待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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追憶:母の言葉

 

 

 

 

 

 

 ヨリくんが四歳になると、なんと言ったら良いのか分からないんですけど、……こう……感覚的に? とにかく、ヨリくんの体には何かの力が有ることを知りました。それが所謂、術式であることにヨリくんが気付いて、同時に私も気付きました。それと、天与呪縛って言う産まれながらの縛りを持ってることにも私は気付きました。ヨリくんは気付いてないですけど。天与呪縛については、まぁよく分かりません。でも、これが有ったからヨリくんは産まれ直したんだなって分かって嬉しいのです。

 

 だけど、体に刻まれた術式が赤血操術だった事が不満です。

 

 ……それは、この四年でヨリくんが産まれた世界がとんでもなく最低だって知ってしまったから。

 

 例えば、加茂家。はい、加茂家です。呪術界における御三家って呼ばれる……まぁ所謂貴族というか上流階級と言うか。他にも禪院家とか五条家があるみたいなんですけど、そっちは良いです。この目で見た訳ではないので。

 

 それでですね。この加茂家、ヨリくんのお母さん……皆代(みなよ)ちゃんを蔑ろにし過ぎですよね。夫の筈の頼倫(よりとし)……さんは、夫のくせに妻を蔑ろにするんですよ? 信じられないですよね!

 

 相伝の術式が、そんなに大切ですか? その為だったら、幾ら優れた母体だからって皆代ちゃんを家畜か何かのように扱って良いんですか? これは絶許です。絶許。ヨリくんも、お母さんの境遇にはまるで納得してないのです。

 あくまでトガが見せられてるのはヨリくんの記憶なので、ヨリくんが見聞きした事しか分かりませんけど。それでも、酷いなぁって。クソです、クソ。

 

 現に、今だって。駄目夫に頬を叩かれて顔に痣を作った皆代ちゃんを見たヨリくんは、縋り付いて泣いてますし。

 

 あんまり、泣いて欲しくないです。今のトガには、感情がダイレクトに伝わって来て……胸が苦しいなんてものじゃないので。まぁこれはこれで結構嬉しいんですけど。だってヨリくんの記憶ですから。

 

「……何で、母様を苛めるの……? 母様、何も悪くないのに……!」

「……この世界の女性は、大抵そんなものだから。お母さんも、その辺はもう諦めちゃってる。でも、そんなに悪い事ばかりじゃないのよ? だって頼皆を産んで、母親になれて……。気は重いけど、こうしてまた子供を授かって……。それだけは、幸せな事だと思ってるから」

 

 皆代ちゃんは……。んん……。何もかも諦めたような顔をしてる人です。でも、ヨリくんのお母さんがこの人で良かった。とも思います。色々な事を諦めてしまってますけど、ヨリくんへの愛情だけは間違いなく本物で。ヨリくんの前にいる皆代ちゃんは、いつも優しく微笑んでくれて。

 

 お陰で。トガもマザコンになっちゃいそうなのです。ヨリくん、お母さんがかなり大好きな子だったみたいです。お父さんについては、かなり苦手意識が大きいですけど。

 そりゃ、あんな人が父親だなんて思いたくないですよねぇ。妻を蔑ろにして、子供に幼い頃から鍛錬を強いて。お陰でトガは苦しいです。ヨリくんが傷付くと、トガもしっかり痛いのです。逃げることも出来ないので、しんどいなんてもんじゃありません。

 

「……鍛錬だって、したくない……! 怖いし、痛い……!」

「……ごめんね。私には、頼皆の生き方を決めてあげられない。でもね、この世界で生きて行くには仕方ない事なの」

「でも、でもぉ……!」

「あんな人にならない為に、強くなりなさい。頼皆は力を持って生まれた。それからはどうしても逃げられない。

 ……でもね。辛かったり苦しかったりしたら、誰かに頼って良いの」

 

 んん……。ほんと、諦めてる人です。ヨリくんの行く末を心配してるけど、それでも行動に移せない人……だと思います。でも、それでも。ヨリくんはお母さんを信じてる。この言葉が、いつか本当になるって信じてるんです。なのに、私が知ってるヨリくんはそうじゃなくて。独りで何とかしようとしちゃって、だから過労で倒れたり……風邪を引いたり。クラスのみんなと、衝突しちゃったり。

 

 ……この言葉を、きっとヨリくんは何処かで忘れちゃったんだと思います。呪術界は、酷い世界ですから。だからいつしか、忘れちゃったんでしょうね。

 

 それが、どうしてか許せない気がします。皆代ちゃんがどんな人であれ、今は信じているのに。それをヨリくんは、いつかは忘れて……。

 

 

 ん、んん……。やだなぁ、って思うのです。家族の言葉をいつか忘れてしまうなら、いつかトガの言葉も忘れてちゃうのかな……? 輪廻ちゃんや、おじさんの言葉すらも忘れて……変わっちゃうんでしょうか……?

 

 

「もし、今が嫌なら……。いつか産まれてくる弟や妹を、守ってあげて。頼皆みたいに、嫌な気持ちにならないように」

「……出来、ないよ……! 出来ない……! だって、戦いたくない……!!」

「……優しい子に産まれたのね。お母さん、とっても嬉しい。絶対に、あの人みたいにならないでね。優しい心を、忘れないで」

 

 ……あぁ……。これは……。これは……呪いです。きっと、でも間違いなく。

 

 だって今の言葉は、今のヨリくんの心に突き刺さったんですから。でもいつかは、この思い出も薄れて……。

 

 ……ヨリくん。どうして、独りになろうとするんですか? どうして、独りで何とかしようと頑張っちゃうんですか?

 

 もっともっと、トガは頼って欲しいのに。ヨリくんのお願いなら、ヨリくんの言う事なら……。それこそ、私は何だってするのに。そう思えるぐらい、愛してるのに。

 なのにどうして、独りで在ろうとするんですか? この先に、一体何が待ってるんですか??

 

 ほんと、最低です。こんな場所に産まれなければ、ヨリくんはもっと幸せだったかもしれないのに……!! でも、こんな過去が有ったからこそヨリくんは産まれ直して……。私を、救けてくれて……。

 

 やるせないのです。ただ見てることしか出来なくて。それが、嫌で嫌で仕方なくって。

 

 分かってます。これはヨリくんの記憶で、トガはただそれを眺めてるだけ。でも、でも……!

 

 

 ―――変えてあげたいって、思うの。ヨリくんが少しでも悲しまないようにしてあげたいって、思うから。

 

 ……だから。

 

 

 だから、決めました。このままヨリくんの記憶を全部見たら、私はもっと……もっと。

 

 もっと、ヨリくんを幸せにしてみせます。絶対に、絶対にです……!!

 

 

 

 

 








三人称による補完は要りますか?

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