待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!! 作:一人称苦手ぞ。
幾ら自責しても、目の前の現実は変わらない。決して変わることなく、そこに在り続ける。それが堪らなく不愉快で、死にたくなる程に申し訳ないと思う。じゃけど、儂に呪われた被身子は怒ることも嘆くこともなくて。むしろ、この上なく嬉しそうにしてるぐらいじゃ。まっこと、理解出来ん。生きた呪物に成り果てて、どうしてそんなにも喜べるのか。
そういうところじゃぞ、お主。そういうところが、意味不明なんじゃ。
……なんて。そんな風に思うことも、儂には許されないのじゃけれど。
儂は、儂は被身子を呪った。呪ってしまった。愛しくて堪らない存在を、この手で呪ってしまったんじゃ。その癖、儂は被身子から離れたくないと思ってしまっている。まったく度し難い。我ながら、どうしようもない奴じゃ。今更独りになることを、選べなくなってしまったなんて。
良い、んじゃろうか……? これで、良いのか……? 今も変わらず被身子の隣に居て、被身子と……一緒に過ごして……。
「……もぅ、またぐるぐる考えて。答えならとっくに出したじゃないですかっ」
「んぎゅっ」
儂の先を歩いていた被身子に、頬を抓られた。頬を膨らませて睨んで来るものじゃから、つい目を逸らしてしまう。被身子を見てると、今はどうしても申し訳なく思ってしまう。こんな態度を取ることが望まれてないと分かっていても、……つい。どうにか気持ちを切り替えなければと被身子に失礼じゃと分かっていても、儂はまだ目の前の現実を受け止め切れてないんじゃ。
「そんな調子だから、輪廻ちゃんとおじさんは円花ちゃんを休学にしちゃったのです」
「ぅぐ……」
年末。冬休みの最中では有るんじゃけど、儂は休学する事になった。これに伴い、呪術師との活動もその一切が禁じられた。呪具作成も任務も、何もかも。
こうなってしまったのは、母と父の意向じゃ。儂が被身子の腕の中で泣き喚いてる間に、あれやこれやと雄英教師達と話し合って取り決めた……らしい。総監部とも、一悶着あったとか。よくもまぁ、こんな要望が通ったものじゃ。
……とにかく。儂は暫く、休学じゃ。取り敢えず提示された期間は、三ヶ月。あと一週間もしない内に年が明けるわけじゃから、三学期は丸々休むことになってしまうじゃろう。被身子は、根津校長の計らいで来年度まで公欠扱いになる……とかなんとか。被身子と校長のやり取りを隣で聞いていたけれど、全然儂の頭には入って来なかった。
それから。どうやら儂は、雄英から飛び出す際に腕輪を呪力で壊していたようじゃ。これは、まったく覚えとらん。後で公安やら警察やらが来て雄英は少し騒々しくなったようじゃけど、それも根津校長じゃったり教師達が対応したとか……なんとか。ながんが感電しなかったことは、良かったと思う。
今回の件。儂の身勝手で、多くの者に迷惑を掛けてしまった。周囲からの信頼も、失ったじゃろうな。大人からの信頼なんぞは要らんけど、子供達にまで何か迷惑が掛かったんじゃないかと思うと……死にたくなる。
……緑谷が、心配じゃ。儂が休学となり、呪術師としての活動を禁じられた今、あやつは儂の抜けた穴を埋める羽目になってしまう。きっとこれから、
せめて、せめて呪術師としての活動を両親に許して貰わなければ。そうしなければ、緑谷がどうなってしまうか分からん。
「おかえり円花、被身子ちゃん」
儂と被身子は、家に帰って来た。家の門の前で、父が待っていた。何で薄着で震えながら仁王立ちしとるんじゃこやつ。相変わらず、頭の上に眼鏡を乗っけておるし。どうやいつも通り、ぽんこつしているようじゃの。後で眼鏡を探し始めても、儂は何も言わんからな?
