待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「二人で、ちゃんと話し合いましょう? ね?」
「……話し合うこと、なんて無いじゃろ……っ」
被身子が離してくれない。儂を抱き締めたまま寝転んで、動こうとすれば直ぐに腕の力を強めて。此処に居ることはもう許されないのに、どうして離してくれないのか。もう良いじゃろ。もう、終わりにしてくれ。でないと、それこそどうにかしてしまう。
儂は呪詛師じゃ。人に仇なす存在でしかない。……そんな輩を、側に置こうとしないでくれ。いい加減、分かってくれ……!
「駄目です。ちゃんと円花ちゃんの気持ちを教えてください。でないと、いつまでもこのままですよぉ」
「……腹が減るじゃろ」
「その時は二人で餓死しましょう!」
「何言ってるんですか渡我先輩……。廻道、幾ら廻道の頼みでも……俺は渡我先輩の面倒は見れない。正直無理だ」
「……別に、そんな事は無いじゃろ……」
こやつが面倒見の良い奴であることは、知っている。中学時代は散々世話になったからの。じゃからこそ、常闇ならばと思い儂は被身子を頼もうと思った。何も、常に一緒に居ろと言ってるわけじゃない。ただ、儂が居なくなった後で被身子に話し掛けられる奴なんて常闇ぐらいしか居ないと思っただけじゃ。被身子は被身子で、独りになったら何をするか分からん。じゃから、それを止めてくれるだけで良い。
……例えば。儂を探しに外へ飛び出すとか、儂に会おうと呪霊が居そうな場所に向かうとか。そういうのを、止めてくれるだけで良いんじゃ。儂を止めようとするぐらいなら、被身子を止めてくれ。そしたら儂は、独りになれるんじゃから。
「私も、常闇くんに面倒を見られるなんてヤです。輪廻ちゃんやおじさんならまだしも、何で常闇くんなんですかっ」
「……その二人は、儂が言わずとも被身子の面倒を見るじゃろ。お主の……育て親なんじゃから」
「それでもヤです。常闇くんはNGですっ!」
「……もう、離してくれ。頼むから」
「いーやーでーすーぅー!」
「んぐむっ」
ぐぬぬ。駄目じゃ、どうしても被身子が離れてくれない。呪力強化まで使って、儂を抱き締める始末じゃ。
……こうなったら、話し合いに応じるしかない……のか? じゃけど、話し合う必要なんて何処にも無いじゃろ。儂はもう、呪詛師じゃ。呪詛師の言葉など、聞くべきではない。そうこうしている内に儂が再び被身子を呪う……とか考えぬのかこやつは。そういう危険じゃって有るんじゃぞ。いっそ呪詛師を理由に嫌ってくれたなら、儂は楽で居られるのに。
「もうっ、分からず屋! トガは円花ちゃんに呪われたって、怒ったり嫌ったりなんかしないのっ。むしろ、嬉しいなぁ……って思うぐらいで!」
「いや渡我先輩、呪われたのにその発言はどうかと……」
「常闇くんだって、トガと同じ立場になったら同じ事を言うのですっ!」
「いやそれは……。……、まぁ……廻道は引き留めるでしょうけど……」
「ですよねっ? 引き留めますよねっ!」
んん、んんぐ……っ。く、苦しい。顔が胸に埋もれて息がし辛いんじゃっ。こんな時に何をしてるんじゃお主は! そんなに抱き締められても、困る。儂はもう、お主の気持ちに応えられない。お主の願いを聞くことじゃって、出来やしないんじゃ。
離してくれ。独りにさせてくれ。でないと、死にたくなる。儂は儂を、殺してしまいたい。どうして儂は、こんなにも愛してくれる人を呪ってしまったのか。許せない。許すことは出来ない。廻道円花は、加茂頼皆は、呪詛師として死んでしまえば良い。
「廻道。大事な人を呪って自罰的になるのは分かるが、渡我先輩が望まないことをするのは……絶対違う」
「ぅ、るさい……っ。被身子を、呪ったんじゃぞ……! 儂は呪ってしまったんじゃぞ……!!」
「だったら尚更、廻道は渡我先輩の意思に従うべきだ。罰するのは先輩で、自罰なんて……ただの逃げだ」
「……っ」
ぬ、ぐ……。それは、それは……! 分かっ、……とるけど……っ。でも、じゃけど! そうでもしないと気が済まん……! 被身子を呪って、自責も自罰もしないなんて無理じゃっ。
誰より愛しい人を、何より大切な人を呪って……! 被身子から罰を受けるだけじゃ、到底足りない。そんなんじゃ、足りないんじゃっ。この過ちを、間違いを、儂は簡単に済ませたいとは思わんのじゃ……!
