもりじゃったんじゃこやつは。まっこと仕方ない奴じゃて。
「円花ちゃん、どれにするか決まりました?」
「ううむ……」
悩ましい。大変悩ましい。生くりいむにするかちょこにするか。あいす……も悩ましいの。どれも食べたい。が、あまり食べると夕飯が食べれなくなるからのぅ。ううむ……。今回は生くりいむにするかの。そこに苺をとっぴんぐしたら良い気がする。そうしよう。
「じゃあ、生くりいむに苺……」
「はーい。店員さん、生クリームに苺のトッピング。それとラズベリーをください。飲み物は……タピオカミルクティーふたつで」
ぬぐっ。おい被身子。儂、みるくは嫌いなんじゃって。美味しくないんじゃよあれは。そんなものをくれえぷに付けるとは、貴様いったい何の嫌がらせじゃ? 許さんぞ。それは許さんぞ。絶対に許さんからなっ!?
それはそれとして。たぴおかって? どっかで聞いたような気がするが……なんじゃったかのぅ。
「席、取っておきましょうか。座って食べたいですよね?」
「うむ。食べ歩くのは良くないからの」
「円花ちゃんって、変なところで真面目なのです。ぽんこつなのに……」
「お主が自由奔放過ぎるだけじゃって。あと、ぽんこつではない」
何じゃその目は。納得してないとでも言いたげじゃな。何度でも言うが、儂は断じてぽんこつなどではない。
「ふぅ……」
被身子を睨み返しながら席に着くと、少し気が抜ける。こうしてこやつと出掛けるのは久しぶりで、折角の息抜きじゃと言うのに今日はやたらと呪霊が寄ってくる。近付いてくる度、被身子に気付かれんよう祓ってはおるが……いい加減鬱陶しいの。
恐らくじゃが、誰かが呪霊を支配下に置いて儂を監視させている。となると……やはり呪具の作成は急いだ方が良いの。このままだと、間違いなく被身子が狙われる。じゃからと言ってこやつを儂から遠ざける訳にはいかん。面倒なことになって来た。正面から挑んでこんか悪党。儂は逃げも隠れもせぬぞ、たわけ。
ん? 何じゃ被身子。つまらなさそうな顔をして。さっきまで笑っておったじゃろうが。
「……今日、つまらないですか?」
「何でそんな事を聞く?」
「だって。円花ちゃん、笑ってくれないから……。ずっと無表情なのです……」
……そんなつもりは無いが。いやでも、そうか。表情を出さぬように努めていたのは事実じゃ。いつ強い呪霊が来ても良いように、気を張っていたからの。そのせいで被身子がこんな顔をするべきなら、今日は控えておくべきじゃな。
「……不快に感じさせたなら、すまん。鬱陶しい輩が、やたら寄ってくるからの」
「呪霊、ですか?」
「そうじゃ。大方、儂を監視したいんじゃろうて。そんな事しても無駄じゃと言うのに」
監視などせずとも、儂の実力がどの程度あるかなんて分かっているじゃろうに。貴様の手駒の特級呪霊を一方的に祓ったのじゃぞ? その時点で、儂に呪霊を差し向けても仕方がないと思えんのか?