「ただいまなのです、おじさん。ちゃあんと円花ちゃんを連れ帰って来ました!」
「ん、ありがと被身子ちゃん。じゃあ円花はしばらく外出禁止ね。家で大人しくしてること」
「……ん……」
「返事」
「……相分かっ「駄目です!!」
ぐえっ。おい、おい被身子。どうしてお主はいつもいつも、急に抱き付いてくるのか。痛い程抱き締めおって。何がそんなに気に食わないんじゃ貴様。儂は休学中なんじゃから、外出は自粛するべきじゃろ。
「それじゃ、デート出来ないじゃないですかっ!」
「あ、それもそうか。じゃあ被身子ちゃんとのデート以外、外出禁止で」
「いやったー! デートしましょうデート!」
ん、んん……。そういうことか。そういうことなら、まぁ……仕方ない……か? いやでも、今は
「そのついでに、お友達と遊びに行くのは許してあげる。言っておくけど呪術師は禁止、ヒーロー活動は……緊急時のみなら許してあげる」
抱き付いてくる被身子からどうやって逃れようかと悩んでいると、母が家の中から出て来た。顔色が良くない。どうやら体調が優れんようじゃ。なのに立ち上がって玄関まで出て来たのは、色々と良くないのでは……? 身重なんじゃから、無理はせず部屋で休んでいて欲しいのぅ……。
「ただいまです、輪廻ちゃん。お家の事は私がやるので、安心してくださいっ」
「おかえりなさい被身子ちゃん。大変だろうけど、色々と頼らせてね」
「大変なんかじゃないですよぉ。ぜーんぶ任せてください!」
「頼りにしてる。それじゃ二人共、大事な話があるからリビングね」
「はぁい」
「……、相分かった」
被身子も、父も母も相変わらずじゃ。どうにも、それが心苦しい。いっそ責めてくれた方が気が楽じゃと言うのに。
「……重症ね。それ、被身子ちゃんに失礼だから止めなさいよ」
「……でも、じゃって……」
「これは家族の問題でしょう? 独りで背負い込もうとするのは止めなさい」
「……」
違う、と思う。これは家族の問題ではない。これは、儂と……被身子の問題じゃ。こやつが望むことなら、何であれ儂は受け入れて来た。身も心も、好きにさせていたと思う。でも、その結果がこれじゃ。際限なく甘やかしていた自覚は有った。それでも被身子が笑顔で居られるのなら、それで良いと思っていた。その考えこそ、大きな間違いじゃったと言うのに。
……ひとまず。家に入るとしよう。それから居間に向かって、母の話を聞いて―――。
「手洗いうがいが先!」
父に、後ろから襟を引っ張られた。
◆
父に言われ手洗いうがいを済ませて、居間に来た。母は
「円花ちゃんはここですっ。ほら、早く早く♡」
どうしようかと立ち尽くして居ると、悪どい笑顔を浮かべた被身子が両手で両膝を叩いた。膝の上に座れ……と?
いや、いやいや。今はそんな気分じゃない。
……そうじゃな。儂は床にでも腰を降ろして……。
「話が進まなくなるから、早く座りなさい。そんな風に遠慮してたら嫌われるわよ?」
「でも……、じゃって……」
「お嫁さんを待たせるのは止そうね円花。でないと、後が怖くなるから」
「ほーらっ。早く来てください! ギュってさせてくれないと、おこですよおこ!」
「……んん……」
今、被身子と触れ合いたいとは思えないんじゃけども。でも、大人しく言う通りにしないと話が進みそうにない。どうやら母が何か大事な話をしまいそうじゃし……。んん……。
気乗りは、しない。被身子に求められても、今は素直に応じられない。どうしても躊躇ってしまう自分が居る。
「……隣で良い」
「こ っ ち で す っ」
「ぐえぇ」
せめて被身子の隣に腰掛けようとすると、腕を引かれて抱き寄せられた。結果、儂の体は被身子の膝上じゃ。もぅ、何なんじゃお主は。儂はそんな気分じゃないのに、好き勝手にしおって。そういうところも愛おしいものじゃけど、今はこうして触れ合うことが心苦しい。どうしても、息が詰まる。同じ事ばかり考えてしまって、どうしようもない。
「……ほんっと、重症ね。反省は良いけど後悔は止めなさい。そんな調子で居続けて、被身子ちゃんに愛想を尽かされてもお母さんは知らないから」
「……それは、困るのぅ……」
「なら、いつまでもウジウジしないの。まったく、誰に似たんだか……」
「まぁ、こういうところはお母さん似だよね。一度ウジウジし始めたら、いつまでも湿ってそうなとことか」
「おじさんも、結構ウジウジするタイプだと思うのです」
「えっ。そ、そうかな? お母さんよりはカラッとしてると思うけどな〜〜……?」
「立派に似たもの夫婦ですよぉ。良いなぁって思います!」
……騒がしい。いや、全員揃えば騒がしくなるのはいつもの事なんじゃけども。両親は被身子を甘やかすし、被身子は被身子で調子に乗るからの。そんな光景を好ましく思っているけれど、いつものようにこの輪の中に入るのは……どうにも憚られる。どうしても、気分が下がってしまう。良くないことじゃと分かっていても、儂にはどうしようもない気がしてならん。
「はいはい、ありがと被身子ちゃん。それじゃあ本題なんだけど」
母が両手を叩いた。父は佇まいを正し、被身子は儂を撫で回し始めた。儂も姿勢を整えようと思ったが、動こうとした瞬間に強く抱き締められたのでどうしようもなかった。
……それで、母よ。大事な話とは、いったい何じゃ?