「どうしても自罰したいなら、まずは渡我先輩の望みを聞いてからじゃないのか? 己を責めるのは、その後にするべきだ」
「そうですよぉ! 私から離れるなんて自虐は、私の目が黒いうちはさせないのです! そんな責任の取り方は、許さないからっ!」
「……ぐぬぬ……」
……常闇や被身子の言うことは、一理有る……か……? いや、無い。無い無い。無いったら、無い! いつものように流される訳にはいかんっ。そんな真似は、もう許されんのじゃ……!
「トガは、絶対円花ちゃんから離れませんっ。人生全部、円花ちゃんと一緒に居るの! 呪われたって、それは変わらないんですぅ!」
「じゃ、じゃけど被身子……! 儂は……っ!」
「そんなに罰が欲しいなら、トガが用意しますっ。それで我慢してください!」
「じゃ、じゃから被身子……! 儂はもぅ……!」
「ヨリくんに選ぶ権利なんてあげませんっ!」
「んぐ……っ」
何なんじゃもぅ……。何で儂は、いつもいつも思った通りに動くことを許されないのか。思えば昔から、儂の意見が通ったことは殆ど無いように思える。それは被身子が、周りに居る子供達が、意地でも譲ろうとしないからじゃ。言い換えるなら、意思が強過ぎてろくに太刀打ち出来ん。どいつもこいつも、頑固者ばかりじゃ。
それに儂は、昔からどうにも被身子には流されてしまうというか。……そうされるのが好ましいなんて、どうにかしとる。でも、じゃって……、じゃって……。
「そりゃ、誰かに頼れなくなるのも分かるのです。だってヨリくんは、そういう家で産まれましたから。全部見た訳じゃないですけど、あんな家に産まれたら……こうなっちゃうのも仕方ないですよねぇ……」
「……被身子……?」
「でも。だからこそ、忘れちゃ駄目なのです。皆代ちゃんは、皆に頼れるようになって欲しいって願ってたんですよ?」
「……何を、言って……」
「ヨリくんの産まれた時の話です。まだ赤ちゃんだった頃の」
「……は……?」
いや、何を言っとるんじゃお主。何でそんな訳の分からんことを口走るのか。いつも突拍子もない事を宣うのが被身子じゃけども、今回はいつも以上に意味不明じゃ。何でそんな、まるで全部見てきたかのような顔をして語るのか。知ってると言わんばかりの表情で、淡々と話し掛けるのか。
「それに。辛かったり苦しかったりしたら、誰かに頼っても良いって言ってたのです。前のお母さんも大好きなら、ちゃんとそうしなきゃ良くないです」
「……渡我先輩、いったい何の話を……?」
「んーー……、まぁトガもよく分かってないんですけど。でも、起きるまでの間……ヨリくんの記憶を体験してました。産まれてから八歳ぐらいまでの記憶です。
多分これは、呪われた影響……ですかねぇ」
……は? 儂の記憶を……見た……? 待て、待て待て。そんな馬鹿げた事が有るのか……? そんな事は流石に有り得んじゃろ。もしそれが事実ならば、被身子は今後も儂の記憶を見たりするのか……?
