待て! 止さぬか! 儂じゃなかったら死んでおるぞ!!   作:一人称苦手ぞ。

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円花の停滞。問答

 

 

 

 

 

 

 泥花市に、向かうことになった。何故かこの男、さぁ・ないとあいと儂だけで……じゃけど。被身子は付いて来ようとしたんじゃが、母と父に止められて珍しく引き下がった。出掛け際にこれでもかと接吻(きす)されたことは、気恥ずかしかったし申し訳無かった。

 今現在、儂は車の中で助手席に居る。運転席には、ないとあいじゃ。まさかこの男と、二人きりになるとはの。不愉快極まりないが、じゃからって車から出て行くことは出来ん。今は、とにかく母の生家に向かわねば。そこにきっと、被身子を元に戻す手掛かりが有る筈じゃ。有ってくれなければ、困る。

 

 それから。ひとつ、この男には聞いておきたい。

 

「何故、儂を預かった?」

「輪廻さんの予知夢の通りになった。だけでは不服か?」

「……そうか」

 

 それなら、まぁ仕方ないのかもしれないのぅ。母が予知夢で見た未来は、必ず来ると母本人から聞いている。ならば、今回は予知夢通りになったと言うことなんじゃろう。何じゃってこんな未来を予知してしまったのやら。どうせなら、もっと別の夢を見て欲しいものじゃ。例えばほら、被身子が儂に呪われることない未来……とか。

 

 ……まっこと、何をしてるんじゃろうな儂は。不甲斐無くて情けなくて、これではいずれ被身子や両親にも愛想を尽かされてしまう。それは嫌じゃけど、沈んだ気分をどうにかすることは儂自身では難しい。

 

 被身子を元に戻さなければ、儂の気が済まんのじゃ。

 

 車の中は退屈じゃけども、隣の男とお喋りする気はしない。取り敢えず外でも眺めて見るものの、居心地の悪さは消えぬままじゃのぅ。

 

 

 ……んんむ……。どうしたものか……。

 

 

「貴様を導くなんて真似が出来るとは思わないが、それでもひとつ聞いておこう」

「……貴様とのお喋りは好かん」

「まぁ、聞け。貴様の原点(オリジン)は、何だ?」

「そんなものは無い。何でひいろおは、儂に同じ質問ばかりするんじゃ」

「……」

 

 煩わしいと言うか、そろそろ鬱陶しい。儂が出会って来た英雄(ひいろお)は、どうしてどいつもこいつも原点(おりじん)とやらを気にするのか。儂が英雄(ひいろお)を目指すのは、単純に個性を自由に扱いたいからじゃ。今後呪術師として活動して行く上で必要じゃから、その為の免許が欲しい。これは単純な私利私欲で、それ以上でも以下でもない。

 

 いい加減、それで納得して欲しいところじゃ。何度も何度も同じ事を聞かれるのは、ただただ面倒で鬱陶しいだけなんじゃから。

 

「それは誰もが、貴様を測りあぐねているから……じゃないのか」

「勝手に測りあぐねていろ。儂におりじんとやらは無いし、ひいろおを志すのは私利私欲じゃ」

 

 まぁ、もっとも。最近は英雄(ひいろお)を志していると言ったら語弊が有るかもしれんが。儂が在籍しているのは英雄(ひいろお)科ではなく、呪術科じゃし。

 ……それでも、雄英を卒業するまでに英雄(ひいろお)免許を取得するつもりではある。そうしないと母に認めて貰えないし、後の活動に支障が出るからの。

 

「多くのヒーローは、……雄英教師もそうだと思うが、貴様の背景が分からない。その年で平和の象徴の後継を名乗り出て、世間から注目されているのに……どうにも不明瞭な部分が有る。

 ならせめて、原点を知っておきたいと思うのは当然のことだろう」

 

 ……まったく。世の中の英雄(ひいろお)は、いったい何を考えているのやら。儂の背景じゃの、原点じゃのを知ったところで何にもならんと思うんじゃがの。

 もしや。儂を信用したいから信じさせて欲しいって話かこれは? そうじゃとするなら、勝手に見定めて勝手に信じれば良いじゃろとしか思えん。儂は周りからの信用なんて、特別欲しいとは思わんし。信じるも信じないも、勝手にしたら良い。儂は……被身子や両親が信じてくれるのなら、別にそれで。

 

「原点なぞ、儂には無い。もう聞いてくれるな鬱陶しい」

「ヒーローを志す上で、原点(オリジン)は必要事項だ。これを持たない者は、いずれヒーローを辞めてしまう。或いは……潰れる」

「そんなものが無くとも、儂は辞めたりしないんじゃが? 潰れもしない」

「そんな顔をしていて、説得力が有るとでも?」

「やかましい。ほっとけ」

「……そうもいかない。貴様が今後も彼の後継を名乗るつもりなら、原点のひとつは持っておくべきだ」

 

