待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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書いてる最中に寝落ちしました。てへっ!


追憶:憎悪

 

 

 

 

 

「頼人、比奈。出掛けようか」

「ほんとに!?」

「やった……! そろそろ街に出たかったんだぁ……!」

「そうだろそうだろ? がははは!」

 

 ヨリくんが双子ちゃんにベッタリするようになってから、大体一ヶ月ぐらい経ったある日の事。ヨリくんが、二人を気晴らしに外へと連れ出しました。この時代の町並みは、当然なんですけどトガが知る町並みとはまるで違うのです。街路は東西南北にびっしりと引かれて、所謂碁盤の目って感じだと思います。だから多分……多分ですけど、加茂家のお屋敷があるのは京都なのです。もしそうだとしたら、ヨリくんの故郷は京都って事になるんですけど……ヨリくんってその辺に拘りが無いみたいで。そもそも生まれ故郷の場所をきちんと把握してるのかも、怪しい気がします。

 とにかく。とにかくです。今日は頼人くんと比奈ちゃんを連れて、ヨリくんは街に出ました。それも勝手に家を出ました。許可なんて誰にも取ってません。

 

 まぁ、ヨリくんは結構自分勝手ですから。今も昔もその辺りは変わらないみたいです。その事に、少し安心します。どんな酷い目に遭っても、変わらない部分が有ったんだなって思えて。それに「がははは!」って大口開いて笑うところは、生まれ付きみたいです。んふふ、カァイイ。

 

「そう言えば兄ちゃん。兄ちゃんて、どんな人と祝言挙げるの?」

 

 双子ちゃんと手を繋いで仲良く並んで歩いていると、不意に頼人くんが変な質問を飛ばして来たのです。祝言……。つまり、結婚ってことなんですけどぉ……。この話題、トガはあんまりして欲しくないなぁって思っちゃうのです。だってヨリくんと結婚するのは私なのに。平安時代から数千年先で、私と結婚するのに。幾ら今見ている光景が過去のものでも、この時代のヨリくんが私以外の誰かに恋愛的な好意を向けるのは……やっぱり気に食わないので。

 

 まぁ、でも。この質問の答えは知ってるのです。だから、許してあげます。

 

「は? いやいや、俺は祝言なんて挙げないが?」

 

 ヨリくん、祝言が何なのかいまいち分かってないところがあるのです。もちろん知識としては知ってるんですけど、まだ八歳ってこともあって、異性を恋愛的な意味で好きになったことが無いんです。天元さんのことは、少し慕ってたみたいですけど。あくまで、呪術師として。結界術の師匠として、です。天元さんが結界を張る姿に少し見惚れてたことには、目を瞑ってあげます。

 

「頼人。そもそも兄さんは選べないんだから、そんな事聞いちゃ駄目でしょっ」

「でもさぁ、比奈は気にならないのかよぉ? 家族が増えるかもしれないのに……」

「なんだ頼人。俺や比奈だけじゃ足りないのか?」

「そんなことないよっ。でも、兄ちゃんには幸せになって欲しいじゃん? 弟としては、やっぱ良い人と出会って欲しいって思うし。だってほら、兄ちゃんは呆け呆けで……」

 

 ん、んん……。それは、はい。頼人くんの言う事は一理どころか百理ぐらいはあるのです。ヨリくんは、やっぱりポンコツなので。産まれながらのポンコツなんですよねぇ。

 

 例えば、四歳の頃。お屋敷にある大きな池、その水面を歩きたいと思って、そのまま溺れました。あれは本当に危なかったです。危うく一緒に溺死するところでした。

 例えば、お風呂。この時代のお風呂事情って、湯に浸かることが無いんですけど……。何と、ヨリくんは湯船に飛び込みました。湯船っていうか、あれは足湯みたいなものですけど。

 何か浸かってみたかった……っていうのが頭の中でしてた言い訳なのです。で、湯の中に毎日入りたがるから、変な目で見られることが多いです。これは、トガとしては大助かりですけど。

 

 例えば……。……んん、止めておきましょう。ヨリくんのポンコツエピソードはいっぱいありますけど、いちいち思い返してたら切りがないので。

 

「誰が呆け呆けだって? おいこら、頼人っ」

「いや、兄さんは呆け呆けだから」

「比奈まで……! 俺は呆け呆けではないっ!」

 

 いやぁ……。呆け呆けですよぉ。ほんっとヨリくんって、ポンコツなんですから。そこのところは一切変わり無いみたいで、とっても安心しました。

 ポンコツ扱いされると、すぐムキになるのも変わってないのです。カァイイねぇカァイイねぇ。

 

「そもそも、祝言なんぞ挙げる気は無い。そんなものは必要無いんだ」

「じゃあ加茂家は兄ちゃんの代で終わりだね」

「宗家は俺で末代だ。分家筋の事は知らん」

 

 えへへぇ。ついつい嬉しくなっちゃうのです。だってこれって、ヨリくんは今のところ特定の人を作る気が無いってことですよね。つまり、前世では結婚する気が無いってことです! 前世も今世も、ヨリくんと結婚出来るのは私だけって言っても過言では無いのです!

