待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
被身子が、目を覚ました。それで儂はみっともなく大泣きして、今も尚……涙を流し続けて。泣く資格なんて無いと分かっているのに、それでも被身子が目を覚ました現実に安堵して。どうにもこうにも涙が止まらん。
そして。涙で歪んだ視界に、信じられぬものが映った。
被身子が、呪力を纏っている。その理由は、何となく分かる。今の被身子は、儂の呪力に浸って呪物となっているそうじゃ。そのせいで、被身子の肉体は……。……脳は、呪術師としてのそれに変わってしまったんじゃろう。
じゃから。儂は増々、儂を許せない。許せる筈が無い。被身子を呪ってしまって、その挙げ句が……被身子に悍ましい事を口走らせてしまった。
急速に、心が冷えていく。息が出来ないぐらい、苦しい。そして、目の前の現実が理解出来ない。いや、理解したくない。
儂に呪われ、呪物となった被身子が呪力を練り上げた。こんな現実を信じたくない。見たくない。
あぁ……。もう、駄目じゃ。もう、駄目なんじゃ。儂はもう、被身子の側に居られない。呪術師としても、生きていられない。儂は、呪詛師に堕ちた。愛しい人をただ甘やかし続けて、その結果……呪ってしまった。
もう儂は、未来永劫呪術師を名乗れん。でもこれは、報いじゃ。儂がして来た事への報い。じゃから……。じゃから、もう……!
「……も、う……」
「はい?」
「もう……良い……」
「……円花、ちゃん?」
「もう、良い」
この先の事は、分からん。何も考えとらん。じゃけど、確かな事がひとつ有る。儂はもう、被身子の側に居てはならない。そんな資格は、とっくに失せた。こやつを幸せにしたかった。ずっと一緒に居たかった。じゃけど、もう……。
心が冷える。胸が酷く痛む。息苦しさも増して、体は動きたくないと叫んでいる。それでも、動く。ここに留まっては居られない。昔から、儂はそうじゃった。ひとつの場所に長く留まることは出来なくって。今も何処かで、子供が虐げられているのではないかと考えてしまって。
あぁ……。幸せじゃった。手離したくないぐらいに。いつまでも溺れていたいと思うぐらいに。でも、それは。
―――それは、大きな間違いじゃった。
『忘れるなと、言っただろ』
……そうじゃな。忘れることなど出来やしない。結局儂は何処まで行っても、例え生まれ直したって……。
「……愛してる。きっといつまでも。それだけは、儂の本心じゃから」
「待ちなさい、円花」
「持たん。もう決めたんじゃ。じゃから、ここまでじゃ」
泣くな。そんな資格はない。立て。立って、この場から立ち去れ。もう終わりじゃ。終わりにしなきゃならないんじゃよ。儂は許されない事をした。儂はもう、儂を許さない。
ふらつく体を、どうにか動かす。最後に、被身子をひと目見て。それから……。
「もう、会うことは無い。母、常闇。……被身子を頼む」
「……廻道、何を言って……」
「―――」
儂が何を思ったのか、何をしようとしているのか。母はきっと、真っ先に気付いたじゃろう。そして、被身子も。これで終いじゃ。全部全部、終わりじゃ。呪詛師になってしまった以上、誰かと共に居たいなどとは思わん。これからは独りじゃ。独りで生きる。いやそもそも、生きることすら許されん。
じゃけど。元・呪術師としての責務は果たしたい。するべき事をしたら、その後は……。
「―――、……だーめーでーすーぅーーっっ!!」
「ごはっ!?」
重い動きで立ち上がると、被身子に抱き付かれた挙げ句が押し倒された。頬を膨らませた被身子が儂の両手を抑え付けて、離そうとしない。おい、おい……っ! 何するんじゃっ。そんな事で止められると思うなよ……! もう決めたんじゃ。儂は決めたんじゃっ。最後にするべき事をして、それが済んだら始末を付ける! 誰であろうと、何であろうと、それを邪魔することは絶対に……!!
「何でそこで、突拍子もないこと考えちゃうんですかっ。それは最低ですっ、さいてーっ!」
「……っ、ど……こがじゃっ! これは当たり前の事じゃろ!?」
「どこがどう当たり前なんですか、まったくもぅ。そんな思い詰めた顔して、ふざけたこと口走って……!