「まず被身子ちゃん。これから毎日、寝る前に霊薬を飲み続けること。これは貴女の魂を正常に保つ為だから、怠らないように」
……霊薬?
「はぁい。霊薬って、輪廻ちゃんが持って来た酒瓶の中身……ですよね?」
「そうよ。飲み続ければ円花の記憶を見ることはないから」
「母。霊薬って、何じゃ?」
「私の個性で作った、魂を強く保つ水ね」
魂を、強く保つ……? その為の薬……?
……そんなものまで作れるのか。母の個性も大概何でも有りじゃな。儂の個性なんて、ただただ回すだけなのに。どうせなら『霊能』の方を受け継ぎたかったところじゃの。そしたら、もしかしたら今の被身子をどうにか出来たかもしれないのに。
「とにかく霊薬を飲んでれば、円花ちゃんの記憶を見ないで済むってことですか?」
「そうよ」
「えぇーー……。それは、ヤです」
「はい?」
「は?」
母の言い付けを被身子が聞こうとしないものじゃから、儂も父もつい被身子を見てしまった。何を言ってるんじゃこやつは。母がわざわざ個性を使って、魂の薬を用意してくれたのに。何で飲むのを拒否するのか。
「いや、いやいや。飲もうね? 飲んどこうね??」
「嫌です」
「……被身子」
「ヤです!」
「いや、お主なぁ……」
「嫌ったら、嫌!」
……取り付く島も無い。駄目じゃこれ。儂や父から、頑なに顔を逸らしておる。こうなった被身子は、人の言うことを絶対に聞かん。
「どうしても円花の記憶が見たいのね」
「はい! 全部見てきます!!」
「……それって、大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないわよ? もう一人分の人生経験なんて、精神に悪影響だもの。実際、相当しんどいでしょう?」
「……確かに何年もヨリくんの記憶を経験するのはしんどいですけど。でも、最後まで見ます。絶対、ぜーったい!」
いや、被身子。何をそんなに意固地になっとるんじゃ。儂の記憶を見るのは、母曰く精神に悪影響なんじゃぞ? じゃったら、見ないでおいた方が良いじゃろう。なのにどうして、そこまで儂の記憶を見たがるのか。物好きにも程があると思うが。
儂としては、精神に影響を及ぼしてしまうなら見ないで欲しい。ただでさえ呪ってしまったのに、これ以上被身子に何か起きてしまったら儂はもう堪えられない。今じゃって、限界に近いと言うのに……っ。
「なら、これだけは約束してね。自我を強く保つこと。貴女が渡我被身子なんだってことを、忘れないでね」
「はいっ!」
「約束よ? じゃあ被身子ちゃんはこれで良いとして、次は円花ね」
「……何処が良いんじゃ、たわけ」
「最初から被身子ちゃんの気の持ちよう次第だもの。貴女の記憶を全て経験するのは相当しんどいだろうけど、大丈夫よ。だって、最終的に良くなるもの」
被身子の頭を撫でながら、未だ顔色の悪い母はそう言った。何処が大丈夫なのか、儂にはさっぱり分からん。精神に悪影響が出るのなら、儂の記憶を見て欲しいとはどうしても思えん。父は父で、被身子と母のやり取りを聞いて勝手に納得してるようじゃし。
……こんな時にまで、ふざけてるのか? そんな簡単に終わらせて良い話ではなかろう……!?