 こんなヨリくんが、未来では私と結婚してくれるなんて。トガは幸せ者ですっ!

 

「でも、兄さん。もし加茂家が変わったら?」

「……その時は考えても良い」

「きっと変えれるよ、兄ちゃんなら!」

「こんな呆け呆けな兄が独り身なんて怖いから、妹としては良いお嫁さん貰って欲しいなぁ……。兄さんも幸せになって欲しいし」

「だから呆け呆けでは無いと……!」

 

 んふふ。こういう光景って、何だか素敵だなって。ヨリくんも頼人くんも、比奈ちゃんも笑顔で。不自由だとしても、幸せで。三人が仲良くしてるところを見ると、私も幸せな気持ちなのです。こうして双子ちゃんの前でお兄ちゃんお兄ちゃんしてるヨリくんは、とってもカァイイの。それに、誇らしくも思います。ヨリくんのこういう所も、やっぱり好きなんだなぁって。

 

 この後。ヨリくんと双子ちゃんの三人は待ちへ繰り出して、日が沈みそうになるまで遊んで回りました。この時代でも、街に繰り出すと意外と遊べるみたいで。ちなみに、一番白熱してたのは蹴鞠でした。街に居た子供まで巻き込んで、大人数でわいわいと。ヨリくんって、ほんと遊びになると容赦が無いのです。まったくもぅ、少しぐらい手加減しないと遊んで貰えなくなっちゃいますよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 平安時代は、日が暮れると直ぐ真っ暗になっちゃいます。街灯なんて無いですから。日が沈めば沈むだけ、どんどん暗くなっちゃうのです。だから、子供は真っ暗になってしまう前にお家に帰るみたいです。

 夕方になると、ヨリくんと双子ちゃんは三人仲良く手を繋いで帰路に着きました。この調子だと、日が沈み切る前にお家に帰れると思います。途中でヨリくんが迷子になったりしなければ、ですけど。前世だろうと、とんでもない方向音痴なので。

 

 まぁ、でも。帰り道で盛大に迷子になる……なんて事はなさそうです。変な方向に行こうとするヨリくんを、頼人くんと比奈ちゃんが直ぐに止めてくれるので。その度にポンコツ扱いされては、ムキになってますけど。

 

 ほんと、ヨリくんは呆け呆けのポンコツなんてで方向音痴なんですから。

 

 ヨリくんが道に迷いそうになったり、双子ちゃんにそっちじゃないと腕を引っ張られたりしていると、泣いてる子供が見えました。路地影にしゃがみ込んで、一人静かに泣いていて。その泣き声を、ヨリくんは聞き逃さなくって。

 ……その子供は、家庭環境が良くなかったみたいです。お父さんが殴るんだって、お母さんを苛めるんだ……って。その時、ヨリくんの心が酷い憎悪に呑み込まれてしまって。双子ちゃんを連れたまま、子供にお家まで案内して貰って。

 

 最初は、言葉で止めようとしてたんです。でも、そうしている内に……大人の人が手を上げようとしたんです。頼人くんと、比奈ちゃんに。それが、引き金になりました。

 

 駄目。ヨリくん、それは駄目。ヨリくんにとって、それが何より許せないことだって言うのは分かります。分かりますけど、それでも駄目なの。そんな真似しちゃいけない。そんな事しちゃ、絶対に駄目。

 無駄だとは分かっても、止まって欲しくて。そんな真似、して欲しくなくって。だからトガは何度も叫んだのに。なのに、なのに……。

 

 

 この日。ヨリくんは人を殺しました。憎悪に呑まれて、衝動的に。

 

 

 最悪だったのは、人を殺した後で……お礼を言われちゃったんです。泣いていた子供に、そのお母さんに。ヨリくんの心は、明らかに悪い方向に傾いてしまって。

 比奈ちゃんは、ヨリくんを咎めながら大泣きして。頼人くんは、血塗れのヨリくんを震えるながらも抱き締めました。

 

 

 ―――悲しい。とっても、悲しいの。ヨリくんがしようとした事は、間違いじゃなかったのに。許せないことに正面から立ち向かって、抗おうとしただけ。言葉でどうにかしようとしてたのに。

 でも、双子ちゃんが傷付けられそうになって。その時、二人が殺され掛けた光景がフラッシュバックしちゃって。そうなったらもう、憎悪と憤怒に心を染め上げられて。

 

 ふと。左手が、温かくなって。何事かと思ったら、次の瞬間にトガの視界は……真っ黒に染まりました。

 

 

 

 

 

 







破滅への一歩です。

双子を守るにはどうしたら良いのか・泣いてる子供を助けるにはどうしたら良いのか→殺せ。の図式が、こうして頼皆の中で出来上がってしまった訳です。

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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