流石のトガも怒りますよ!? 激おこです激おこっっ!!」
怒りたければ、怒れば良いじゃろっ。被身子にはその権利が有る。儂に呪われてしまったんじゃから、幾らでも怒れば良い。それで気が済むなら、殺してくれたって構わん……!
「いいですか円花ちゃん。確かにトガは円花ちゃんに呪われたかもしれないですけど、それを怒ったりなんかしません。だって半分は私のせいですし。それに、とっても嬉しいですし!」
「っ、呪われて喜ぶ奴が何処に居るんじゃ阿保!」
「ここに居ます! 円花ちゃんが呪ってくれたから、私は呪力を得ましたっ。それで、呪術師を目指せるようになりました! そんなの嬉しいに決まってるじゃないですか、馬鹿っ!!」
「目指すな、たわけっ! そんなものに、お主までならないでくれ……!」
「確かに呪術界は最低ですし、あんな人が蔓延ってた場所に居たいとは思いませんけど! でも、そんな場所でヨリくんを独りになんてさせませんっ!」
な……っ、にを言っとるんじゃこやつは! ふざけてるのか? ふざけとるんじゃな貴様っ。儂は本気なのに、訳の分からんことを口走るんじゃない! いい加減にしろっ、いつもいつもそうやって儂を振り回して……!
今回ばかりは駄目じゃっ。駄目ったら駄目なんじゃ! これは譲れない。ここは譲れない……!
お主が呪術師を目指すことも、儂が犯した罪も……!!
「一緒に背負わせてって、言ったじゃないですか……! ヨリくんの抱えてるものを、半分くださいって!」
「これは、駄目じゃっ。駄目に決まっとるじゃろ……!!」
「皆を頼れる生き方をしてって、皆代ちゃんは言ってたじゃないですかっ! だから頼皆って名付けて貰ったんじゃないですかぁっ!!」
―――。―――、それ……は……。おい、いったい何を言ってるんじゃ……! いったい、何の話じゃ!? 何でそこで、かつての儂の母の名前を出すんじゃっ。
「そうやって、独りで全部決めようとして……! もっと周りに頼って良いのに、私は頼って欲しいのに……!!」
「……頼れるわけ、無いじゃろうが……」
頼ることなど、出来ん。儂は頼皆じゃぞ。誰にも頼ることなく生きて行けと、そういう意味で名付けられた。糞親父の言い分なぞ聞かんが、それでも結局……儂はこの名の通り生きてしまっている。もっとも、今は廻道円花じゃけども。それでも、名が変わったとしても……儂の生き方はどうにも変わらない。これは、変われない。
もう、独りで生きるしか無いんじゃ。被身子を呪ってまで、共に居たいとは思わん。
「絶対離れませんからっ。ずっと一緒に居るんです! だいたい、トガを呪ったなら最期まで責任取ってくださいっ!!」
「じゃから、その責任を取るために儂は……!」
「そんな責任の取り方は許しませんっ!! ちゃんと私と結婚して、幸せな家庭を築いて……二人でしわくちゃになるまで生きるんですっ! 責任を取るってのはそういうことですよ、馬鹿ぁっ!」
いや、いやいや。待て被身子、待て……っ。そんな責任の取り方が有るかっ。有って堪るか……! 他の事じゃったらそれで良いかもしれん。でも、これはそんな責任の取り方で許される事じゃないっ!!
「……廻道。渡我先輩の言う通りだ。離れることは、ただの逃げだ」
「……ぅ、るさい……! お主は黙っとれ、これは儂と被身子の……!」
「黙る理由は何処にも無い。お前は人の言う事を聞かないから、だったら俺もお前の言う事を聞かない」
「は? 子供か貴様っ!?」
「子供だ。まだ。そしてそれは、廻道もだ」
……ぐぬぬっ。まぁそうじゃけど、そうなんじゃけども!