「貴女がどう思ったところで、今更何も変わらないのよ。まずはそれを受け入れなさい」
それは、そうなのかもしれん。生きた呪物になってしまった被身子をどうこうする術は、儂には無い。それは分かってる。分かってるけど、納得は別じゃ。愛しい人を呪ってしまって、何もせずに黙って見てるなんて真似は儂には出来ぬ。
何か……何か有る筈じゃ。何処かに、何か。そう思わないと、とても平静では居られない。呪物となったものを元に戻す方法が、きっと何処かに有ると信じたい。被身子を呪ってしまったなら、どうにかして……儂が被身子を元通りに……っ。
そうしなければ、そうしなければ儂は儂を許せない。
「だからぁ、私は気にしてないのです。むしろ嬉しいぐらいだって、何度も言ってるじゃないですかぁ」
「……っ、でも、被身子……っ!」
「今のところ健康に害は無いですし、ヨリくんの記憶を見れますし、呪力も扱えるようになって。
トガからしたら、良いこと尽くめなのです。ヨリくんにとっては、最悪ですけど」
「でも、じゃけど……っ」
「分かってますよぉ、どうしたって受け入れられないことは。でも、これは私達の自業自得ですし。甘え続けた私も、甘やかし続けた円花ちゃんも、両方悪いの」
それは……。それは、違うんじゃ。決して、違う。儂が……、儂が気を付けなければならなかった。考えるべきじゃった。被身子に血を与え続けたらこうなるかもしれないと、儂自身が危惧しなければならなかった。
なのに、求められるがままに血を与えて……! 被身子が喜ぶから……なんて理由で! 被身子が幸せそうだから、深く考えようともせずに……!!
「二人がして来た事を黙認してた私達も悪いのよ、円花。例え貴女達二人に嫌われたって、もっと強く言うべきだったもの」
「……でも、僕達はそうしなかった。円花と被身子ちゃんが大事にしてることに、口を挟みたくなかったからね」
「ん、ふふ……! だから輪廻ちゃんもおじさんも大好きなのですっ!」
「ありがと被身子ちゃん。でもね、僕等家族は全員で反省しないといけない。そしてこれからどうして行くべきかも、ちゃんと話し合うべきなんだ」
「はいっ。ちゃんとみんなで、家族で話し合いましょう! だからヨリくんっ、独りで抱え込んじゃ駄目ですから!」
んぐぅ……っ。こら、こら被身子……っ。そんな全力で抱き締めるなっ。そんな風にして、有耶無耶にしようとするな……! それとっ、儂の頭を胸に押し付けるんじゃないっ! 顔が埋まって息苦しいじゃろ……っ!
「それじゃあ円花、質問なんだけど。
呪物……だっけ? よく分かんないけど、被身子ちゃんの健康に害はないの? これから、何か変わっちゃうこととか有ったりする?」
「……ん、ぐむ……」
父の質問に答えようにも、被身子が離してくれん。これでは喋るどころではない。どうにか魔の手から逃れようとしても、逃さんと言わんばかりに腕に力を込めとるし。
……それに。不甲斐無いことに儂には何も分からん。呪物になってしまった人間に、どんな害が訪れるのか何も知らん。
「今のところ健康なのです。変わったことと言えば、呪力を扱えるようになったのと円花ちゃんの記憶を夢に見るようになったぐらいで。
……あっ、一個ありました! これはとっても大事な気がします……!」
「え、なになに?」
「肩凝りが取れました!!」
……は?
「はい?」
「あら、それは羨ましい」
肩凝りが……取れた…? いや、いやいや。それがいったい何だと言うんじゃ。それと呪物に成ってしまったことに、いったい何の関係が……。
「と、とにかく。今のところ健康ってことで良いんだね? 体調不良は一切無いんだね?」
「はいっ! 何なら前よりずっと調子が良いくらいで!」
「そ、そう……。ならまぁ、良いってこと……だよね?」
「そうね。目立った体調不良が無いなら、そこは一安心ね。でも被身子ちゃん、何かあったらすぐに言ってね? 何が出来るかは分からないけど、知っておくのは大事だから」
「はぁい。何か気付いたら、直ぐに言うのです」
んぐ、むぐぐ……。い、いい加減息苦しくなって来た。話に参加したいのに、喋れん。こら、被身子。そろそろ離してくれ。儂じゃって、言いたいことが有るんじゃけど? 儂を抜きに、話を進めようとするんじゃない……っ!