それは、うぅむ……。いや別に、過去を見られることに抵抗は無い。被身子になら、見られても良いと思う。見られて恥ずかしいとは思わん。ただのぅ、儂の記憶を今後見続けるのであれば気掛かりじゃ。じゃって、儂の記憶は血生臭いものばかりじゃろうから。それを何年分も見るとなると、悪影響でしかないじゃろう。
「なるほど……。だから呪力を使えるようになった……と?」
「いえ。多分そっちは、トガが呪物になったからですね。多分今の私は、ヨリくんの呪力に浸った呪物みたいなものなので。
あ、呪物っていうのは所謂蠱毒に漬け込んだ物体のことで、確か生成方法は十月十日……」
「……その。とにかく、廻道の呪力で呪物……というのになってしまった……と?」
「はい。結果、脳が変異して……呪術師と同じ脳の形になった……っていうのが私の予想です。詳しいことは病院で検査でもしてみれば分かったりするかもですねぇ……」
……。……あぁ……。やっぱり、駄目じゃ。とても許されることじゃない。儂は儂自身を許せない。被身子を呪って、呪物に変えてしまった……じゃと? 呪術師でありながら、どうしてこうなる可能性に思い至らなかった? こやつに血を与えて続けて、愛だの恋だのに溺れてしまうなど……!
駄目じゃ、駄目じゃ駄目じゃ……っ。許せない、許してなるものか。すべき事をしたら、儂は……!!
「もうっ。そういう顔はして欲しくないのっ!」
「んぎ……っ! っ、ひみ……んんぐ……っ!」
こ、こら……! そんなに強く抱き締めるなっ。苦しいし、背骨が折れそうじゃっ。いや、いっそそのまま折ってくれでもしてくれた方が良いか……。それで死ねるのなら、被身子が今ここで死ねと言うのなら、儂は……。
「円花ちゃんが自分を許せないって言うならっ、トガを鍛えて呪術師にしてくださいっ! それで一緒に呪術師をやりましょうっ!」
「ぬ、ぐ……っ。しかし、ひみこ……!」
「しかしも何も無いんですぅ! それと、これからはもっと周りを頼ってくださいっ。許されたいなら、それで許してあげるのです!」
「じゃけど……っ!」
被身子が呪術師になるよう、鍛える……? それは、それは駄目じゃ。被身子には、呪術界に居て欲しくない。こんな場所には、儂だけが居れば良い。確かに被身子ならば、或いは呪術師になれるのかもしれん。儂の記憶を見たのなら、知識として色々と知っているじゃろう。
しかし、じゃからって。今、急に呪力を扱えるようになったからって。それだけの理由で呪術師を目指すなんて、馬鹿げてるとしか思えん。
被身子が望むなら、どんな罰だって儂は受ける。でも、被身子が呪術師になるなんて……。それだけは、嫌じゃ。絶対に嫌なんじゃっ。
「……渡我先輩、それは反対です。今から廻道と共に呪術師をやるのは、危険過ぎる。それを廻道が望むわけが無いって、分かってるでしょう?」
「じゃあ今度は円花ちゃんをトガが呪います。そしたらお相子なのです」
「いや、それはそれでどうかと思いますが……」
「常闇くんは何も分かってないのです。何年円花ちゃんのお友達なんですかっ。並大抵の罰で、ヨリくんが納得すると思うんですかっ!?」
「いや、それは……。……思いませんけど……」
「ですよねっ。だったらこれを機に、トガは円花ちゃんが頼れる呪術師になるのです! その為に、ヨリくんに色々教えてもらいますっ。それを罰としましょうっ!」
……やじゃ。被身子は呪術師になりたいと口走っているが、儂は反対じゃ。別に呪力を得たからと言って、呪術師になる必要はない。それこそ、なるとするならば儂の知る窓で良いじゃろ。今の時代に合わせた窓ではなくて、もっと昔から……それこそ平安時代に在った窓として活動スレばいい。何なら、補助監督としての役割を全うして貰いたい。と……思ってしまう。
でも、じゃけど。心の底から嫌じゃけど、今の儂に……選択する権利はない。儂が犯した罪は、被身子が裁く。でなければ、不公平じゃ。そうでなければ、罰にならん。頭ではそう分かっとる。でも、でもっ。それでも、嫌なんじゃと思ってしまう……!
