待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
「……ぐすん。良いか? お主は四年間、儂の下で修行すること。一人前になったとしても、任務は儂が選んで儂が同行する。単独任務は決して許さん。それと、儂の任務に同行するのは補助監督としてじゃ。
この条件が呑めるのなら、儂はお主を本気で鍛える」
儂は被身子を呪ってしまった。考え無しに血を与え続けて、呪物に変えてしまった。そのせいで被身子は呪力を認識し、扱えるようになってしまったんじゃ。しかもどういう訳か、儂の記憶を夢として見るそうじゃ。
記憶については、別に見られても構わん。それで困るような事は無いじゃろうから。……じゃけど。じゃけど。
呪力を得てしまった被身子が呪術師を目指すことは、どうにも反対じゃ。反対なのに、儂は被身子が呪術師になれるよう、鍛えようとしている。もう儂は被身子の側に居るべきではない。
そうと分かっていても、頭では今直ぐ距離を置くべきと思っていても、どうしてかこの体は動いてくれない。被身子に抱き締められたまま、微塵も動けない。
……いや。分かっとる。本当は、分かってるんじゃ。
儂は……。儂は、どうしても被身子から離れたくない。別れたくない。ずっとずっと、一生側に居たい。そう思ってるから、その気持ちを断ち切れないから、動き出すことが出来ないんじゃ。
何とまぁ、情けない話じゃ。愛だの恋だので、まともな判断が出来ておらん。譲ってはならんことを、譲ろうとしてしまっている。こればかりはどうにかした方が良い。でも、じゃけど。どうしても、被身子が愛しいと思ってしまう。
どうしてこうなってしまったんじゃか。責任取れ、阿保。ぐすん。
「……はい、分かりました。それで縛りを結びましょう」
儂を抱き締める被身子が、嬉しそうにそう言った。こうも抱き締められていたら顔は見えんけど、きっと笑っとる。
「……やじゃ」
「もぅ……。わがままなのです」
「やなものはやじゃっ」
結局。被身子を徒に困らせてしまっている。儂の方から縛りを持ち掛けておいて、いざ縛りを結ぶとなると……それは違うと思ってしまう。わがまま、何じゃろうな。でも、でも。被身子が呪術師になるのは嫌じゃ。それに、縛りを結ぶなんて絶対にしたくない。
儂がすべき事は、分かっとる。それから目を背けることは許されない。このまま被身子の側に居続けるなんて、絶対に許せない。許されない……! じゃけど、じゃけどぉ……!
「ぐすっ。……儂は、どうしたら良いんじゃ……?」
もう、何をどうしたら良いのか分からん。理性は今直ぐ被身子から離れろと叫んでる。じゃけど心は、被身子から離れたくないと言って譲らない。体も動いてくれない。いっそ誰かに、……被身子に、決めて欲しいぐらいじゃ。被身子が望むことなら、儂は何でもするから。もう呪術師も何もかも捨てて、お主に尽くすから。じゃからいっそ、何もかも忘れさせてくれ。そしたら、儂は……。
「どうしたいかは、ヨリくんが決めなきゃ駄目ですよぉ」
「……やじゃ。もう、もぅ……何も決めたくない……! 何も考えずにお主の側に居たい……! 呪術師も、ひいろおも、儂はもう知らん……!!」
「……直ぐそうやってヤケになるんですから。メっ、それじゃ駄目なの」
「んぐっ」
……苦しい。そんなに強く抱き締められても、今は困る。嫌な気分と嬉しい気持ちが混ざり合って、息苦しい。心苦しい。
もう、離れたい。まだ、離れたくない。
あぁ……、もう……っ。どうにかしとるっ。何なんじゃ儂はっ。被身子を呪っておきながら、これからどうするかを決めることも出来ず……! ただ、被身子の腕の中で泣き喚いて……っ!
……最低じゃ。まっこと、有り得ん。何をしてるんじゃ儂は。情けない、みっともない!
「トガの望みは呪術師にして貰うことですけど、でもそれじゃ……ヨリくんは罰として納得しませんよね」
「……ぐすっ。ぐすぐす」
「んふふ。泣いてるヨリくんもカァイイ……」
ぐすん。何を言っとるんじゃこやつ。今はそういう事を言っとる場合じゃなかろうに。儂はこれからどうするべきか、何も思い浮かばないのに。
「……じゃあ、呪術師は辞めないでください。やっちゃった事は仕方ないので、キチッと反省して、また同じ事をしないようにしましょう」
「……ぐすんぐすん。分かっ……た……」
「それと、トガから離れちゃ駄目ですからね。今更放り出すなんて真似は許さないのです」
「……放り出す、ものか……っ。儂は、儂は……っ!」
「えへへぇ。なんか、嬉しいなぁ」
……何が嬉しいんじゃ、まったく。儂に呪われて、何でそんな風に喜べるんじゃ。何を考えてるのかさっぱり分からん。どうして被身子は、こうも意味不明な事ばかりを口走るのか。そういう所も、今では愛おしいと思うのじゃけれど。
ぐすん。駄目じゃ、涙が止まらん。まだまだ泣き喚きたい。堪らえようにも堪えられない。してはならぬ事をしてしまったのは儂なのに、被身子を呪ってしまったのは自業自得なのに。なのに、なのに……っ。
何で儂は、まだ被身子の側に居られると喜んでしまうのか……!