「そろそろ窒息しそうだから、離してあげたら?」
「んーー、もうちょっと! もうちょっとだけ!」
「はいはい、もうちょっとね」
「んぐ、むぐむぐ……っ」
は、離してくれ……っ。こんなに強く抱き締められても、今はそんなに嬉しくないんじゃっ。嬉しいよりも申し訳ないと思ってしまって、こんな風に扱われる事自体が……。ぅぐう……。
「被身子ちゃん、窒息してる窒息してる」
「あ、ごめんなさい」
「……っぷは! お主なぁ……っ」
「てへ。だって円花ちゃん成分がまだ不足してて」
……訳の分からんことを宣いおって。儂の成分って何じゃ、儂の成分って。そうやって何でもかんでも有耶無耶にしようとするところがいかんのじゃぞお主は。
とにかく今は、求められても応じたくない。とても、応じられない。その辺りを少しは考えて欲しいんじゃけど? 何じゃって、こんな儂をそこまで求めるのか。まっこと、分からん。儂は、お主を呪ってしまった張本人じゃというのに……!
つい不満のままに睨んでしまうと、被身子はむっとした顔になった。
「もぅ。ほんっっと分からず屋なんですから。頑固で意地っ張りで、面倒くさいのですっ」
「それは、お主じゃってそうじゃろうが……!」
「ヨリくん程じゃありませんーーっ。そのままじゃ老害まっしぐらなのです!」
「誰が老害じゃ、誰がっ」
そんなものになりたいとは思わんっ。そもそも儂を老害まっしぐらなどと言うなら、お主じゃってそうなってもおかしくないじゃろうが……! 何じゃって被身子は、こうも分からず屋なのか……!
今回の件は、誰が何と言おうと儂が悪いんじゃろうが。じゃからこそ、こんな形で済ませるなんて真似は……っ!
「はいはい、痴話喧嘩しないの。
円花、これは私達家族の問題よ。貴女一人で解決しようなんて思わないで。そもそも出来ないんだし」
「じゃからって、何もしない訳にはいかんじゃろ!?」
「そうね。だから、これからの事をちゃんと全員で決めなきゃいけない。私達は家族なんだから」
……っ。でも、でも……! 儂のせいなんじゃぞ、被身子が呪物になってしまったのは……! じゃったら、儂がどうにかしなければならん。何か方法が、何処かに有る筈じゃ。宛なんて無いけれど、それでも探し出さなければ。被身子を、どうにかして元に戻す方法を……!
「有るのか分からないものに縋るのは止めなさい。余計に辛くなるだけよ」
「なら、どうしろって言うんじゃ……っ。儂は、儂は……っ!」
「だからね円花。それを、家族でこれから決めるんだってば。
……何も思い浮かばないかもしれない、何も変わらないのかもしれない。でもね、独りで背負おうとするのは絶対に間違いなんだよ」
「そうですよぉ。円花ちゃんが独りで背負えば解決する……なんて問題じゃないんですし。ちゃあんとみんなで、家族で考えましょう?」
考える……? 何を……?? 全員で考えたって、どうしようもないじゃろ。それにこれからどうするかなんて、決まってる。どうにかして、被身子に掛けてしまった呪いを解く。それだけは、何が何でも儂が果たさなければならない。そうしなければ、もう……っ。
「……ひとまずさ。円花は被身子ちゃんに掛けた呪いを解きたいって思ってるって事で良いよね?」
「そうね。でも被身子ちゃんはこのままを望んでる」
「はい! このままが良いのっ!」
「良くないじゃろ……」
「良いんですぅ!!」
「ぐえっ」
ん、ぐ……っ。こらっ、息が詰まるから抱き締めるのは止さぬかっ。今はまっこと、嬉しくないんじゃ。申し訳なくて申し訳なくて、されるがままになんてなりたくない……っ。なのにこやつと来たら、意地でも儂から離れようとしない。こんな儂でも変わらず愛してくれることは、嬉しくないと言ったら嘘になるけども。じゃけど、じゃけど……。
「……一応。解呪については、ひとつだけ心当たりが有るわよ?」
「……! 真か!?」
「あー……。まぁ……有るには有るけど……」
「あまり言いたくないんだけど、私の実家に何か有るかもしれない。私の祖先って、菅原道真だから」