「折角のデートが台無しなのです」
「すまん」
「円花ちゃんのせいじゃないです。ヴィランのせい……ですよね?」
「そうじゃろうな。被身子、あまり気にするな」
気にしたところで、お主にどうこう出来る訳じゃないしの。
「……気になります。好きな人が私を見てくれないデートなんて、つまんない」
「見とるじゃろ?」
「時折、目を離してます。わがままですけど、よそ見はヤなの」
「分かった。なら、呪霊は無視する。じゃからほら、笑ってくれんかの?」
あまりにも近寄ってきたり、被身子に害を加えようとするなら無視はしないがな。
今は、呪術師としてこやつの隣に居るのは止めよう。被身子が笑わないのは嫌じゃ。今後逢瀬を重ねる際にも、気を付けなければな。
悪かった。気を付ける。じゃから、笑ってくれ。折角の、久しぶりの逢瀬なんじゃから。
◆
たぴおかみるくてぃは、美味じゃった。みるくのくせに。牛乳を使ってるくせに。結構甘くて美味しかった。たぴおかの食感は……何とも言えなかったが。くれえぷは、美味しかったの。被身子の分も一口貰った。甘酸っぱくて、良い感じじゃった。
ただ、被身子が作ってくれたやつの方が、儂は嬉しかったかもしれん。外で食べる甘味も良いが、家で食べる甘味の方が儂は好きじゃな。
その事を素直に伝えると、被身子は嬉しそうに笑いおった。視界の隅に居る呪霊は、ひたすら無視し続けた。とは言え、駅で帰りの電車を待っている間に祓ったがの。
今日の逢瀬は、振り返ってみれば楽しいものじゃった。試着室での事は許さんがな。それ以外は概ね、文句無しじゃ。被身子もそう思ってくれてれば良いが。
「さて……」
家に帰宅して、夕飯を済ませ、入浴も済ませた。寝間着姿になった儂は、部屋の座椅子に腰掛けて机に向かっておる。目の前には、眼鏡が二つと指輪が一つ。それから万年筆が二本。
去年の春頃から、時間さえあれば呪力を込めるようにしておる。狙いは、呪具化じゃ。眼鏡は呪霊を見えるようにする為。指輪と万年筆は、両親や被身子が呪霊に対抗出来るようにする為じゃ。
……とは言え、上手く行ってないのが現状じゃ。物に呪力を込め続ければ、いずれ呪力が染み込んで呪具になることは知っている。しかし儂は、効率的な呪力の染み込ませ方を知らん。取り敢えず壊れないように気を付けながら呪力を流し続けてはいるが……いつになったら呪具となるんじゃろうなぁ。こういう事も、前世では知っておくべきだったかもしれん。
物質の呪具化については、手探りでやっていくしかないのぅ。やらない日もあるとは言え、一年も続けてるのに僅かしか呪力が染み込まんとは……。もしかして儂、その方面に才能が無いのか?
「……円花ちゃん、何してるの?」
「ん? あぁ……物に呪力を込めとる」
指輪に呪力を込めていると、風呂から上がった被身子が戻って来た。年頃の
「えっ。誰か呪い殺すつもりですか?」
「違う。両親や被身子の為の呪霊対策じゃよ。いつ呪霊に襲われるとも限らんから、身を守るための道具をじゃな……」
「……呪いの入ったお守りってことですか?」
「まぁ、そんな感じじゃな。ほら、これは肌身離さず持っておけ」
今はまだ僅かにしか呪力が染み込んでおらんが、それでも何も無いよりは良いと思いたい。
……しかしこの指輪、少し古ぼけておらんか? 首にかけるための鎖も、古くなっておるように見える。まぁ被身子は、十一年もこれを身に付けておるんじゃ。多少傷付いたり、摩耗していてもおかしくはない。むしろ、当然じゃろうな。
「言われなくても、いつも付けてるのです」
「知っとる。無くすなよ」
「無くしませんよぉ。円花ちゃんが初めてくれたプレゼントなんですからっ」
「うぐっ」
こら。突然抱き付くでない。勢いのまま押し倒すな。頭打ったじゃろうがっ。危うく指輪が吹き飛ぶところじゃったぞ貴様!
「んふふっ。今日はもう、お布団入ります?」
「まだ寝るには早いじゃろ。勉強はどうした勉強は。今日はしとらんじゃろ?」
「円花ちゃんと寝っ転がりながらします!」
……それ、集中出来るのか? お主、儂と布団に入ると大抵すぐ……。いや、まぁ良いか。たまにはそんな日があっても。頑張り過ぎてない内は、好きなようにさせてやろう。
この後。被身子の首に指輪を引っかけた儂は、こやつと共に布団に入った。宣言通り寝転んだ姿勢で勉強を始めるとは思わなかったが、何だかんだで集中し始めたから何も言うまい。
……ふと、思ったんじゃけど。
被身子が真剣に集中してる時の横顔を眺めるのも、儂は好きなのかもしれん。一番好きなのは笑顔じゃけど、こういう時の顔も良いと思う。
何だか無性に頭を撫でてやりたいとも思ったが、勉強の邪魔になりそうだから我慢することにする。勉強が終わったら、沢山撫でてやるとしよう。
次回から雄英体育祭に向けて、サクサク話を進めていくことにします。原作と違いUSJ襲撃での経験値がゴキブリ退治になってしまったA組は成長速度が大幅に遅れているので、そっちの補填が先かもしれません。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