「……結局の所、二人はどうするんですか?」
「あ、常闇くん。まだ居たんですか?」
……そう言えば、居たの。うむ、居たのぅ……。すっかり眼中に無かった。と言うか今は、常闇の相手をしている場合ではない。したいとも思わん。それに今は、放っておいて欲しい。大泣きしてるところを見られるのは、幾ら友じゃとしてもじゃな……。こう、気恥ずかしいじゃろうが。
ぐすぐすっ。駄目じゃ、止まらん。全然止まらん。
「居ますよ……。二人を、頼まれてますから」
「あー、そうでしたっけ。でもぶっちゃけこれは、夫婦の問題なんですけど……」
「俺の問題でもあります。廻道の友ですから」
「……そうですね。円花ちゃんが馬鹿な真似してたら、放っておけませんよね」
「はい。今の廻道を放っておくなんて、したくない。
……それで、渡我先輩」
「んー……。どうするって聞かれても、私は有耶無耶にしちゃおっかなって」
……は?
「それは……、良くないのでは……?」
「私を呪っちゃったって事実に、円花ちゃんが堪えれる筈がないので。変に態度を変えられても困りますし、有耶無耶にしちゃうのが手っ取り早いかなーって」
「何を、言ってる……んじゃ……っ!」
有耶無耶にする、じゃと……? そんなの、許される筈が無い。儂は被身子を呪った。その事実から目を背けるなど、断じて許されない。儂は、儂を許さない……!
駄目じゃ、駄目じゃ駄目じゃ。やはり、儂が動かないと。動かないと、いかんのに……っ!
「だってヤですもん。これからも変わらず一緒に居るとして、ヨリくんに変な気を遣われたら我慢ならないのです。私はいつも通り接して欲しいの」
「出来る筈、無かろう……!?」
「してくんなきゃヤです。絶対、ヤ。トガは何にも気にしてないんですから、円花ちゃんも何も気にしなくて良いのです」
「……っっ、訳の分からん事を……!!」
どうして、被身子はこうなのか。いつじゃって自分勝手にして、儂の意思なんて簡単に蔑ろにして……! いつまでもいつまでも、そんな好き勝手が許されると思うなっ。いい加減、そろそろっ、お主は自重と言うものをじゃな……!!
「だからこの話は終わりにしましょうっ。トガは何も気にしませんから、ヨリくんも何も気にしない。それで良いんです!」
「良い訳あるかっ。儂は、儂は呪ったんじゃぞ……! お主を、被身子を呪って……!」
「んんーー、もぅっ。ヨリくんは分からず屋なのです……!」
「どっちがじゃ……!?」
分からず屋なのは、被身子の方じゃっ。そんな簡単に有耶無耶にして良い事じゃない。これからどうするべきか、しっかり考えなきゃ駄目なんじゃ……! 被身子を呪ってしまった儂が、このまま何もしない訳にはいかんじゃろうが……っ!
もう、離してくれっ。儂はもう動くから。今度こそ、動くから。被身子の言葉に甘えて、このまま動かずに居るなんて許されないっ。
「ん、ぐ……っ。被身子……っ!!」
「だーめーでーすーぅー。明日までこのままトガに抱き締められててくださいっ。それでも分からないなら、今夜はたっぷり分からせてやるのです!」
「な、何をじゃ……っ!?」
「円花ちゃんが、ヨリくんがトガ無しには生きられないって事をですっ!」
いや、そんなのはいちいち分からせなくて良い。言われんでも、教えられんでも分かっとる。じゃけど、それでも。儂はもう被身子の側に居るわけには……!
「ほんっっと、頑固なんですから。意地っ張りで、短絡的で……」
「……ぅ、るさい……っ。それは、お主じゃってそうじゃろうが……!」
「そりゃあそうですよ。そうでなきゃヨリくんと結婚するなんて無理ですからっ」
いや、それは……。流石にそんな事は無いと思いたいが。と言うかじゃな、今はそんな事はどうでも良いんじゃ。本題から話が逸れとる。今すべきは、これから儂等がどうするか、どうしていくべきかじゃ。それを、決めなければならん。被身子がどう言おうが、何を思って居ようが、儂は被身子から離れるべきじゃ。そうしなければ許せない。そうしなければ、赦されない。儂がしてしまったことは決して、決して……っ!!
「ここでヨリくんに離れられたら、トガはもう生きていけません。
「……別に、儂の代わりぐらい……」
「いーまーせーんーっ! 私にはヨリくんだけなのっ!!」
「んぐっ」
く、苦しい……っ。そんな全力で抱き締めたって駄目じゃ……! 駄目じゃぞっ。儂はそんな事で流されたりなんかしないんじゃっ!