「……は?」
は? いや、おい……。おい、待て。待て待て。さらっととんでもない事を口走らないでくれ。母が菅原道真の子孫……じゃと? つまりそれは、あの背広男の言っていた事が事実じゃって証明に他ならないではないか。いくら何でも、流石にこれは受け止め切れん。受け止めたくない。
……菅原道真に会ったことは無い。生まれた時代が違うからの。しかし、その悪名が如何なるものかは知っている。そして菅原の子孫が五条と名乗り始めたのも、知っている。
つまり。つまり……じゃ。儂は、
……まぁ、儂の私情はさておいて。母が五条の末裔ならば、もしかすると何かしらの文献が母の生家に残っているのかもしれん。そこに呪物を戻す方法が有ると言うなら、出向かぬ訳にはいかん。
母も父も人が悪い。被身子をどうにか出来る可能性が有るのなら、それを早く教えてくれれば良いものを。
「菅原道真……って、政治家で学問の神様で、 日本三大怨霊の人ですよね? ヨリくんは何か知ってます?」
菅原道真が何者か。それを被身子が知らん筈はない。じゃってほら、歴史の授業で出て来たしの。しかし教科書に書いてあることは、あやつが表向き何者じゃったのかってことだけじゃった。裏の顔、……つまり呪術師や呪霊としての姿については何一つ書かれていなかった。
まぁ儂も、詳しいわけでないんじゃけど。単純に、道真と儂が生きていた時代は違うんじゃから。
「奴の生前は知らん。道真の死後、それはもう大変な事になったと聞いたことがある」
「ただの偶然とか、死んじゃった後に有る事無い事言われてるだけの人かと思ってたのです。
……って、ちょっと待ってください。もしかして輪廻ちゃんや円花ちゃんって、呪霊の……」
「それは無いわよ。正真正銘人間の子孫。……まぁ、江戸時代とか平成時代には居たらしいけどね。呪霊と人間の混血が」
「……そもそも、母。
「そうよ。私は五条の末裔。って言っても、分家筋なんだけどね」
……んんむ……。真に、五条の末裔なのか。分家筋とは言え、何とも複雑な気分じゃの。いやしかし、お陰で被身子の事が何とかなるかもしれん。分家筋とは言え、五条は五条。御三家のひとつじゃ。何かしらの資料が、母の生家には残っているかもしれん。
五条の末裔に産まれ直してしまった事については、後で考えれば良い。そもそも考えたところで、何か分かる気もしないし。今は、被身子じゃ。被身子を元に戻す。それから、もしかすると……ながんに掛かってる呪いもどうにかなるかもしれんしの。
「……はぁ……。あの家に行くなら、条件を付けさせて貰うよ?」
「……条件?」
……何でじゃ。母の生家に行くだけなのに、何故条件を提示しようとするんじゃ父よ。
「まず知ってると思うけど、お父さんとお母さんは駆け落ちしてます」
そうじゃったな。じゃから儂は、今生では祖母にも祖父にも、その他親戚に会ったことが無い。まぁ、それ自体に思うところは無い。両親が選んだ人生じゃ。それをとやかく言うつもりは無いからの。ただ、駆け落ちしたということは二人が結ばれることを快く思う親族が居なかったってことじゃろ? で、二人で仲睦まじく生家から逃げ出したと。
「つまり、すこぶる仲が悪いんだよね。そして僕は、あんな家に輪廻も円花も被身子ちゃんも連れて行きたくない」
「なら、どうするんです?」
「そりゃあ、お父さんが一人で……」
「駄目よ。行かせるわけないでしょ」
「だよねぇ。じゃあほら、あれだ。申し訳ないけど、彼に協力して貰おうか」
……彼?
「……まぁ、それしかないわよね。また協力して貰うのは、申し訳ないけど」
「そうだね。でも、可愛い愛娘達の為だからね。恥も外聞も気にしてられないし」
「……彼とは、誰じゃ?」
「佐々木未来さん。今もプロヒーローをやってるお方で、ヒーロー名は『サー・ナイトアイ』って言うんだ」
……、……は?
三人称による補完は要りますか?
-
欲しい
-
要らん
-
良いから一人称で突っ走れ