「これ以上円花がポンコツする前にお母さんからも言っておくんだけど」
「母までなんじゃっ!?」
「……はぁ……、いいから落ち着きなさい。被身子ちゃん、ちょっと黙らせといて」
「はぁい!」
「んむぐっ……!?」
手のひらで、口を塞がれたわ。何なんじゃもぅ。どいつもこいつも、儂が何をしてしまったのかまるで理解しとらんではないかっ。
儂は、儂は許されない事をしたんじゃ。呪術師として、最低な事をした。結果、もう儂は呪詛師としか名乗れん。愛しい人を呪っておいて、呪術師とはとても名乗れん。
何より。儂は許せない。儂を許すことなど、出来やしない。じゃから離れるんじゃ。すべき事をし終えたら、儂は死ぬ。もう何もかも、終わりにしなければならんのじゃ……!
「お母さん言ったわよね? この件で円花に決定権は無いわ。全部被身子ちゃんが決めることだって」
「ん、ぐぐ……。むぅう……!」
喋れん。まったく喋れん。被身子が、思いっ切り儂の口を塞いでおる。そんなに力強く手のひらを当てるんじゃない、たわけ。こんな事の為に呪力強化まで使うな……! 止めてくれ、そんな姿を見せないでくれ。嫌なんじゃ、お主までもが呪術界にやって来るのは。お主だけは、こんな世界に居て欲しくないのに……っ。
補助監督なら、まだ良い。良くはないが、それでもまだ良いとは思える。……じゃけども。呪術師にまでなってしまったら、それこそ被身子の命が脅かされてしまう。呪霊によって、或いは呪詛師によって。
じゃから、じゃからっ。じゃから儂は反対してるんじゃ……! こればっかりは譲れない。もう今度こそ、譲らないっ。
「円花の気持ちは分かるつもり。でもね、だからって被身子ちゃんから離れるのは短絡過ぎなのよ。責任を取るなら、もっと別の形で責任を取りなさい」
「そうですよぉっ。輪廻ちゃん、もっと言ってあげてください! ついでに常闇くんも!」
「番いの凶星は、暗黒の中でも燦然と……」
「今そういうのは良いです」
「……廻道は、渡我先輩から離れたら駄目だ」
「ですよねっっ! ほら円花ちゃんっ、常闇くんもこう言ってるのです……!」
「んぐぅ……。んぐ、むぐぐ……っ」
こ、の……っ。反論させろっ。好き勝手言うんじゃない……! 儂は間違えた。儂は、被身子を呪ってしまった! なのに、都合良く被身子の側になんて居られないじゃろっ。なのに、なのに何で……! 何で……っ!
「ほんっとにもう。今まで被身子ちゃんの何を見て来たの? とっくに知ってるでしょ、恋する乙女と愛の力が合わさると……」
「無敵! なのですっ!!」
っっ。もぅ、離せ……! 離してくれ……! もう、もう止さぬか。そんな風に、儂を止めようとしないでくれ。いっそ、突き離してくれ。そうしてくれた方が、ずっと楽なのに……! また独りに戻った方が、儂は……っ!!
共に居て良い筈が無い。そんな事は、絶対に許されないんじゃ。なのに、なのに被身子は……、母も常闇も、被身子から離れるなと儂に言う。
「ずっと一緒に居てくれなきゃ、ヤです。離れたりしたら、今度はトガが円花ちゃんを呪うから。お願いだから、側に居てください……!」
―――っ。っっ! 何でじゃ、何でなんじゃ……! 良い、のか……?
儂は、儂は……! このまま被身子の側に居て、それで良いのか……っ? 許されない事なのに……! 儂はまた独りで生きると、決めたばかりなのに……っっ!!
「もぅ……。頑固で口下手で、意地っ張りで。素直になれないなら、私が言ってあげるのです。
……私から、離れたくないんですよね?」
「っっ!!」
でも、でも……! じゃって……!! じゃってぇ……!!
「ほんっとに、意地っ張りなんですから……。呪われたって、間違えたって、私は離れたりしないの。ヨリくんの全部を、私だけは受け止めてあげるから。だって……」
「―――だって。ヨリくんは今も昔もこれからも、トガを全部受け止めてくれるんですから」
毎日更新が辛いので毎日更新は今日で終わりにします!!! 本当にごめんなさい!!! もう無理です!!! ほんっっと無理です!!! 心の限界が来ました!!! 一ヶ月はお休みします!!!!!!
溜まり溜まった感想返信はさせていただきます!!!!!
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