「と言うか、話をぐるぐるさせないでください。呪術師は辞めない、反省する、トガから離れない。これで話は終わりなのですっ!」
「ぐるぐるなんてしとらんじゃろ……っ!?」
「……いや、廻道。話が回ってる。渡我先輩の提案に頷いたなら、その通りにするべきじゃないか?」
「んんぐ……。ぬぐぐ……っ」
うるさい、常闇の阿呆。じゃって、仕方ないじゃろ。被身子の提案に頷いたとしても、納得は出来ないんじゃから。儂に選択権が無いのは分かっとる。被身子の望みを、跳ね除けることは出来ない。こやつを呪ったのは儂じゃ。その責任は取らなければならない。
じゃけど、じゃけど……! 儂は儂を許せない……!
「ほんっと、呆れるぐらい頑固なんですから。そういうとこも、カァイイですけどっ」
「……ぐすん。嫌いじゃ。もぅ嫌いじゃっ、被身子なんか……! 儂なんか、放っといてくれ……っ!」
「駄目。そんなこと言ったって、絶対離さないの。私とヨリくんは、ずぅーーっと一緒に居るの」
「っ、何でじゃ……っ!!」
「愛してるからですっ。ぎゅぅう〜〜っっ!!」
ん、ぐぐぐ……っ! おいっ、おい被身子……っ。いい加減に離してくれ……! いつまで儂を抱き締めてるつもりじゃ貴様っ。そんなに抱き締めるのは、もう止さぬか。儂はもう、お主にこうされる資格すら……。
ぐす……っ。ぐすんぐすん。もぅやじゃ。何で、どうしてこうなってしまったんじゃ? 儂は被身子と一緒に居られればそれで良かったのに。約束通りに結婚して、二人で幸せになろうと考えていたのに。なのにそれを、儂が台無しにしてしまって。こんなにも愛しい人を、呪ってしまって……!!
「……っはぁ……。んん、ヨリくん……♡ ヨリくん♡」
……。いや、何を堪能しとるんじゃ貴様。そんな甘えた声を出したって、儂の考えは変わったりしないんじゃぞ。って、こら。こら、被身子っ。そこに常闇が居るのに、脱がそうとするな……! 衣服の下に手を滑り込ませるなっ。
「常闇くんは出てってください。八年ぶりで、もう我慢出来ないので!!」
「……は? 渡我先輩……?」
「良いから部屋を出て……。あー、もぅ良いです。こうなったら、とことん見せ付けちゃいましょう……!!」
「ふあ……っ!? ま、待て被身子っ!!」
何をしとるんじゃ貴様っっ。人前で何処を触ってるんじゃへんたいっ! ちょっ、こら……! ま、待て……っっ!!
「んふふ……。いただきまぁす……♡」
い、いかん……っ。これはいかんぞ……!? 待て、待て待て……っ! 何で急にそんな面になるんじゃっ。何を思って発情したんじゃ貴様ぁ……!! 駄目じゃからな!? 今、そういう事をしてしまうのは違うじゃろっ。まだ何も決まっとらん。何も、何も解決しとらんのに……!!
「と、常闇っっ! 被身子を止め、んん……っ。ぁっ、こら……!!」
「……はぁ……。終わったら呼んでくれ……」
「おい!! 逃げるな貴様ぁっっ!!」
待て待てっ。逃げるな……! 呆れた顔をして部屋から出て行くな……!!
「えへへぇ……。ヨリくん、ヨリくん……♡」
……あぁ、もぅ……。こうなってしまったら、もう駄目じゃ。こうなった被身子を止める術を、儂は知らん。無理矢理突き飛ばして、儂から引き剥がすことは出来なくもないが……。んんむ……。今の被身子を突き離すのは、それはそれで憚られると言うか……。
「一晩中、可愛がってあげますね……♡ 八年分、たーーっぷり堪能するのです♡」
……。……へんたい。阿呆、たわけ。被身子のえっち。大事な話をしてる最中なのに、大事は事を決めなければならんのに。何でお主は、こうも儂を求めるのか。肉欲に溺れるのも大概にしてくれ。毎晩毎晩襲われる儂の身になってくれ。まっこと、こやつの欲望に付き合うのは骨が折れる。まさかこんな時まで、こうも求めて来るとは。
すっかりその気になっている被身子が、遠慮も躊躇いもなしに噛み付いてきた。その痛みで、喉が震える。思わずみっともない声を出してしまって、それが余計に被身子を興奮させて。
これではもう、話すどころではない。被身子が満足するまで、好き勝手させるしかないじゃろう。
……この後。儂は、それはもう目茶苦茶にされた。しつこいぐらいに血を求められて、やり過ぎなぐらいに体を求められて。熱に浮かされた被身子が正気を取り戻したのは、朝日が登ってからの話じゃ。
本編ストックは十話程ありますので、十日間程は毎日更新になるかと思います。多分恐らくきっと。
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