待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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円花の過ち。

 

 

 

 

 

 

 被身子が体調を崩した。かなり酷い頭痛がするようで、まったく動けない。朝から母が雄英に来ていたのには驚いたが、お陰で少し安心出来る。儂一人でも被身子の看病は出来るが、母が居るのは心強い。身重の体に頼るのは申し訳無いが、助かるのも事実じゃ。

 とにかく。儂はまず、隣の部屋のながんを訪ねた。で、りかばりぃがぁるを呼んでもらうことにした。それから携帯電話(すまほ)を使って、どうにかこうにか医者を呼んだ。病院まで連れて行った方が良いのでは? と思ったが、あの様子では布団から出れそうにないからの。来て貰った方が早い。実地研修(いんたぁん)は、遅刻することにする。今の被身子を放って置くことは出来ん。

 

 と言う訳で、部屋に戻ると……。

 

「インターンに行きなさいと、お母さんは言ったわよ?」

「いやでも、母……」

「もう大丈夫よ。寝付いたし、夜まで起きないから」

 

 ……。確かに。被身子は寝付いておる。顔色はまだ悪いが、それでもさっきよりは苦しくなさそうじゃ。母の言う事は多分事実じゃ。また未来でも見たのじゃろう。しかしじゃからって、実地研修(いんたぁん)に行くつもりはない。行ける筈が無かろう? 被身子な心配なんじゃから。

 それから。枕元にお猪口が置いてあるが、これは何じゃ? 母が持ってきたのか……?

 

「……やじゃ。儂は此処に居るぞ」

「居たところで何にもならないわ。いつか起きる事が起きただけだもの」

「こうなると分かってたなら、教えてくれても良かったんじゃないか?」

 

 母は、個性で予知夢を見れる。こうなる事を把握していたのなら、せめて教えて欲しかったものじゃ。

 

「未来は変わらない。これについては、いつか必ず起きることだったもの」

「じゃけど、知っていれば少しは備えられるじゃろ?」

「備えられないわよ。備えられるなら、お母さんはこんな個性に振り回されることもなかった。

 ……それに、言ったでしょ。この先、被身子ちゃんは相当しんどいって。貴女達二人じゃ、どうしようもないって」

 

 ……。……確かに、いつぞやにそう言っておったの。じゃけども、こうなるのが分かっていたのならやはり教えて欲しかった。それに、気になる事もある。単なる風邪なら、恐らく母は何も言わないじゃろう。わざわざ寮に出向くなんてことも無かった筈じゃ。しかしこうして姿を見せた以上、それは何か有るって事じゃと思う。被身子が訴えた頭痛は、ただの風邪とは違うのかもしれん。

 

 じゃったら。じゃったら、尚更……。

 

「被身子に、何が起きてる?」

「……」

「母」

「……それを知ったら、死ぬ程後悔するとしても?」

「それでも教えてくれ。儂が知らん訳にはいかんじゃろ?」

「……はぁ……。ほんと嫌になる。結局どうしようもないんだものね」

 

 母は儂から目を逸らし、盛大に溜め息を吐いた。それから被身子の額を愛しそうに撫でて、やがてゆっくりと儂を見た。

 

「円花。今の被身子ちゃんは、貴女が作ってる呪具と同じようなものなの。長い時間を掛けて呪いを込められて、結果として肉体……主に脳が変質してる。正確には変質が始まったってところ。頭が痛かったのはそのせいね」

「……は?」

 

 ……何を、言ってるんじゃ……? おい、何を言ってるんじゃ……!

 

「信じられない? でも事実よ。こうなった原因は、貴女の血のせい。貴女が考え無しに血を与え続けたから、こうなったの」

「……儂が、呪った……のか……?」

 

 そんな筈は、無い。有り得ん。儂が被身子を呪うなど、有ってはならん事じゃ。じゃから、これは母が冗談を言っているだけ。被身子はただ単に風邪を引いていて、それで動けないってだけじゃ。そうに決まってる。だって、そうじゃなかったら。

 

 儂は、儂を許さない。儂が被身子を、子供呪うなど……有ってはならんのじゃ……!