「というわけで、トガを呪術師にしてくださいっ。一緒にお仕事しましょう!」
「……んん……」
どう、すれば良い……? このまま、ただ黙って被身子を呪術師にするのか……? 嫌じゃ、絶対に嫌じゃ。そんな事は許されない。許したくない。儂が身を置く世界に、これ以上被身子を近付けたくないんじゃ。補助監督になることは許してしまったけれども、被身子を誰よりもしんじているけれども。信頼や呪力だけでやっていける程、呪術界は甘くない。
……ぐすっ。駄目じゃ。駄目なんじゃ。それだけは、勘弁してくれ。もしお主に何か有ったら。呪霊に殺されでもしてしまったら。それこそ、儂は堪えられない。お主の命を危険に晒すような真似は、これ以上したくないんじゃっ。
何で、分かってくれない? どうして被身子は、そうも簡単に呪術界に身を投じようとするんじゃ……!
「……どうする? 渡我先輩は、こう言ってるが……」
「……うぅ、うぅう……っ」
嫌じゃ。嫌じゃ、嫌じゃ……! 被身子が呪術師になるなんて、絶対に嫌じゃ。幾ら罰でも、償わなくちゃならなくても、これだけは駄目じゃっ。呪術師なんじゃぞっ!? 今から呪術師を目指すなんて無茶苦茶は、とても見過ごせない……!!
「……お願い。いつでもどこでも、一緒に居たいの。ただ待ってるだけなんて、トガには無理です。絶対、無理なんです……!」
「……っ、っっ……!!」
ぐすっ。ぐすんぐすん。何なんじゃ、もぅ……! どうしていつもこうなんじゃっ。おつもいつも、儂が譲る羽目になってしまうんじゃ……!
被身子の願いは、望みは。儂に出来ることならば何じゃって叶えてやりたい。そう思ってるのは事実じゃ。これまで、そうして来た。何も考えず、ただ被身子の笑顔が見たいからって。でも、そんな考えで居たから被身子を呪った。呪ってしまったんじゃ。
なら、儂は。これからの、儂は……っ。
―――っ、っっ!!
「ぐす……っ。よ、……年じゃ……」
「……、はい」
「四年、四年……儂が、鍛える……。本気で、儂の持ってるものを……全部教える。呪術師を名乗るのは、それが終わってからじゃっ」
「……はい」
「単独任務は、無しじゃっ。被身子が向かう任務は、全部儂が決める……! 全部、儂が同行するっ。儂の任務に付いてくるのは、補助監督としてじゃ……!!
帳の内に入るのは、絶対に許さん……!! 帳が無くとも、近付くことは許さんっっ」
「はい」
「それが、それが守れるなら……! そう、儂と縛りを結ぶなら……!! 儂が、教えるから……!! 儂が、お主を呪術師に育てるから……!!」
じゃから。じゃから……っ。どうか、どうか……許してくれ……! このまま、お主の側に居ることを。被身子の側で、被身子を愛し続けることを、許してくれ……っ。
でなければ、儂は……っ。儂はもう、生きて行けないんじゃから……!!
ってなわけで、本気でトガちゃん呪術師√です。ただし四年を要するので、本編中に呪術師として動くことはないです。
そして今度こそ、しばらく更新停止します。が、更新停止してる間は色々書き足したり書き直したりすると思います。
それによって変わる部分が出てくると思いますが、大筋は変えないようにしますので。ただし産土神信仰編については目茶苦茶改変入ると思います。気力があれば、ですけども。本来書きたかったネタを一切書けなかったんですよね、産土神信仰編。毎日更新はやっぱり無茶な行為だと思うんですよ僕ぁ。
と、言うわけで。明日から更新は有ったり無かったりだと思います。お待たせしてしまうことになりますが、よろしければ今後もお付き合いいただけたら幸いです。
三人称による補完は要りますか?
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欲しい
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要らん
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良いから一人称で突っ走れ