待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
特に目的もなく外を出歩き、他愛も無い雑談を繰り返し続けた儂等は海にやって来た。正確には、気が付けば海に辿り着いた。別に海を見に行こうと二人で決めた訳でもない。ただ何となく、気の向くままに歩いて居たら海に辿り着いたってだけの話じゃ。家からもそう遠くないし、まぁ問題無いじゃろう。……多分。
周囲に壁となる建物が無いからか、それとも浜辺じゃからか、風が強い。髪が乱れてしまう程度には風が強いし、そのせいで肌寒さが増した。まぁ、寒いを理由に被身子の腕を抱き締められるから良しとしておこうかの。何でこんな所に居るんじゃと、思わんでもないが。
「寒いですけど、少し休憩しましょうか。そろそろ歩き疲れたので……」
「……そうか? 儂はまだまだ歩けるが」
「円花ちゃんは一晩中迷子になっても疲れないですからねぇ……」
「まぁ、お主は鍛えてないしの。体力差は仕方ないことじゃな、うむ」
「人並み程度には有りますよぉ。ヨリくんとか、ヒーロー科のみんなが体力お化けなだけなのです」
被身子が疲れを訴えたので、浜辺よりも海に近付ける展望台で儂等は少し休憩することにした。ここには
取り敢えず自販機で温かな飲み物を買って、二人並んで
少し疲れてしまっている被身子を抱き寄せて、髪や頭を撫でてみる。風が強くて、前髪も後ろ髪も暴れてしまっているの。此処は休憩するのに向いてない。どこかの喫茶店にでも入るべきじゃったかもしれんな。そろそろおやつの時間じゃろうし。
「補助監督をやるなら、もう少し体力を付けた方が良い。結局、体が資本じゃからな」
「んん……。体力は大事って分かってますけどぉ、ちょっと時間が無いかなって」
「お主も忙しいからのぅ」
そう、被身子は忙しい。朝起きれば儂の面倒を見た後に授業に出て、帰って来たら家事や勉強。そして儂との時間を取ることも忘れない。はっきり言って、儂と同じぐらい忙しいんじゃ。ここ最近、睡眠時間は割りと不規則になっているしの。何ならずっと寝不足気味になってるのかもしれん。最近、目の下の隈が日に日に濃くなっているような……。んん、それはいかんな。ちゃんと寝かし付けなければ。
寄り掛かる被身子を撫でつつ、何となく海を眺める。冬の海は、夏とはまた違った趣きが有るの。こうして風景を眺めるのも悪くない。もう少し風が落ち着いてくれれば、尚良いんじゃけども。残念ながら、今日の海は強風じゃ。
「……儂、明日からいんたぁんじゃ。しばらく留守にすると思う」
「えーーっ!? それはヤです……!!」
「す、すまん。でも、お主を連れて行けぬじゃろ?」
「そうですけどぉ。でも、ヤっ!」
……。……困った。嫌と言われても、こればっかりはどうしようもない事なんじゃ。儂じゃって、被身子と物理的に距離を置くのは嫌じゃ。毎朝同じ布団で目覚めたいし、昼には顔を会わせて食事したい。で、夜になったら一緒に寝たい。そう思っては居るんじゃけども、今回の
どうにか出来るのであれば、どうにかしたいところじゃ。しかし被身子を連れて行く訳にはいかん。こやつには授業が有るからの。さてはて、どうやって説得したものか。
「インターン、期間はどれくらいですか……?」
「それは公安次第じゃろうな」
今回の
そうなると、それはそれで面倒じゃ。昨日今日は
「んん……。こうなったら補助監督として同行を……!」
「阿呆。学校はどうするんじゃ学校は」
「休んじゃえば良いのですっ!」
「特待生で居られなくなったら大変じゃろ」
「そこは……、ほら! 根津校長に相談すれば何とか……!」
「駄目じゃって。まぁ、最悪儂が学費を出せば解決するとは思うが」
「んんん……っ! それはそれで良くないですよぉ……!!」
……駄目か? 少なくとも儂には、そのぐらいは何の問題も無いんじゃけど。使い道の思い浮かばぬ金など、幾ら持ってても仕方がない。結婚式の為の費用は順当に貯まってるし、何なら雄英卒業後に二人暮らしを始めれるぐらいには貯蓄が有る。あ、そうじゃ。児童養護施設に寄付しよう。