 ……はぁ……。やかましいのぅ……。原点、原点原点と、どいつもこいつも……。無くて良いじゃろ、そんなもの。

 原点とやらが何を指し示すものなのかは知らんけども、無くたって困るようなものではないのでは? それに……。

 

「あやつの後継を名乗ってるのは、神輿に乗せられただけじゃ。成り行きに過ぎん」

「それは、緑谷出久を守る為に?」

「……は?」

 

 ……は?

 

 ……何じゃ、こやつ。何故そこで、緑谷の名前を出した? 儂は当人達と被身子以外の誰にも、緑谷の隠れ蓑になる為に筋肉阿呆の後継を名乗ったことを話しとらん。被身子からこの男に伝えた……なんてことは無いじゃろう。公安も、緑谷の個性については何も把握してない筈じゃ。舎弟の奴はあれで口が堅いし、そもそも舎弟がこの男と知り合いとは思えん。

 

 では、いったい誰が??

 

 隣で運転している男をつい睨むと、車が止まった。多分、信号が赤いんじゃろう。

 

「私は知っている。ワン・フォー・オールの事も、彼が緑谷出久を選んだことも。何せ、元・相棒(サイドキック)だ」

 

 ……なるほどな。つまりこやつは、おおるまいとの協力者の一人か。であれば、あの個性のことや緑谷が真の後継者であることを知っているのも理解出来る。まぁ、これは少し考えれば当然の事か……。

 

「……儂は隠れ蓑に過ぎん。緑谷がおおるまいとのようになるまでは、儂が隠しておこうと決めただけじゃ」

「であれば、尚更原点は持つべきだ。貴様は、周囲の信用を得た方が良い。ヒーローや一般市民の方々の中には、貴様を疑問視している者も居る。

 実力で捻じ伏せるのも結構だが、ヒーローならば親しみ易さも大切にしていかなければ」

「そんなものは知らん」

 

 そもそも。それ、言ってて自分で疑問に思わぬのか? この男が、親しみ易さなんてものを大切にしているとは到底思えんのじゃけど。まぁ……、儂の知らんところで何かしらの努力をしているのかもしれんが、そんな姿は見とらんし。見たいとも思わぬ。

 

「……例えば。貴様が、最も忌み嫌うものは?」

「……」

 

 最も、忌み嫌うもの? それは、有る。明確に一つ、儂の胸の中でいつまでも燃え盛ってると言って良い。この想いが薄れたり、消えたりすることは無い。これまでもこれからも、決して……じゃ。

 

 と言うか、貴様。儂の胸中に有るものは、とっくに目撃したようなものじゃろうが。わざわざ言わねば気付かん程、頭が悪いわけでもないじゃろうに。

 

「……私は、年端も行かぬ子供に何かしらの危害が加わることだと思っている」

「じゃったら、何じゃ?」

「それこそが、頼皆の原点と言えるのでは?」

「……」

 

 原点。……原点、か。確かにまぁ、それは儂の原点と言えるじゃろう。儂はあの日から、子供を傷付けようとする大人が許せなくなった。それが転じて、子供を傷付ける存在全てが憎くなった。でも、じゃけどそれは……今の儂の性格や思考を形作ることになったものじゃ。加茂頼皆と言う人間の、原点じゃろうて。決して、英雄(ひいろお)を志す為に用意したものではないし、用意されたものでもない。

 

「子供を傷付ける存在を許せない。或いは、そういった子供達を救けたい。それはヒーローになるには、立派な動機だ」

「……それは儂の在り方の原点じゃ。ひいろおを目指す為のそれとは違う」

「なら、性根からヒーローと言えなくもない」

「……くだらん。儂は寝る、着いたら起こせ」

 

 誰の性根が、英雄(ひいろお)じゃって? 儂の性根は呪術師じゃ。英雄(ひいろお)なんてお人好しでは、決してない。どいつもこいつも……被身子もそうなんじゃけど、何じゃって儂を英雄(ひいろお)じゃと決め付けるのやら。儂は呪術師じゃぞ、呪術師。人の命を奪うことに些かの躊躇いもない、血生臭い生業の中で生きて居るんじゃ。

 まぁ、今生では誰も殺してはいないんじゃけどな。しかしいずれは、殺すことになるんじゃろう。人殺しとて仕事の範疇じゃからのぅ、呪術師は。

 