 

 体が、震える。息が苦しくなる。違う、違う。違う違う違う。絶対に違う。儂じゃない。儂じゃ、ない……!!

 

 何で儂が! 被身子をこんなに愛してる儂が! 被身子を呪わなければならないんじゃ!!

 

「これは事実よ。貴女は被身子ちゃんを甘やかす余り、知らず知らずの内に呪ってしまった。今まで兆候は有った筈なのに、貴女はそれを見逃した。何を意味するのか考えようとしなかった。

 ……受け止めなさい。これは、円花の過ちよ」

「―――っっ!!」

 

 もし。もしも、それが事実なら。儂が被身子を呪ったと言うのなら。儂は、もう。もう……!!

 

「でもね。被身子ちゃんは―――」

「っっ!!」

 

 聞きたくない。聞ける筈が無いっ。そんな事実は、絶対に勘弁じゃ……!

 

 ……この後の事は、よく覚えていない。気が付けば、儂は何処とも分からん所に独りで立っていたからじゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 儂は……。儂は、逃げ出した。母の言う事が信じられなくて。じゃけど、母の言っていた事は冗談でも何でも無いと気付いてしまって。じゃから多分、逃げ出した。耳を塞いで目を閉じて、違う違うと自分に言い聞かせながら。

 

 ……情け、ない。情けない、情けない……!

 

 自分から被身子を呪っておきながら、儂は目の前の現実から目を背けた。身一つのまま、何も持たずに誰にも言わずに、寮から飛び出した。その結果がこれじゃ。何処とも分からん場所に来てしまって、これからどうすれば良いのかも分からん。……分からん、けれども。

 

 ひとつ。確かにしなければならん事がある。それを考えたら、酷く胸が締め付けられる。息が乱れて、とても立っては居られない。それでも、それでも……!

 

 ―――もう儂は、被身子の側に居てはならん。

 

 ……儂が、呪ったんじゃ。信じたくなくとも、被身子を呪った。これから被身子が、どんな目に遭うかも分からん。一生寝たきりかもしれない。死んでしまうかもしれない。母は夜には起きると言っていたが、それが事実かも分からない。未来なんて、誰にも分からない。例え予知夢が正しかったとしても、それは変わってしまうかもしれない。そしたら、そしたら被身子は……!!

 

「ふ……っ、ぐぅ……!」

 

 おい。おい、泣くな。泣くな、泣くな……!

 

 泣く資格なんて、儂には無い。何でじゃ? どうしてこうなったんじゃ? 何で儂は、被身子に血を与え続けた? どうして何の疑問も持たず、ただ求められるがままにこの血を与えてしまったのか。

 

 何故、今日まで何も考えて来なかった? 儂の血は、呪いそのものじゃろうが。何でこの可能性に思い至らなかった?

 

 呪術師の儂が、どうして……!!

 

「……死ね。死んでしまえば良い……! 今すぐ、死んでしまえ……!!」

 

 ―――殺して、しまえば良い。儂は呪った。儂がこの手で、子供を呪った。有り得ん。じゃから、じゃから。もう、ここで死ね……! 廻道円花は……加茂頼皆は、今ここで……!!

 

「……あれ? 円花? ちょっ、待って待った!! ほんとに早まってるじゃん!?」

「……っ……離、離せ……!」

 

 血を以て首を落とそうとした、その時。蹲っていた儂は、その場から無理矢理に移動させられた。そのせいで、首を切り落とすつもりが地面を切り裂いただけじゃ。おい、誰じゃ。邪魔をするな……! 止めようとするんじゃない……!!