どうにも、被身子は儂に金を払わせようとしない。別に金なぞ、幾らでもくれてやるんじゃけどなぁ。結局のところ、生活するには金が必要じゃ。で、儂は学生の身分でありながら金を余らせておる。ろくな使い道が思い浮かばず銀行口座に腐らせておくぐらいなら、被身子の為に今使ってしまった方が余程有意義な気がするんじゃよなぁ……。
「……そんなに嫌か?」
「トガは金銭的に誰にも頼りたくないから、特待生になったんです。あの人達には頼りたくなかったし、かと言って輪廻ちゃんやおじさんに頼るのも嫌だったので」
「……そうか。相分かった。
じゃけど被身子、特待生を剥奪されたら勝手に儂が払うからな」
「円花ちゃんが意地悪なのです。円花ちゃんのくせにっ」
いや、意地悪などしたつもりは無いんじゃけど。なのに被身子は頬を膨らませて、思いっきり顔を逸らした。
どうしても、学費については儂を頼りたくないようじゃ。じゃったら尚更、特待生を剥奪されてしまうような真似はすべきでは無いじゃろう。今更気を付けたって遅いような気がしないでも無いが、被身子はまだ特待生じゃ。
今年もそろそろ終わり、数ヶ月もすれば儂等は進級する……筈じゃ。まぁ間違いなく被身子は進級するじゃろう。儂は……、うぅむ……。三月が終わるまでに、どうにかして課題を終わらせなければの。でないと普通科目の単位が足りずに留年してしまう。それは避けたい。
実地研修が終わったら、もっとしっかり勉強しなければ。学生としての本分も果たさなければな。
「すまんすまん。ほら、こっちを見てくれ」
「……やですっ。ぷいっ」
「悪かったって。意地悪したつもりは無いんじゃ」
「やっ!!」
んんむ。そんな分かり易く拗ねられてもじゃな……。と言うか、それ以上首は回らんぞ。まったく、こやつと来たら仕方のない。たまに物凄く子供っぽいんじゃから。いや、普段から子供っぽいか。とんだわがまま娘なのは、昔から少しも変わらん。そういうところも、かぁいいとか……愛しいと思うけれど。
顔を背けられたままのは心外じゃから、強引にでも儂の方に顔を向けさせようと思う。じゃから、被身子の膝上に真正面から腰掛けて両肩に手を置く。それでもこやつは儂を見ない。仕方ないのぅ、どうやってこちらを見させようかのぅ。
「ほれ、被身子。こっちを見んか」
「やです。やっ!」
「聞かんぼめ。ならこうじゃ」
「んぎぎぎ……っ」
両頬を手のひらで挟んで、力で正面を向かせようと試してみた。が、全力で抵抗してくるわ。首に悪そうじゃから、下手な抵抗はしないで欲しい。
「聞かんぼは、こうするぞ?」
「……っ、んん……!」
耳に、
ほら、いつまでも拗ねてないでこっちに顔を向けんか。でないと、いつまでも続けるぞ? 何なら噛むぞ?
「ヨリくん、えっちです」
「それをお主が言うか……」
獣は、どちらかと言えば被身子じゃろうに。毎度毎度儂を好き勝手して、心底楽しんでるのはお主じゃお主。
「ほら、こっちを見てくれ。でえと中に余所見なんて、儂は許さんが?」
「……もぅ。トガが大好きなんですから」
少し呆れたような声音で。じゃけど、嬉しそうな顔をして。やっと被身子が儂を見た。それを嬉しく思ってしまう。やはり
「そうじゃな。どうかしてるぐらい、……大好きなんじゃ」
「それは、私もです。ぎゅぅう〜〜っ!」
「まったく。甘えんぼなんじゃから……」
やっと儂を見た被身子が、力いっぱい儂を抱き締めた。こうされると、どうにも心が跳ねる。心地良くて嬉しくて、幸せじゃと思ってしまう。此処が外でなければ、押し倒していたかもしれん。いや、押し倒されていた……か?
「大好きですよぉ。ずっと、ずーーっと!」
「……儂もそうじゃ。ずっと、……ぁ、愛してるからの……」
「んふふ……っ。はいっ!」
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