 これ以上ないとあいと話していても仕方ないので、腕を組んで瞼を閉じて口も閉じる。昨晩はたっぷり寝たから、眠気は全く無いんじゃけどな。

 

 ……そう言えば。被身子は昨晩も儂の記憶を見たんじゃろうか? それにしては、朝から物静かじゃったような気がしないでもないが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「到着した」

 

 車に揺られて、二時間と少し。やっと目的地である、泥花市に着いたようじゃ。閉じていた瞼を開いてみれば、目に飛び込んでくるのは復興作業中の光景じゃ。街の半分以上は瓦礫の山のままで、もしかすると復興作業自体は難航しているのかもしれんな。那歩島が復興する際は、もう少し円滑に復興が進んでいたような気がするが……。

 

 まぁ、良い。復興の進み度合いについては、儂が気にすることじゃない。そんな事よりも今は、母の生家……の残骸に赴いて被身子を元に戻す方法を探る方が大切じゃ。早く案内して欲しいのぅ。のんびりするつもりは、今の儂には少しも無いんじゃから。

 

「あれ? 廻道少女……?」

「……!」

「……何で貴様がここに居るんじゃ」

 

 さっさと案内して貰いたいと思っていたら、聞き慣れた声が後ろからした。振り返ってみれば、少し離れたところに相変わらずの筋肉阿呆が居るの。何でこんな場所に……って、そうか。この惨状を引き起こした原因が呪霊かどうか、調べに来たんじゃろう。何じゃって日本中を駆け回ってしまうんじゃこやつは。もっと緑谷にあれこれと指導するべきじゃろ貴様は。下手な放任主義は、緑谷の成長を遅らせてしまうだけじゃ……ろ……。

 

「ナイトアイに、廻道さん……!?」

 

 筋肉阿呆の後ろから、緑谷が出て来た。おおるまいとのせいで、まるで見えんかった。どうやら、二人揃って総監部からの任務に当たっているようじゃ。それを申し訳なく思う。儂が休学していなければ、緑谷が呪術師として頼られることは無かったのに。

 ……緑谷の為にも、早く復学しなければ。でないと、儂の預かり知らんところで死んでしまうかもしれん。それは、駄目じゃ。子供が呪霊や呪詛師に殺されるのは、もう勘弁なんじゃ。

 

「二人揃って、この街の調査か?」

「うん。何か……ええっと、痕跡が残ってるんじゃないかって思って。だからオールマイトと、二人で」

「……そうか。すまん緑谷、お主には……負担を掛ける」

「全然! むしろ廻道さんは働き過ぎだから、少しぐらい休んでよ。廻道さんが居ない分は、僕が穴埋めするから……!」

「儂の穴埋めなんぞ、六十年は早い」

「なら、一歩一歩……近付いて見せるから」

 

 んんむ……。気まずい。儂の不徳が招いた事態なんじゃけども、どうにも気まずい。尚更、早く被身子を元に戻さなければ。でないと、いつまでも緑谷に負担が掛かってしまう。

 

「ところで、何で廻道少女と……」

 

 おおるまいとが、何やら気まずそうな顔をしている。目線の先には、ないとあいが居るの。ないとあいはないとあいで、何やら変な空気を醸し出しているような……。

 

 何じゃ貴様等。もしや不仲か……? そう言えば、ないとあいはこの筋肉阿呆の元・相棒(さいどきっく)じゃったな。つまり、何か理由があって相棒を辞めたんじゃろう。意見の衝突でもしたのかもしれん。まぁ、それについて興味は持たんが。儂の知った事では無いし、こやつ等の過去を知りたいとも思えぬし。

 何やらおかしな空気になってる大人二人は放っておいて、緑谷と少し話すとしよう。ないとあいと二人きりのままなんて嫌じゃから、目的地に辿り着くまでは同行して貰うのも悪くない。いやそもそも、これから儂が探るのは呪術に関する情報じゃ。ならば、緑谷とおおるまいとに同行して貰うべきじゃな。

 

「……この眼鏡とは奇妙な縁が有っての。じゃから、今は諸事情で道案内を頼んだ」

「な、なるほど……ね? と、とにかく元気そうで良かった! 休学になる直前に……酷く落ち込んでたからさ」

「今も落ち込んどる。気分は晴れぬままじゃ」

「は、HAHAHA……」

 

 ……はぁ。まったく、露骨に気まずそうにしおって。何なんじゃもぅ、面倒な奴じゃなぁ……。

 

