待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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追憶:お兄ちゃんとして

 

 

「おわぁ!? 頼人っ、肝が冷える悪戯は止めろと何度言えば……!」

「逃げろぉっ。兄ちゃんが怒った怒ったっ」

「逃っげろぉっ。ぁはははっ」

「比奈まで加担したのかこれ!? おい待て、俺から逃げれると思うなよ……!!」

 

 頼人くんと比奈ちゃんが産まれて、四年経ちました。双子ちゃんはわんぱくな子で、お兄ちゃんが大好き。そしてヨリくんも、双子ちゃんのことが大好きなのです。皆代ちゃんは、残念ながら亡くなりました。元々体が強くなかったみたいで、双子ちゃんを出産したことが大きな負担になって……。それでも、頼人くんと比奈ちゃんが四歳になるぐらいまでは持ち堪えてたんですけど、結局……。

 お母さんが亡くなった事で、ヨリくんはとってもお兄ちゃんになりました。弱味を見せなくなって、明るくなって。まだまだ甘えたい盛りなのに母親が居ない二人を、そしてこの家で居場所の無い二人を、ヨリくんが目一杯甘やかしながら育ててるのです。

 

 結果。三人は立派なブラコンでシスコンで。特にヨリくん、物凄く二人を溺愛してるのです。この溺愛っぷりには見覚えがあります。見覚えしかないです。だって、トガに接してるヨリくんそのものなんですから。

 

 ん、ふふ……。えへへぇ……。こうして甘やかされる双子ちゃん達を見ていると、ヨリくんって私が大好きなんだなぁって再確認出来るのです。この夢から覚めたら、ちょっと色々と……我慢出来そうにないです。もうほんと、ヨリくんを目茶苦茶にしちゃおうと思います。だってもう八年ですよ? トガは八年、ヨリくんとイチャイチャ出来てないのです。唯一の救いは、ヨリくんが寝るとトガの意識も途切れるってことですかね。

 

 ……ところで。私は既に、ヨリくんの記憶を八年分も見ています。現実のトガは多分昏睡してると思うんですけど、もしかして現実では既に八年経過してたり……? それは困るのです。だってこのままヨリくんの記憶を全部見たら、何十年も昏睡って事になっちゃいます。目が覚めたらお婆ちゃんになっていた、なんてのは絶対にヤです。歳を取ってしわくちゃになるのは、ヨリくんと一緒じゃなきゃ嫌です。

 

 ……でも、どうすることも出来ないんですよねぇ。トガはただ、ヨリくんの記憶を体験しているだけ。

 

「ほぅら捕まえたぞ、悪い子等めっ」

「へへへっ、捕まえられちゃったなぁ……!」

「もぉおっ、呪力使うのは狡でしょっ」

「ふふん。お前達も、さっさと呪力強化を覚えるんだなっ」

 

 ほんっともぅ、大人げないんですから。ヨリくん、子供と遊ぶ時いっつもこうです。手加減とか全然しなくって。今なんて呪力強化を使ってまで二人を抱き留めて。でも、そんな所も大好きですけど。遊ぶ時は全力投球で、大はしゃぎ。こういう所は、この時から変わってないみたいです。

 それはそれとして。双子ちゃんがカァイイのです。頼人くんは悪戯好きの男の子で、さっきなんて比奈ちゃんと結託してヨリくんの懐にムカデを突っ込んで。子供の悪戯に過敏に反応して、でも二人を嫌うなんてことは全然無くって。仕方ないなぁ、なんて思いながら双子ちゃんの悪戯に付き合って。

 

 この時間がヨリくんにとって、とっても大切で幸せなものなんだって伝わって来ます。だからこそ、少しだけこの先を知ってる私は胸が痛いのです。こんなに幸せなのに。こんなにお互いを大事に思ってるのに。なのに、頼人くんと比奈ちゃんは……。

 