 

「ちょっ、ま、待った……! こら、円花!!」

「いぎっ!?」

 

 再び思いっきり、脳天を叩かれた。儂を止めに入ったのは、背広姿の父じゃった。何でこんな所に居るんじゃ。何で、よりによって父なのか。止めて欲しい訳じゃない。邪魔して欲しい訳じゃない。放っておいてくれ。儂は、被身子を呪……っ!

 

「何をしてるんだ!!」

「ぐぎっ!?」

 

 また、脳天を叩かれた。まさかの拳骨二回じゃ。お陰で、頭が痛い。貴様、幾ら儂の親じゃからってやって良い事と悪い事があるじゃろっ。ふざけるな、死なせろ。儂に儂を殺させろ……! でなければ許せない。儂は儂を許せない!!

 

「まっったく! 母娘揃って馬鹿な真似しようとして! 死んで楽になろうとするのは、ただの逃げだって分かんないかなぁ!?」

「ぅ……るさい……! 儂は、被身子を呪ったんじゃぞ!? じゃったら死ぬしかないじゃろ!!」

「死んで済むことなんて、この世の中には何も無いんだよ! 償いたいなら生きて償え!! 被身子ちゃんを独りにする気か!?」

「……っっ!! 儂が被身子の側に居る資格なんて、無くなったじゃろ! 呪術師で有りながら、無自覚に呪ったのに!!」

「それを決めるのは円花じゃなくて、被身子ちゃんでしょうが!」

「……ぅ、るさい! うるさい!! 儂は、儂は……!!」

 

 儂はもう、被身子の側には居られない。居てはいけない。それだけの事を、してしまった。無自覚じゃろうと何じゃろうと、儂は子供を呪った。それも、儂をあんなに愛してくれる人を。最愛の人を、呪ってしまったんじゃ……!

 

 じゃからもう。もう、儂は被身子の側に居るべきではない。呪っておきながら、側に居るなんて真似は許されない。じゃから、じゃから……!!

 

 

「っ、廻道!!」

 

 

 涙で歪む世界に、影が降る。この影は、知っている。

 

 

「何をしている……! 輪廻さんから、渡我先輩の事は聞いた。どうして飛び出した……!」

「ぅ、るさい……! うるさい、うるさいっ! 放っておいてくれ……!!」

 

 何で、常闇まで此処に居る? 此処に来る……!? ふざけるな、離せっ。だあくしゃどうに、儂を抱えさせるんじゃないっ!!

 

「放って置けない!! 回向(えこう)さん、廻ど……円花さんを寮まで連れて帰ります……!!」

「えっ。いや君は誰……?」

「常闇踏陰です! 円花さんとは、親しくさせて貰ってます!」

「ぁっ、あぁ! 君が踏陰くんね、円花のボーイフレンド! ……って、は? ちょっと待った、うちの娘に気易く触れないで貰えるかなぁ!? お父さんはそういうの、被身子ちゃんしか許してないよ!?」

「こんな時にポンコツするのは止めて頂きたいっ。とにかく連れて帰ります!! お父さんは後で追い付いてください!!」

「待って!? 誰がお義父(とう)さんだって!!?」

 

 うるさい、喧しい……っ。黙れ、こんな時に儂の側で騒ぐんじゃない……! ふざけるな、離せ……! 儂はもう死ぬ。儂を殺して、終わりにする……!

 なのに、なんで邪魔するんじゃっ。どうして、父も常闇も儂を止めようとする!

 

 何で、何でこの身体までもが動こうとしないんじゃ……! どうして術式が使えない!? 呪力が練れない!? 儂は、儂は……!!

 

 儂はもう、生きているべきでは無いのに……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 







円花父の名前は回向です。意味は回向で調べれば出て来る通りで、つまり彼は善人って事。それと輪廻は自殺を試みた事があります。が、回向の拳骨で止められてます。人類が呪力からの脱却を果たし、衰退した御三家の末裔を嫁として奪い去った異常者(五条家目線)でもあります。この辺は作中では書きません。

三人称による補完は要りますか?

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  • 要らん
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