「……オールマイト」

「えっ、あぁ……うん……。久しぶりだね、ナイトアイ。この間のインターンでは……緑谷少年と廻道少女がお世話になったみたいで」

「いいや。むしろ、私の方こそ二人には世話になった。あの件は、結局彼女の……頼皆の迅速な判断と行動で解決出来た」

「そ、そうなんだ。二人が君の役に立てて、良かったよ。知ってると思うけど廻道少女は特にお転婆で……」

「……重々承知してる」

 

 ……放っておくとしよう。大人二人が旧交を温めている姿を、わざわざ見たいとは思わんし。気まずそうにしている割りに、会話は弾み始めたようじゃしな。儂の話題で盛り上がりそうになっていることは、解せぬけども。

 

「……緑谷」

「うん」

 

 取り敢えず緑谷を手招きして、目的地が何処に有るのか分からんままに歩き始めてみる。たかが二日三日程度とは言っても、儂が呪術師をしていない間に何をどうして居るのか聞いておきたい。きっと幾つか、任務をこなしているのじゃろう。特に怪我はしとらんようじゃからそちらの心配はしなくて良さそうじゃけど、やはり色々と心配じゃからの……。

 

「儂が居ない間に、任務は幾つこなした?」

「……今日のを含めて、二つだけ。明日と明後日も任務が振られてるけど、その先はまだ何も」

「……そうか。すまん、早く復帰する」

「気にしないで。困った時はお互い様って言うし……。でも廻道さん、どうして休学に?」

「……両親の意向じゃ。それと、……その。被身子と色々と有っての……」

「渡我先輩と……!?」

 

 何故か、緑谷が盛大に驚いた。目を丸くすることは構わんけど、大きな声を出すのは止めて欲しい。

 ……どうやら、緑谷は知らんようじゃ。常闇が知っているから、てっきり知れ渡っているものかと思ったんじゃけども……。

 

「……ぅむ……。それを解決する為の手段がこの街に有りそうじゃったから、今日はこうして足を運んで来たんじゃよ」

「渡我先輩に、何が有ったの? 喧嘩……じゃないよね?」

「儂が、……呪った。意図して無かったとは言え、呪ってしまったんじゃ」

「……ぇ……」

 

 包み……隠すべきじゃったろうか。余計な負担を緑谷に掛けてしまったかもしれん。こやつは、ほら。底無しの善人じゃから。こんな話を聞いたら、間違いなく首を突っ込む。何も出来ないと知ったとしても、儂の静止なぞ聞かぬのじゃろう。じゃって、儂より頑固じゃもん。比べたことは無いが、儂以上に頑固な筈じゃ。……多分。

 

「どうして、廻道さんが渡我先輩を……? だって二人は、あんなに仲良しで……!」

「……情けない話、防げた筈の事を儂が見落としていての。じゃから今は……解呪の方法を探っていて」

「……手伝うよ、廻道さん。この街の何処かに、有るんだね?」

「恐らくは、じゃけど。嫌なら一人でも探すから、断って―――」

「断ったりなんかしないよ。僕も、一緒に探すから!」

 

 ……お人好しめ。何じゃってお主は、直ぐにそうやって手を差し伸べるんじゃ。相手が助けて欲しいと言っていなくても、少しでも気掛かりになってしまうと直ぐそれじゃ。そんなじゃから、那歩島では儂と衝突してしまったわけで。なのに、また儂に手を差し伸べて。いったい、いつまでこれを繰り返すつもりなのか。将来、首が回らなくなっても儂は知らんからな?

 

 まっこと、どうにかしとる。もしかすると、被身子よりも……どうにかしとる。もしやこやつの善意は、狂気に片足を突っ込んでいるのでは……? うぅむ、有り得ない話でも無いのが恐ろしくなって来た。もう少し自重をして欲しいと言うか、何と言うか……。

 

「……五条って家を、見付けたい。とっくに瓦礫の山らしいんじゃけども」

「分かった。探そう……!」

 

 こうして。偶然にも、緑谷とおおるまいとまで合流することになってしまった。まぁ瓦礫の山の中から探し物をすることになるんじゃから、人手が多いに越したことは無いじゃろう。

 

 それはそれとして。見覚えのある残穢がそこらにあるのぅ。となると、一つ目の奴が泥花市で暴れたのか。早いところ、復学しなければならん。でないと、緑谷もおおるまいとも殺されてしまうじゃろう。それは、何としても防がねばならん。気に食わんけど、ないとあいに頼まれたことも有るんじゃし。

 

 ……とにかく、じゃ。今は、瓦礫の山となっている筈の母の生家を探そう。被身子を元に戻す手段を、何としてでも見付けなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

三人称による補完は要りますか?

  • 欲しい
  • 要らん
  • 良いから一人称で突っ走れ
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