 この先に起こることが、怖いって思うのです。出来ることなら、見たくありません。でも、今見ているものがヨリくんの過去なら。この先に待っているのは……。

 

 あぁ、嫌です。見たくない。こんなに幸せな光景が壊れてしまう所を、トガは見たくない。出来ることなら目も耳も塞ぎたいです。……出来ないんですけどね。見えるものも聞こえるものも、感じるものだって、全部一方的に私に流れ込んで来ちゃうから。

 

 次期当主として不自由な中で、確かにあった小さな幸せ。それがこれから壊されてしまうと思ったら、やるせないのです。

 

 御三家なんて、加茂家なんて無くなっちゃえば良いのに。そしたら、ヨリくんも頼人くんも比奈ちゃんも……このまま幸せで居られるのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヨリくんが人を殺しました。原因は、頼人くんと比奈ちゃんが加茂家当主の差し金で殺されそうになったから。夜遅くまで続いた鍛錬を終えて双子ちゃんの居る部屋に戻ったら、二人の姿が見当たらなくって。最初は何の悪戯だって思ってたみたいですけど。

 少しすると、離れたところから悲鳴が聞こえて、ヨリくんはそこに向かって走って行って。それで、屋敷の離れにある鍛錬場で二人が殺されそうになってて。それを目撃したヨリくんは、二人を手に掛けようとしていた大人を……去年までヨリくんの指導役をしていた人を、手に掛けました。その時、死に際に最低な事を言い残しました。今回の事態を引き起こしたのは加茂家当主で、その目論見は双子に構って鍛錬を疎かにしているヨリくんを正したかったから。

 そんな事は、全然無いのに。ヨリくん、八歳ですよ? なのに朝から晩まで鍛錬させられて、礼儀や作法なんかも叩き込まれて。

 遊びたい盛りのお子様には、酷な日々をずっと送ってて。だけど、弟妹を守るために頑張って……。

 

 そのヨリくんが、鍛錬を疎かにしている? そんな事は無いのです。むしろ頑張り過ぎで、逃げて欲しいぐらいで。

 

「すまなかった……っ。悪かった……! ごめん、兄ちゃんがしっかりしなかったから……!」

 

 ヨリくんは、何も悪くないのに。なのに怪我をした双子ちゃんを抱き締めて、返り血で血塗れになったヨリくんは泣きながらずっと謝ってて。頼人くんは助かった安心感からぐちゃぐちゃに泣いて、比奈ちゃんは涙を浮かべながらも二人を抱き締めて。

 

「兄ちゃんは、悪くないよぉ……! だって悪いのは、比奈達で……!」

「違う、違う……! 俺が、俺が……!!」

 

 苦しいです。息が出来ないくらい、辛くて……悲しくて。

 悪いのはあの人で、ヨリくんは何一つ悪くないの。なのに、ヨリくんは自分のせいだって自責して。自分がもっとしっかりしてればって、思っちゃって。

 

 呪術界は、本当にクソです。最低よりも最低な世界です。どんな理由が有ったとしても、親が子供を否定する世界なんてトガは許せないのです。

 

 この日から、ヨリくんは双子ちゃんに増々べったりになりました。何をするにしても二人を連れて、大人が近付こうものなら相手が誰であれ噛み付いて。守らなきゃ、守らなきゃって……。とっても過保護になっちゃって……。

 お兄ちゃんだからしっかりしなきゃって、お兄ちゃんだから頑張らなきゃって。二人を守るために、必死になって。

 

 この頃のヨリくんは、頼人くんと比奈ちゃんが全てでした。弟と妹を守るために、小さな体で精一杯頑張って。それこそ、見てられないぐらいボロボロになるまで頑張って。

 

 ずっとずっと、守ろうとしてたんです。お兄ちゃんとして、弟と妹を。なのに、この先に待ってるのは……。

 

 

 

 

 

 

三人称による補完は要りますか?

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  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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